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12-8 俺の答え

 私は下を見続けて歩き続ける。隣には巧人さんがいるけど、会話はない。それでも、私の右手には、巧人さんの手。こうしているだけで何だが、よかった。


 成り行きで一緒に帰ることになったけど、そうなってくれてとてもうれしかった。特に、巧人さんから誘ってくれたことが。私の歩幅に合わせてゆっくり歩いていることにも、優しさを感じる。


 ……いつからだろう。私が、巧人さんのことを好きになったのは。

 いや、覚えてはいる。でも、それは原因でしかない。自覚しただけだ。

 私はもっと前から、巧人さんのことを好きでいたんだと思う。


 私がネットの掲示板で、適当に書き込みをしていた。

 あの時は暇だったのと、誰も来ることなんてないだろうって気持ちで、はっちゃけていた。そこに巧人さんがやってきた。


 最初は驚いたし、恥ずかしかったけど、他には誰もいない空間で二人だけ。そんな場所で話をしていたから、なんとなく本音で話し合えた。

 近所に住んでいることを知って、お互いにメールアドレスとかも交換した。

 ただ私のほうはその時はまだ巧人さんがロリコンだなんて知らなかったから、自分が小学生だと思われるのは、普通に避けたくて、信頼自体はしていたけど、住所とかは教えてなかった。


 そして、私は住所も名前も知り(家族は他に姉がいることも)、巧人さんのことをまじかで見た。このときは、相手の存在を認識しただけだった。こんな人なんだって。


 そうしてしばらくは、巧人さんのことをたまに見かける程度でいた。

 そんなある日。偶然見かけた巧人さんは、誰かを探して声を張り上げていた。その手には泣いている小学生……もしかしたら、それよりも小さい子だった。

 たぶん、迷子だったんだと思う。母親を探していた。


 気になってつけていったら、途中で気づかれそうになって。

 仕方ないから、凄く離れて、声を頼りにつけて行った。


 しばらくして、親は見つかった。子供は嬉しそうに母親の元に向かって、巧人さんはそれを見て笑うと、何も言わずに去って行っちゃった。


 私はそれがッコイイって思ったんだ。純粋に人を助けて、それ以上は何も求めないところに。ただ、助けてもらった側からすると、お礼くらいは言いたいものだ。

 それさえもできずにきづいたときにはいなくなっていて、困惑していた。だから私は住所を教えてあげたりした。


 それともう一つ。

 巧人さんが優しい人だって知って、たまに尾行をするようになった。よく気づかれそうになって、すぐに中断していたんだけど、徐々に上手になっていった。

 このとき辺りで、巧人さんがロリコンなことを知った。近くの学校の生徒を尾行とかして守っているということらしい。

 私は、そこの学校とは違う私立の学校に通っていたから、私のことは知られてなかった。

 それに、よくいかつい大人と話をしてたりするのも見た。その人たちはみんな、「巧人さん」とか「旦那」とか言って、巧人さんのことを慕ってるようだった。


 そのときの人たちを私は休日にみかけた。

 公園にいたんだけど、そこで遊んでいる子供たちを隠れてみていたようだった。


 けれど、なんだか子供に見つかっちゃって、一緒に遊ぼうと言われて、遊び始めた。気になってみていたけど、そのときの全員は普通に楽しそうだった。


 けど、しばらくして子供の親のうちの一人だろう。その人が来た。すると、仕方がないのかもしれないが、親の人が声を上げて子供たちを守るように前に出た。

 その人は根はやさしい人だけど、ドラマとかで見るヤクザにいそうな怖い顔をしてたし、そんな人が子供に紛れて遊んでいたら、不審に思ってしまう。


 子供たちはその親の雰囲気に気圧されて黙ったり泣いたりしていて、なおさら雰囲気が悪くなって、責められていた。


 そんなときに、巧人さんがやってきた。その後の話を聞いて限りでは、どうやら他の場所で見張っていた人が連絡したようだ。


『おい! なにやってる!』

『た、巧人さん!』

『こいつは俺の知り合いでして……すみません。迷惑をかけてしまったようで』

『全くです。子供がこんなに怯えていますよ。大体何を考えているんですか。大の大人が……明らかに不審者じゃないですか。子供たちも一歩間違えたら、どうなっていたことか』

『はい。はい……。本当にすみませんでした。こっちのほうできつく言い聞かせますので、あまり大事には』

『もういいですから。早くどこかに行ってください。子供たちを落ち着かせることもできないので。そして、もう二度と関わらないでください』

『はい、それは本当に。こちらのほうでも注意いたしますので。それでは。……おい。行くぞ』

『あ、は……はい!』


 そうして巧人さんたちは去っていった。私はここに残ってあの人たちを見るかどうするか迷った末に、巧人さんを追いかけることにした。

 追いかけると、さっきの人だけでなく、他の連絡をした人もいた。


『巧人さん! どうして巧人さんが謝ったりなんてするんですか!』

『そうっすよ! つーか、元々謝る必要なんて!』

『黙れ。もともと俺たちは、世間からはいい目では見られないんだよ。たとえ、どんな対応をしていようがな。俺たちをみくちゃん(9)たちが受け入れてくれたとしても、その親御さんを不安がらせてしまっては、俺らの責任と同じなんだよ』

『巧人さん……』

『それにお前らの不始末を俺がしないでどうする。俺がお前らに教えたんだろ? ロリコンとしての心構えってやつをよ』

『うっ……すんません、巧人さん……俺!』

『いいんだよ。お前は悪くない。一緒に遊んでやったんだろ? むしろいいやつだよ、お前は。それは俺が保証する。だから、気にすんな』


 そう言って励ます巧人さんを見ていると、胸が痛かったよ。何も悪くないのに。偏見で悪者扱いされて……。酷いよ。

 それなのに言い返すこともせずに、受け入れる巧人さんも。

 私は居ても立っても居られず、公園に戻った。すると、そこでは――


『怖かったでしょ? ……どうだった? さっきの人に何もされなかった?』

『ううん。別に。遊ぼうって誘ったら、一緒に遊んでくれたの。優しい人だったよ』

『そんなはずないでしょ。きっと何か企んでいたに決まってるわ。いい? 知らない人について行ったりしちゃダメ。危険なんだから気を付けるのよ』

『え~でもあの人は……』


 母親はそれでもまだなんだかんだって言ってたけど、子供のほうはちゃんとわかっていた。あの人のことを。優しさを。それがすごく嬉しかった。巧人さんたちが報われたような気がした。


 私は、このときのことをずっと覚えている。巧人さんのことも。このときから一番意識し始めた。好きだって思うようになった。

 だから巧人さんがロリコンだってことも、むしろ嬉しかった。私にはチャンスがあるんだって。


 でも私と巧人さんの関係はふざけたものだったし、巧人さんは『みんな』だったから。私はこの想いを伝えようなんて思わなかった。秘めたままで、遠くからみていようと思った。……だけど――


(もう逃げたくない)


 そう思うようになった。巧人さんに会って、話をしていたら、ますます気持ちは強くなった。それはきっと、私が好きだってことを抑えられなくなったのと、もう一つ。あかりちゃんの話を聞いたから。


 少ししか話は聞いてないけど、そこまで行ったのなら……少なくとも私と同じ。この気持ちは持っている。

 あかりちゃんは私と違って、巧人さんに自分の気持ちを正直に伝えた。

 そのときのことを考えたら……どれだけ不安だったんだろうって思った。そして、私もちゃんと伝えたい。勇気を出そうって――。


 私は巧人さんに言った。『本当に相手のことを思うなら』って。

 それは相手に対してだけじゃない。自分にも当てはまるものだ。


 私が本当に巧人さんのことを好きだったら……それは言うべきなんだよね。


(……うん。お兄ちゃんの言った通りだよ)


 私は向き合わないとダメだよね。この気持ちをちゃんと言わないと――。



*****



「あ、ここです」


 たまに方向を変える時に声を発していためぐるちゃんだったが、ついに巡ちゃんの家にたどり着いた。

 なるほど、俺の家からだと距離は15分くらいか。確かに近いな。

 俺はめぐるちゃんの手を離すと、バイバイと言って去ろうとする。


「あ、あの巧人さん!」


 けれど、そんな俺をめぐるちゃんは引き止めた。


「えっとその……」


 俺は黙ってめぐるちゃんをみていたが、なにやらあたふたとしている。その姿に俺は確信した。


「めぐるちゃん」


 名前を呼ぶと、顔を上げて、じっと見つめてくる。

 ……やっぱり、めぐるちゃんは……。なら、俺のすることは決まってる。


「俺は……鈍感だから。言われないとわからないことって、いっぱいあるんだ。そんな俺だけど、これだけは言うよ」


 本当に相手のことを思うなら。

 めぐるちゃんにもそう言われた。そして、俺も。

 ちゃんと察せる自分に、分かってあげられる自分に――。


 そうやって、言えずにいるめぐるちゃんの手助けをするんだ。


「俺も……めぐるちゃんのこと好きだからね」

「……!?」

「……もしも、言える時がきたら教えてほしいな。めぐるちゃんの口からその気持ち」


 今度こそ立ち去ろうと、歩き出していく。そのとき、後ろから大きな声でめぐるちゃんは言った。


「わた……し、も……で、す……!」


 その絞り出したような声。苦しそうに言った声。だけど、気持ちがこもっている。めぐるちゃんが自分から言った言葉。……嬉しい。

 俺は振り返ると、めぐるちゃんを見て微笑んだ。


「うん。ありがとう――」



*****



『遅い。死ね』


 あはは……。さすがだな、あかりちゃんは。

 まぁ、やっとメールしたんだし、それくらい言われるかな? それに何も書いてはないけど、不安だったんだろうな、ずっと。

 なんとなく、これだけの文章なのに伝わってくる。


 俺は再びメールを送る。


『ごめんね、色々と迷っていたから。でも決めたから。もう迷わないよ。それに約束したからね。ずっと一緒に居るって』


 送ると、すぐに返ってきた。


『ロリコンだったら迷いなんてしないで、さっさと返事寄こしなさいよ。馬鹿。でも、ちゃんと連絡くれてうれしかったよ。お兄ちゃん。大好き』


 まったく、甘え上手だな。あかりちゃんは。その気持ちも、すごく嬉しいし。

 本当に……俺は恵まれてるな。俺も……大好きだよ――

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