1-4 現れる常識人……?
「うん。いいよ。あがりなよ」
「そうか。ありがとう」
お礼を言って中に入る。
こいつは俺のクラスメートで、中岡大輝。俺の姉のような特殊性癖はない。と言うのも、俺の知り合いにはそういうやつ……変態が多いのだ。
正直そいつらは、一緒に居るのも少し面倒くさいと感じるから、そいつらの家に泊まりに行くとか考えられないし、選択肢なんて最初からこいつくらいしかいないけど。
まぁ、俺の知る限りこいつは、一番まともなやつだ。
そして今日泊めてくれといったら泊めてくれた。
今大輝は一人暮らしをしていて、結構気兼ねなくこういうことは頼める。高1の時も姉が発情期のように暴走していた時があったのだが、そのときも頼んで泊めてもらったことがある。
しかしあの時はやばかったなぁ。朝起きると、俺裸にされていたし。俺の横に唯愛も一糸纏わぬ姿でいたし。この時もちょうど、両親は出張でいなかったけど。だからこそだろうな。既に前科があったから、不安に感じたんだ。
「食事は?」
部屋の中に入って、俺がソファに座ったところで話し掛けられる。
しかし、一人暮らしの癖にソファがあるなんて金持ちなやつだな。
「大丈夫だ。食べた。それに風呂も入ったから、寝床だけ提供してくれればいい」
「そうか。じゃあ俺風呂入ってくるから」
「ああ」
大輝は風呂へ向かっていった。
*****
何となく部屋の中を眺める。部屋も派手じゃなく、飾らない感じで、本当に普通だって思える。でも、家具の類を見るかぎりでは、羨ましいほど充実しているけど。
そんなことを考えながら途中コンビニで買った、ペットボトルのお茶(あったか~い)の蓋を開けて飲む。
「……ふぅ」
うまいなぁ~~……お茶って。
「巧人」
ほっこりとしていると風呂場のほうから、くぐもった声が聞こえた。
「なんだ?」
「いや、実はいつものノリで、着替えを部屋に置いたままにしてたんだけどさ。そっち、行ってもいいか?」
「ああ、別に構わないけど」
「そうか。ありがとう」
その言葉とともに、ドアが開いて大輝が出てくる。大輝は腰にタオルだけ巻いた姿で、体からは湯気が立ち昇り、ついさっきまで風呂に入っていたことを思わせた。
おっと、あんまりじろじろ見るのも失礼だな。俺にそっちのけはないし。他の場所を見ていよう。
そう考えて、視線をずらそうとした時、ある一点に目が止まった。
「!?」
俺は思わず、二度見をしてしまう。
(な……なんだあれは!?)
タオルに……テントが張られているだと!? しかも……なんてデカすぎる! 外国製か!? あれは!?
俺のフルバースト状態よりも全然……これであれだよな? 通常なんだよな? だってこの状態で興奮する訳無いし、こいつにもそういう趣味はないはずだし。なにより大輝が物怖じせずしてないことが何よりの証拠!
くっ……男として負けて悔しいはずなのに……あんなにも雄々しくそそり立って、神々しいほど輝いている。
まさに大輝!
俺は思わず劣等感も忘れ、崇拝するように魅入ってしまった。
そんな俺の視線を感じてか、大輝が俺を見てくる。
「なんかようか?」
「あ、いやなんでも!?」
「そ、そうか」
苦笑いを浮かべ、着衣のため脱衣所へ戻る。
焦って答えたせいか、少し変な目で見られたな。まぁ誤解だし、すぐに解けるだろう。 しかし、まさかあいつにあんなものが……。普通の代名詞なやつだと思っていたけど、違ったんだな。と今日この日、俺のなかで大輝に対する評価が変わったのだった。
*****
『きて……ださい……ま』
ん? なんだ? どこかで聞いたことがあるような声が……。
『起きてください! ご主人様!』
!? な、なんだ! この光景は!?
『やっと起きてくれましたね……もう! 毎朝起こすほうの身にもなってくださいよ』
そんな馬鹿な……! な、なんでリオちゃん(9)が、俺の目の前に!? しかも……しかも、メイド服だと!?
『もう、何言ってるんですか? これはこうしろってお兄ちゃ……ご主人様がそう言ったからでしょ?』
俺が言っただと……? いやそれより、何故リオちゃんがいる? それに、さっきのお兄ちゃんって……
『もう、本当に何言ってるんですか? 私たち……兄妹になったんじゃないですか』
兄妹……妹だと? ははは……そんな馬鹿な。あの両親が別れるなんてありえない。これは夢だ。夢に決まってる……。
『それとも……お兄ちゃんはやっぱり、私のこと妹だなんて思ってくれないのかな?』
!? そ、そんなわけないだろ! リオちゃんが妹になってくれるなら、嬉しいに決まってる! 俺じゃ兄としては頼りないかもしれないけど……でも!
……リオちゃんのためなら、俺はどんな自分にだってなるよ。
『お兄ちゃん……じゃあ――』
リオちゃん、そんなはしたない! なんて格好を!
『やぁ~あ……私のことは、リオって……呼んで?』
!? ……ああ。分かったよ。リオ。
『じゃあ、私のお兄ちゃんへの本気……もらってくれる?』
もちろんだ。その本気もちゃんと伝わってる……だから――
「うお――! リオー!」
そうしてベッドに仰向けになり、スカートをたくし上げていたリオに覆いかぶさろうというところで、目を覚ました。
「……………………」
辺りを見回す。ここは……大輝の家だな。うん、横では未だに寝息を立てて大輝が寝ているし。そうだったな。昨日は泊まりにきたんだ。
数秒間その状態で固まった後、理解した。
(やっぱり、夢かよ!)
「ありがとうな、泊めてくれて」
次の日になって早朝、俺は大輝にそう告げる。
「いいのか? 別に朝食くらい食べて行ってもいいんだぞ?」
「いやいいよ。流石にそこまで迷惑をかけるのも悪いしさ」
それに帰って着替えたり、鞄とか持ってこないといけないし。あんまりゆっくりしていると、遅刻するかもしれない。だから、大輝の厚意に甘えることは出来ない。
それに今はあんまり大輝と居たくないし……朝の日課もできないしな。
「じゃあな大輝。また学校で」
「ああ」
そうして、俺達は別れた。
*****
俺は今へこんでいる。実は朝、俺のほうが少し早く起きたのだが、大輝のが……その、男の生理現象ですごいことになっていて、布団さえも押し上げていたのだ。
……なんだよ、あれ。ばけもんだよ。今まで泊まったことあったけど、見たことなかったよ。
まず、俺のほうがいつも遅くに起きていただけなんだけど。自信喪失だよ。あんなもの見せられたら、にいかちゃん(6)だって魅了されてしまうに違いない。大輝の近くには近づけさせないようにしよう。絶対に。