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12-3 漫画における帯の重要性

(ここは……普通な漫画雑誌だな)


 適当に本を取って表紙を見るが、よくある少年バトル漫画と言う感じのものだった。俺はそれを一度棚に戻すと、惹かれるようなタイトルを探してみる。


(う~ん……にしても、タイトルで興味持つってどんなの何だろうな)


 例えば、『謎』という作品があったとして、俺はこうやって背表紙だけを見ていて、興味を持つだろうか。最近のライトノベルとかだと、無駄に長くて、そしてそれをみるだけでどんな内容か想像できるようなものが多いが、それも興味を持つだろうか。俺ならそれだけで満足しそうだ。

 そう考えると、タイトルを創り出すほうは大変だな。


「お、これとかなんだろう」


 俺は手を伸ばす。その作品のタイトルは『輝ける太陽の場所』。抽象的でどんな作品か予想もできなかったが、そこが興味を抱かせた。

 それに、見た感じこれ一巻で完結している作品のようだし。これが一巻で打ち切られたほどにつまらないのか。それとも、一巻に凝縮しまとめた素晴らしい作品なのか。そこにも惹かれた。

 俺は手に取って、表紙を見てみる。


 そこには見渡す限り一面荒野と、透き通った青の空。

 なんというか、芸術的だ。油絵を見ているようだな。それにこの絵からは、虚しさとか、やるせなさとか。心の中に訴えてくるようなものを感じる。好きな絵だ。


(さて、あらすじはどんなことが書いてあるんだ?)


 俺は裏返して確認してみる。



『トーヤは昔の記憶を頼りにただひたすらに歩き続け、そこを目指した。一際輝く太陽と天から降り注いだその光が一点に集まる、自らの死に場所を』



 ふむ……普通に気になる。

 昔の記憶ってことで、一度行っているのか? とか、回想でそのことを説明して特別なものだという演出をするだろうし。何故、そんな場所を目指そうとしているのかも気になる。

 特に最後の言葉。死に場所。


 あえて結末を連想させる言葉を含ませて、読者の興味を増長させている。たとえ、これでどんでん返しがあり、死ぬことがなくても、途中までの主人公が死のうとした理由づけなどにより感情移入している読者ならば、よかったな、と思うだろう。

 逆にそのまま死んでも、それはそれでこの作品のありかただと納得する。……うまいな。


(どうしよう、思った以上に面白そうで惹かれた、買おうかな?)


 いや、そう言えばまだ帯を見ていなかったな。こういうのも結構参考になるし、これを見て決めるか。

 俺はもう一度裏返して、表紙を向け、下のほうに目を向ける。



『まぁ、ただの夢落ちなんだけどね』



 ネタバレやめろ。いきなり見る気無くした。つーか、結末を言うなよ。いや、さっきの死に場所はよかった。あれはあおりとしては最高だ。

 だが、これは最低だ。じゃあなんだ。輝ける太陽って、カーテンから差し込んだ日の光かよ。そしてその場所が、ベッドの上ってか?


 ったく、夢落ちとか書かれてなければ、少しは楽しめただろうに。

 この帯って編集が考えるものだよな? だとしたらセンスないぜ。こんなんじゃなければ、買ったかもしれない……というか買ったのに。これのせいで損してるわ。作者の人が可哀想だぞ。


 逆に、この奇をてらった帯で売れてくれたらいいけどな。たぶんないな。お前だけ雰囲気ぶち壊しの異質だから。


(はぁ……もういいや。次いこ)


 俺は本を戻すとまた探し出す。



「……なんだよ、これ」


『魔法のない魔法世界』


 意味わからない。単純に意味が分からない。

 ひとまず、あらすじ確認だ。



『ここは魔法という概念が存在するが、それを知らない&廃れ、忘れられてしまった世界。そんな世界でひょんなことから魔法を使えるようになった主人公の話』



 ……そうか。まぁ興味は普通だ。ここに書いてあることだけで考察するとすれば、『魔法自体は誰でも使える世界』ということだろうな。ただ誰も使おうとしないだけで。


 だとしたら、そのうち主人公だけでなく、他に魔法を使うやつが出てくるだろう。それで、敵だったり味方だったりが出せるし。

 特に、『主人公だけが特別ではない』と言う点が俺の中では評価が高い。そこにいる人なら一般人でも使えるっていうのは、とても身近に感じる。設定は悪くないな。

 ……だが、問題は帯だ。さっきがあんなのだったしな。またネタバレを食らいたくはないぞ。


(でも、今回はマシだな)


 これ、5巻くらいまででてるし。まだ連載中みたいだし。一巻程度のネタバレくらいなら全然――



『俺は決めたんだ。女の子のスカートのエルドラドを目指すと!』



(ふざけんな!)


 これはギャグ漫画なのか? バトルじゃないのか?

 だって、表紙の人物がこれだぞ? 哀愁を漂わせた貫禄のある背中。憂えに満ちた表情。きっと主人公であろうこいつが、一人だけ描かれた絵。


 これで……その内容か? 主人公はそんなくだらないことに魔法ってのを使うのかよ。

 ……ん? まだ何か小さく書かれてる。



『※本編とは一切関係ありません』



 マジでふざけんな。雰囲気ぶち壊すんじゃねーよ。

 無能だ。もう、ここまでくると無能だ。編集者全員がそうだとは思わないが、少なくともこの担当とさっきの作品の担当の編集者は無能だ。

 つーか、さっきのとこれって同じやつだろ。つまんねーことばっか書きやがって。


「一応、他の巻のも見てみるか」



『魔法のすごさを実感しつつ、むやみやたらに使わないようにしようと決意した王魔。そんな中登場したのは、自分と同じ魔法を使う少女!?』



 おお、面白そう。ちゃんと、自分の力の危うさのようなものを理解しているみたいだし。ヒロイン登場じゃないか。



『ちょっといいところ見せたら惚れてくれる。そんなチョロイン、楼ヶ峰咲』



 余計なこと言うな。むしろ、いいところを見せる……助けたりして、仲良くなるのは普通だし、重要なことだろ。

 三巻目はどうだ?



『ついに現れた敵、錬金術師団。ただの魔法とは一味違った強い力に、王魔は追い込まれ……? この作品の特別版読み切りも収録!』



 敵も来たか。それに何やら不穏だな。魔法とは違う錬金術というのも気になるし。盛り上がってきてるな。



『おっと、錬金術で私のブロンズスティックがゴールドに光り輝くようになってしまったね』



 下ネタやめろ。これそういう作品じゃないから。バトル漫画のあおりだぞ。

 くそ、この帯のせいで完全に見る気が失せた。


(もう、次だ。次!)


 俺はあのはずれ編集を引かないように祈りながら物色する。


(よし、これだ!)


 俺は若干投げやりになりながらも、それを手に取る。



『カプチーノから始まる恋物語』



 とりあえずは恋愛物のようだな。カプチーノからどう始まるかは知らんが。

 しかし、少女漫画みたいな絵柄だな。ここの雑誌、案外作品の幅広いぜ。



『喫茶店。教室。学校の帰り道。色々な場所での出会いと、それらをつなぐカプチーノ。終わることのない永遠の恋。甘くほろ苦い味』



 ふむ。これは今までと違って、何もわからないな。カプチーノと学校の帰り道とか、俺の中ではつながらないぞ。

 ……お、これは試し読みがあるぞ。一話分丸ごと全部読めるようだな。よし、少しだけ読んでみるか。



『はぁ……何か面白いことないかなぁ~』



 喫茶店の中で主人公らしき女の子がため息をついたぞ。



『お待たせしました。ご注文のカプチーノです』

『はい……っつ!』



 お、女の子、運んできた男の顔見て、ときめているな。カプチーノから始まった恋だ。



『「そんな……そんなことってあり得る? でも、ううん……この感情は」』



 心の中で、葛藤にしているな。まぁ、どうせ一目ぼれだろう。



『「違う違う。惑わされちゃダメ、本当の気持ちっていうのはこんなに簡単じゃない。もっと、じっくりと付き合っていく中で培われていくもの!」』



 お、おう。な、長いな。



『「あ……でも、一期一会って言葉もあるし。今の出会いを大事にしないと、もう会えなくなる? そうなったら私は……悲しい」』



 …………。



『「だけど、その悲しいって感情は、はたしてその気持ちなの? 親愛ではない? 友達になりたいってわけじゃない? 憧れじゃない?」』



 …………。



『「ええ……わかってるわ。これは言い訳よ。自分自身の気持ちを認められないことへの。でも、仕方ないじゃない。それは私にとっての初めてなんだから。誤解したくない。本当でありたい。真剣でありたい」』



 …………。



『「私は……どうなの? この人とどうなりたいの? それを教えて、私。……決めた。心がそう叫んでた」』



 …………。



『「だって勿体ないじゃない。この気持ちを押し隠すなんて。私はこの気持ちを素直に受け入れる。私はあなたのことが……」』



『「……ううん。まだ早い、その段階じゃない。私が受け入れたのは――」』



(いつ終わるんだよ!)


 だれるわ! なんだよ、これ。ずっと主人公の葛藤じゃねーかよ。たった数秒の出来事が長すぎだ。何ページ使ってんだよ。


 もう面倒だから最後までパラ読みしてったけど。

 結局女は何も言わず、自分の中でもちゃんとした決着もつかず。

 カプチーノを一口飲んで、「また会えたらいいな……」って、どんなだよ。これじゃ終わらないな永遠!


 しかも、相手の男の名前が分からなかった。女のほうは途中で、『本当にそれでいいの狭間はざまりん!』とか、自問自答ででてきたが(それでも、20ページ超えたあたり)、男は何もなかった。

 ていうか喋ったのも、最初の持ってきたときと。『ご注文は以上でよろしいですか?』と、『それでは、ごゆっくりどうぞ』だけだ。

 全部定型文。そのキャラらしさがない。つまり、魅力が一切なかったぞ。

 鈴も、どこに興味惹かれたのかちゃんと言わねーし。


 とにかく、内容を見ても一切続きが気にならなかった。


「そのくせ、これは帯がものすごくまともじゃねーかよ」



『気になる彼には、いつでもカプチーノ!?』



 出会う先々で毎回カプチーノが絡むってのがよくわかる。

 それに、興味もこれならまだ湧く。内容を見た後だと、どれだけ中身がないのだろうと思うが。


 つーか、大丈夫か、この出版社。こんな作品出して。

 しかも、20巻くらいでてんぞ。なんか、最初の二つのやつも、実は中身がこんなのなんじゃないかって思えてきた。だとすると、買わなくて本当によかったのかも。


「もう漫画はいいや」


 飽きた……というか疲れた。

 それによく考えたら、漫画とかはそれなりに見てるんだ。


それよりも、俺が全然見てなくて、苦手意識を持っているアニメの方面を見てみよう。

 俺はそう考えて、先ほど見た時のように、映像を流している場所を探して歩いた。


*****


 それはすぐに見つかった。とりあえず、見てみる。


(お……、今オープニングが終わったみたいだ。本編が始まるな)


 タイトルは『七色の冒険者』か。ファンタジー系だな。

 横にあったパネルを見てそんなことを思いつつ、内容を見ていく。


『っつーわけで、改めてよろしくな!』

『ああ、よろしく。フレイ!』

『って言っても、既に仲間みたいなものだよね~』

『そう言わないの、サン。だから改めてと言ってるし、それにこういうのはけじめが大事なんだから』


 流石、七色の冒険者と言うだけあって、赤、黄色、オレンジ、紫と髪の色がカラフルなやつばっかりだな。


『次の仲間は一体どんなやつだろうな?』

『炎使いの後だし、水系とかだとちょうどよくない?』

『ちょうどいいってなんだよ!』

『でも、一人一人がそれぞれ何かしらに特化した力を持っているわけだしね。水なら来ても普通じゃないかしら?』


 仲間を集めて旅をしているようだ。そして、7人のエキスパートでチームを組むのか。その理由とか、どうやって見つけ出すのかは途中だしわかんないけど。


『うんうん。そうだよ~。ポイズなら、この豊満な胸とかね!』

『ひゃ! ちょ、ちょっと!? 触るのをやめなさい!』

『まぁまぁ、減るものでもなし。よいではないか~よいではないか~』

『いや、んん……っつ、ふぅ。あ……あん!』

『おおおおお……にしてもどうやったらこんなに大きく……』

『ああっん……! こっ……ら、強い……』


(もう無理だ)


 俺は少しだけ頑張ってみたが、限界に達して顔を背け耳をふさぐ。

 普通にみていたのに、急なお色気やめろ。変な声聞いたせいで 気持ち悪くなってきた。もう、吐き気も催してきたぞ。


 一応演技なのはわかる。それが仕事なのもわかっているつもりだ。

 けど、それがわかっていようが、俺には苦でしかない。


 これはあれだ。生理的に無理ってパターンだ。

 俺はきっとキッズ向けのアニメか、ジ○リとかくらいしかみれないんだろうな。

 そんなことを悟りつつ、俺はその場を後にした。

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