12-2 my best manga 『迷探偵ナンコー』
(といっても、知らないものだらけだしな)
気になったところで立ち止まるって考えじゃ、そうそう何もないか?
こういうときは、普通に人気のある飛ぶとか跳ねるって意味の漫画雑誌のあるスペースにでも行くか?
そう考えていた時、一つの漫画が俺の目に留まった。
(こ、これは迷探偵ナンコ―!)
マイナー雑誌週間サタデーで掲載されている漫画の一つだ。まさか、こんなものが置いているとは……。俺のよく行く本屋にはおいてなくて、ネット注文とかしてたのに。すごいなここ。俺は素直にこの場所を感心した。
明らかに、某週間の日曜日雑誌に連載している人気漫画のパクリっぽいが、普通にこれも面白い。
主人公の名前は南光。小学3年生でナンコ―と呼ばれている。
彼の周りでは毎度毎度事件が起こるのだが、流石迷探偵。とんちんかんなことを言って、推理を外しまくり、捜査は難航する。
そして最後にはふとした拍子に、とんちんかん推理が一周回って正解にたどり着き、終わるという物語だ。
その内容も基本は、どうでもよさそうな小さいことが多い。
例えば、『ゆみあちゃんの給食のプリンが誰かに食べられた!』とか、『ともたが最近太り過ぎているのはなぜか?』とかだ。
このときの推理内容も面白く、『きっと宇宙人だ! そいつらが、お腹を空かせてたべちまったんだ!』だったり、『あれだな! 夢遊病ってやつ! その間にともたは飯を食っちまってんだ!』とかやっていて、あの人気漫画のような殺人事件のようなものは全然起こらない平和な世界だ。
俺がこの作品を気に入っているいいところは、ただギャグ漫画のように見えて、毎回ちゃんとした推理をしていてるところ。その一つがこれだ。
『それはありえませんよ。もし給食が始まる前からゆみあちゃんのプリンがなくなっていたら、配っている途中に気付くはずです』
『だから今問題なのは、ゆみあが給食を受け取った後、自分の席に戻って、一度トイレに向かった。そして、戻ってくるまでの間に何があったかだぜ?』
『そうよ、ナンコ―くん。ひこみつくんとともたくんの言う通りよ。もう少し真面目に考えよう?』
『オレはいつだって真面目だ! くそー……じゃあやっぱり宇宙人だ! それしか考えられないぜ!』
『そんな宇宙人だなんて、意味の分からないことを言う人に真面目だなんて言われたくありませんよ。大体、ゆみあちゃんのプリンを狙った動機はなんなんですか?』
『そんなもの腹が減っていたからだろ?』
『だったら、なんで他のごはんとか味噌汁とかは食わなかったんだ?』
『それに、もしもプリンが食べたかったのなら、ゆみあちゃん「だけ」のプリンが狙われたというのも納得いきませんしね』
『隙があったのが私だけだったって考えることもできるけど……それじゃ理由が弱いね』
『第一、問題はまだ山積みですよ? 誰がプリンを狙ったのか。プリンはどこに消えたのか』
『ゴミ箱をみてもねーし、教室を見渡せば、どこにもプリンを二つ以上持ってる人なんいねーんだぞ?』
『うん? 見つからない……はっ! そうかわかったぜ!』
『え? 本当ですか?』
『ま~た宇宙人とかいいだすんじゃねーのか?』
『まぁまぁ、一度聞いてみよ? ともたくん』
『つまりは、だ。まだプリンは食われてないんだ!』
『そりゃそうでしょ。でなきゃ、からのカップが見つかってますから』
『だったらプリンはどこに消えたのか……。答えは誰かが持ってるんだ!』
『それもわかってるよ。けど、教室のみんなの机の中や、鞄の中まで確かめたけど、どこにもなかったんだよ?』
『みんなじゃねーだろ? 一人だけ残ってんじゃねーか』
『え? あ――』
『そう。プリンの盗まれた被害者であるゆみあちゃん自身だ!』
『あ、あった! 私のプリン!』
『つまり犯人はゆみあちゃ――』
『そういうことですかナンコ―君! ボクもわかりましたよ!』
『え?』
『オレもだぜ!』
『私も!』
『え? いや、だからゆみあちゃんが犯人――』
『犯人の行動はこうです! まず最初にゆみあちゃんが教室を出て行くのを見ました。たぶん、このときにこの犯行を思いついたのでしょう。ゆみあちゃんがトイレにいくなどという、不確定な要素が入っていますからね』
『犯人は、ゆみあの席の近くによると、横にかけてあったゆみあのランドセルの中にプリンを入れたんだ』
『なくなったのが私のプリンだから、まさか自分のランドセルに入っているなんて思わないもんね』
『そうやって、どこよりも安全にプリンを隠すことに犯人は成功しました。それに、例え今みたいに見つかったとしても、ゆみあちゃんがやった自作自演にしたてることもできますしね』
『プリンがないとか言えば、誰かがくれるかもしれないって考えたことにすれば、いいからな』
『でも、ここで問題になるのはプリンの回収方法。結局は私のランドセルの中に入っているから、それを誰にもばれずに取り出すのは至難の業だよ。それに、放課後になれば、教科書を入れるのにランドセルを開けていたから、タイムリミットも存在した』
『でも、一つだけ大きなチャンスがあります。それはこの学校特有の掃除制度』
『掃除は給食後に行い、終わり次第昼休みにする』
『しかも、班ごとに全員がどこかしらの掃除をするから、教室の人の目を欺きやすくなるもん!』
『これらの条件下の中で、プリンを回収することができるのは……教室の掃除当番であり、ゆみあちゃんの近くの席のあなたしかいませんよね! マークくん!』
『うっ……っく。その通りだ……』
『ふふふ……やりました! さすがナンコ―くんです! 発想が僕たちとは違いますね!』
『やっぱり、ナンコ―にはかなわねーぜ!』
『あ、いや……は、ははは! そうだろうそうだろう!』
という感じだ。……面白いだろ? 特にこのナンコ―以外のやつらの有能そうな感じとか。
それにナンコーだって、ちゃんと惜しいところまで行っていて、それがあるからこそ、ひこみつやともた、ゆみあが輝いてる。
タイトルから残念さを感じつつ、中身を見るとやってる事件がしょぼい。
けど、読み進めていくと、馬鹿っぽいことなのにものすごく真面目にやっていて、こちらが熱くなってくる。そんな作品だ。
たまにナンコ―が、一切とんちんかんなこと言わないで推理するときとか、ギャップもあって最高だ。
と、思わず立ち止まってしまったが、これは知っている作品。それに、単行本も全巻持っている。ここにいる理由はないな。
けど、こんな感じの漫画とかもあるとなると、結構興味がでてきたぞ。よーし、マイナーで攻めよう。
俺はそう思って、知らないレーベルの棚へと向かった。