11-3 炸裂。ワンドルフ・ワールド2
「えっと……あとは、この子! キャーット君!」
猫かよ。被ってるよ、お前。
いや、でもこいつはワンドルフと違って二足歩行か。顔も違うし。ワンドルフは茶色の猫で、こっちは白猫だ。
それに、右手には何やらカードのようなものを握りしめてる。
この作品において、大事なアイテムなのか?
ひとまず、その声を聴いてみる。
『あ、チャージいいっすか?』
(現代人か!)
なんだよチャージって! nana○oか? それともsui○aか? コンビニにでも行ってたのかよ、お前は!
「これは、コンビニで買い物しているときの台詞だよ」
本当にコンビニかよ! てか、こんなどうでもよさそうな部分、抜き出すな!
分からん。この作品の世界観が全然わからん。知れば知るほど、謎が深まる。
ギャグアニメだからか? ……深く考えない方がいいんだな。
「他にも魔女のウイツチさんとかワンドルフ君の飼い主のハーブ・アペットさんとか、結構たくさんのキャラクターがいるんだよ」
やっぱ魔女もいるんだ。いや、それ以上にワンドルフ君、ファミレスで食事とかあるうえに、喋ったりもするのに飼い主居るのか。
猫に変わってどう思ってるんだろ。……もっと突っ込むところあるような気がするけど……もう感覚が麻痺ってきた。
最初に、魔女に猫に変えられたというファンタジー設定はいるのか、って思ったけど、もうそんなこと些細なことだって分かったよ。これはスーパーフリーダムな作品だった。
「でも、たっくん知らないんだね。こういうの」
「まぁ、興味ないしな」
単純にそんなものは。
みかんちゃん(8)たちのような子供が見ていそうな作品(キャラクターデザイン的に)だし、話題として知っておいた方がいいのかもしれないが、そんな会話はする気がないし。むしろ、でしゃばって話し込むよりも、ただうんうんと頷いていたい。楽しそうに話す姿を、暖かな目で見ていたい。
「むしろ、唯愛が知っていることのほうが驚きだ」
放送日は日曜だったが、毎日忙しいんだ。わざわざ休日に見ようとなんて思わないだろ。
それに、ロリコンじゃなくなってからは家に居ることは多かったし、その時間ならリビングで一緒にテレビを見ていることもあった。けど、こんなもの見たことはなかったぞ。
「私は……ね。周りの人に話を合わせるために、ちゃんと調べておかないといけないから」
……そういうところも大変なんだな。
それに対して俺なんて、友達ほとんどいないしな。クラス内で話すやつは大輝だけだし。絵夢とかとはそういう会話はしないし。
唯愛は情報収集とか努力して、今の立場にいるんだ。自分から相手に合わせてるんだ。俺とは根本から違うな。
「あ、あれも可愛いー!」
唯愛は何やら見つけて、そっちに向かっていく。
さっきのは今する話じゃなかったな。せっかくの『デート』なんだから。つまらないことなんて、考えないほうがいい。
それに、ああやって楽しんでいる唯愛は本物だ。可愛いって言っていたのも、本当の気持ちだ。だったら、合わせてるとか合わせてないとか、どうでもいいじゃないか。
大事なのは、今はどう思ってるかだけだ。
(にしても、さっきからぬいぐるみばかり見ていたが、他には何かないのか?)
俺は辺りを見回して、何かを探す。もちろん、今までのへんてこなやつじゃなくて、もっと普通なやつを。
「お、あれなんだろ?」
俺は、気になるものを発見し、唯愛のほうは放置してそっちに近づいていく。
(ストラップか)
適当に一つ一つ手に取ってみてみる。
中にはさっきのワンドルフとかのやつもあったが、存外まともなやつもたくさんあった。特に『UNICORN』と言うだけあって、想像上の生き物のデフォルメされた可愛いものが多い。
「ユニコーンか……」
その中でもやはり、それが一番目に付く。種類も豊富だ。
「……これいいな」
そうして手に持ったのは、ストラップの大きさの小さいぬいぐるみがつけられたもの。最初に見たやつみたいに羽はないし、色はクリーム色ってところか。袋の上からだが、柔らかさを感じるし。結構好きだ。
それに値段も……これくらいなら許容範囲だな。
「よし」
俺はそれを手に取るとレジに行き、会計を済ませる。
そして未だ、ぬいぐるみをみてる唯愛の元に行き、声をかける。
「唯愛」
「あ、たっくん! これみてよ! ほらほら、チャーミングだよ!」
「……そうか」
唯愛は腕を前面に押し出して、ぬいぐるみをこっちに向けてくるが、どこがチャーミングなんだ。
全身がボロボロになったような男の子のぬいぐるみ。口元は縫われたようになっているが、そんなものおかまいなしとばかりに開いた笑った口。例えデフォルメされていようが、怖いわ。
と、そんなことはどうでもいいんだった。
「唯愛、これ」
俺は今さっき買ってきたストラップを手渡す。
唯愛は「え?」と、突然のことに、頭がついてきてないのか、俺とストラップを何度も見比べる。
「これは?」
「さっき買った。一応今日は、お詫びだしな。それはプレゼントってことで」
「え! そんな悪いよ! 私はたっくんんと出掛けられただけで十分なのに! お金はちゃんと渡すから!」
「大丈夫だって」
慌てた様子で鞄の中をまさぐる唯愛を俺はなだめる。
「お詫びって言い方が悪かったかな? じゃあそれはなし。いつも世話になっている唯愛へのプレゼントだ」
「だ、だったら私だって、たっくんにお世話になってるし――」
「ごちゃごちゃ言わずに、素直に受け取って喜べ! 渡したこっちが気まずいだろ?」
俺が強い口調でそう言うと、唯愛はうっと怯む。そんな唯愛に今度は優しい声色で話しかけた。
「それに、お揃いだぞ?」
「あ……」
俺は、買っていた自分用のストラップを見せる。すると小さく声を漏らし、黙り込んだ。俺はさらに、「な?」っと、念押しするように笑いかける。
「うん……ありがとう。たっくん」
唯愛は軽く微笑むと、ストラップを大事そうに両手で握りしめ、胸に抱いた。




