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11-2 炸裂。ワンドルフ・ワールド1

「あ、見てみてたっくん!」


 唯愛は子供みたいにはしゃいで、笑っていた。

 あの後、適当にその辺をウィンドウショッピングしてきた。その間の唯愛は本当によく笑っていて、今日は一緒に出かけてよかったなと思っていた。

 そして今は、『UNICORN』という店の中に入ってきたところだった。


「えへへ……可愛い~」


 そう言って、そのぬいぐるみを両手で持って触る。

 そのぬいぐるみは、この店の名前にもあるように、ユニコーン……角の生えた馬のような生物を可愛らしくデフォルメしたものだった。パーツで言えば、頭と体の2頭身で構成されている。足は、前に押し出されている形だ。

 だが……はたしてそれは可愛いのか?


 全身の色は水色。角も太さはあるが長さは短い。ここまではいい。

 けど、その背中についているものはなんだ? 翼だよな? それじゃペガサスじゃねーかよ。混ざんなよ。仮にも店の名前を掲げてるくらいなら。


 そして、まがまがしいんだよ。どうして翼がそれぞれ違う色なんだ。しかも、黒と白。こえーよ。

 次に目だ。眉が吊り上がっていて、すごく好戦的に見える。もっと可愛らしくできないのか?

 あと、口。右側の口角が釣りがったようになっている。ニってするな。何を企んでやがる。


 と、こんな具合にものすごく悪い顔しているのだ、このぬいぐるみは。

 それにあの翼も相まって、俺には悪魔の使いに見えるぞ。


「あ、こっちも可愛い~」


 唯愛はまた別の場所に置いてあるぬいぐるみの元へ向かった。今度は虎のようだ。構図はさっきと同じ。つまりは、他のところも似ている。

 てか、全身ピンクとは、また、ずいぶんとファンシーな……。模様も薄いとはいえピンクだし、区別がつきづらいぞ。もう少し考えろよ。

 ……で、なんで翼もついてるんだ?


 これがいいとは、女子の感性ってよくわからん。

 もっと普通な……マシなやつはないのか?


「あ、あれもいい感じだよ!」


 唯愛の指さす場所に目を向ける。見た感じ、これは猫のぬいぐるみか。あの変な翼とかもないし、顔も普通だな。なんだ、やればできるじゃないか、この店も。


「ん~……いいねぇ~これ」


 唯愛と一緒に近くに寄り、それを眺める。

 ああ、まったくだ。素晴らしい。芸術作品だ。こういうものこそ、可愛いってやつだな。キモイ要素なんていらないんだよ。純粋に可愛いだけで十分だ。


(……んん?)


 俺は視線をずらして、商品名を見ると、目を疑った。

 ……きっとあれだな。店員が間違えたんだ。そうだ、そうに違いない。

 唯愛は、そのぬいぐるみを抱きかかえると、笑顔で言った。


「可愛いよ~この『犬』さん」

「…………」


 ……犬? それが?

 ふざけるな! それのどこが犬だ! 誰がどう見ても、猫だろそれ!


(俺は信じないぞ。世界の全員が例え、犬だと言おうとも、俺だけは屈しないぞ)


「あ、これお腹を押すと鳴くんだって!」


『ワン!』


「なに、ワンって鳴いてんだよ!」


 俺は、発せられたその鳴き声に、思わず声を張り上げて突っ込む。

 どうなってんだよ! 俺の常識が通用しないぞ!

 異世界か? ここは異世界なのか? 犬は猫のような姿をしているのが普通なのか? 俺は一体いつの間にそんな場所に迷い込んでしまったんだよ。


「うわ! 驚いた。もう、たっくん。お店の中でそんな大声出しちゃ、め~……だよ?」


 唯愛に諭されるように叱られる。だが、俺のこの気持ちの高ぶりは全然収まりはしない。


「唯愛、こいつのどこが犬なんだ? 明らかに猫だろ!」

「? たっくん何を言ってるの?」


 そう言って、小首を傾げられる。

 その、おかしな人をみるような表情……やはり、ここは俺の知らないパラレルワールドなのか……。


「ほら、ここの説明を見てみなよ」


 そう言って唯愛は商品名を指さした。

 ……いや、違う。よく見ると、その下に小さく何か書かれている。俺はその内容を読んでいく。



『ある日、魔女の呪いによって猫の姿に変えられてしまった、犬のワンドルフ。けれど、そんなことは気にも留めずに過ごし続ける! ワンドルフの変わった日常を描く「ワンドルフ、家を買う」は日曜夕方17:50から、TVアニメ絶賛放送中!』



 ……なるほど。ファンタジーだな。流石『UNICORN』だ。

 ただ、意味がわからん。どうしてワンドルフは魔女に呪いなんてかけられた。そして、猫なった。


 『犬だけど猫の姿で過ごす日常』っていう部分は面白そうだったが、わざわざそんな設定にする必要があったのか? もう少しやりようはあっただろ。

 それと、世界観は何となくつかんだが、それでなんでワンドルフは『ワン』と鳴くんだ。それしか言えないのか? 主人公が喋れなくて大丈夫か?


 何よりも、タイトルだ。

 ……関係ねーじゃん。内容と。

 家買うのが目的だったらあらすじにもかけ。変わった日常を描くんじゃないのかよ。


 まぁ、全体的に突っ込みどころ満載ですごく気になったから、ある意味成功してるんだろうがな。

 つーか、唯愛はこの説明を見ている暇なんてなかったよな? だとすると……。


「お前は、前からこれのこと知ってたの?」

「え? うんまぁ、有名だしね」


 有名なのか。初めて見たんだけど。女子間ではやっているのか? それとも、俺が全然知らないだけか? TVなんてほとんど見ないし。


「……じゃあ、さっきのあのキャラクターたちも、何かのやつなのか?」

「ん~さぁ? 私はただ可愛いな~って思っただけだから」

「そうか」


 あれは特にはやっているものではないらしい。

 いや、あんなものが流行ったら世も末だ。


「ほらほら! これがあの犬のワンドルフ君にでてくる他のキャラクターだよ!」


 そう言われて、唯愛からぬいぐるみを受け取る。

 ……カエルか。でも、なんか服着てるし、剣持ってるな。

 こいつ、二足歩行するのか? ワンドルフは普通に四足歩行しそうだったのに。


 そういえば、お腹を押すと、鳴くんだよな。

 俺はお腹を押してみる。


『おいらに触ると火傷するでゲコよ?』


「…………」


 なんだよ、こいつ。鳴いてないぞ。喋ったぞ。ワンドルフは、「ワン」だったのに。

 ……この世界観は、喋れるものなのかよ。だったら、何故にワンドルフは喋れないんだよ。


「これはねフロッギンってキャラクターで、今の台詞はフロッギンのキメ台詞なんだよ」


 そうかフロッギン。それはお前のキメ台詞なのか。

 だったら聞きたいんだが、カエルのくせに火傷ってどういうことだ。


「ちなみに、ワンドルフ君が『ワン』と鳴くのはキャラづけであって、本当は喋れるんだよ」


 キャラづけかよ。いやまぁ、こいつもゲコとか明らかにキャラづけで言ってるけども。


「それで、たま~に何かあると喋るんだけど……これはたぶん、その時だね」


 そう言われて、そのぬいぐるみを渡される。

 確かに、さっきのやつとは若干表情が違うな。こっちは口を開けてる。もっと間抜けな感じがして、すごくかわいい。

 俺はお腹を押してみる。


『ちょ、それはやめてーな。マジで堪忍やで~』


(なんでやねん)


 思わず同じような口調で突っ込んだが。

 お前、喋るとそんなエセ関西弁かよ。しかも、それ無茶苦茶しょうもないことに対して喋っているように聞こえるんだが。


「えっと……これはファミレスで食事をしていたら、頼んだ中身に嫌いなピーマンが入っていた……って言う状況の時に放った台詞だよ」


 うわ! 本当にしょうもな!

 つーか、ファミレスで食事しているのかよこいつ。普通にキャットフードでも食べてろよ。……うん? ドッグフードか?


(いや、そこはどうでもいいだろ)

続く。

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