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10-7 どうしてこうなった?

(さて……それでどうしてこうなったんだ?)


 俺は絵夢の様子を見つめる。ろうそくプレイが終わって、じゃあ次は~……ということで、次々と他のプレイをやってきていた。俺のほうもテンションがおかしくなっていて、ノリノリで絵夢をいたぶっていた。そして、冷静になり気づいたときにはこうなっていた。


「ふー……ふー……ふー……」


 絵夢はギャグボールをかまされ、口から漏れるように息を吐く。それだけならまだいい。問題はその先だ。


 まず絵夢は目隠しをされている。

 そして鎖でつながれていた手枷を腕にされ、座った絵夢の手は宙にぶら下がっている。その座った状態も足枷をされていているため、正座のようになっている。

 さらに首輪もされていて、まさに全身拘束状態だ。


(……で、首輪についた紐は俺が持っていると)


 ……うん。やりすぎだろ、これは。週末の真昼間にあってはいけない絵面だぞ。これがもしも、アニメとかのようなテレビの地上波で流れるものだったら、絶対にカットされるような部分だ。

 というか、絵夢はなんで女王様って感じのボンデージの服を着ていて、拘束されてるんだ。意味が分からない。


 俺も俺だ。どうしてここまでしていた。アホか。冷静になるのが遅すぎだ。

 まぁ、とりあえずあのロウソクごと落としてたことは、特に何もなかったようでよかった。俺のせいだし、心配だったけど、やけどとか後は何も残ってない。絵夢も、こんな変な性癖持ちでも、一応女子だしな。その辺は気を付けないと。

 いや、それよりもこの状況。さっさとどうにかしないと。


「ふしゅー……ひゅしゅー……」

「このままじゃ、喋ることもできないよな」


 まずは、口枷を取る。そして俺は紐の端の部分を持って、ぷらんぷらんとするそれを眺める。

 ……うわー噛まされていただけあって、よだれが凄くついてるな。……ってわ! 垂れてきた! 汚い!

 あんまり持っていたくないので、その辺に置いておく。


「はぁはぁ……」


 ……まだ絵面が相当ダメだな。せめて目隠しも取らないと。

 俺は目隠しも取る。


「うっ……ヌッキー?」


 絵夢はぼんやりとした目で俺を見上げてくる。まだ目が慣れてないんだろう。

 しかし、『ヌッキー』とは、絵夢のほうも元に戻っているのか。だったら、全部拘束具は外してしまうか。


「待ってろ。今解くから」

「うん……」


 絵夢はぐったりとした表情で頷く。俺はその様子を見て、早々に作業を開始していった。

 そして絵夢は解放されると、ベッドの上にうつ伏せで寝転がる。


「はぁ……ちょっと張り切り過ぎたよね。……疲れた」


 心底な表情で、ため息をつく。

 はしゃいで遊び過ぎて疲れる。まるで子供だな。


「まぁ、色々とハードだったし、今は休んでおけよ」

「うー……まさか、ヌッキーに負けるなんて」


 負けるってなんだよ。勝負じゃないだろ。

 そう思ったが、絵夢はそれ以上何も言ってはこない。それほど、疲れているということだろう。俺のほうは……案外元気だ。途中から吹っ切れていたし、最後のほうは鞭でたたくとかも、そんなにしてないし、楽だったからな。精神的にはどっと疲れてきたけど。

 そうして俺は、休憩しつつ絵夢が落ち着くまで、そっとしておくことにした。



*****



 数十分後。


「よし! 私、完全ふっかーつ!」


 いつもの元気な声で、飛び跳ねる勢いで両手を伸ばす絵夢がいた。(もちろん、普段着に着替えている)

 俺はその姿にホッとする。あのまま寝たりしなくてよかった。前に尾行したときは、帰りに寝てたからな。今日だったら、無言で帰っていたぞ。


「とりあえず、今日はありがとうね、ヌッキー!」

「ああ。まぁ、お互い様だし。一度引き受けたことだしな」

「ホント、ヌッキーってその辺律儀だよね~」


 そんな会話をして、絵夢は笑うと、「じゃあ、汚れた道具を洗ってくるね」、と部屋を飛び出していった。

 しかし……そうか。これで今日も終わりか。……長かったな。朝から来て、既に18時で夕方だし。……って、昼飯食ってねーよ。ぶっ続けでやってたのか。そりゃ、疲れもするな。

 その事実に、ため息をつく。その声が虚しく部屋に響く。


「…………」


 ここには俺しかいない。そして、一日を振り返って、やることもなくなった。そう、暇だ。すると、俺はまた辺りを見回していた。


 そこで目に付くのは段ボール。絵夢はあそこから厳選して道具を持ってきたが、物凄い量がそこにはあった。

 ……他に何があるんだろう。何もやることがないからか、少しだけ興味がわいてきた。俺は近寄ってみてみる。


(にしても、段ボールに入れておくって、結構雑だよな)


 その割にちゃんと洗ったりしてるから、よくわかんないけど。まぁ、段ボール5つ分近くあるし、これを保管するならこれくらいが当然なのか。


 あんまり触りたくはないが、がさごそとかき分けて適当に見ていく。やっぱこうやって見て行くと、同じようなのばっかだな。俺には違いが分かんねーや。


(って……ん?)


 そこで俺は気になるものを発見し、動きを止める。手を伸ばしてつかみ取り、よく見てみる。


(これは……)


 ローター……? って――


「アダルトグッズじゃねーか!」


 俺は思わず突っ込んで、その道具を段ボールの中に叩きつけた。道具がぶつかってがしゃがしゃと音を鳴らし、壊れたかというくらいの勢いで投げつけたが、そんなことを気にしている暇はなかった。


「ヌッキー~? 今何か言った……って! 何やってるの!?」


 俺の張り上げた声に戻ってきた絵夢が、こちら見て驚く。だが、そんな絵夢をよそに俺は例の物を拾い上げて、絵夢にかざし聞いた。


「おい、絵夢。これなんだよ!」

「ってわー! 勝手に見ないでよ、人の家のもの!」


 そう言って、そのピンクの物体は奪い取られる。そして恨めしげに視線を向けてくる。


「わざわざこんな恥ずかしいものを突きつけるなんて……ヌッキーって変態だね!」


 どっちが変態だ。そんなの持っているくせに。


「どうしてそんなもの持ってるんだよ」

「ヌッキー……女性にそんなこと聞くなんて、最低だよ! セクハラだよ!」


 絵夢はただただわーわーと叫ぶ。俺はそんな絵夢に冷ややかな視線を送った。そんな俺に絵夢は「うぅっ……」と唸り声を上げる。


「……それで、どうして持ってるんだよ」


 今度は極めて冷静にたずねる。さっきはあまりの衝撃に気が動転していたが、絵夢の慌てようを見ていたら、少し落ち着いてきた。絵夢は観念したように答える。


「う……、だって仕方ないでしょ! SMって普通は性的な行為の一つであって、ただ叩くだけとかじゃないんだよ! こういうのも使うものなんだよ!」

「……俺はお前のこと、ただのSM好きなやつだと思っていたが……そうか。そういうやつだったんだな」

「そんな目で見ないで! 今はMモードじゃないから普通にその視線が痛いよ!」


 絵夢は大袈裟に反応して顔をそむける。が、すぐに俺に向き直って、また開き直ったように続けた。


「大体、SMグッズなんて、アダルトサイトぐらいでしか買えないよ!」


 おいそんなことカミングアウトすんなよ。俺たち高校生だぞ。


「年齢を考えろ。お前まだ17だろ」

「大丈夫だよ。買ったのはあくまで親。私はそれを使用してるだけだから」


 絶対によくない。


「ヌッキーだって何か持ってるでしょ!」


 絵夢は俺につかかってくる。おいおい。大丈夫か。顔が赤いぞ。恥ずかしいんだろ? わざわざ聞くなよ。元々、下ネタ耐性もないやつなんだから。


 だが、俺は持ってない。既に俺には永遠の相棒がいるからな。そうだろ? 右手ライトハンド


「……はぁ、まあいい」


 絵夢の暴露を聞いて、ため息をつく。なんだが、どうでもよくなってきた。

 よく考えたらこいつは、小学生のときに官能小説とか読んでいたみたいだし、こんなので反応する方がおかしい。まぁそこに理由があったとすれば、絵夢のイメージと違っていたからだろうけど。

 でも、やっぱりそこまでするのが普通……だよな。


「本来のやりかたまでは俺には付き合えないからな。絵夢はさっさと彼氏でも作ってやってくれ」

「う……まぁ、そうだよね。そのほうが、ヌッキーにこんなこと頼む必要もなくなるわけだし」

「まったくだ。それにお前だってそっちのほうがいいだろ?」

「……うん。まぁね」


 絵夢は俺の言葉に間をおき、表情を変えて頷いた。さっきまでの馬鹿なやり取りとは違う、もっと真面目な顔だ。


「親のこと見てるとやっぱり、そう言うのって思うんだ。たった一人の相手。その人を……その人だけを、真っ直ぐに好きだっていられるのっていいなって」


 そう語る絵夢の言葉に俺は思い出していた。絵夢は前に、『ただ一人の人を好きだと言えるのはすごいと思わないか』と、言っていた。それは、絵夢自身が身近にそう感じていたからこそ、出てきた言葉だったんだな。

 そして、絵夢自身もそれを望んでいる。だから、この言葉に込められた想いもよく伝わってくる。


「絵夢もそんな存在に出会えるといいな」

「うん。そうだね」


 絵夢は愛がどうとか言っていた。そのときの俺はちょっと軽視して考えていたけど。絵夢は本当にそう思っていたんだな。

 絵夢は信頼する相手だけだって言ったけど。やっぱりその相手は、好きな人であることが一番いい。それ以上に、いい相手はいない。


 だから俺は望む。絵夢の幸福を。

 そうなれるだけのたった一人の相手を。


「はぁ……そういう意味じゃ、リリーも、とおるんも、それに唯愛さんも。みーんな、その相手がいて、いーなー」

「おい、そこに透と唯愛を入れるのはやめろよ。ゾッとする」


 突っ込みを入れると、「あはは、ごめん」と笑う。調子が元に戻ったようだ。


「けど~……リリーも実はそこに入れてるの、気にしてるんじゃないの~」

「そんなこと……」


 ない……はずだ。たぶん。おそらく。


「てか、からかうなよ」

「ヌッキーに恥ずかしい思いさせられた仕返しだよ~だ」


 小さく舌を出しそう言ってくる。俺はそのいつも通りの様子に改めて、ふっと笑う。


「じゃあ、そろそろ帰るな?」

「あ、そうだね」


 俺が切り出すと、絵夢はそう言って先に部屋を出て行く。俺もその後をついて、歩いて行った。そうして玄関につき、家を出たところで、一度絵夢と向き合った。


「改めて、今日はありがとうね。ヌッキー」

「ああ。じゃあ、また学校でな」


 それで別れを済ませ、自分の家へ歩いてく。


「ばいばーい」


 絵夢は後姿の俺に向かってそう声をかける。振り返ると、絵夢は俺に手を振っていた。俺はそれに振り返して、また歩き出していった。



*****



 帰り道。考え事をしながら歩いていた。

 さて、あとは休みも残すところ明日だけ。唯愛と一緒に出掛けるだけだ。


 考えてみると、ここ最近はそんな機会全然なかったな。俺がうららちゃん(11)たちを見守るという重大な使命があったのもあるけど。唯愛が生徒会に入っていて、忙しかったからな。普通の休日でも、何やらその関係で出かけてることが多かったし。だとすると、俺たちのオフが重なるのって、相当稀なことなんだな。

 唯愛も楽しみにしているし。……いい日にしよう。


 俺はそう思って、家まで帰っていった。

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