10-4 小休止と相談
「うぅ~……ヌッキー恥ずかしいこと言わせないでよね……」
絵夢は、床に座った状態でベッドの上に手を伸ばし、顔を乗せて、赤くしながらそう言った。
一通り鞭での行為が終わって、本格的に叩くのに疲れやめると、最初は「あぁ……放置されてる。飽きて捨てられたおもちゃのように放置されてる……!」とかなんとか、色々とうるさかったが、しばらくして元通りに戻り、縄を解いた。
そして今は、恥ずかしそうに、横で立つ俺に文句を言ってきた。俺は絵夢に聞き返す。
「恥ずかしいってどれのことだ?」
Mモードだと、ありえないぐらいに変態なこといっぱい言ってくるからな。正直、多すぎて分からない。
「ヌッキーのした質問だよ!」
「ああ。それなんだ」
あんなものより、もっと恥ずかしいのなんて、あっただろうに。失禁言い出したときとか。
「『答えてくれ。お前にとって俺は何なんだ?』……とか、真剣な顔で聞いてきて。調子狂っちゃうじゃん!」
「大丈夫だ。いつも通りだったぞ」
心配ないと、ぐっと親指を向けてやる。
「そうじゃない! 誤魔化さないでよ!」
「別に誤魔化してなんてないだろ。それに、あれは真面目に聞いたんだ」
「それが、恥ずかしかったの……。こっちも真面目に答えてるから……」
まったく……と、顔を起き上がらせ、ベッドに腰を落ち着ける。
「でもまぁ、本当に信頼している相手だからこそ、こんなこと頼んでるんだよ?」
そう答える絵夢は、恥ずかしそうではなく、真面目だった。……恥ずかしさで誤魔化していたのは、そっちじゃないか。
絵夢の言ったことは既に聞いた。そして、俺もその言葉を信じたからこそ、相手をした。
でも、そこにはやっぱり気になることがあった。それは、あっちのM絵夢ではなく、こっちのフツ絵夢に聞いたほうがいいことだろう。
「……お前って、その辺で転んだとしても、Mになるんじゃないの?」
「まぁ……なるけど」
微妙そうな表情で頷く。
「例えば、誰かに突き飛ばされてもなるんじゃないの?」
「……なるけど」
また頷く。……うん。
「やっぱり、誰でもいいんじゃないか」
「だからそう言うんじゃないんだってば!」
声を荒げて怒る。だが、それが本当であることは、絵夢自身が認めている。
俺はさっきMな人間は相手との信頼関係の上で成り立ち、喜びを感じるのだとわかった。絵夢もそう言うことを言っていた。
が、実際はどうだ。絵夢は誰でもいいビ○チの変態だった。がっかりだ。けれど、そこまで怒るならとたずねる。
「じゃあ、どういうんだよ」
「え? それは……あれだよ。もっと愛を持ってね……」
「愛って……」
その言葉を言うほうが恥ずかしいだろ。……いや、さっきも言ってたか。愛してますとか。でも――
「愛なんていうけど、お前って強引だしな」
それもさっき話したことだけど、絵夢は基本的にSやMのときは自分勝手に進めてくる。主導権がずっとあっちにあるんだ。モードチェンジすると、あっちから求めてきてさ。で、こっちはドン引きするわけ。
大体、逃げようとしても追いかけてきたり。追い払おうとして、突き飛ばしでもすれば、さらに興奮させるきっかけにしかならない。
そんなやつが、愛って……。押し付けの一方通行じゃねーか。
「大体、俺は、お前に愛なんて持ってないぞ。友好だ」
「私にとってはそれも愛なんだよ!」
大きいな、お前の愛は。
そこまでして、俺は昨日のことを思い出した。
「……なぁ、絵夢は俺に気があるか?」
「え……いきなり何?」
突然変わった質問をする俺に絵夢は怪訝な視線を向けてくる。俺は理由を話す。
「いや、実は昨日、利莉花と二人きりだったんだがな。その時、偶然関羽にも会って、休日に異性相手と二人きりで会おうとするのは、気があるからだって」
「あ~……わからなくもないね。それ、納得はするよ。でも、ヌッキーが言ったんだよ? 私とヌッキーは絶対にそう言うの、ありえないって。私もそれは同じだよ」
まぁ、だよな。俺も絵夢がそんな気を持つとは思えなかったし。
……なんだよ。関羽の理論全然当たってないじゃん。ちょっと感心したり、真面目に話聞いたりして損した。
絵夢は、にやにやしながら聞いてくる。
「けど、興味あるな~。その話は」
「関羽に会ったことか?」
「違うよ。リリーと二人きりってこと! ……今のわざとでしょ?」
わざとだな。俺は肯定するようにあえて無言を貫き、知らないふりをする。
「もう……で、どうしてそんなことになったの? もっと話してよ」
ため息をついて、話を戻してそうたずねてくる。
別に、話すのはいい。役立たずの関羽より、全然マシなことを言ってくれるだろう。女子同士だし、その感覚を理解して回答をくれるはずだ。だが――
「いいのか? 関羽のほうも、俺が好感度を上げるくらいの活躍をしてたんだが……聞きたくないか」
「え!? ヌッキーが!? 完熟のことを!」
「ああ。思わず、気を使って余計なことしちまったくらいにな」
「ま、まさか、そこまで!」
俺の言葉に驚きっぱなしの絵夢。つまりは、それだけ俺が関羽を褒めるのが珍しいということだ。
「で? どうするんだ? 聞くのか?」
「た、確かに、ヌッキーが完熟の話をこんなに引っ張るなんて相当のことだよね……」
「ちなみに、関羽のことか利莉花のこと、どっちかしか話さないぞ」
「えぇ!? そんな、けちくさいよ、ヌッキー!」
「じゃあどっちも聞かないのか?」
「うぅ……わ、わかったよ。ちゃんと決めるよ」
押し切る。おお、俺が絵夢に強引さで勝ったぞ。これで今度からは、万が一SMが始まっても、絵夢から逃げれるかもしれないな。
「完熟のこと聞きたい……けど! 今は、リリーと二人きりってことのほうが気になる!」
どうやら絵夢は悩んだ末に、利莉花のほうを選択したようだ。
関羽、残念だったな。お前への興味は利莉花への興味に負けたようだ。
もうこれから先誰かに話そうとは思わないし、お前の勇姿を話す機会は永久に消えてしまったよ。
まぁ、最初から利莉花のほうが選ばれると思ってたけどな。絵夢も女子だし。色恋沙汰ってのには、興味津々だろう。利莉花とのことは、ずいぶんと話しているからな。
俺はとりあえず、昨日関羽に話したことと同じように、拾った猫を一緒に見に行ったことを話した。それと、関羽には言わなかった女子校出身で男子と接する機会が全然なかったということもプラスした。
そして、話し終わると――