9-5 関羽的恋愛理論
「前に、利莉花と俺があった日のことは話してるだろ? それで、その時に利莉花は猫を拾ってたんだ」
「あ~……で、そこにいるのがリリーが拾った猫っつーわけか」
「その通りだ。自分では飼えないけど、そのままにしておくわけにはいかないからと、引き取ってくれる人を探していたようだ」
「くぅ……いいやつだぜ、リリー! ……んでも、それと巧と、何の関係があんだよ?」
「俺もよくわからんが。利莉花に拾っていたところを見たって言ったら、じゃあ一緒に会いに行きましょう、と」
「おいおい。そりゃ、フラグ立ってんじゃねーかよ! ビンビンだぜ!」
「フラグ? 何を言ってるんだお前は」
よくわからない用語が飛び出した。対して、関羽は興奮した様子で、俺に説明してくる。
「フラグはフラグだよ! 恋愛フラグ! 気があるってーか、脈ありだろそれ!」
「利莉花が俺に? ないない、それは」
「なんで、んなこと言えんだよ」
「なんでって……友達だしな。利莉花もそう思って誘ってくれてるわけだし」
そう答えると、関羽はポカンとした目をした後、肩を叩いて笑い飛ばした。
「はっはっ! お前、なんもわかってねーな、おい」
「何がだよ」
あと、痛いからさっさとやめろ。力強いんだよ。
「いいか? 普通はな、友達同士でも休日に異性で二人きり、あったりはしないんだよ」
「そうなのか?」
「はぁ……やっぱ、その辺からわかってねーのな」
関羽はやれやれといった様子でため息をつく。……ムカつく。
「まぁ、お前ってロリコンだったもんな。きっとそーゆーのに慣れてねーんだろ」
「? なんのことだ?」
「だから……んー、なんつーのかな。自分に向けられている想いを理解できてねー」
「はぁ? 好きとか言う気持ちってことか? だったら、嫌というほど理解しているぞ。周りには、俺のことが好きなやつがたくさんいるからな」
と言っても、透と唯愛くらいだが。他にも利莉花が伊久留を好きだと言ってるのも近くで見ているし。
「そうじゃなくてだな。隠れた想いっての? それが分かってねーんだよ」
隠れた想い? ……確かに。透も唯愛も、直球でぶつけてくるから、俺もその気持ちをわかっている。好きだと言葉で伝えてきているしな。
「例えばの話だけどよ、もしかしたらお前のことが好きだと思っているやつが、他にもいるかもしんねーだろ?」
……今までに、考えたこともなかったな。俺のことを好きなやつなんて。それは……どうしてだ?
簡単だ。俺が……俺自身の恋が、好きって気持ちが、ずっと一方通行だったから。
俺は小学校のみんなのことを知ってはいるけど、あっちは知らない。そんなところにいたから。俺は、たぶん疎いんだろうな。
俺は、別にそれでよかったんだ。俺が好きだという気持ちと、彼女たちが好きだという気持ちは一致しなくてよかった。
俺の願いは彼女達の幸せだけだから。陰で支えることができればよかった。……でも、もしかしたら俺は――
(間違っていたのかもな)
そんな風に思う。あの、あかりちゃんの時のことを思いだすと。陰でいるんじゃなくて、関わった上で、幸せを望む。それが一番いい。
「わかったぜ、関羽」
「お、そうか?」
「ああ、俺はみんなと幸せを共に歩んで見つけて見せる!」
「……何の話だ?」
「……何の話だっけ?」
首を傾げる関羽に真顔で聞き返した。
「お前のことを好きなやつが他にも居るかもしれねーって話だよ!」
「あー、そうだったな」
忘れていた。それよりもロリコンに戻った後のことを考えていたぞ。
けど、そうだな。唯愛とかみたいな、わかりやすいもの以外は、俺にはわからん。それっぽい行動とかも含めてな。
「まぁどう考えても気づかないだろうな」
「よ~し、だったら少し、教えてやるぜ」
む。関羽に教えられるって何か癪だな。でも、疎いのは事実だし、これから先に、引っ込み思案のさきちゃん(9)が、俺のことを好きになったとして。
さきちゃんじゃ、伝えるなんてことは至難の業だろうし。こっちから気づいてあげないと大変だ。
そうでなくても、他人から他人に対する想いでも、同じように理解してあげることができれば、もっとサポートもできる。
ここは素直に、関羽から教えを受けよう。みんなのためなら、俺のプライドなんて安いものだしな。
「ああ、頼む」
「おっしゃ、レクチャーを始めんぜ! 期待しておけよ? 俺はこのテクニックを利用して、今までいろんな人との関係を築いてきてんだからな! 主に性的に!」
あんまり強調するな。聞こえるぞ。
俺は一旦、視線を利莉花たちのほうに向けてみる。すると、まだ話をしていた。結構長い。夢中になってるようだし、こっちはこっちで話をしていても大丈夫だな。そうして改めて関羽に向く。
「まずは、簡単なところからだ。巧は基本ができてねーだろうからな」
前置きはいいから早く始めろ。
「んじゃ、手始めに、気があるって状態の説明だ。一目ぼれってのを除けば、大体はお前がいいところを相手に見せれば、好感度が上がってそうなる」
「そんなの、誰が相手でも好感度はあがるだろ」
「ああ、そうだ。まずは、その場にいる全員の好感度が上がるようなことでいい。そうやって、相手は自分に興味を持つんだ。すると、少しずつ親しくなっていく。そうすりゃ自ずと、イベントが発生するんだ」
イベントって……。
「相手から自分のことを相談される。悩みとかな」
……相談されたな。リリーの前の学校でのこと。
とすると、この段階は超えているわけか。
「んで、さらに親しくなると、今度はこっちが困っていると助けてくれる」
助けて……もらった……か? 一応、絵夢たちの勉強を見てくれたか。俺、困っていたし。
「そのうち、また悩みが出てくるんだが、その原因がこっちにあるんだ」
名前で呼ぶとか呼ばないとかの時がそうだな。ただ、これは勉強を見て貰うより前だが。
「……まぁ、この辺で一旦止めておくぜ」
微妙なところで止まった……。つーか、なんだこれ。
「一体、この話は何に基づいてるんだ?」
「まぁ、いわゆるギャルゲーとかだな」
ゲームの理論……っていうのはどうなんだ? それに俺は、そういうゲームは好きじゃない。イラストは……いいけど、声が無理だ。
だって、あれって結局はおばさんだし。無理して出しているのがよくわかって、聞いていて辛い。
それに、年相応という言葉があるように、変な声出してるんじゃない。あんなもの、俺からすればデスボイスでしかない。ロリボイスは、本物ででしか出せないんだよ。
さて、話がそれたけど、そのゲームの理論で、この関羽は色々と成功しているってことだよな。それで、エロシーンに……。
「分かりづらいから、お前に例えて話してくれ」
「お? いいのか? 俺は話し出したら止まんねーぜ? どこまでだって行くぜ!?」
「じゃあ、紀美恵さんとどうやって知り合っていったか、教えてくれよ」
「えっ……」
俺がそう言うと、関羽は顔を引きつらせて、動きを止める。
「どうしたんだよ? 早く話せよ。時間がかかるんだろ?」
「あ、いや……ははは……」
関羽は苦笑する。
「そ、そうだ! 俺、ちょっと中庭のほう見てこよーかな~」
「あ、おい」
そうして関羽はリビングから出て行った。
逃げやがった……。ったく。結構自然な流れで聞けたと思ったんだけどな。いつもと違う関羽の様子。それを探ろうとしたけど失敗したか。
(そっちのほうこそ、人に言えないようなことなのかよ)
俺は言ったっていうのに。
「どうかしたの?」
「え?」
その声に驚いて、目を向ける。
すると、そこには不思議そうな顔で俺を見つめる利莉花がいた。