9-4 邪魔者関羽
「どうしてお前がいるんだよ、関羽……」
利莉花に連れられて向かったその家につき、発した俺の第一声がそれだった。
そいつはなぜか、玄関から見えた中庭にいた。
「あれ? 巧に、リリー? そっちこそどうして……」
俺の言葉に、視線を向けて疑問に思って関羽は聞き返してくる。
そんな関羽に、俺は心から湧き起こるその気持ちをそのまま言葉にした。
「とりあえず、死んどけ、アホ」
「はぁ!? なんでいきなりお前に罵倒されなきゃなんねーんだよ!」
折角、利莉花と二人きりという貴重な機会で、それにすごくいい雰囲気だったのに。
お前のせいで台無しだ。最低なやつめ。あ、そういえば思い出したぞ。
「おい、関羽まずは殴らせろ」
「だから、なんでいきなりお前に殴られたりしなきゃなんねーんだって!」
「次にあったら、殴るって決めてたんだよ。いいから大人しく殴られろ。男らしくな」
「意味もわからずに殴られるやつは、男じゃねーだろ! 馬鹿だろそいつは!」
「だったら尚更だろ。お前馬鹿だし」
「あぁ!? てめー! いい加減しろよ!」
ふぅ……まぁ少しは気も晴れた。このくらいで勘弁してやろう。利莉花の件はな。
利莉花は俺と関羽のやり取りに苦笑いしながら、たずねる。
「それで、関羽さんはどうしてここにいるんですか?」
あ、利莉花が敬語に戻ってしまった。そうか関羽がいるからな。ため口で話す利莉花はまだまだ貴重なんだぞ。条件が条件だし。
まぁ、現状俺以外の前では見せてほしくない姿だから、関羽の前で出してないのはいいけど。だったらこいつがいなければいいだけの話だ。やっぱり邪魔だな。関羽。
「俺は、紀美恵さん(36)のところに来ただけだぜ」
なるほど、いつもの行動と同じか。けど――
「へーお前にしては若いな」
関羽ってもう少し上で40代くらいからが、ストライクだったはずだけど。まぁ、俺からすれば、みんな等しくおばさんだけど。
「ふ、俺はぐちゅぐちゅに熟れた果実も好きだが、熟れ始めも大好物だぜ?」
「へー……」
「なんつーかな。見守る喜びっつーか、自分が育てあげる喜びっつーか、この年にはこの年ならでは、楽しみかたってもんがあるんだぜ?」
「あー……」
興味なさそうに、返事をする。というか、興味ない。
ただその言い分だと、何歳のやつが相手でも当てはめれるよな。つまり、20代や10代のやつ相手にも、そのうち……。そこまで行ったら、変態に磨きがかかってもう誰にも止めらないな。
「ところで、利莉花。その紀美恵さんとやらは、独身なのか?」
「いえ、小学生の子供と中学生の子供が一人ずつ、いたはずですが」
「何!? 小学生だと!」
「まぁ、そう反応されましても、今日は私たちは以外の学生は普通に登校日ですから、いませんよ?」
は、そうだった。てか、思わず反応したけど、会えなくて逆によかったんだった。ロリコンに戻るよりも先に、会わないって決めてたんだから。……既に二回も破ったけどね! 三度目の正直だから!
「てか、また人妻かよ。お前、NTRはやめろとあれほど……」
「おい、だから寝取ってねーってば! ただ、日頃のストレス発散に付き合ってあげてるだけだ! 主に性的にではあるが!」
それがまずいんだろうに。
「大体、今日は本当にそーゆ―んじゃねーんだよ」
関羽は少しトーンを落として、呟くように言った。
俺はその言葉に疑問に思い、聞こうとしたところで、玄関の扉が開いた。
「あ、利莉花ちゃん? こんにちは」
「はい、こんにちは」
利莉花は挨拶をする。どうやら、この人が紀美恵さんらしいな。見た感じ、人が良さそうだし、利莉花が猫を任せたのも何となくわかる。優しそうな人で、俺のほうもちょっと安心した。
紀美恵さんは俺を見ると、利莉花に尋ねる。
「えっと……そちらは?」
「あ、私の友達です。猫の世話をしていた時にも手伝ってもらってて」
「どうも。島抜巧人です」
紹介されてお辞儀をする。まぁ、手伝いなんて何もしてないけど、そこを否定していたら話が進まないし、余計なことは言わないでおこう。
「そうなんですか。私は綺羅瀬紀美恵といいます」
「まぁ、こんところでは何ですから、一度中に入りましょう」
「そうですね、関羽さん。ではどうぞ上がってください」
関羽に促され、紀美恵さんは俺たちを家に中に招く。
……なんだこの関羽。違和感バリバリだぞ。
確かに、おばさんと話してる時はこんな感じだったけど……気遣いができるやつだなんて……そんなのもう関羽じゃねーよ。こいつは空気が読めないおちゃらけたキャラだろ。どうした関羽。無理してるのか? それとも頭でもぶったか? それにさっきの言葉も気になるし……。後で聞いてみるか。
俺は関羽への疑問をさらに強めた状態のまま、中に入っていった。
*****
「わー……久しぶりだね、ネコさん!」
案内されてリビングに入ったところで、猫を見つけて利莉花はさっと寄って行った。そうして、嬉しそうに背中を撫でまわしていた。猫のほうも特に嫌がる様子もなく、されるがままに任せていた。
それを見ていると、なんていうかほっこりとしてきた。微笑ましいなぁ……。この光景を眺めながら、あったかいお茶をずずっとすすりたい。そんなおじさんくさいことをやりたくなってくるほどだ。
「この子の名前ってどうされたんですか?」
「ミリーっていうの。娘がつけたのよ」
「へぇ……ミリーちゃ~ん」
利莉花は名前を呼びながら、また背中を撫でまわす。というかメスだったのか。いや、オスでもちゃんとか言う人もいるか。まぁでも、今回はたぶんメスだな。
「そう言えば、娘さんたちはどうですか?」
「どっちも元気にしてるわ。下の子なんて、家に帰ってくるとずっとミリーと遊んでいるわ」
「そうですか。ちゃんと喜んでもらえているようでよかったです。ミリーちゃんもよかったね~」
そんな風に、利莉花と紀美恵さんは色々と話をしていく。それを離れた場所から眺めていると、関羽が話しかけてきた。
「んで、なんで巧はリリーと一緒に居んだ?」
「それより、あれいいのか? 紀美恵さんは放っておいて」
「はっ! 何言うんだよ。あの中に入って、邪魔するわけにはいかねーだろ」
「でも、相手は利莉花だぞ? 百合だぞ?」
「あ……。え、リリーってそんな上のほうまで大丈夫なのか?」
「さぁ? 知らないけど」
首を振った後、利莉花に視線を向けてみる。
「……やべーな。さっきまでは微笑ましく見えてたってーのに、突然百合っぽく感じてきやがった」
「そうか」
俺には普通に、微笑ましいままだが。普通に冗談だし。
「ま……まぁ、俺は別に気にしねーけどな! 元々相手のこと考えたうえでの関係だし!」
何を一人で強がってるんだ。馬鹿か? いや、馬鹿だったな。
「ふぅ……で、なんで二人でいたんだよ?」
っち、忘れてなかったか。
「関羽には言いたくないな」
「はぁ? なんでだよ?」
「だってお前って口軽いし」
「おいおい。つーことは、他人に言ってほしくねー内容ってことか?」
怪しんだ視線を向けてくる。ちょっとにやついているところがまたウザったい。
「少なくとも、透とかには聞かせられないだろ? 休日に二人きりなんて」
「あ~……まぁな。峰内にんなものを聞かれたら、俺も~って、なるんだろうな」
「ああ。というわけで、知りたいなら最低でも透に言わないと約束できるならいいだろう」
「その程度でいいなら、全然約束するぜ! 早く話せよ!」
そう言って関羽は急かしてくる。こいつって、なんでも気になるタイプだよな。前も、仕方なく教えてやったことってあるし。
まぁ、それはいい。話すならさっさと話すか。じゃないとうるさそうだし。