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一年生 5月―1

 教室。周りでざわめく声が聞こえる。

 まぁ、当り前だろう。今は休み時間。友人同士で話をするのが普通ってものだ。

 それに、5月も中盤に差し掛かり、部活で本入部したやつらが親交を深めて、他のクラスから来ているやつらもいたりする。


 とにかく、何が言いたいのかというと、うるさい。特にクラスで一人いる俺は、この状況があまりよろしくないのだ。何もすることもないし。


 俺だって、同じ部のやつはいる。つーか、真後ろの席にいる。承全寺伊久留――現代文化研究部の部長で、4月に出会った俺のこの学校でできた初めての友人。

 そう、普通ならここで話をしたりするものなのだろう。だが、伊久留はそう言うやつではない。


 俺は横目に後ろを見る。伊久留はいつもながらの半目で読書していた。目線は本に向き、その関係上、下にある。教室では常にこの状態なのだ。話しかける気にもならない。

 伊久留はいいだろう。本を読んでいるから。だが、俺には何もない。読書もそんなに好きではないし。やれることと言ったら寝るくらいか?


「ねぇ……島抜君……だよね?」


 そうしていると、誰か男の声で呼びかけられた。俺はそいつに視線を向けると、「ああ」と返事をする。そして尋ねた。


「何か用か?」

「ううん、特別これと言ってはないけど、ちょっとね」


 そいつは、空いていた俺の隣の席に座る。

 しかし……なんというか、普通だ。ビジュアル面で。いや、俺が言えたことではないんだがな。

 短髪の黒髪に、どこにでもいそうな顔。身長も平均より少し低いくらいで、特にこれといった特徴もない。


 例えば、伊久留なら、高校生とは思えない背の低さ。さらに、長く美しい白の髪。ジト目。結構特徴が出ている。だから、伊久留に話しかけられたとき、どうにか思い出すことができたのだが、今回はとてもじゃないが思い出せそうにはないな。

 俺は正直に聞くことにした。


「ところでお前は誰だ?」

「あ、ごめん言わないとわからないよね」


 いや、忘れている俺のほうが悪いんだと思うが。


「俺は中岡大輝、クラスメイトだよ」

「そうか、じゃあ俺も一応。島抜巧人だ。……で? そのちょっとってのは何なんだ?」


 簡単に自己紹介を終えて、早速本題に入る。


「うん。本当に大したことじゃなくてさ。ただ話をしたいと思ったんだ」

「何でだ?」

「だって、折角一緒のクラスになれたんだし、仲良くやっていきたいでしょ?」


 なるほど。そう言う考えか。分からなくもない。俺だって友人はほしいからな。

 だが、不用意に増やすのも、中学の二の舞になりそうで嫌だ。特に、こいつのさっきの一言からして、俺の苦手とする部類と考えてもいい。


 どうするか……。断ってもいいが、相手に悪いというのもあるし、俺の心証が悪くなるのも避けたいな。せめて普通でいたい。


 ……うん。まぁ、いいだろう。中岡には友人がたくさんいるわけだし。そこまで俺と関わっては来ないはずだ。関わるとすれば、俺に何らかの興味がわいたとき。つまり、目立たないようにすればいいだけだ。

 俺は中岡にぎこちなく返事をする。


「ああ、まぁよろしくな。中岡」

「こっちこそよろしく。あと大輝でいいからね」


 中岡……大輝は微笑を浮かべる。


「それじゃまたあとで話そう」


 そう言って、大輝は立ち上がると、俺から離れ、他の数人の人物の集まりへと向かっていった。

 ……予想よりは何もなかったな。正直拍子抜けだ。少し、気を張り過ぎていたか?

 俺はそんなことを考えつつ、休み時間が終わるまで、教室で何をしているべきかのほうへも考えを巡らせていた。


*****


 昼休みになり、いつも通り自分の席で食事をしていた。しかし、今回いつもとは違うことが数点ある。

 まず一つ目。


「巧人って何の部に入ったの?」


 大輝がいること。

 俺が食事していたら、大輝がどこからともなくやってきて、俺の目の前の席に腰を据えた。確かに後で話そうとか言っていたが、この時間を使うとはな。普通、友人と食べるものじゃないのか? いや、俺もなったけど。特に仲の良い友人たちと集まってが基本なんじゃないのか? 結構重要な時間だと思うのだが……。

 かといって、それを聞くのもどうかと思い、口には出さない。代わりに、大輝の質問の返答をする。


「現代文化研究部」

「え? それって実質帰宅部って言う?」

「ああ」

「ふ~ん……巧人は何かやりたい部活ってなかったの?」

「特には」


 適当に答えつつ、食事を進める。しかし、こいつは食わないのか? さっきから俺に質問してきて、目の前にあるパンの袋は封も切られていない。昼休みが終わっても知らないぞ。


「承全寺さんは? 部活、何に入ったの?」


 大輝は俺の隣の席に座る伊久留にそう質問する。

 これがいつもと違うことの二つ目。伊久留ともなぜか一緒に食事している。いつもお互い別々だったのだが、何故だろうか。まぁ、席の位置で言えば、俺の後ろから右になっただけなんだけど。


「現代文化研究部」

「え? 承全寺さんもなの?」

「それに部長」

「一年生で!?」

「巧人は副部長」

「へぇ~……二人ともすごいんだね……」


 なぜか、感心された。別にどこもすごいところはないんだけどな……。俺なんてある意味肩書きだけだ。


「でも、部長に副部長ってことは、何か活動はしているの?」

「特にこれといってはしてないな」


 というか、こっちが聞きたい。現代文化研究部の活動が何なのかを。


「伊久留は個人的に使える部室がほしかっただけ」


 伊久留が平然とそう言い退ける。

 そうなんだよなぁ……。伊久留はそう言う理由で現代文化研究部に入ったんだし。そして活動は『駄弁る』だからな。どんな部だよ。そして、それだと内容が書けない。


 実は最近知ったことなのだが、活動報告を生徒会に出さないといけないのだ。それも、活動した日は何をしたのかすべて書いて。

 過去の記録は生徒会が全部保管しているようだし、どれくらいちゃんと活動報告を見られるのかもわからない以上、適当にすることもできない。


 現状だと、火曜と木曜の週二回の活動になっているのだが、それでも毎日ただ駄弁るだけの部で、何を活動したことを書けるというのか。今日の本入部後、第一回部活がどうなるのか、気になるところだ。

 大輝はというと、さすがに伊久留のその言葉に苦笑いを浮かべていた。


「そういうお前は、何の部に入ったんだよ」


 俺たちだけ聞かれるというのもなんだか不公平だと思ったので、そこまで興味はないが聞いてみる。


「俺はサッカー部。中学時代からやってきててね、好きなんだ」


 見た目も普通なら、部活やその入部動機も普通とは……。まるで普通の代名詞だな。まぁ、目的もなくただ過ごす人間と比べれば、全然いいわけだが。


「それよりさ――」


 そうして大輝が質問してそれに答えるという流れが続いたのだった。


*****


 さて、放課後になった。部室へと向かうとしますか。

 俺は一緒にいこうと伊久留に声をかけ――ってもういない!? はや……。

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