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7-5 きょうだい事情と巧人の力と昨日の行動

 定位置へと座り直したところで関羽が一息をつく。


「ふぅ……やっぱこの位置が一番落ち着くぜ。……で、巧? さっきは聞き流したけどよ、お前姉なんていたのかよ、初耳だぜ?」

「あ、それは私も知りませんでした」


 ああ、そうか。透に話したときには、利莉花も関羽もいなかったんだったな。


「悪かったな。でも、あんな姉、誰にも紹介したくなかっただけだ」

「ひでーいいようだな、おい」

「ダメですよ、自分のお姉さんを悪く言うなんて」


 二人はなにやら不満ありげに言ってくるが、絵夢は事情を知っているだけに、少し苦笑い。


「透の妹とも会う約束してるわけだしよ、お前の姉にも会わせろよな!」

「そのうちな」


 俺は適当にそう返す。紹介したくないってのもあるが、あいつは生徒会とかで忙しいし、そうでなくても高校三年生。受験を控えた身である。それが終わるまではできれば邪魔はしたくないな。


「んで? まだこん中に、兄弟いるやつっていんの?」


 関羽が尋ねると、利莉花が小さく手を上げる。


「はい、私も一人、妹がいますね」


 なん……だと……? 妹……だと?

 何故だ……何故俺だけ姉なんだ……。


「へぇ~……リリーって妹いたんだ~。今何年生?」

「中学三年生ですね」

「じゃあ受験か~大変そうだね~」

「はい、だからあんまり邪魔はしたくないので、会わせることはできないと思います」


 くそ、利莉花……お前に対して殺意が湧いたのは、これが初めてだ。恋をしている相手に殺意を抱くとは……これがヤンデレってやつか? いや、違うな。殺意の理由とデレの理由が違っている。いやまず、デレがないけどな!


「ただ、この学校を受けると言っていたので、来年になったら会えると思いますよ」

「へぇ~じゃあ来年が楽しみだね~。今は六月だから、まだまだ先だけど」

「ところで、利莉花。まさかとは思うが……その妹ってシスコンじゃないよな?」


 俺の問いかけに、微妙な顔をした後、渇いた笑いをする。


「あはは……その通りです」


 おいおい。間近に兄弟愛(違う意味で)を感じているやつらが三人もいたぞ。

 そして、俺だけ姉からのもの……ジェラシー!


「と、ところで! 巧人君は透さんの妹さんにあって何かしたいことってあるんですか?」


 利莉花が少し強引に話を変える。たぶん、利莉花の妹も相当の変り種なのだろう。俺も聞いていると、少し自分の境遇に悲しみを感じてくるので利莉花の話に乗ることにした。


「特にないが……しいて言うなら、話を聞くだな」

「それはどういうことですか?」

「別に、『君のことを聞かせてくれないか?』程度に」

「え? それだけなの? もっと、身長とか、体重とか、好きな食べ物とか聞いてくんだと思ってたよ」

「いや、だって、それは本気出せばわかる」


 俺がそう答えると、場の空気が一瞬固まる。


「……何故、距離を取る。絵夢」

「いや、ヌッキー……さすがにそれはドン引きだよ……」

「おぉ……巧そこまで行ってんのかよ、お前」

「確かに凄いってことを通り越してますよね」

「巧人、急激に紗弥に会わせたくなくなったんだが」

「なんだよ、俺は匂いで人を判別とかはできないぞ。マシだろ」

「どんな基準か、全然わかんないよ~」


 あれ? 匂いで人を判別することが一番あれなんじゃないのか? 伊久留と唯愛、それにたぶん、透も。それができるから、俺は比べたらマシなんじゃ……。


「というか、だとすると私の体重とかわかってるってこと!? ヌッキーの変態!」

「いや、これが使えるのは十二歳までだ。安心しろ」


 お前の体重なんて知りたいとも思わないし。


「それに、さっきも言ったように、本気を出せば、だからな。普通に使わねーよ」


 年齢ならもう、その人の頭の上に載ってるレベルだけど。


「えー……じゃあさ、それってどんなことが分かるの?」

「え? 身長、体重、スリーサイズ、血液型、それに精神状態、基礎代謝。運動量とか。

 それだけでなく、好きな食べ物や嫌いな食べもの、朝食に食べたものだってわかる。他にも趣味とか、誕生日も何時何分何秒で特定できるな」

「ヌッキー! それはやっぱりやばいよ! 個人情報も何もあったもんじゃないよ!」


 いや、でもこういう能力……って、これ本当に『念』のレベルだな。ビノー○トかよ。


「それと、ビ○ールトさん以上に使い勝手良すぎるよ! どんな制約したらそうなるの!」


 ああ、絵夢も俺と同じことを考えたか。しかし、俺と絵夢にしか分からない話で、全員が「ビノ〇ルト? なにそれおいしいの?」みたいな顔で固まっていた。


「とにかく、大丈夫だって。基本的に使わないんだから……で? さやちゃんはヤンデレとかいったけど、実際どんな感じなんだ? 詳しく話してくれよ」


 俺も利莉花がやった時と同じように、強引に話を変えた。


「詳しくと言われても……そうだな、俺が親と話すことも嫌がるレベルだな」


 マズすぎだろ。


「流石に俺も、これはどうかと思っているんだがな、どうにかしてほしいものだ」

「任せろ! この俺が、ブラコンなんてダメだ! って更生させてやる!」

「……本当に、そうなってくれたらいいんだがな」


 っち。その物言い。治せるもんなら治してみろってか? 余裕のあるやつだぜ。

 まぁ、いい。それは今度会ったときに、ゆっくりと時間をかけてやればいいだけだ。

 今はまた、別の話でもしよう。


「そういや、透。昨日尾行していたが、お前の行動でよくわからないところがあったんだが」

「どこがだ?」

「まず、本屋に入ったと思ったら、道を逆走してコンビニへ。その後同じ道を通って、帰っていった。どういうことだ?」

「ああ、あれは本屋にいる時に、親からメールがあってな。今日は遅くなるから、適当に食事をとって置いてと。それで、急遽コンビニで買うことにしたんだ」


 なるほどな。


「しかもそのおかげで、俺の買いたかった本は、買えなくなったんだよ」


 一体どんなBLだ。……って、あれ?


「でも確か、何かは買ってたよな?」


 出てきた透が、本の袋を入れるシーンを、俺は目撃している。


「ああ、買ったのは紗弥に頼まれていた本だな。俺はよく知らないが」


 年齢的に考えて、普通に少女漫画だろうな。しかも、兄妹もの。

 けど最近は規制が厳しくて、実の兄妹とか書れてないと思うんだがな。一体どんな本だったんだ?

 俺はそれを考える前に、一度時計を見た。すると、結構な時間が経っていて、いつもの部活の日の解散時間と、ほぼ同じ時刻になっていた。

 他のみんなもそれに気づき、帰る準備を始めた。


「集まる日だか……正確な日時は、後でメールで送ろう」


 それが一番だろうな。会わせるなら、さやちゃんのほうにも一度、話を通しておかないといけないし。

 透の言葉に、帰る支度をしつつ、そう考える。


「あ、ではアドレス交換しましょう」


(なに!?)


 利莉花のその言葉に、今度は手を止める。視線も利莉花へと向いた。


「そう言えば、まだ白瀬のアドレスは知らなかったか」

「あ、私も、リリーとは交換してなかったよね? しよ~」

「俺も俺も!」


(なんてことだ……これでついに、全員が利莉花のアドレスを……べ、別に、悲しくなんてないんだからね!?)


 俺は心の中でそう否定する。そうしている間にも、利莉花たちは着々と交換を済ませた。


「じゃあな、あんまり遅くなると紗弥がうるさいんでな」


 そう言って、透は一番先に帰っていった。残った俺たちも、後を続くように一人一人、部室を出ていく。

 そして誰もいなくな――いや、伊久留だけは俺が帰った後も残っていた。

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