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7-4 じじょーちょーしゅ!

 次の日。今日は透に、昨日のことを、色々と尋問する日だ。

 尋問なんてやったことないからな、今から楽しみだ。まぁ、あんなかわいこちゃんを隠していたことへの怒りのほうが強いが。


 そんなことを考えつつ、放課後になる。


「ついにこのときがきたぜ……」

「長く、険しい旅だったよ……」

「……あいつらどうしたんだ?」

「ああ、なんでも今日の事情聴取が楽しみ過ぎて、それを透さんにばれないように抑えるのが、大変だったらしいです」


 俺たちは部室に集まると(伊久留も含めて)、そんな会話をした。

 今日は部活ではないが、昼休みのうちに部室に来るように伝えた。ただ、先に来られると厄介だったので、時間は少し遅めに設定した。

 全員集まったことだし、その約束の時間が来るまで、待っていることになるな。


 しかし、最近は活動日以外も頻繁に集まっているな。いや、俺は小学生を守るという役割がなくなり、暇になったからな。それもあるか。

 俺の中でどれだけLSPとして活動が大きかったのか、再認識した。

 そうしてしばらくして透がやってきた。


「? なんだ、巧人だけじゃなくて全員いたのか」


 透は露骨に残念そうな顔をする。当たり前だろ。誰がお前と二人きりで合おうとなんて思うか。


「きたね! とおるん! さぁ! そこに座って!」


 そう絵夢が言うと、透は指のさされた場所に目を向ける。そこにはいつもと違い、四つの机と椅子がくっつけられているのではなく、一つの机に対面するように三つの机が距離を隔てて並べられていた。

 絵夢が指をさしたのは、その一つの机のほうだ。


「あー……どういうことだ?」

「いいから座れよ、峰内!」


 戸惑いを隠せない透だが、関羽に急かされ、とりあえずといった様子で座った。


「それで、どういうことか説明してもらいたいんだが」


 透は前に立つ俺と関羽、絵夢に訝しげな視線を向ける。

 透の質問に対し、俺も質問で返した。


「説明してもらいたいのはこっちのほうだな」

「どういうことだ?」

「これを見ろ」


 そう言って、自分のケータイの画面を見せる。そこには、俺が昨日透を尾行した時に取った(厳密には絵夢が取った)動画があった。

 実はあれ、録画機能もついていたのだ。


「ふふふ……昨日はとおるんのこと! つけさせてもらったよ!」

「何も気づかずに帰っていくお前は、ある意味滑稽だったぜ!」

「お前たち……何をやってるんだよ」


 透は馬鹿なやつを見る目をして、ため息を吐く。


「でも、それで合点がいったな。昨日、お前たちがいつもよりも早めに切り上げたわけと、白瀬が関羽を連れ出した時の、違和感が」


 やっぱり、関羽。何かミスをしたな。透は結構鋭いし、諦めてたからいいが。


「だが、巧人が俺のことをつけてくれていたと思うと、少し嬉しいな」


 やめろ、そんなキモイ顔で俺を見るな。


「それで? お前たちが俺のことをつけてきたのは分かったが……それで何を説明しろと?」

「あせるな、最後まで見ればわかる」


 そう言って、動画を最後のほうまで飛ばす。

 そこには、さやちゃんが透に抱き付くシーンが写っていた。

 それを見て、透は納得したように頷く。


「なるほど……紗弥のことか」

「ああ、そうだ、早く説明してもらおうか! 何故今まで隠していたのかをな!」

「いや、別に隠していたわけではないが……巧人だって唯愛お義姉さんのことを俺に話してはくれなかっただろう? それと同じだ」

「いいや、違うな。お前は俺のことをロリコンだとわかっていた。それなのに、紹介しなかったのは明らかにおかしい!」

「すげーぜ……! 巧が峰内を押していやがる! 攻めの姿勢だ! ガンガンだぜ!」


 何言ってんだ、関羽。

 俺は透に詰め寄り、机をバン! っと叩く。


「さぁ……というわけで、さやちゃんのこと……きっちり紹介してもらおうか?」

「…………」


 透はただ黙り、渋った顔をする。

 そうしていると、今度は関羽が俺の左側から、やってきて机を叩く。


「おいおい、このまま黙ってやり過ごそうってか? そうは問屋がおろさねーぜ?」


 そう言うと、机の横にかかっていた透の鞄からケータイを取り出す。


「おっと……ロックが掛ってんのか。四桁の数字ねぇ」

「貸せ、どうせ俺の誕生日とかだ」


 関羽は何がしたいのか分からないが、とりあえず自分の誕生日を入力してみる。すると本当に開いた。 ……気持ち悪!

 俺は関羽にロックを外したケータイを渡す。


「へ……俺は知ってんだぜ? お前がこん中に巧の画像や動画を入れてることはな」


 マジかよ。動画もあったのか。


「……それをどうするつもりだ?」

「もちろん消すに決まってんだろ? まぁ、正直に話すっつーんなら考えるけどよ」

「家にバックアップがあると言ってもか?」


 関羽は透の言葉に「ああ、確かに……」って顔をする。詰めが甘いぞ。

 そこに利莉花がフォローするように入ってくる。


「それはないんじゃないでしょうか。もし、本当にバックアップを取っているなら、透さんにはもっと、余裕があるはずですから」


 それを聞いて、関羽は「おお、なるほど」と声に出した。おいおい。


「で? まだとぼけんのかよ。こんだけのネタがあがってんだぜ?」

「確かにな……折角、承全寺からもらった、その画像や動画も失いたくはない」


 なんだと? あれって伊久留が渡していたのかよ!

 透の言葉に思わず、伊久留を見る。伊久留は透の言葉なんて気にせず、定位置で読書していた。


「それで? どうしてとおるんは、頑なに言おうとしなかったの?」


 絵夢がそう尋ねた。俺も何も話す気のない伊久留を見ていてもしょうがないので、透に視線を戻す。それと距離が近かったため、一歩離れた。

 関羽も、透が話してくれる気になったため、ケータイを机の上に置いて、一歩離れた。


「実はな、俺の妹……紗弥っていうんだが」


 知ってる。さっき聞いてたし、尾行中にもばっちり聞いた。


「その紗弥はな――異常なまでのブラコンなんだ」


『…………』


 透の爆弾発言に、その場にいたもの全員が静まり返る。だがその理由は、俺と他のみんなでは違っているだろう。

 絵夢は、沈黙の後、答える。


「いや、知ってるよ?」

「え?」

「そりゃ、実際に俺らは妹見てんしよ」

「あれを見れば、それはブラコンだってことくらいはわかりますよ」

「あー……そうか」


 透は納得しつつも、少し食い違っているといった顔をする。


「いや、そういうことではなくてだな――」


 透が何やら話そうとするところで、俺は言い放った。


「透、氏ね」

「……巧人?」


 透は、俺の言葉に不安そうに目を向けてくる。


 確かにさ~『お兄ちゃん大好き!』とか言ってたけどさぁ~。それはないんじゃないでしょうかねぇ~。


「透、氏ね」


 俺はもう一度、そう答える。


「俺は認めないぞ! お前にブラコンの妹がいるなんて!」


 だって、これはもう俺への当て付けだろ。

 俺、ブラコンの姉。

 透、ブラコンの妹。

 ずるい、俺と交換しろ。


「そう言われてもな……」

「よ~し! とりあえず、会わせろ! さやちゃんに会わせろ! 話はそれからだ!」

「会わせられないことないんだが……その……な」

「何だよ、それ。さやちゃんのことは独り占めしたいってか? はっ! いいご身分だこって」

「いや、だから……」

「それが続きの話なんでしょ! 話聞こうよ、ヌッキー!」


 絵夢に怒られた。ちょっとびっくり。ただ少しだけ冷静になった。

 俺は透を見て、話をするのを待った。

 透は一度ため息を吐くと、話を始めた。


「さっきも言ったように、紗弥は異常なまでのブラコンだ。その異常さはたぶん、この中にいる全員を群を抜いていると言っても過言ではない」

「具体性に欠けるな。もっと、ちゃんと説明してくれ」

「一言で言うなら、いわゆる、ヤンデレってのに近いと思う」


 ヤンデレ……それって――


『ダメだよぉ~あんなやつと仲良くしちゃ。君の目が腐っちゃう』


『え? 最近ルオのこと見ないって? どうしたの? そんなにあいつが気になるの? あんなやつ、どうでもいいじゃない。君には関係ないよ』


『え? 何? ルオが死んだ? へぇ~よかったね。これで君に言い寄る害虫はいなくなったよ。これからは安心して暮らしていけるね……え? 何が? 私がやったんだろうって? あは♪ すごいね! 以心伝心ってやつかな? 私たち相性いいみたいだね。……うん、そうだよ。当たり前でしょ? 君の迷惑になる存在なんてこの世にはいらないもんね』


『どうして? どうして、逃げるの? 私はこんなにも、君のことが好きなのに。だから私は、君が危険にさらされないように、この家の中に閉じ込めてるんだよ? それは……私も少しは心苦しいけど。でも、外の世界なんて必要ないんだよ。どうして、それがわからないの? どうして、君は、そんな不必要なことばかり望むの?』


『どうして食べないの? 食べないと死んじゃうよ? 嫌だよ、私。君のいないこの世界なんて、もう意味ないもん。……そうだよね。こんな、しがらみだらけの世界で生きていくなんて辛いもんね……じゃあ二人だけで過ごせる世界に逝こう……ね?』


 ってやつだよな? なんか妙に長かったけど、こんな感じで相違ないはずだ。

 とすると、あのさやちゃんはこんな……うお、こえぇ……。

 周りを見てみると、みんなもなんだが顔を青くしている。


「お前らがどこまでの想像したかは知らないが、とにかくそんな妹と友人を会わせようと思えなかったんだよ。だから、話そうとも思わなかった。……これでいいか?」


 透はそう言って話をやめる。

 確かに、透の言い分は分かった。俺も怖いと思ったし、ルオの二の舞にはなりたくない。だけど――


「俺は会いたいな、お前の妹に」


 透は、驚いた顔をして俺を見つめてくる。

 だが、それは透だけ。他のみんなは俺に同調するように、答える。


「そうですね……私も会いたいです」

「うん、とおるんの妹可愛かったしね~」

「俺はどっちでもいいけどよ、みんながそう言うんなら、会いたいって思うぜ?」

「……どうしてだ? お前たちは、さっきのことを聞いてそれでも何故、会いたいと思う?」

「簡単だな、そんなの」


 そこで一旦話すのをやめて、利莉花、絵夢、関羽と視線を交わす。

 そして――


「友達だから。それじゃダメか?」


 透に目を向けて、そう言った。けど、透はそれでも顔を曇らせる。


「だが、紗弥がお前たちに迷惑かけるのは……」

「それはもう、会いたいと言った俺たちの自業自得だし、それとも何か? お前は、俺たちのことを妹に紹介できないほど、嫌な人間なのか?」

「そんなことはないが……」

「ならいいだろ? それに大丈夫だ、俺ん家の姉だって似たようなもんだ」


 特に昨日の夜は、結構まずかったし。もしかして、あれもヤンデレの一つなんじゃね?

 透は少し考え込んだ後、


「……わかった」


 と言った。そして「だが」と続ける。


「今までに紗弥に友人を会わせたことがない。だから、どういった反応がするか分からないが、そこは覚悟してくれよ」

「んなもん、大丈夫だって!」

「私も」

「私もです」

「もちろん、俺もな」

「伊久留ちゃんはどうですか?」


 利莉花が声をかけると、伊久留も頷き返す。伊久留も意外に聞いてたんだな。


「それで、会う日だが……今週末でいいか?」

「おう! 今から楽しみだぜ!」

「私も~。でも、できれば想像よりは普通の人間でいてほしいかも」


 関羽と絵夢は、いつものテンション高い会話を始める。


「それでは、透さんの事情聴取は一旦終了ということで」


 そう言うと、利莉花はてきぱきと、机と椅子を元通りに戻していく。

 そして、それぞれがいつもの定位置に座った。

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