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7-3 帰宅後……。

「はぁ~……やっと着いた~」


 絵夢は改札を出ると、そう言って背伸びをする。俺も肩こりしそうだった。

 正直、俺は透の尾行よりも、今回の電車の中のほうが疲れた。その様子を感じ取ってか、利莉花は申し訳なさそうに謝ってくる。


「さっきはすみません、巧人君」

「いや、もういいから」



~~回想~~


『う……ん』

『あ、起きたか、利莉花。もうすぐで駅に着くところだから、今起こそうと思ってたんだ』

『ふぇ? …………。……………………は!? ご、ごめん!』

 利莉花は顔を赤くして離れる。

『ほんとごめん! 私疲れちゃってて、気づいたら寝てて……知らないうちに巧人君に寄りかかってて……! ……迷惑だったよね?』

『いや、そんなことはない……ぞ?』

『うぅ……恥ずかしい』


~~回想終わり~~


 いや~、顔を少し赤くして謝る姿や、その慌てた反応に恥ずかしそうな仕草。どれもとっても、とてもかわい――


(カワイルカ!)


 説明しよう。カワイルカとは――って今度はしないぞ!


「ん――ってあれ? 完熟は?」

「あいつは、あのおばさんたちとそのまま電車に乗ってった」

「うわー……完熟らしー」

「ああ、駅に着いたにも関わらず、それに気づかないで話を続けていたぞ」

「うん。私が最初に思った理由とちょっと違うけど、やっぱり完熟らしいね」


 そんな話をしながら、俺たちは帰路についた。


*****


 家につく。そして、すぐに嫌な予感がした。俺は玄関の前に立ち止まり、中に入るかどうか、考える。


 俺の第六感が叫んでいる。『ニゲロ、ココハキケンダ』と。


 ……よし。大輝の家に行こう。

 俺は踵を返し、ここから離れようとする。が、しかし遅かった。


「たっくん!」


 玄関の扉が開き、唯愛が抱きついてきた。やはり俺の第六感は正しかったか。

 俺は帰るのが遅くなるとメールした。だから、それだけで予想できることがいくつかある。


 メールをされて嬉しい唯愛。

 その後、内容に驚き、メールを返す唯愛。

 しかし、何件送っても返事はなく、それどころか存在しないものになっている。心配する唯愛。

 これはもう、事件に巻き込まれた? と考え始める唯愛。

 警察に電話しようとする唯愛。

 けれど、自分の勘違いだったら? と考え込み、そのせいでたっくんに迷惑がかかるのは……となる唯愛。

 ううん、それでも、たっくんの安全に比べたら安いもの! それで私のことが嫌われても、たっくんが無事であることが最優先! とか思い始める唯愛。

 で、俺が玄関に立つ。唯愛が気づく。←今ここ。


 俺がメールしたタイミングから逆算すると、こんな感じだろう。というか、こう予想してあの時間でのメールだし。


「はぁ~……よかったよ。たっくん、戻ってきてくれたんだね」

「そりゃ、ここが俺の家だからな」


 それなのにどうしてそんな、十年くらい離れ離れになっていた恋人と再会したみたいな顔してんだよ。


「でも、たっくんはどうして背中を向けていたの?」

「それは、今から大輝の家に行こうと思って」

「どうして!?」

「だってこの家は危険そうだったし」

「どこも危険なんかはないよ! あったとしても、お姉ちゃんが守ってあげるから、心配しないで!」


 いや、危険ってお前の存在のことだからな。


「でも、やっぱり私の第六感は正しかったよ! 『ヤツガキタゾ、イソゲ……』って!」


 くそ。唯愛も俺と同じだったか。流石、姉弟。変なところで似ている。

 俺は予想していた。唯愛がどんな状態で待っているのかは。しかし、この家の前に来てやっと理解したのだ。この家に入ってはいけないと。

 それは一つ、重大な見落としていたせいだ。俺は今――


(この馬鹿姉に反応してしまうってことだ)


 いつもなら、抱きつかれるだけ、少しウザく感じるだけだ。けれど、今はそうじゃない。唯愛に抱き付かれ、ゾウさんがぱおーんするんだ。

 それによってさらに、唯愛の態度はエスカレート。悪循環だ。

 ……誰だ、エスカレーター言ったの。

 エスカレーター方式でエスカレートするんだ!

 ……つまんないし、意味がわかんねーよ。


「おい、唯愛離れろ。いろいろと危険だ」

「危険!? 大丈夫だよ! 私がたっくんをどんなことからも守ってあげるから!」


 唯愛はさらに強く抱きしめてくる。

 その光景を見て、今日あったことがフラッシュバックする。


(何故、俺は姉に抱き付かれているんだ……)


 透は妹なのに……。なんで俺は……。

 やっぱり、あいつは極刑だ。


「ふわぁ……たっくん~~」


 唯愛は顔を俺の体にこすりつけてくる。唯愛のやつ、別の世界に行ったぞ。

 せめて玄関の中に入り、扉を閉めたい。こんなところ近所の人に見られたら、「あら、島抜さんの家の姉弟は仲がよろしいんですねぇ」とか言われる。やめろ。どちらかと言ったら、悪いことにしてくれ。


 さて、どうしようか。すでに俺のゾウさんは、ぱおーんしているしな。唯愛も別世界に行ったから、当分帰ってこないだろう。

 この状態で家に入れるか? トライしてみるが……うん。まず、方向転換できない。俺は玄関とは反対側を向いているが、背中側に唯愛が抱きついていて、回ることもできない。

 もう裏技を使用するしかないな。裏技――つまり、唯愛の悪口をいうことにした。


「俺……このまま唯愛の胸の中で死んでしまうのかな……」

「!?」


 唯愛の体がピクンとはねる。どうやら現実世界に帰ってきたようだ。


「たっくん……それって」


 よし、今のうちに抜け出して、家の中に入ろう。

 俺は唯愛を振りほどこうとする。しかし――


「『俺が死ぬときは唯愛……お前も一緒だぜ?』ってこと! きゃー! もう! たっくん! そんなの当り前だよ! 私はずっと、たっくんと一緒にいるよ!」


 そう言って、さらに強く抱きしめてきた。

 なんでお前と、『地獄の果てまでランデブーだ』をしないといけないんだよ。ぜったい嫌だわ。

 どうやら、さっきの言葉は逆効果になったしまったようだ。


 というか、そろそろ骨が痛いんだが。真面目に離れてくれ。

 どうやって引き離すか考えていると、股間のあたりがムズムズとしてくる。


(は! まさかこれは、いつだがの再来! 尿意か!)


 しかし、今回は前とは勝手が違った。


(まずい! これはあれだ! 白濁液だ! 唯愛の体に反応して、耐えきれなくったんだ!)


 くそ! このままだと、俺のゾウさんが水を吹き出すぞ!

 なんてこった……。ついに俺の体も、直接的刺激を『鼻』に与えずとも、出してしまえるほど、開発されちまったか……。


 と、冷静に考えている場合じゃないな。こっちのほうはこんなにも熱くたぎっているのだから。

 これは早急に、何か考えないとダメだな。よし、ここはゲーム方式だ。選択肢を出そう。


・もう一度悪口を言ってみる。

・強引に引き離す。

・あえてこのまま出す。


 『あえてこのまま出す。』とか、最悪な選択肢じゃねーかよ。絶対に選ばないぞ。


 『強引に引き離す。』は無理だな。こいつ、俺のことになると、力が強いんだ。

 俺が『念』を使っても引き離せないのだ。これは、『制約と誓約』によって力を増幅させているんだろう。きっと『たっくんに関すること以外にはこの力は使わない。それを破った時、私は死ぬ』みたいな感じだな。


 さて、冗談はさておき、最後の『もう一度悪口を言ってみる。』か。やっぱり、これしかないよな。

 時間的に考えて、これがラストチャンス……! 成功させて見せる!


「唯愛なんて……嫌いだ」

「!?」


 俺の言葉を聞いて、また現実に戻ってくる。

 今度こそ、と意気込んで、また強く抱きしめられないように、唯愛の腕を取り払う。唯愛は、力が全然力が入ってなく、簡単に引き離すことができた。


 正直、拍子抜けだ。まぁいい。俺は早々に家の中に入ろうと、軽く走り出す。

 その時、唯愛が膝から崩れ落ちた。


「え? ……唯愛?」


 流石の俺も驚いて、声をかける。だが唯愛は放心状態で声が聞こえてないようだ。代わりに何かぶつぶつと呟いている。

 なんだ、と近づいて聞いてみる。


「たっくんにきらわれたたっくんにきらわれたたっくんにきらわれたたっくんにきらわれたたっくんにきらわれたたっくんにきらわれた」


 ……やばい。壊れてるよ。目にも、生気が一切感じられないし。顔も怖い。

 どうしよう……そっとしておくか? いや、玄関前で跪いて何やら呟いているとか、ホラーだろ。近所の方々に迷惑だな。


「もうだめ……たっくんに嫌われたら、生きてる意味とかない。もう死んだほうがいいや。ていうか、たっくんもそれを望んでいるよね……」


 いや、そこまでは望んでない。つーか、絶望しすぎだろ。一回嫌いだと言われただけで。

 俺がどうしたものか考えていると、唯愛の瞳から一粒の涙が零れ落ちる。すると、唯愛に生気が戻り始めた。


「う……ひっぐ……うぅ……あぁ……っぐぅ」


 が、同時にそのまま嗚咽も漏らしながら、泣き出してしまった。


「え……ええぇ!? ちょ! 唯愛!?」


 あ……あれ? なんだが、いつも以上にまずくないか? 『たっくん成分が足りない!』とか言って抱きついて来ることは今までにあったが……これは……。

 今までにない経験に、俺もどうすればいいのか、見当がつかない。


(これだったら、さっきみたいに抱き付かれていたほうが、まだマシなんだけど)


「お、おい泣くなよ! 高校生だろ!?」

「うぅ~……いやだよぉ~! 私、たっくんと離れたくないよぉ~! たっくんに嫌われたくないよぉ~!」

「うるさい! 大声出すな!」


 俺はどうにかして、唯愛を家の中に入れる。俺は玄関を閉め、一息つく。

 対する唯愛は、未だ泣きじゃくっている。


「うぅ……ひっぐ……たっくぅん~……」


 流石にこんなにことになるとは予想していなかった。嫌い――はあながち間違ってないんだが、悪い意味でではないし。俺のこと、ちゃんと心配してくれるところとか、いいところもあるし。

 とにかく、唯愛に泣かれているままだと、こっちとしても気分が悪い。どうにかして、フォローしないと。


「唯愛」


 俺は下を向いて泣き続ける唯愛の正面に立って、そう声をかける。


「さっき言ったのは冗談だ。ただ玄関の前であんなことされて、つい言ってしまっただけで」

「でも……ついってことは、少なからず、そう感じていたってことだよね……。それは、たっくんが私のこと嫌いだってことなんだよ」

「そんなはずないだろ? 俺が、唯愛姉のこと、嫌いになるはずがないじゃないか」

「違うよたっくんは――」


「この目を見ても、お前はそんなこと言うのか?」


 俺は、唯愛の顔を両手でつかみ、その眼を俺に向ける。唯愛は最初驚き、怯えた表情をするも、見つめ合っているうちに、唯愛はその顔に安心を表していった。


「やめてくれよ、そういうの。唯愛姉にそんな顔されているとさ、俺も悲しいから」

「うぅ……たっくぅん……」


 そうして俺に抱き付くと、また声を上ずらせ、涙を流し始めた。でも、さっきまでとは違って、嫌な感じはしない。

 俺も唯愛を抱きしめ返して、姉を自分の胸の中で感じていた。


 ――これでよかったんだよな。


*****


「ふにゃぁ~~……たっくん~~」


 いいや、間違っていた。

 俺は現在、唯愛に抱きしめられている。どこでかって? 玄関だ。あの後数分は唯愛も泣いていたんだが、それが終わるとすぐにこの調子だ。この姉、反省という言葉を全く知らないな。


 いやそれは俺も同じか。何回同じ間違いを繰り返している、俺。

 唯愛を立ち直らせること、それはいい。だが、あのやり方は間違っていた。そのせいで、こんな事態になったんだ。

 今までにも何回か、似たようなことはあったはずだ。その度に後悔してきた。真性の馬鹿だな。


「うへへへぇ~……たっくんが、私のこと~好きって言ってくれたよぉ~~」


 すみませんが、そこまで言ってないです。俺が言ったのは、『嫌いではない』です。好きなんて、一言も言ってません。


「あはっ♪ たっくんたっくんたっくんたっくんたっくん!」


 ……苦しい。そして、『ゾウさん暴走事件』に逆戻りだな。

 ……やっぱり、変態ブラコンは嫌いです。

次更新予定日は5月31日です。

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