7-1 兄妹っていいなぁ……(遠い目)
「おかえり、お兄ちゃん!」
濃い青髪をした推定年齢9歳の子供が、そう言って透に、無邪気に抱きついた。子供の力とは中々にパワフルなもので、透はよろけていた。
透はため息をつき、
「いきなり抱きついてくるのはやめてくれよ、紗弥」
と半ば呆れたように、その紗弥という子に注意した。
そんな中、透を尾行していた俺、絵夢、関羽、利莉花の全員は絶句していた。
「マジかよ、峰内に妹がいたなんて……」
数秒の沈黙の後、最初に口を開いたのは関羽だった。その言葉によって全員が意識を取り戻し、話をしていく。
「本当だよ! びっくりだよ! あんな可愛い妹を隠していたなんて!」
絵夢は声を抑えつつも、テンション高めに声を発する。
「はい。そうですね、私の中でもあの可愛さは、25万百合ポイントを獲得しています」
利莉花はよくわけのわからない数値で答える。
けれど俺のほうは、みんなのように、何かしらの反応をすることもできない。ただただ黙って、二人の様子を見続ける。
注意されると、紗弥ちゃん……いや、さやちゃんのほうは「え~」と不満ありげな声を出し、透の体をさらに強く抱きしめる。
「だって、あたしはお兄ちゃんのこと大好きなんだもん!」
そうして満面の笑みを浮かべる。すると、八重歯が現れる。さやちゃんの快活さを表現したチャームポイントの一つだろう。
それを聞いて透はまた呆れたようにため息を吐き、二人は一緒に中へと入って、玄関の扉を閉めた。
*****
「しかし、まさか妹がいるとはな~」
「ある意味最高のオチだったよね~」
透を尾行した帰り道。その最中で、関羽と絵夢はさっきのさやちゃんのことで盛り上がっていた。
だがそんな二人の後ろを歩いていた俺はそれとは対照的に、顔色がすこぶる悪い。それを心配してか、利莉花が声をかけてきた。
「どうしたんですか? ロリコンのはずの巧人君が、何の反応もしないなんて、逆に驚きなんですが」
「何言ってんだよ、リリー。巧って、ロリコンじゃなくな――」
「うわ――!! 完熟! それ禁句!」
関羽がそういいかけて、絵夢が止めに入る。対する利莉花のほうは頭に「?」を浮かべていたがな。
確かに、俺のテンションが上がらない原因の一つに、ロリコンじゃなくなったことも含まれるだろう。
他にも、俺が真のロリコンに戻るまで、幼女とは会わないと誓いを立てたのに、それがこんなところで破れた……それも関係している。
だが、それは今回の場合、一割と二割分ずつくらいだ。残りの七割は――
(なんであいつに妹がいるんだよ――――!!)
そう、この怒りだけである。
俺はあいつに妹がいるなんて知らなかった。それは、俺が守っているのは地元の小学校だけであり、この地域は含まれてなかったからだ。だから、そのさやちゃんについても知らなかった。
けど、だ。それでも、透は俺に話してくれてもよかったと思うんだ。だって……ロリコンだぜ、俺? そいつに小学生を紹介しないでどうするんだよ。馬鹿かよ、安保かよ。
俺に任せれば、さやちゃんだって特別に、害虫駆除を担当してやった。
LSPとともに、変な素振りを見せるやつがいれば、ヤクザ並みの対応で、身ぐるみ剥いでやってもいい。いや、幼女に何かする奴なんて、みんなあの世送りにしてやってもいい。
それだけの覚悟をもって、守ってやるのに……それなのに!
(何故、いると言わなかった!)
さて、ここまでは体裁上の発言(実際に言ってはないが)だ。本当の意味で怒っているのはこっち。
(何で妹の欲しい俺にはいないのに、お前なんかにいるんだよ!)
ふざけんな。ロリコンを馬鹿にしやがって。いや、俺はある意味では、リトルシスターコンプレックスだ。そんな俺に妹という単語が舞い込んできやがった……。とりあえず、透は極刑だ。
俺は時計を確認し、現実世界に戻る。すると、利莉花たちは俺を心配そうに見ていた。俺が考え事を辞め、顔を上げると、利莉花は聞いてくる。
「あの……大丈夫ですか?」
「ああ……ただ透に殺意が湧いていただけだ」
「それは大丈夫とは言わないです!」
突っ込まれるも、そんなことは意に介さない。
それよりも――と、再び、さやちゃんのことを考え込み始める。
(えーっと、さやちゃんは9歳と七か月だったな。今は六月だし……とすると、誕生日は十一月あたりか)
透の誕生日は確か、11月8日だったはず(聞いてもないのに教えてきた)。とすると、ちょうど7歳差か……。結構年の離れた兄妹じゃねーか。透の親め……頑張りやがって。
そして兄妹って単語が、いいなって思うぜ。俺の理想形だ。現実は姉弟という、一番望んでいないものだしな。これだったらもう、兄のほうがよかったんじゃね? って、時々思うくらいだ。
まぁ、小学生時代は唯愛のことを結構慕っていたし、今も「こんなの絶対認めない!」とかがあるわけではない。ただ、「兄妹」と「兄弟」であったほうが平穏な日々を送れただろうということだ。
さて、話がシフトしたな。まぁ、今回は最初から正気を保っているくらいの集中度合いだ。これくらいでいい。
俺は、前に歩いている二人に声をかける。
「なぁ、明日も集まらないか?」
「集まるって……なにをするの? もう、尾行は終わったんだよ? これ以上やることなんてないと思うけど……また他の人の尾行とか?」
「違うな。透を問いただすんだよ。今日、初めて見た妹について」
「おぉー……流石ヌッキーロリコンっぽいよ」
ぽいじゃなくてロリコンだ。いや、今は違うのか?
「つってもよ、佐土原。今はロリコンじゃな――」
「だから、完熟! それ禁句だってば!」
絵夢はまた、声を荒げて否定する。まぁ、ロリコンでなくなったと言っても、俺の基礎はロリだからな。ロリコンとしての気持ちはちゃんと残っているし。ただ、ハッスルして発することができないだけで。
「で、どうする? 透の事情聴取」
俺の言葉を聞いて、絵夢と関羽はぴくっと反応する。
『事情聴取……』
二人が声を揃え、そう呟いたかと思うと「やるよ、やるやる!」とか、「ぱねぇぜ……まさかまだ、こんなにも面白そうなネタが転がってるなんてよ……」とか言ってた。
……興味引く言い方してみたらこんなに食いついてくるとは。予想通りだな。
「じゃ、二人はOKってことで……利莉花はどうだ?」
俺は隣を歩く利莉花に話を振るとにっこりと微笑んで、答える。
「はい、私も大丈夫ですよ」
(ファイテンッッグ!)
っく……! なんて破壊力……! 思わず、俺のアレが臨戦態勢に入るところだったぜ。
ただ、まだ油断はならない。俺は利莉花から一歩離れ、距離をとる。
大体近かったんだよ。そのせいで、あんなにも近くに利莉花の顔が来て、俺のジョイスティックが、自然と手前に引かれた状態になりそうに――
(って、うわ――! 笑顔を思い出したら、ほんとうになってきた!)
無心無心! もう忘れろ! 考えるな!
俺は若干前かがみになりながらも、三人に「じゃあ決まりな」と伝えた。
そのあとは駅に着くまで、適当に話しながら歩いた。