6-4 衝撃の結末by巧人
俺は透を尾行していた。
俺の周りに人は……いない。いや、通行人はいるが、絵夢、関羽、利莉花の三人は誰もいない。あいつらにはそれぞれ、作戦のために違う場所に向かってもらった。
透が右折する。それを見て、俺はメールで指示を出す。
『ポイントは絵夢だ。二人は場所を変更してくれ』
俺が伝えた作戦、それは透の先回りをするものだ。
まず始めに、透の進行方向(何故かまた、本屋の会った方向へ向かった)へ三人を先回りさせる。このときそれぞれが別々の場所に、だ。その場所は、透の進行方向で、ありうる道を探し、俺が考えた位置だ。
それを三通り考えて、そのうちの一つ――今回で言えば絵夢の地点が正解だった。その次は、外れだった二人には、さらにその先に回ってもらう。
それもまた俺が探した場所だ。
このやり方だと、俺への負担は減る。尾行もそこまで神経質になってみてなくていいから、地図で検索しながらできる。考えうる位置だって、複雑な地形でもなし、そこまで難しくはない。
さて、この方法だと当たり前だが、三人が異常に疲れる。俺もそれは理解している。だからこそ、することがあった。
それは――
『では、今から一度、電話しますね』
利莉花からそう一斉でメールが来る。そう、『電話で足止め』だ。もちろん、そう何度でもできることではないが、利莉花たちは移動する時間ができて、俺にも考える時間ができる。
ただ、絵夢と関羽はこういうことへの適性がないため、できない。だから利莉花一人でやらないといけないので結構辛いのだが、利莉花に聞くと「三回はいけるよ」と答えてくれた。頼もしい限りだ。
まぁそれに、絵夢と関羽にもそれぞれ違う役割を与えている。
さっきの利莉花の一斉メールを受け、絵夢、関羽も、各自動き出す。
関羽は、周りに人に聞き込み。あいつは俺と違って社交性があるからな。お手の物だろう。
この聞き込みっていうのは重要だ。実際できることなら積極的にやっていくべきことだ。でも、俺は社交的ではないし、俺の尾行は基本、くるみちゃん(9)やちよちゃん(6)のような小学生の尾行で、周りに聞き込みすると変態に思われてしまうため、やってはこなかった。それもあり、俺は聞き込みが嫌いだった。
けれど、今回はそれができる相手だ。単に「この辺りに自分と同じ制服で、同じくらいの背の男子を知りませんか?」と聞けばいいのだからな。
さらに、この聞き込みに適した人材もいる。関羽は社交性があるだけでなく、熟女専門だ。つまり、情報通の揃う層ってことだ。何気に関羽はそっちの方面でやり手だし、うまくいい情報を持ってこれるだろう。
尾行しつつ情報集めもできる。これが人数の利だな。
絵夢のほうは、変装をしてもらうことにした。実は利莉花が電話をしたとき、絵夢の近くには洋服店がくるようにしていた。ここで言う絵夢の近くとは、透の近くのことだ。
制服という目立つ格好から変わることで、絵夢は一層、透の尾行をしやすくなるだろう。だから俺は、絵夢に一番、選択率の高い道に配置していた。それは、あの中で最も、絵夢を信頼している証だ。
(さて、俺も俺でやることをするか……)
俺にもやることがある。さっきのような指示ではない。あれは、配置した場所にいたやつからメールで俺にどこを通ったとか曲がったとか聞いて、それをもとにまた指示を出す……と繰り返していただけ。簡単に言うと、最初の一回目の指示以外は、尾行どころか、動いてさえいない。ただ、地図とにらめっこしていただけだ。
俺がやることは、第一に動くことだ。そうしないと、みんなとどんどん距離を離される。追いかけないとな。
そして、もう一つ。こっちが重要だ。
俺はスーパーアイをかける。
このスーパーアイ……ズーム以外にも、機能はついている。その一つに、『リンク』がある。
簡単に言うと、映像受信だ。専用の機器があり、それでとった映像は、このメガネの左レンズを通して、みることができる。そんなこのハイテクなメガネ。誰が作ったのかというと――いや、長くなるから今回はやめておこう。
とにかく、俺は機器を絵夢に渡した。これで俺は、絵夢の取った映像を見ることができる。
まだ映像はまだ写っていない。遠隔で機器のほうのスイッチはいれることができるが、それでも絵夢が鞄の中にしまっていたら意味はない。メールで、絵夢に撮影の指示を出す。
それが終わると早速、リンクを開始した。
待つこと数秒、映像が受信される。その映像の中には、しっかりと透が写っていた。透は普通に歩いているな。写っているのも後ろ姿だ。どうやら、利莉花の電話はもう終わっているようだな。
映像と、今までの地図を組み合わせると、どこに向かうのかは明白だな。この辺で一旦、集まって情報をまとめるか。
俺は絵夢に尾行を続けさせ、関羽と利莉花には、指定した場所へ行くように指示をした。
さて、こうして俺は映像を受信しているわけだが、お前が尾行すればいいだろと思うかもしれない。だが、全然違う。
相手を尾行しつつ、全員に指示を出すなんてマネは、とてもじゃないができない。あの緊張感の中、相手のことだけでなく、自分の身の回りのことまでに手なんて回している余裕はないのだ。絶対どこかでぼろがでることだろう。
今回の場合、尾行は絵夢がしている。絵夢はそっちに集中することだろう。それに対し、俺はその様子を見ながら色々と思案することができる。明らかにこっちのほうが効率はいいやり方だ。
(映像は見えている……地図もある。追いかけることも可能だ)
俺はそう心の中で呟き、ほくそ笑んで、メガネを外してから、自分で指定した場所まで向かった。
(だって、映像のせいで左側見えないし……)
*****
利莉花、関羽と合流し、その間に得た情報を教えてもらう。
なんと、関羽が言うことには、この段階で家がどこかまでわかってしまった。
さすが、マダムキラーの異名を持つだけのことはある。まぁ、正直そこはどうでもいいが。
でも、お手柄である。
「よくやったぞ、関羽」
「ははぁ~……ありがたきお言葉~」
関羽は仰々しくそう言い、頭を下げる。ところで、それは何を演じてそうなってるんだ?
俺は、関羽の功績を伝えるために、絵夢に電話した。
『もしもし? どうしたのヌッキー?』
「ああ、実はな、もう家が分かったんだ」
『ええ!? 本当に!?』
「関羽が、聞き込みでわかったそうだ」
そこで関羽を見ると、誇らしげに胸を張った。ムカつくな。
『んー……じゃあ、もう私のしてることって意味ないのかな?』
「確かに、そう言えるのかもな」
そう返すと、絵夢は軽くうなりを上げ、さらに考え込んだ後に、聞いてくる。
『まずさ、今頃になるだけど、この尾行ってどこまでが目的なの?』
絵夢が尤もなことを聞いてくる。
実際、そこまでは決まってない。ただ、普通に考えて家までつけるって感じだと思っていた。
だが、もうすでに関羽によって、それはわかってしまったんだな。
「おい、関羽。お前のせいで、この尾行の目的が完結してしまったぞ。どうしてくれる」
「知らねーよ! 俺のせいにすんなよ! つーか、さっきまで褒めてたのはどうした!?」
関羽はさっきとは裏腹な態度で、俺に突っかかって来る。で、結局、さっきの演技はなんなんだ?
「つーか、実際に行ってみようぜ? それでこその尾行だろ?」
関羽は気を取り直したように、提案してくる。
でも、もうどこにあるか知っているわけだしな。ゴールの見えているステージ……って感覚だ。しかも、タイム無制限で死ぬこともないやつの。クソゲーじゃねーかよ。
そんなゲームやりたくないぞ……。
けどそれよりも、重要なことはみんなの意見だ。これは俺一人の尾行じゃない。全員が楽しむためのものだ。
俺は利莉花に話を振る。
「利莉花はどうする?」
「私は続けたいって思います。ここでやめるのも、なんだか中途半端ですし」
「絵夢はどうだ? 尾行続けるか?」
電話越しにそう聞く。
『う~ん……まぁ、やるなら最後までやりたいよね! 一応とおるんの家見ておきたいし!』
なるほど……。全員が続けると選択したか。なら、俺もやめるわけにはいかないな。
透がその家の中に入っていくその瞬間、最後まで、見届けよう。
(って、あ――……このことを透に言ったとしたらって想像しちまったわ。うぇ……気持ちわりー)
変な想像して顔を曇らせていると、
『じゃ、私はこのまま尾行続けるね』
とそう言い残し絵夢は、電話を切った。それを確認すると、全員で一度顔を見合わせる。そして頷きあうと、俺たちも透の後を追いはじめた。
*****
絵夢の取っている映像と地図、そして関羽から得た住所を頼りに、透のいるところへ向かう。メガネは手に持ち、ついさっき映像で見た風景が、実際の俺のほうにも飛び込んでくる。
そして――
「あ、いた! 佐土原だ!」
絵夢の元までたどり着いた。俺はメガネをしまうと、透を確認する。……大丈夫だな。
俺はため息を吐くと、関羽の脳天にチョップする。
「いっ――むぐっ!?」
同時に声も出さないように口もふさいだ。
「関羽……そんなに大声出すなよな。透にばれたらどうするんだよ。馬鹿」
「むぐぐっ……ぷはっー! わ、わりー……って、のわりにはチョップの威力ありずぎじゃねーか!?」
「だから、うるせーんだよ」
俺はもう一度さっきと同じようにチョップした。
「ぐ……なんだか納得いかねー……」
釈然としない顔をする関羽を横目に、辺りを見回す。
さすがにもうここは、住宅街か。人通りは多くないから、人ごみに紛れることができない、尾行には向かないところだ。
透の家は住所的に考えて、もう少し先か。で、駅を降りてから尾行を始めて、一時間ってところだ。あいつは本屋に寄ったり、一旦道を引き返してコンビニ寄ったりしてたから、実際にただ歩いて帰っていたとすれば、時間は三十分ってところか。
と、そんなどうでもいいことを考えるだけの暇はあった。何せ、あと二分ほどで着くのだからな。
そうして、透の家の前までやってきた。
「あれがとおるんの家……」
絵夢はそう呟く。それに対し、関羽も言葉を漏らした。
「なんつーか……まぁ……普通だよな」
確かに、外見は普通の一軒家だ。逆に、このまわりの雰囲気と似つかわしい豪邸でもあれだし、二分――つまり、さっきの時点でこの家は見えていた。視界の中にあったのも、透の家と同じような普通な家。驚きは一切ない。
玄関のドアノブは左側についていた。もし、外開きだった場合、透をつけてきていた関係上、このままだと中を確認できない。そのため、入っていったことが見えるように、透が家の敷地に入ったところで、足早に見える位置へと移動する。
透は扉をあけ、玄関の中に入っていく。
「ただいま」
透がそう言うと、家の中から玄関に向かってくる足音が聞こえてくる。そして――
「おかえり、お兄ちゃん!」
と、幼さを感じさせる、高い女の子の声が響き、透に抱きついた。
その子は、透と同じ濃い青髪をした小学生だった。