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5-6 日本史とテスト結果と……

 そうして、次の日の部室。


「はい! それでは勉強始めますよ!」


 利莉花が威勢のいい声を出し、士気をあげようとする。


「うぅ………面倒だよ~」

「あ――ねみー……」


 だが、関羽も絵夢もやる気なく、机の上に俯せる。

 そんな二人を見て、俺は鞭をいれる。


「日本史なんて所詮、暗記科目なんだ。覚えろ」


 というか、頼んだ側のお前らが、やる気ださないでどうするんだ。

 けれど、関羽は顔を上げ俺を見て、文句を言ってくる。


「つーか、なんで日本史なんだよ。昨日の続きで、数学やればいーじゃんか」

「あれは俺たちが疲れるから、後回しだ。あっちは理解しないと意味ないしな。暗記は関係ないし」

「大体、日本史ってどこやるの~」


 絵夢……お前、そこからか……。

 昨日と同じように、俺は呆れる。絵夢の質問に透が答える。


「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が活躍した、戦国時代から江戸の前半だな」

「あ~あれでしょ? いい国つくるやつでしょ?」


 それは鎌倉だな。そして1192年ではなく、1185年が正しいと今ではされている。

 絵夢の馬鹿な発言はスルーして、とりあえず内容に入っていく。


 と言っても、本当に覚えさせるだけだ。俺たちは、絵夢と関羽に自分たちのノートを見せた。何故なら、こいつらは、授業中寝ていて、ノートなんてとってないからな。

 とにかく、それで大事なところを勝手に覚えさせていった。

 そして、三十分後。


「よし。もういいだろう」

「すんげー疲れたぜ……」

「ふうぃ……やっと休憩だ~」


 と、二人は一息つく。いや、待て。


「誰が休憩と言った? 今から問題を出すからそれに答えろ」

「ええ――!? そんな! あれだけ頑張ったばかりなのに!?」


 逆に三十分の勉強で休憩に入るほうがおかしいんだよ。俺は文句を言う二人を無視し、問いを出す。


『1543年に起こった有名な出来事と言えば?』


 乗り気でないながらも、関羽が答える。


「ポルトガル伝来」


 なんだ、それは。


「違う。『ポルトガル人によって日本に鉄砲が伝来』だ」

「じゃあ、ポルトガルが伝来したのはいつだよ」

「知るかよ」

「んだよ、知らねーのかよ。使えねーな」


 お前の存在よりはマシだろ。

 心の中で呟いて、次の問題へ行く。


『では、その鉄砲が日本に伝来したのはどこ?』


 次は絵夢が答えた。


「子種島」

「そんな卑猥な名前じゃない!」

「あれ? 間違えた?」


 くそ、油断したぜ。下ネタ系を言わないはずの絵夢が、まさかこんな言葉を……。少し言うと顔赤くするやつだったのに。ギャップがすごいな。

 俺は訂正の意味を込めて、絵夢に正解を伝える。


「『種子島』だ」

「ああ……逆だったんだね。紛らわしいね」


 まぁ関羽よりはマシだが……いや、ある意味では絵夢のほうがまずいか……。

 気を取り直し、次の問題を出す。


『1549年、キリスト教を日本に布教しにきた、イエズス会の宣教師の名前は?』


「フランシスコン・ザビエルだ!」

「いや、サンフランシスコ・ザビエルだよ!」

「じゃあ、合わせて、サンフランシスコン・ザビエルだな!」

「それだよ!」


 二人ともなんか多い。そして足すな。


「『フランシスコ・ザビエル』だ!」


 さすがに俺自身切れてきたのか、口調が強くなる。その様子を見かねて、透が代わりに問題を出してくれた。


『次の問題だ。織田信長は1582年に天下統一を目前にし、臣下に裏切られて追い詰められ、自害をした。その出来事の名前と、臣下の名前はなんという?』


「まず出来事の名前でしょ……それは、『本能寺が変』!」

「いや、『本能で変』だな!」


 なんなんだこいつら。絶対ふざけているだろう。

 絵夢と関羽は続けて答える。


「次に名前は……明智小五郎!」

「円○光彦だ」


 ちょっと待とうか。二人ともだが、特に関羽。今、伏字にしないといけないような名前を言わなかったか、おい。

 透はため息をついてから答える。


「『本能寺の変』な。それと名前は『明智光秀』だ」


『では、その後、織田信長の後を継ぎ、実際に天下を統一した人物は誰だ?』


「んっとだな……豊富とよとみなんとか」

 『豊富』の字が違う。そして、なんとかではダメだ。

「豊臣 秀吉しゅうきち


 おしい! 読みが違う!


「『豊臣秀吉』だ」


 透は淡々と答えを言う。

 二問出したところで、今度は利莉花が自分から代わりになる。


「次は私が出しますね」


『豊臣秀吉の死後、徳川家康は江戸幕府を開きます。では、開いた年は何年ですか?』


「1543年!」


 それは鉄砲だろ、絵夢。


「2016年!」


 それは今年だな。というか、待て。お前の中ではまだ、今は江戸時代なのか? 鎖国しているのか?


「『1603年』です」

「くっ! 60年差か! 惜しかった!」


 どこがだよ。


『次は句の問題です。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の人柄を表した「鳴かぬなら~」で始まる有名な句があります。それを誰がどの句なのか答えてください』



「鳴かぬなら 鞭でたたいて 鳴かせよう!」

「鳴かぬなら 我がテクニック 火を吹くぜ!」


 ああ……それはお前らを表した句だな。今回は関係ないぞ。


「織田信長が『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』

 豊臣秀吉が『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』

 徳川家康が『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』

 です」


 一通り問題を出して、出題者側も一旦ため息つく。

 だが、解答者のほうは不満たらたらだ。


「つーか、なんでこいつら、こんなことやったんだよ。おかげで俺達は勉強するはめになっただろうが」


 歴史上の人物に、そんなこと言ってもな。


「大体、歴史を学ぶなんてナンセンスだよ! 私たちは、未来に生きているんだよ!」


 絵夢が突然立ち上がると、何やら大袈裟な身振り手振りで、熱弁をする。

 確かに未来に生きている、未来を進んでいくことには賛成できるが……。


「同じ過ちを繰り返さないための、歴史の勉強だ。絵夢、それは勉強しない言い訳にならない」

「うっ!」


 そう返すと絵夢は、しおらしく席に座り直す。

 全く、付き合わされるこっちの身になれよな。俺だってやりたい勉強ってものがあるんだから。

 俺がそう考えていると、利莉花が声をかけてきた。


「巧人君。ちょっといい?」

「なんだ?」


 俺が聞き返すと、「ここじゃちょっと……」と言うため、立ち上がり、「だったら、他のところで話すか」と答える。

 それをみていた関羽が、聞いてくる。


「え? なに? 佐土原に続いて、リリーまで手を出すのかよ。おいおい。ヤリすぎだろ」


 昨日のは否定した。それにまずヤらないなど、言いたいことは色々あったが、関羽の言葉にいちいち反応するのも、面倒だと思ったので、返事はしない。

 代わりに――


「今から、十分休憩な」


 と伝える。関羽はそれを聞くと、目を輝かせ、明らかにテンションを上げる。もうさっきのことは忘れているようだ。絵夢のほうはというと、疲れた様子で机に俯く。

 そんな二人を見て、俺は呆れつつ、利莉花とともに部屋を出た。


(しかし、何故伊久留は今日もいるんだ? 本読んでるだけなのに……)


*****


 そうして、絵夢たちに悪戦苦闘しつつ試験の日がやってきた。


 テストをするとき、席替えをする。それは、出席番号順に並ぶという意味だ。

 理由は、テストの採点や、成績をつける時、それは出席番号順に並んでいるものをやったほうが楽だし、集めてから並べ替えするのも面倒だということだ。

 まぁ、俺のクラスはまだ席替えとかしてないし、関係ないがな。あるとしたら、次のテストからか。

 そしてテストも終わり――


*****


「ふぅ……やっと全教科返ってきたよ」


 絵夢がそう言って、部室でため息をつく。様子は少しだらしなく、椅子にもたれかかっている。肩の荷がおりたといったところか。

 その手元には返ってきたはずの、答案があった。それをみて俺は絵夢に聞く。


「どうだった?」

「おかげさまで、赤点はゼロだったよ!」

「逆に今までより少し良くなったくらいだぜ!」


 関羽はそう言って答案を見せてくる。確かに、言葉通り、全教科少しずつで1、2点上がっているようだ。そこまで変わってない気もするが……全教科合わせたらそれなりにはあるか。


 だが、こいつらに時間をとられて、俺は自分の勉強が疎かになり、少し悪くなった。

 透や利莉花は、見せてもらったが、いつもと変わってないようだった。まぁ俺は凡人だしな。やらなきゃ、すぐ下がる。


 そう考えていると、伊久留の成績が気になった。今まで、この部室で勉強会をしていて、そこに伊久留もいつも居たが、ずっと本を読んでいた。つまり、その間勉強はしていなかったはずだ。

 俺は同じクラスであるはずの利莉花に尋ねた。すると利莉花は、誇らしげな顔をする。


 利莉花がそう聞くと、伊久留は頷く。利莉花は、『伊久留ちゃんが私の言葉に反応してくれた!』と、とてもうるさかったが声をかけると、すぐに伊久留の鞄から答案を――いや、また「伊久留ちゃんの鞄の中……(ごくり)」と動きが止まった。再び声をかけて、やっと利莉花が持ってくる。


「はい、どうぞ!」

「部長のテストってどんなんだろうな」

「もしかしたら私、今回は勝ってるかも!」

「いや、佐土原。流石にそれはないだろう」


 俺との話しを聞いていた、他のみんなも気になったのか、集まってきた。そして、全員で答案を見る。


「……マジで?」

「うゎあ……」

「……凄いな」


 その時、俺は初めて見た。高校のテストで『100』という数値を。

 伊久留の答案は、100点と90点台後半のオンパレード。まさに、『天才』の答案だ。


「はんぱねー!! んだよこれ!」

「びっくりだよ! 部長がこんなに頭がよかったなんて!」

「だが、去年はそうでもなかったはずだがな……」

「ふふふ……そうですよね? 凄いですよね!」


 利莉花……その顔、地味にウザい。

 『うちの伊久留ちゃん、どや!』みたいな顔が。例え恋をしていてもウザい。


(だが……透も言ったように何故だ? 伊久留は俺よりも少し低い点数だったはずなのに)


 みんなの興奮や驚き、俺の疑問をよそに、伊久留はいつも通り、マイペースに本を読んでいた。

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