表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/130

5-4 関羽も絵夢もアホ

「くそ……なんつーこった……」


 俺の得点が1つ増えたところで関羽がそう嘆くように呟く。

 すでに、チーム形式の戦いも終わり、再び個人戦に戻った。


 現在の一位は当たり前だが、透。21点。

 次が俺で12点。

 そして絵夢が4点。関羽が2点だ。


 俺と透は、二人が答えるまでは待っているため、その中で少しだけ点を取っていった。問題も選択形式で出されたものもあったしな。

 だが、それでも二人の頭の悪さがよくわかる。

 特に関羽。お前、絵夢にダブルスコアで負けてるぞ。


「もう今からじゃ、どーやったって俺が勝つことはできねー……」

「だよね……もう私と完熟でどっちがビリかだもんね」


 そういう意味なら、俺と透はもう順位確定だろうな。

 しかしもうずいぶんと長いことやってるな。時間は……もう一時間半経ったか。

 あと少しで終わらせるべきだな。もう帰りたいし。


「利莉花……あとやってない教科ってなにある?」


 俺は利莉花に尋ねる。利莉花は「えっと……」と考え込み、「日本史と数学ですね」と答えた。


「どちらも、佐土原と関羽が著しく悪い教科だな」

「そうなんですか?」


 利莉花が質問してくるので、俺は答える。


「ああ。勉強始める前に、数学を教えるって話しただろ? 俺が教えやすいのもあるが、絵夢はテスト前に勉強する時間を半分は使わないと、赤点ギリギリの点数にさえならない」

「ずいぶんと、苦手にしているんですね……」


 独り言のような利莉花の言葉に、関羽は声を出す。


「いやだってよ、あいつらの授業つまんねーんだぜ? あんなもん、きいてたら成仏しちまうぜ」

「授業なんですから、面白いとか面白くないとか関係ないはずです!」

「俺は悪くねー。生徒に興味を持たせない授業をする、教師のほうが悪い。だから俺は、授業中に寝るんだ」

「そんなこと授業で寝る言い訳になりません!」

「私は眠いから寝るんだ! 関係ない!」

「もっとひどいです!」


 だ、そうだぞ。絵夢、関羽。


 突っ込み過剰で息を切らす利莉花に、「とにかく」と俺は話を切り出す。


「さっきみたいにやっても、たぶんこいつらは分からない。基礎から教えないとな」


 授業を聞いていないんだから、話にならないし。利莉花は俺の言葉にため息をついて、「そうですね」と言う。


「分かりました……。では数学から始めます」


 利莉花はそうして教科書を出し、絵夢と関羽に計算用に使うためであろうルーズリーフを渡す。


「まずは簡単なものから始めましょう」


 そう言って、自分用のルーズリーフに『(a+b)^3』と書く。


「これを解いてください」


 本当に基礎だな。公式があるからそれで解いてほしいものだが、まぁ一つ一つ展開すれば解けるだろう。……ただ、こいつらがどれだけの馬鹿かによるが。

 二人を見ると、明らかに悩んでいる。それは、何をどうすればいいのかさえわかっていないようだ。さすがに見かねた様子で、利莉花が声をかける。


「ちょっと待ってください……まさかですが『(a+b)^2』は解けますよね?」


 利莉花の問いかけに、顔を曇らせる絵夢と関羽。

 それに、俺と透は頭を抱える。


「おい……去年散々教えてやっただろう……」

「去年は去年だよ! そんな前のこと覚えてなんていられないよ!」


 そんなに胸を張って答えられても……。どうせ、胸なんてないだろうに。

 はぁ……アホすぎて、もう何も言えない。


「……分かりました。ではそこから解説します」


 若干怒り気味になりながらも、利莉花は説明を開始する。


「では……『3^2』はいくつですか?」

「馬鹿にしないでよね! 『9』だよ!」


 馬鹿じゃないなら、『(a+b)^2』は解けるんだよ。


「では、さっきの『a=2』、『b=1』とします。『(a+b)^2』はどうなりますか?」

「えっと……aが2で、bが1だから……『(2+1)^2』?」

「そうです! ですから、『2+1=3』だからその二乗で……」

「9!」

「正解です! 関羽さんは大丈夫ですか?」

「おう! たぶん大丈夫だ!」


 たぶんってなんだよ。


「では今の問題を変更します。『(2+1)^2』ということは『(2+1)×(2+1)』ということです」

「うん」

「ここで、『(2+1)』を計算しないで進めます」

「え? なんで? たしたほうが早いよ?」

「『a=2』『b=1』という条件がないとき足すことができないからです……と言っても難しいでしょうから飛ばします。

 では計算に入りますが、このとき、前の『(2+1)』に目を向けます。そしてどちらか一方を決めます。今回は『2』です。次に後ろの『(2+1)』に目を向けます。この時に、選んだ『2』と後ろの『2』、『1』をそれぞれ掛けます。どうなりますか?」

「えっと……4と2」

「はい。では次に余っていた前の『1』に後ろの『2』と『1』を掛けます」

「2と1だな」

「最後にそれをすべて足します」

「4+2+2+1……9だね!」

「その通りです! 二乗とはこうやって計算するんです!」

「へぇ~……面倒だね~」


 ああ。去年同じような説明をしたのに、またさせられるこっちのほうが面倒なんだがな。


「同じようにしてさっきの『(a+b)^2』を解いてください」


 そう言われて、関羽と絵夢は、自分のルーズリーフに式を書き始める。そして――


「できたよ!」

「俺も!」


 そうして見せられた内容は……『a=2』『b=1』の条件も書かれてあった。つまり――


『答えは9だ!』


『馬鹿か(ですか)!』


*****


「すみません……私の教え方が悪かったです……」

「いや、白瀬のせいではないな。あいつらの頭の問題だ」

「ああ、俺もその通りだと思うぞ」


 どうにかこうにか三乗の公式までは教え込んだが、ずいぶんと時間を取られた。まったく先が思いやられる。

 だが、もう今日はこれでやめたほうがいいな。

 俺は全員に提案する。


「もう遅いし、帰ろう」

「確かに……真面目に勉強したから疲れたぜ」

「私も~」


 なんか……ムカつく。


「はぁ……だがどうする? このままだと、佐土原たちは赤点を取ってしまうと思うが……」

「別に、明日も学校で勉強しに来ればいいだろう?」


 教えるのが本当に大変だが。今日よりは時間もあって、やりやすいだろうし。

 俺は確認のために、絵夢と関羽に目を向ける。


「私はそれでいいよ。というか、教えてもらう側だしね」

「俺も。最近は忙しかったけど、特別用事もなくなったし」

「じゃあ、決定な」


 俺はそう言って、勉強道具を片付ける。すると、他の者も同じように片付け始める。


「しかし……何故、お前らはそんなに頭が悪いんだ?」


 透が直球に二人に投げかける。


「んなこと言ってもよ、俺だって毎日忙しいんだ。近所の奥様方のメンタルケアとかで」


 俺だって今までは、テスト前でもけれんちゃん(5)を見たりしていたが、それでも普通の成績だったぞ。残ってる時間で勉強して……言い訳にはならないと思うがな。


「私は興味ないことはすぐ忘れるからね~。やる気ないってことだと思う」


 まぁ、興味があるから覚えられるんだしな。絵夢のSM知識だってそうだ。


 興味とは勉強だ。俺はそう思う。ゲームをしていたら、その元ネタについて知りたいと思い始めたり、授業でそれについて出てきて、少しだけテンションが上がったり。

 要は、興味とは勉強を促す一つの心だということ。だから興味は勉強になる。


 まぁ、これは学校の勉強だ。テストで点を取らないといけない。興味ないこともやらないとダメだがな。


「おい、佐土原。それ俺が言ったことと被ってんじゃねーかよ」


 俺が絵夢の言葉に共感を抱いていると、関羽が不機嫌そうに口を開いた。


「関羽……お前、何か言ってたか?」

「言ったよ! 興味を持たせねー授業をする、教師が悪りーとか!」


 俺は考えるが思い出せない。そうして、他の者とも顔を見合わせる。


「……誰も覚えてないが?」

「くそー! それじゃ俺が佐土原の言葉が実はパクリですっていちゃもんつけてるが、本当はパクリでも何でもなく、俺がパクったみたいじゃねーかよ!」


 みたいじゃなくて本当にそうにしか見えない。それと長い。

 関羽が暴れてうるさかったが、俺は無視し早々に身支度を済ませていく。


「じゃあ俺は帰るな」


 そうして、席を立ち、ドアの前に手をかけたところでそう言う。すると、


「ま、待ってよヌッキー!」


 絵夢が慌てた様子で、俺を追いかけてくる。


「一緒に帰ろうよ!」

「別にいいが……」


 なんで、急いだんだ? 言えば、待ったのに。

 疑問に思っていると、絵夢は耳打ちしてくる。


(まだ、リリーとどうやって仲良くなったか聞いてないし、それに二人きりの時に聞いたほうがいいでしょ?)


 ……なるほどな。絵夢のやつ覚えていたのか。まぁ、言った手前、言わないわけにもいかないか。

 それに、『仲間』とはいえ、俺から何人にも伝えるのは忍びないし。


「巧人……なら俺も――」

「悪いな、絵夢と大事な話があるんだ。二人きりで帰してくれ」


 透が声をかけてきたが、それを食い気味にさえぎる。

 そして、その言葉を聞いてなぜか全員の動きが固まる。


 透、どうした? 絶望した顔して。関羽はポカンとしているし。

 利莉花は少し頬を染める。伊久留も本を読むのをやめて、俺にいつもの表情を向けてる。絵夢は……俺と同じようなよくわかってない顔だ。

 そんな気まずい空気の中で最初に口を開いたのは、関羽だった。


「……え? マジで? ついに巧も、そっち方面開拓し始めんの?」

「なにを勘違いしているんだ。俺が愛するのはロリっ子だけだ」

「だよな、びっくりしたぜ。だって、その口ぶりだと、今から告白でもするのかのようだったしよ」

「俺と絵夢に限ってそれはないだろ」

「え? なんで? そんなにありえねーって組み合わせじゃねーと思うけど?」


 関羽の疑問にただ一言、きっぱりと答えた。


「俺たちはそういう出会いをしたからな――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ