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5-2 テスト勉強しなきゃ……

 学校について、ボーっとしていると、大輝が声をかけてきた。


「おはよう、巧人」

「ああ、おはよう」


 いつもなら、それだけですぐに他の人のところへいく大輝だが、今日は違った。少し真剣な面持ちで聞いてくる。


「で、どうだった? 唯愛さんのこと」

「まぁ、普通だな。変わらず、反応した」

「そ、そうか……じゃあ、また俺の家にくるか?」

「いや、いい。唯愛に話したら、分かってくれたし。たぶん、俺が考えてたようなことは起こらないからな」

「そうか……それはよかった。本当によかったよ。でも、だとすると、俺の家で考えていた作戦とか完全に無意味だったな」


 大輝は俺の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすが、同時に自分の言っていた意見が、意味をなくして、悲しそうな顔をした。

 俺は大輝をフォローするように答える。


「分かんないぜ? あいつのことだから、理解はしても自制はできないだろうから。本当にお前の言ったことが役に立つことあるかもしれない」


 いやまぁ、ブービートラップとか、新しい部屋作るとか、普通に考えておかしい意見ばっかりだったけど。

 だが、大輝はそれを聞いて、表情を少し明るいものに変えた。


「おーい、大輝~ちょっとこっちこいよ~!」

「え? ああ!」


 大輝は、クラスの男子に呼ばれて、俺に一つ「じゃあ……」と声をかけて、そいつのもとへと向かった。


「…………」


 さて、やることもなくなったし。またボーっとするか。

 俺はそうして、HRが始まるまで、何となく外を眺めていた。


*****


 放課後になり、部室へ向かう。だが、今日は金曜日。本当なら部活のある日ではない。けれど、俺や、絵夢、関羽、透、伊久留、利莉花の全員は集まることになった。

 その理由は、今日の昼休みのことに起因する。


*****


「ねぇ、ヌッキー!」


 俺が弁当を食べていると、いきなり絵夢がやってきた。


「おお、絵夢。風邪は治ったか?」

「うん。まぁね!」

「そうか」


 とはいえ、ここに来た理由はそれを報告することではないだろう。

 俺が「で、なんだ?」と返すと、絵夢は少し笑いながら答える。


「いや、もう少しでテストがあるでしょ? だから……ね?」


 そして俺は、去年のことを思い出す。

 絵夢の成績……一言で言うならとても悪い。今まで赤点はなかったが、いつもギリギリだった。だから、去年は俺が勉強を教えていた。俺も成績は別段よくなく、普通だが、それでも絵夢に教えることくらいはできる。


 そして二年になって、授業も一段と難しくなってきているからな。このままでは、全部が微妙な感じになって、すべて赤点……もありえる。

 俺は一つため息を吐くと、絵夢に言う。


「分かったよ。じゃあ、今日の放課後に部室でいいな?」

「うん! ありがとう、ヌッキー!」


 俺に感謝の言葉を述べると、絵夢は元気に教室を出ていった。

 そして、弁当を食べ終わったころ――


「なぁ、巧」


 今度は関羽が来訪してきた。


「何だ、関羽。お前が俺のところに来るなんて珍しいな」


 俺は不思議そうな目つきで関羽を見る。そうしていると、さらに珍しいことに、関羽が俺に頭を下げてきた。


「頼む! 俺に勉強を教えてくれ!」

「はぁ?」


 俺はいきなりの頼みごとに、間抜けな声を出す。

 確かに、関羽は絵夢と同じように、成績は悪い。絵夢とともに、ワンツーフィニッシュレベルだ。だから、勉強を教えてもらうように人に頼むのは分かる。

 だが、その人選に問題がある。


(そういやこいつも、昨日は休んでいたが、その間に頭が変にでもなったのか?)


「関羽……頼む相手、間違えてるだろ。透に言えよ」


 関羽だってわかっているはずだ。俺が頼まれても、わざわざお前に教えようとしないなんてことは。

 それに俺と関羽は、仲が悪いほうだ。一緒にいたら、勉強どころでなく、喧嘩を始めるのは目に見えている。


「だって、峰内が『俺は巧人と一緒に勉強するから、巧人に許可をもらってきたら教えてもいいだろう』っていうからよ~」


 おい待て、透。俺はお前と勉強なんて、承認した覚えはないぞ。


「だったら、透以外のやつに頼めよ。お前、友達は多いだろう?」


 そう、関羽は友達が多い。この変態な性癖でも、性格は度が過ぎればウザいが、基本はムードメーカーな役割を担っているからな。

 関羽になら他にいくらでも頼めるやつはいるはずだ。そして、その中に俺以上に頭のいい奴だって。

 それを聞いて関羽は「でもよ~」と気の抜けたような感じで反論してくる。


「こんな俺が真面目に勉強しようとしてるとか、何かばれたくねーしよ~。赤点は嫌だしよ~」


 なるほど……絶対に教えたくないな。


「悪いが……やっぱり他を当たってくれ」

「ええ~。ひでーよ~。教えろよ~」


 さっきからその『○○よ~』をやめろ。ウザい。


「俺は絵夢の勉強を教える約束をしているんだ。お前に構ってられるか」

「いや、別に俺もお前に構ってほしくないが、峰内に勉強見て貰うためには、お前の承諾を得ないと」

「透にも言っておけ。俺はお前と勉強する気はないってな」


 俺が答えると、関羽は「ん~」と、考えた表情をする。そして、


「わかったぜ。まぁ、それを伝えればあいつも俺の勉強見てくれるかもしれないし。んじゃ、ありがとな!」


 そう言うと、関羽は絵夢と同じように、元気に教室を出ていった。

 そしてさらに時間が経ち、俺がトイレから戻ってきたところで――


「巧人君!」


 利莉花が声をかけてきた。利莉花は俺の正面に立つと、少し前かがみになりながら、机に手を置き、目線を座っている俺と同じする。

 ……うん、やめようかその態勢。胸が強調されてますから。腕がその柔らかいものに当たって、ちょっと変形してますから。


「何だ? 利莉花?」


 俺は動揺を悟られないように、細心の注意を払いながらそう聞く。


「何って……折角友達になったんだから、お話ししようと思ってきたんだけど……ダメだった?」


(グフっ……!?)


 その、悲しそうな瞳で見つめながら、小首を傾げるのをやめろ!

 っく! まさかこんな場所で機動戦士が出てくるとは……。


「いや、ダメってことはないけど……伊久留のことはいいのか?」

「伊久留ちゃんといるのも大切だけど、巧人君といる時間も大切だから」


 笑顔――!! その顔は無理だって――! 反則だって!


「話すのはいいけど……何を話す?」

「う~ん……そうだね~」


 利莉花は考えるためか、一度机から手を離し、背筋を伸ばす。その時に、姿勢を変えた反動で、胸が揺れた。

 ダメだ……。さっきの揺れに、あの真剣に考えている表情。そして右手の人差し指をこめかみに当て、肘を左手で抑える、あの胸が強調された格好。もう、あっちのほうが限界に来ている。


 これはもう、あの胸をロリ巨乳美少女ふゆかちゃん(12)のことを考えるしか――って! そんなことを考えたら、さらに強くなるだろう! と思ったら、何か収まってきたな。悲しい。

 俺が変なところで葛藤していると利莉花は思いついたように、言う。


「もう少しで、テストがあるよね? 一緒に勉強しない?」


 なんというか……みんな考えることは同じだな。


「でも……俺、今日の放課後、絵夢と部室で勉強をする約束しているからな。それでもいいなら」

「もちろん!」


 その後は、あんまり身のない話をして過ごした。

 そして予鈴が鳴ると、


「じゃあ、放課後にね!」


 と喜びの表情を浮かべ、教室を出ていった。

 それを見送った俺は――


(……またトイレに行こうかな……)


 と思った。


*****


 こんなことがあったわけだ。つまり、絵夢に勉強を教え、利莉花とも勉強するというわけだな。

 部室の鍵は、伊久留が持っている。だから、部室を開けられない……ということはない。何故なら、ここは俺たちの場所であるという認識だからだ。


 この部室に鍵なんてかけてはいない。誰でも入れる。一時は、全員分の鍵を作るかともなったが、他人がここを使っているということも今までなかったため、この形になった。

 さて、部室についた。俺はドアに手をかけ、中に入る。すると――


「あ、ヌッキーやっと来たよ」

「遅かったな、巧人。俺のほうから探しに行こうかと思っていたぞ」

「つーか……待ってる間に、なんかやる気無くしてきたぜ……」

「これで全員揃いましたね……では、勉強を始めましょう!」


 全員がいた。もちろん、伊久留も。

 ……どういうことだ? 何故、みんないる? 状況についていけない。その場で茫然としていると、透が声をかけてくる。


「どうした? そんな場所に突っ立って。早く座ったらどうだ?」


 待て……断ったはずだぞ。お前とは勉強しないと。なんでいるんだよ。

 その俺の疑問に意外にも、関羽が答えてくれた。


「いや、俺は峰内に巧が言ったことは伝えたんだぜ? で、んじゃ教えるから放課後部室――ってなったんだよ」


 そうか……俺はこいつにどこで勉強するかは伝えていなかったからな。場所が被ったってことか。

 でも、透。たぶんお前はわかっていてここに来たよな? 俺が絵夢と勉強するとしたら、ここだと思ってきたよな? 確信犯だよな?

 いや、冷静になれ、俺。とりあえず、透が言ったように、ここで立っているのもあれだ。ひとまず座ろう。そして確信犯の使い方を間違えている。

 俺は自分の席に着く。するとすぐに、利莉花がテンション高めの声を出す。


「では、改めて……勉強を始めましょう!」

「おおー!」


 その利莉花に乗って、絵夢も掛け声を出し、手をグーにして上にあげた。


「うぇ……勉強したくねー……」


 そして対照的にテンションが低い関羽。


「俺は巧人と居れるなら、どんな時間でも楽しいさ」


 通常運転な透。


「…………」


 伊久留も通常運転。本を読んでいるな。というより、なんで伊久留もいるんだ?

 俺は事情を知ってそうな、利莉花に声をかける。


「なぁ、利莉花。伊久留がいるのはどうしてだ?」

「伊久留ちゃんは、今日巧人君と勉強するって伝えたら、私も行くとそう言ったんです」


 なるほど……。利莉花が言ったのか。まぁ何故、それを聞いて、ここに来たのかは知らないが。


「そう……言ったんです! 喋ったんです! 今日の初声がそれでした! これも巧人君のおかげです! ありがとうございます!」

「いや、別にいいが……」


 利莉花のテンションの起伏に押され気味になる。

 というかさっきから、なんかおかしいと思っていたけど、利莉花が敬語なんだな。でも、どうしてだ? 俺が利莉花のことをみつめていると、視線に気づき、少し笑う。

 そして、立ち上がり俺の近くにきて、耳打ちする。


「やっぱり、いきなり変えるのは少し難しくて。それに、こっちのスタンスも嫌いじゃないし。当分は巧人君と二人で居る時くらいかな。……なんかそれ、特別みたいでいいね」


 うお……っふぉ……。耳元で囁くのやめてくれ。悔しいほど心地いいんだ。

 それに、特別ってのもやめてくれよ。こう……心の中で渦巻くだろ。ついでにアレも。

 そんな俺たちの様子を見て、全員が不審な目を向ける。その中で、最初に絵夢が声をあげた。


「二人とも……いきなり仲良くなってない?」

「仲がいいのは、いいことだろ?」

「そうだけど……なんか釈然としない」


 絵夢はすっきりとしない顔で俯く。そんな絵夢に、俺は驚いたように声をかける。


「絵夢……釈然としないなんて言葉使えるのか。これで国語はばっちりだな!」

「ちょっと、馬鹿にしないでよ! 私、完熟じゃないんだから!」

「それは一番俺のことを馬鹿にしてんだろ!」


 絵夢のS成分が出たり、関羽が突っ込んだり、まぁなんだかんだで話がそれたな。

 利莉花も席につき直し、俺も自分の鞄から勉強道具を出していく。

 その途中で、今度は隣の絵夢が耳打ちしてくる。


(で? ヌッキーいつから、リリーのこと利莉花って呼ぶようになったの? それに、リリーからも巧人君とか呼ばれてるし)


 まぁ、隣だし。あの程度では話を逸らせないか。俺は絵夢の質問に返す。


(昨日に色々あってな。流れで)

(その流れが気になるんだよ!)

(いいから、今は勉強に集中しろよ。赤点とっても知らないぞ)

(う……でも、気になって勉強になんて……)


 俺の言葉に怯むも、食い下がってくる。このままだと、本当に赤点とか取るな……。


(わかった……後で教えてやるから。結構暗い話だし、俺から言うのは嫌なんだがな)


 俺がそう答えると、絵夢は分かった、と張り切りだす。

 本当は利莉花に許可をとってからするべきだが、絵夢になら大丈夫だろう。

 だって、『仲間』なわけだしな。

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