5-1 戻った姉弟の日常
(……何か暑い)
俺は、意識を取り戻すとそう思った。
俺はさっきまで寝ていた。それはわかる。
そして、昨日家に帰ってきた。それまでは大輝の家に泊まらせてもらっていたが、そろそろ戻るべきと判断したからだ。
そして戻ると、唯愛がやばい状態で俺に抱き付いてきた。さらに、俺が『変態』になってしまったため、その唯愛に我が息子は反応してしまった。
もちろん、わかってはいたことだ。なんせ、それが原因で家を出たのだから。
しかし、だ。俺は、白瀬……いや、利莉花と友好な関係を築き、そしてその利莉花に慣れ始めてきた(しかし、ビンビンにはなる)ので、大丈夫かと思ったのだ。だから、少し驚いた。とはいえ、この唯愛との生活も続けていかないとダメなのは事実なので、受け止めることにはした。
まぁそのあとなんやかんやで、唯愛を引き離したり、汚い家を掃除したりして……で、疲れてそのままベッドイン(意味深)をした。というわけだ。
そこまでは、寝起きでも覚えている。けれど、この暑さの原因は何だ?
俺は、辺りを見回す。すると、すぐに原因は分かった。
「すぅ……すぅ……」
唯愛だ。唯愛が俺の横にいた。寝息をたて、俺の左腕を抱き枕代わりにし、気持ちよさそうに寝ている。
……って、待て。それは俺の服だぞ? しかも、あげてもないやつだ。つーか、昨日俺が着てた服だ。
昨日は、風呂にも入らずに寝ている。つまり、俺は今全裸ということか?
なんてこった。唯愛にそこまでされたのは、これで三度目じゃないか。ここまで酷い状況にしていたのか。ちょっとだけ、申し訳ないな。
俺は、自分の姿を確認するため、布団を右手で持ち上げる。
(……着てるな。俺の服だ。でも、これは唯愛にあげたやつだな。唯愛のメスの匂いがする)
……これって、お互いの服を交換したってことだよな? ……気持ち悪い。
(さて、これからどうするか)
俺は、心の中でそう呟く。
本当なら、早く唯愛を起こすべきなのだが、そうすると不都合なことが一つ。
この、愚かに成り果てた息子のことだ。
俺は、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ! この反抗期の愚息め!
ただでさえ唯愛の柔らかい胸が腕に当たって、興奮状態になっているのに、起こしたら暴発してしまうことだろう。
でも、仕方ないんだ。俺は禁欲生活を強要されていたんだ。その中で、いおりちゃん(9)のような全身ぷにぷに肌で、凹凸の少ない最高級ボディに反応しなくなった俺は、発散するときがなくなってしまったんだ。
『年の差二歳で、背は高く、胸の大きい女性』
それに反応することは、もう仕方ないと割り切ってはいるが、それでも白き欲望を出すのは、彼女たちロリでないとダメだ。俺のポリシーに反するし、浮気はダメ、絶対だ。
というわけで、今のうちに発散しておかないと。
だが、問題がある。
一つ目、唯愛が俺の腕に自身の腕を絡ませているため、身動きがほとんど取れないということ。
二つ目、俺は今ロリでたてないということ。
そして三つ目、寝ていても、俺が始めると、唯愛が反応するだろうということ。
一番の問題は最後だ。他の二つは、まぁ、右手は空いていることと、朝だからということで解決するが、最後のだけはどうやっても防ぐことができない。
つまり――
(やるなら一瞬! その瞬間に、俺のすべてをかける!)
俺のこの禁欲約二週間の溜りに溜ったものを吐き出すチャンス……! ものにして見せる!
俺は一つ深呼吸をして――
(うおおおぉぉぉおおお!!)
一気に雄々しくそそり立ったそれを、凄まじい早さで扱く。するとすぐに、高まっていく。
「ん……たっくん……」
唯愛が反応する。だが、俺のほうももう少しで、イケる!
っく、間に合えぇぇええええ!!
「おっふ……」
…………。
……………………。
…………………………………………。
「…………ふぅ」
俺は、安堵のため息をつく。イケた……。間に合った。
なんか、ほっとすると……眠くなってきたな。
俺はその心地よさに、瞼を下していく。その時、
「たっくん!」
唯愛の声が聞こえた。俺は薄目を開き、唯愛の姿を確認する。
「な……なんて濃いたっくんの匂い……! こんなの……こんなの初めてだよ!」
唯愛はベッドの上で正座したような感じ……女の子座りをしている。
完全に目を覚ましたようだな。まぁ、もう関係ない。既に、ことは終えた後だし。
「はぁはぁ……この匂いは……たっくんの下半身からする!」
おい。なんか光ってる。目が光ってるから。
「この布団の中にそれがある……。だとしたらこの布団を上げたとき、私は今の私を保っていられる自信がないよ!」
なら、あげるなよ。
「でも……でも! この先に行かないなんて選択はありえない! 私は……この先のたっくんのたっくんを見る!」
……おい、これってもしかして、まずい? いろんな意味でまずい?
まず、見られたとしよう。すると、そこには白い、ねばっとしたものがあるはずだ。
で、何故それがあるのかを考える。今の俺は、眠くて寝る寸前。唯愛と入れ違いになっている。だから、俺が寝ている間に、それができたと予想できる。
つまり、その粘液は唯愛によってできたものだと仮定されてしまう。
そうすると、ただでさえ匂いが充満している布団を解放した後に、俺の下着を引きずりおろし、直に匂いを嗅いでくる可能性が……!
「唯愛、起きたのなら、さっさと自分の部屋に戻れ!」
このまどろみに身を任せている場合じゃないことを理解すると、俺は跳ね起き、唯愛との距離を十分に取り、そう言う。
だが、それによって布団が解放されたため、中に充満していた匂いは、唯愛を直撃した。
「たっくん……私、この匂い……無理! もう一歩も動けないよ……」
唯愛は頬を赤らめ、発情しきった目で、うっとりと俺を見つめる。
「動けないなら、そのままでいろ。俺は一回着替えるから」
「着替え!? だ、ダメだよ! そんなの刺激が強すぎるよ!」
「なら、目をつぶってろよ」
「無理だよ! たっくんが目の前で着替えているっていうのに、見ないなんてそんなのできるはずがないでしょ!」
何なんだよ、その理論は。とにかくここで着替えられないのなら、俺が服を持って、別の場所で着替えればいいだけだ。
俺は、着替えるための服を、取り出していく。
「じゃ、俺着替えてくるから」
そう伝えて、部屋を出ていこうとする。
「うぅ……たっくん……」
そんな俺に声をかけつつ、唯愛は、足をもじもじさせる。そして、潤んだ瞳で俺を見てくる。
「……なんだよ」
「たっくん、私興奮が抑えきれなくて……もう自然と手がデリケートなところに動いちゃいそうなの……」
できれば、俺の部屋でそんなことをしてほしくはないな。
「そうか……なら、換気しておくから、動けるようになったら部屋を出ていけよ」
「うぅ……たぶん間に合わないけど、そうしてもらったほうがいいかも……」
間に合わないのか……。だとしたら、窓を開けるわけにもいかないな。近隣住民に唯愛の喘ぎ声が鳴り響いてしまう。
仕方ないので、俺は部屋を出て、そのままそのドアを開けたままにした。
*****
着替える前に、シャワーを浴びる。なにせ、色々と流さないといけないものもあるし、昨日は風呂に入らず寝てしまったからな。
上がって服を着ていると、喘ぎが聞こえてきた。キモいな。
とりあえず、この声が聞こえなくなったころに部屋に戻ろう。
そうしてしばらく、居間でテレビを見ていた。
*****
「たっくん……まずはごめんね」
「あ? 何がだ?」
唯愛が元に戻り、作ってくれた朝食を食べていると、いきなり謝ってきた。俺は、理解できず聞き返す。
「だって、たっくん私のことが嫌いになって家を出ていったんでしょ? だから……」
唯愛は力なくそう言い、落ち込み視線を下に向ける。
(あー……唯愛はそんな風に思っていたのか……)
元はと言えば、唯愛が俺に抱き付いたりするのが原因だから、あながち間違ってない。が、唯愛にとっても俺にとっても、それが当たり前として浸透していた日常を送っていただけに、少しだけ罪悪感があるな。
「別に、嫌いになったわけじゃないけど、確かにちゃんと理由も言わずにでていったことは悪かったな。こっちこそごめん」
初めて唯愛に抱き付かれた時は、状況も状況で、話すことができなかったが、今の唯愛になら、話してもいいかもな。これでも唯愛は、俺のことをちゃんと心配してくれているはずだし。
「話すよ、唯愛姉……俺が家を出ていった理由」
そうして俺は、ロリコンでなくなってしまったこと、利莉花に恋をしたこと、そして利莉花や唯愛のような体の人間に反応してしまうことを伝えた。
俺が話すその言葉を、唯愛は真摯な態度で聞いてくれた。
すべて話すと唯愛は「そうなんだ……」と、言葉を漏らす。そして、俺に笑いかける。
「ありがとうね、たっくん。話してくれて」
「いや、悪いのは俺だし。前に言ったろ? 俺は自分で頼りたいと思ったとき、唯愛姉を頼るって」
「たっくん……」
「それに、これから先、唯愛姉に気づかれないようにするために悩むのも、面倒だし。だったら、知っていてもらったほうがいいかなって」
「たっくんは思わなかったの? その言葉を聞いて、私がたっくんを襲ったりしないのかなって」
「思ったよ……というより、思ってた。だから、話す気になれなかった。でも、唯愛姉に久しぶりに会って、ああ……俺が唯愛姉をこんな風にしてしまったんだなって思ったし、言わなきゃいけないってそう思った」
本当は、あの時話せばよかったのかもしれない。唯愛が俺を元気づけようとしてくれた時に。
でも、あの後唯愛がテンションを上げてしまって、話せなくなってしまった。それでも、あの場で言ってしまえば、唯愛を悲しませることはなかったんだと思う。
だからこそ、俺は今伝えた。
「それに、これは都合がいいかもしれないけど……信じてるから、唯愛姉のこと。俺のことをちゃんと心配してくれるって」
俺が、唯愛にそうして笑いかけると、驚いた表情をした後、すぐに笑みをこぼし
「うん……ありがとう。たっくん」
と、俺の言葉を噛み締めるようにそう言った。
*****
「で? 何やっている?」
俺は唯愛に向かい、呆れの籠った声でそう言う。
「何って、そのままだよ?」
そうして、回した腕で俺の体をぎゅっとする。すると、必然的に胸が当たり、下半身に違和感が走る。
「お前……さっきの俺の話を聞いたよな?」
「当たり前だよ!」
「なら……これはどういうことだ? 馬鹿姉」
俺が部屋で制服に着替えていると、唯愛が突然抱きついてきたのだ。
俺は説明した。自分に起きていることを説明した。だからここでこのような状態になることも、唯愛はわかっていたはずだ。
そして、あれを聞いたのなら、俺との接触は極力断つはずだ。なのに、これはどういうことだ?
「だって、それってたっくんを正常に戻すチャンスってことでしょ! だったら、この瞬間を逃すわけにはいかないよ!」
「……一度でもお前を信じた俺が馬鹿だったか……」
俺は額に手を当て項垂れる。
「なんてね。半分本気だけど、半分冗談だよ」
そんな俺を見て、唯愛は腕を解き、笑いながらそう言う。
「確かに、たっくんには私のことを、もっとちゃんと見てほしいけど。でも、たっくんには、いつものたっくんでいてほしいもん」
それを聞き、やっぱり、言ってよかったんだと確信する。
唯愛はそこで時間を確認する。
「あ、私もう行かないと」
生徒会の仕事か、と理解する。
「これからは、私もできる限り、我慢するからね。どこまでできるかは分からないけど」
「努力してくれるだけありがたいよ。じゃあ、いってらっしゃい唯愛姉」
「うん! 行ってきます! たっくん!」
唯愛は俺にそう言うと笑顔を向け、家を飛び出していった。