表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/130

一年生 4月-4

 ――そんな日々を過ごし、数日経つ。すると、部活の仮入部期間になった。この期間中に、自分の入る部を決めなくてはいけない。

 この学校は、必ず一つ、どこかの部に所属しないといけないらしい。

 俺としては、部活なんてしている場合ではないので、全然活動していないところがいい。

 そう思っていると、噂で聞いたことによると『現代文化研究部』と言う部がまさにそれらしい。何でも、この学校の部に全員が入るということで、俺のように帰宅部に入りたいやつは、その部に入ることが暗黙の了解となっているようだ。


 これで、部活の件はどうでもよくなった。他に何かあるとすれば、委員会とかだろうが、生憎俺はどこにも入る気はない。

 大体こういうのはクラスにつき二人とかだろうが、その計算でいけば、十人近くは余るしな。

 委員会などということよりも、俺には、なみちゃん(6)の姿を眺めたり、その写真を撮ったり、ネットで画像集めたり、と毎日が忙しいのだ。


 もちろん、それは今日だって例外ではない。

 俺はそうそうに片づけを済ませて、鞄を持ち、小学校へと向かうために教室から出ていこうとする。

 その時に、俺は後ろから声をかけられた。


「待って」


 その声はとても儚げで、今にも消え入りそうなほど小さかった。それでも、俺がその声に気付き、かつその言葉が自分に向けられたものだと分かったのは、その声の主であろう人物が、俺の服を掴んできたからだった。


 俺は振り返り、その人物を確認する。

 見ると、その姿はなるほどと納得してしまうほどに、さっきの声と一致した。

 俺は一体何の用なのかを尋ねる。すると、


「伊久留と一緒に現代文化研究部に入ってほしい」


 伊久留――と聞いて、一瞬それが自分のことを言っていると理解できなかった。

 だが、よく考えるとやはり、そこもまたこの人物に似合っていると感じた。

 その顔立ちは、身長の低さも相まって、幼さを感じさせる。

 また、自らの身長の膝辺りまで伸びた白の髪と、その半開きの目には、何とも形容しがたい儚さが現れている。

 俺はひとまず、聞き返す。


「何でだ?」

「伊久留は巧人と一緒に活動したいから」


 俺はまだ名前を言っていないのに、いつ名前を知ったんだ――と考えてから、クラスみんなで自己紹介をしたこと思い出す。そして、この人物……承全寺伊久留のことも、思い出した。


 承全寺は俺の一つ後ろの席の人物だ。別に周りを気にしていなかったせいか、真後ろにいても知らなかった。それに、こいつ自身影を薄くしている気がするしな。あんまり目立ちたくないたちなんだろう。

 しかし、いきなり巧人とは……馴れ馴れしいやつだな。


「では、承全寺。何故、俺と活動したい?」

「巧人とは……気が合いそうだから」

「そうか? 俺はそんな気はしないが。というか、どこでそう判断した?」

「今までの行動。巧人は授業が終わるとすぐに教室を出て、どこかへ向かっていった。その時の巧人の顔が、とても晴れやかで、一生懸命さがあった」


 何故かいきなり褒められて、変な気分なんだが……。それに、なんなんだ、こいつ。俺のことそんなにしっかりと見て。変な奴だな。


「で? それだとまだ理由になってないんだが?」

「伊久留は、そういう一つのことに一生懸命になれる巧人を見て、すごい人だと思った。伊久留はそんな巧人と何かをしたい」


 承全寺は、真剣な眼差しで俺に伝えてくる。

 だが、正直俺にはよくわからん。なんで一生懸命な俺の姿を見て、俺と何かしたいと思うのか。その時点で、理解できない。

 それに、一生懸命とか言うなら、俺以外にだっているはずなんだ。たった一つのことに、真剣に打ち込むってことは、相当量の覚悟が必要になるが、そんなものは、部活をするものなら、大抵は持っている。

 だからこそ、わからない。それが俺に限定されてきた理由が。


「承全寺、俺は現代文化研究部に入るつもりだ。でもな、俺は活動する気はない」

「どうして?」

「承全寺も知ってるだろ? あの部は、暗黙の了解ってやつで、帰宅部扱いなんだ。そこに自分から入ろうとしているんだから、つまりはそういうことだ」


 俺は、承全寺自身に悟らせるように、少しだけ遠回しに話す。


「それに、承全寺も言ったように、俺には一生懸命になって取り組むべきことがある。活動なんてしていたら、それが疎かになってしまうだろ?」


 そう、今だってそうだ。こんな場所で時間を食っている場合じゃない。早く承全寺との会話を終わらせて、なみちゃんのもとへ行かねば。

 俺が承全寺にもう帰っていいか聞こうとしたとき、承全寺は意外なことを喋った。


「確かに、あそこまでのロリコンだと暇はないかもしれない」

「ちょ、ちょっと待て、承全寺! お前、なんでそれを……」

「巧人のこと、つけた」


 なんだと……? この俺が、つけられた? いつだ? どこから?

 ……ダメだ。わからない。

 俺が気づかないほどの尾行術とは……こいつ、なんてやつだ。


「これで、伊久留が興味を持った理由はわかった?」


 承全寺が聞いてくる。

 確かに、何となくはわかる。俺がロリコンだとわかってなお、一切引かずに話しかけるのは、普通の人間ではありえないからな。

 俺からも聞き返す。


「お前もロリコンなのか?」

「そういうわけではないけど、似たようなもの」


 なるほど……。だが、そういうことなら……。


「……わかった、承全寺。お前と活動してもいい」


 俺と同じような存在。そんな人物は今まで会ったことなかった。

 そういうやつらがいれば情報交換やら、なにやら特有のやることができる。今まで一人では気づけなかったことや、できなかったことが、仲間の存在で変わることができる。

 ずっと、俺がほしいと望んでいた、求めていた存在だ。


「なぁ、承全寺」


 俺には、過ごす居場所がある。大切な場所がある。それが、小学校のみんなと過ごす時間であり、俺にとっての幸せだ。


「俺と友達になってくれるか?」


 でも俺は、それと同じくらいに友達って存在と仲間って存在と、大切だって、そう思える時間を過ごしたいんだ。

 少なくてもいい。それでも、友達が欲しいと思った。


「うん。だから伊久留は声をかけた」


 そんな友達を承全寺は俺に与えてくれようと……いや、一緒になってくれようとしてくれている。だから――


「そっか……」


 じゃあ、俺も――


「これからよろしくな。伊久留」


*****


 というわけで、伊久留と話をして、まず部室に来たわけだが。


「……誰もいないんだな」


 部活紹介パンフレットには、体裁上、火曜日と木曜日が活動日になっているはずだが。木曜日の今日でさえも、誰もいないのか。

 それに、誰もいないということは、部室の中には入れないわけで。


「伊久留、どうする?」

「ここにいても仕方ないし、顧問の先生の所へ行く」

「わかった」


 しかし、この行動力、すごいな。この小さな体の中に、どこにそんな原動力が。

 職員室へと向かうために二人して歩き出す。

 そして、この移動中、俺はまだ聞いていなかったことを伊久留に質問する。


「ずっと、気になってたんだが入って何をするんだ?」


 俺の疑問も当然だろう。なんせ、俺や伊久留には『現代文化』なんてものは、何の関わりもないんだ。それなのに、活動するといったってことは、たぶん内容はまるっきり関係ないことをするはず。では、何をする気なのか。そう考えていくのが普通だろう。

 伊久留は俺の質問に、一言で返す。


「部を乗っ取る」

「乗っ取るって……」


 大きく出たな。


「せっかく部室があるんだから、使わないのはもったいない。だから、部に入って個人的に使う」

「お前、顔に似合わず、すごいこと考えてんな」


 さっきからのこの行動力もだが、まだ一年生のしかも入学二週間も経ってないのに、そんなことを考えるなんて。大物だな。


「で? 乗っ取った後には、何をするんだ?」


 実際聞きたいのは、こっちのほうがメインだし。

 だが、伊久留の返答に俺は肩透かしをくらう。


「別に特にやることはない。ただ、部室でお話でもしてればいい」

「……それ、部としてどうなんだ?」

「さっきも言ったように、個人的に使うだけだから、内容なんてどうでもいい」


 おいおい……と、心の中で呆れたように突っ込む。まぁ別に、俺も特別何かしたいわけでもないし、いいんだが。それだと少しだけ俺の良心が痛む。


 そんなことを考えていると、ようやく職員室につく。あの部室からだと結構距離があったな。いや、伊久留の歩幅に合わせて歩いたからか? まぁ、どっちも要因だろう。


「じゃあ、行ってくる」

「え? 別に俺も行くが?」

「いい」


 何故かそう言われるだけで、それ以上何も言い返せなかった。

 そして、職員室に入っていった伊久留を見送って、手持無沙汰になりながらも、帰ってくるのを待った。


*****


 しばらくして、伊久留が戻ってくる。


「どうだった?」


 俺がそう聞くと、今までほとんど表情を変えなかった伊久留が、少しだけ難しい顔をする。


「顧問の先生に会って、部について聞いたけど、自分は何も知らないって」

「うわ……」


 それは顧問として、どうなんだ? 顧問だって立派な教師の仕事だろうに。職務怠慢だろ。


「部室の鍵については聞いたか?」

「うん。部長が持ってるって。だから、今の部長が誰か聞いてきた」


 さすがにそれは分かっていたのか。いや、そんなもの部の名簿を見ればいいだけだから、簡単にわかるのか。


「じゃあ次は、その人に会いに行くのか?」


 俺が聞くと伊久留は頷く。

 そして歩き出した伊久留の後を、俺も追いかけるように歩いて行った。


*****


「いなかったな……」


 俺がそう呟くが、伊久留は何の反応も示さない。

 伊久留とともに、その部長の教室まで来たわけだが、やはりというか放課後なのこともあり、既にその人物はいなかった。それに、教室内にいた人たちにも聞いた話によると、学校に残っているとも思えない。


 でも、考えれ当たり前ではある。『帰宅部』なのだから。そういう意味では、部長としては立派だと言える。

 しかし、これだと今日は他にやれることもないな。


「これは、また明日だな」

「うん」


 今度の呟きには伊久留が言葉を返してくる。

 その後はお互いに言葉もなく、自然と別れた。


*****


「ふぅ……」


 家に帰り、自分の部屋で一息つく。

 今日は帰りの時間帯のせいもあり、小学生を見れなかった。そのためか、テンションが低い。だが、悪い意味ではない。

 今日はそれに見合うといえば見合う、そんな大切な時間を過ごせたのだ。そして、これは新しい居場所で、消えることはない。それが無性に嬉しく感じる。


「さてと……」


 俺はそう言って、一度背伸びをすると


「ロリ画像収集にかかるか!」


 と、ネットサーフィンをするのだった。……俺はいつも通りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ