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一年生 4月-3

 唯愛を部屋から出してから、ずいぶんと時間が経った。その間、俺はずっと部屋で、パソコンの前に立っていたが、そろそろ時間だな。


「おっふ……」


 そう……夕飯の。


「ふう……」


 俺は汗などをぬぐった後、パソコンに表示された画像を閉じて、パソコンの電源を一度落とす。

 そして、換気のために部屋の窓を網戸にし、すっきりとした面持ちでリビングへと向かった。


*****


『いただきます』


 俺と唯愛は二人ともそういうと夕飯を食べ始める。

 俺と唯愛は別に親がいないわけじゃない。どこぞのアニメやマンガみたいに、親が海外へ仕事へ~などということもない。普通に一緒に暮らしている。

 ただ、時々出張ということで家に帰ってこれない日があるだけだ。それがまさに今日。俺の家では家族全員で食事を取るからな。


 今どき珍しいことだと思う。なぜなら思春期の子供二人がいるのだから。だが、俺はそれが普通でやってきたし、別に親のことが嫌いなわけではないので、そこまで気にはしていない。

 ただ、両親ともに、仲が未だに良すぎるため、二人のラブラブ話やその姿を聞かされたり見せられたりするのは、子として少し複雑な気分だ。出来ればやめてほしい。無理なのはわかってるんだけど。


「そういえば、たっくん。帰ってくるのが遅かったけど、どうしたの?」


 夕飯を食べてる途中で、突然としてそう聞いてきた。

 今日は入学式だ。つまりは、それ以外には何もなかった。午前中に終わった。

 それなのに俺が帰ってきたのは、午後五時を過ぎていた。そのことを言っているのだろう。

 俺はそんな唯愛に怪訝そうな目を向ける。


「別に……唯愛には関係ないだろ」

「関係はあるよ! 家族だし! たっくんのことだし!」

「…………」


 確かに関係ないこともないのか。

 でも、言った言ったで変に突っかかってきそうだから嫌だ。さっきの、画像消去の件もあるし。


 俺が何も言わないで、うーんと悩んでいると、唯愛は「まさか……」と神妙そうな顔をして、聞いてくる。


「たっくん……まさか不良に絡まれたとか? そんな……私のたっくんに酷いことするなんて……許せない! 私が成敗してきてあげるよ!」


 違う。それに、俺は『お前のたっくん』ではない。

 俺は、とりあえず否定をする。すると、俺の正面にいる唯愛は「じゃあ、一体何なの!」と身を乗り出して聞いてくる。


「唯愛……お前が知る必要はない。これは俺が守っていかなければならない秘密なんだ」

「たっくん……。私たちは家族なんだよ? 一人で抱え込まないでよ。私に共有させてよ 私はたっくんのことが大好きなんだから」


 大好き――。


「……だからこそ、言えないんだ」


 だって俺は――


 りかちゃん(10)や、まいちゃん(9)の尾行をしていたんだから。


 理由は単純だ。彼女たちを見ていたかったから。

 そのために、ずっと二人が帰るのを待っていたんだ。もちろん、待つ間に、はなびちゃん(7)やふうりんちゃん(8)を見ていたけどな。


 そして、二人が帰る時間になって、俺はつけていった。

 な~に、もう慣れたもんさ。尾行術なんてもんは、独学でマスターしちまった。だが、俺が目指しているのはその先なのさ。

 ベスト・アングル。この場所にいき、写真を撮れるかどうかだ。

 そのために通学路は、どこになにがあるのかを完全に覚えた。

 さらには、相手との距離の計算や、相手の反応の一挙手一投足を見逃さない強靭な目も養った。でないと、ベスト・ショットを逃しちまうからな。

 おかげで盗撮技術みたいなものまで身に着けちまったが、まぁ、不可抗力ってやつさ。


 だが今回はいい収穫だった。なにせ、りかちゃんとまいちゃんのツーショットだ。しかもお互いに最高の笑顔!

 やはり、自然体の笑顔が一番かわいいと再確認できた。さらに、ツーショットのおかげで、その可愛さが二倍だからな。これは一生ものの宝物だぜ。


 だが、これを唯愛に話したら、今日撮った分から昔撮った分の写真。そのすべての俺のコレクションが消えてしまうことだろう。それだけは避けねばならないのだ。


「たっくん……私じゃダメなの?」


 一番ダメだ。


「私はこんなにもたっくんのこと、心配しているのに……」


 俺も、写真が消されないか心配で仕方ない。


「ねぇお願い……私たっくんの力になりたいの。私じゃ頼りないかもしれないけど、でもたっくんのためならなんだってできるよ?」


 だってお前は俺のこと好きだから、小学生に嫉妬するじゃねーかよ。


 さてどうするかな。このままだと、ずっとこの状態だ。さっさと飯を食いたいし、唯愛にこんな顔されていたんじゃ、何となく気分も悪い。……かけてみるか。


「なぁ、唯愛。俺の目を見てくれ」

「え? うん……」


 急に言われて少し戸惑うも、素直に応じる。

 唯愛と見つめあうこと数秒。唯愛の頬が赤らみ始めたあたりで、俺は質問する。


「どうだった?」

「うん……たっくんが私に話さないのは、単に私に話すことが嫌で、そこに怯えはあるけど、それは私に話すことへの怯えで、何か嫌なことがあってそれを隠しているわけではない……ってことがわかったよ」

「そうか……じゃあ察してくれよ。俺も高校生なんだから、誰にも言えない悩みの一つや二つはあるって」

「うん……そうだね」


 そう呟くと唯愛は、再び頬を赤らめる。何故?


 いやしかし、『俺フリーク』の唯愛なら俺の目を見れば、なんとなく感情を理解できるんじゃないかと思ってやったことだが、本当に分かるんだな……こえー。


*****


 その後、食事をし終えて、風呂に入った。

 そして上がって部屋に戻ると、何故か唯愛の私物らしきものがあった。というか……おい。なんだこれは……!?


(これは……児童用の服じゃねーか!)


 明らかに、小学生が着ていそうな大きさ。そして、普通に考えて、これはゆいあ(11)の服だ。どこからこんなもの引っ張り出したんだよ。

 というより、あの目を合わせたところで、どんな想像をしたんだ。いや、確かに小学生のこと考えていたわけだが……。

 それでこれをって……。


(『俺フリーク』恐るべし……)


*****


「う……ん」


 春の暖かさを感じつつ、目を覚ます。そしてすぐさま違和感に気付く。


「……なんだこれ」


 子供服……しかも女の子もの。唯愛のもの?


(ああ……使ったもんな)


 そんなことを、昨日を顧みて思う。

 マジもんを手に入れたせいか、テンションは上がった。張り切りすぎたとも思う。それがたとえ姉の物であっても。


『自分より年下の姉』


 それが何だか、俺の中の新たなジャンルを開拓した気がした。


*****


 俺が起きると、唯愛はすでにいなくなっていた。今日も生徒会の関連で早く学校に行ったのだろう。まだ、新入生も入ったばかりで慌ただしいはずだし。

 それでも、律儀に俺の朝食を作ってくれているのは、ブラコンの唯愛らしい。

 俺はそれを、ありがたくいただくと、準備をした後、家を出た。


*****


 まだまだ慣れないその通学路を歩き、学校に着く。そして、こちらもまた慣れない校内。昇降口に入り、自分のところへ。

 未だ、中学校の時の自分の出席番号が抜けていない。一度番号を間違えて、すぐに気づく。

 靴を履くと、自分の教室へ向かうために、階段を上る。


『1-1』


 そこが俺の教室。入学式の日に、一度この教室に入っただけだ。でも、さっき靴を間違えたこともあり、今度は間違えない。

 そう思いながらいると、階段を上り終える。俺は教室の前まで行き中に入る。


 中には、すでに結構の数の人がいた。クラスの三分の二程度だろうか。いや、他クラスのやつがここにいることもありえるか。

 そんなことを考えつつ、自分の席に着く。


 当たり前だが、まだ、席替えもしておらず、窓側から縦に出席番号順に並んでいる。

 この『島抜』と言う名字で大体はクラスの真ん中あたりになる。そして今回もそれは例外ではなく、中央列前から三番目の席になった。


 こうして、この位置から景色を見ると、実に微妙だ。一番後ろの席や、一番前の席と違って、全体をみることがこの位置ではできない。必ず半分ずつしか見えない。いや別にクラスを眺めたところで何もないんだが、こうも何度も同じ景色を見てくると流石に文句もいいたくなるものだ。


 そうして、考え事をしていると、チャイムが鳴り、担任が入ってきて、HRが始まった。


*****


 昼休み。教室で一人、昼食を取る。昼食も唯愛が用意してくれた。あいつも忙しいだろうに、本当によくやってくれる。でも本人の目の前で言うと、思い上がるし、それに俺もあいつの言動には手を焼かされているので、お互い様だと割り切っている。


 しかし、面倒だ。

 まだ一年だから、基本はオリエンテーションで楽ではあるが、こういうのは別にやらなくてもいいだろ、と思うことばかりだしな。かったるい。


 それにこの時間も辛い。

 ほら、クラスの中を見てみろ。いろんなところで、人が集まっている。今の段階ならまだ、知り合い同士で食事をしているってことなんだろうが。俺にはこの学校に知り合いなんていないからな。


 中学の頃の友人は全員、違う学校に行ったし。まぁ、あいつらとは意図的に俺が違う学校を選んだわけだが。あいつらの性格最悪だしな。何度も何度も、俺のことからかいやがって。

 でも、あんなやつらでもクラスでは中心的存在だったわけだから、人ってよくわかんないな。


 このクラスでもそういう中心的存在は必ずいる。そういうやつは、大抵すぐに誰とでも打ち解け始めるだろう。もしかしたら、既になっているやつもいるかもしれない。

 だが、俺にとっては関係のないことだ。基本的に一人のほうが好きだしな。あの、中学時代だって、あいつらと仲良くしていたのは、結局唯愛が絡んでいたわけだし。

 もし、唯愛があんな行動をしていなければ、俺はあいつらと関わることはなかっただろう。

 俺はそういう人間だ。


 でも――


 大切だと思える友人は少なくてもほしいってそう思うがな。


*****


 時は流れ、放課後になる。これで、いつもの日課に励むことができるな。


 さぁ、いざゆかん! わが桃源郷へ!


 そうして俺は、急いで小学校へと向かった。

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