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一年生 4月―2

 はい。というわけで、特別とかで唯愛を部屋に入れたのが間違いでした。


「う~~ん、たっくん~~」


 抱き付いています。着替えられません。

 唯愛は俺のお腹辺りに鼻を押し付けて、すーはーとしている。

 後、面倒なことがもう一つ。


「たっくんが……たっくんが私に向かって笑顔を~~たっくんの笑顔~~私だけに向けられた笑顔! かっこいい!!」


 ええ、笑いかけたのは逆効果ですね。唯愛の変態に拍車をかけてしまった。

 まぁ、俺もどこか浮かれたところがあったんだろうな。やはり、高校生になったわけだし。


 高校生――。それは自由。だからこそ、自分の自主性が試される。


 新たな出会い。青春。夢や希望にあふれた場所。


 憧れもあった。変われるものだと思っていた。


 そして、なってみて分かったのは、やっぱり何も変わってはいないってこと。

 高校生って存在が、それだけで特別なものだと思っていた。言うなれば、大人になった。次元が違う。そんな感じ。


 けど実際に、自分が同じ立ち位置にきて、何も変わっていないってそう実感した。

 入学したやつらだって確かに、少しは大人びて見えたけど、でもまだまだ、中学生らしさも残っていて、もっと子供の時から感じていた、高校生って言うものではなかった。

 それは、なんだが憧れが消えたような悲しい感覚だったけど、でも同時に嬉しかった。

 何も変わっていないことが――。


 そう。変わっていない。俺も、唯愛も、俺と同じように入学したやつらも、俺の小学校へのみんなの気持ちも――。何も変わっていないんだ。


 俺は今感じているこの気持ちは、大切にしようと思った。


「あふ……たっくん~」


 そういや、別に唯愛だって変わったところはなかったか。普通なら、高校生というだけで、変わった気がするものだが。そう考えるとやっぱり、憧れだったんだろうな。

 俺の腹の上でとても充足した表情を見せる唯愛を眺め、そんなことを考える。

 ……さて、さすがに着替えないとな。


「おい、着替えるんだからどけろよ」

「ふぇ? ……は! ご、ごめんたっくん!」


 唯愛は慌てて俺から離れる。そして恥ずかしそうに笑いながら、言う。


「えへへ……たっくんに笑顔を向けられるなんて久しぶりだったから、お姉ちゃんはしゃいじゃった」


 はしゃいでいるのはいつものことだと思うんだが。まぁ、いいや。早く着替えよう。

 俺は姉の視線を気にしないようにして、初めに制服のブレザーを脱ぐ。次に、片手でネクタイを緩めると、そのまましゅるる、っと首から外す。そして窮屈に押し込まれたズボンからワイシャツを外にだし、そのままボタンに手をかけ、上から一つ一つ、外していく。

 そんな俺の姿を見て、唯愛はごくりと息を呑む。


「え……エロい……!」

「何がだよ」


 反応する気はなかったが、相手の言葉があれだったせいで、聞いてしまった。


「だって、たっくん! エロい……エロいよ、それは!」

「いや、普通に服脱いでるだけだろ?」

「違うよ! それはイケメンな人がやるやり方なんだよ! あ、もちろんたっくんはイケメンだよ?」


 何のフォローだよ。


「とにかく、うるさいから黙ってろよ。お前のせいで、こんな中途半端になってるじゃねーか」


 俺の今の恰好は、ワイシャツが上から三つ目のボタンを外したところで止まっている。


「や……やっぱりエロい!」


 まだそんなこと言うか。

 俺は再び、唯愛のことは無視し、着替えを続けた。


*****


 なんやかんやとあって、やっと着替え終わる。

 俺は着替えた後の洗濯物(ワイシャツ、Tシャツ、靴下)を取ろうとするが、どこにも見当たらない。妙に嫌な気がして、唯愛を見ると、その予想は当たっていた。


「すぅ~はぁ~……脱ぎたてのたっくんの匂い……とても濃い……」

「ナニヲシテイル?」


 思わず片言で喋る。


「あ、洗濯物は私が持ってくから~」

「部屋に持ってくの間違いだろ、変態」


 いつもそうだ。いや、いつもは洗濯機に放り込んだ後に持っていくが。だからこそ、目の前でこんなことされて少し驚いた。


「たっくん、何度言ったら分かるの? 私は変態なんかじゃないんだよ! この世のすべての姉はすべからく、弟を愛するものなの! これくらいはどこでも、普通な姉弟間のスキンシップなんだよ!」


 普通の姉弟のスキンシップで、愛を誓い合って結婚までいこうとするやつらはいない。


「じゃあ、その洗濯物はどうするんだ?」

「ナニに使います!」

「ド直球な下ネタはやめろ」


 そして、やっぱりそれは普通の姉弟のスキンシップではないと思う。


「それ、返せ」

「え!? なんで!?」

「目の前でナニに使うとか言われたら止めたくなるだろ。いつもそうなんだろうが……」

「わかったよたっくん……じゃあ私も、この脱ぎたてを渡すから……これでたっくんもナニをしたらいいよ」


 そうして唯愛はスカートの下に手を入れる……いや、待て。


「誰がお前の、脱ぎたてパンツなんているか。汚らしい」

「そんな! じゃあ、たっくんはこっちのほうがいいの?」


 今度は、Tシャツの中に手を突っ込む。


「だから、そんな無駄にでかいブラとかいらないから」


 それに論点がずれてる。俺が何でナニするとか、どうでもいい話のはずだ。これは、俺の洗濯物返せってだけで。

 それを伝えようとするが、唯愛は口早に言ってくる。


「でもそれだとたっくんがナニに使用するものがなくなっちゃうよ! 健全な青少年がそれじゃ、欲望がどこで爆発するか分かったものじゃないよ!」

「ふん。心配はいらない。オレにはちゃんと、自らの欲望を解放するためのものがあるからな」


 そう言うと、俺は机の上にあるノートパソコンを持ち上げて、画面を見せる。


「俺が一昨年から集め始めた、この『嗜好画像』フォルダの中に!」


 そこには一つ、画像が映し出されいた。そう、俺の集めたロリ画像である。金髪ツインテールの少女(12)が棒アイスを口に含み、軽く溶けだしたアイスが持っている右手に少し垂れていて、その状態で上目づかい……と、まぁ実にあざとい……あざといがそこがいい最高の画像だ。

 俺が誇らしげな顔をしていると、唯愛は急に大声を上げる。


「たっくん! さすがに、中学生ならまだ一般から見ても許容範囲かもしれないけど。高校生にもなって小学生は犯罪級だよ!」

「何? お前、ロリコンを馬鹿にするのか!」

「ロリなんて駄目だよ! 当たり前でしょ!」


 唯愛は俺の手からパソコンを奪い取る。


「あ、何をする!」

「こんな画像は全部消すの!」


 そういうと、『嗜好画像』フォルダを選択、右クリックして消去を押した。


「ああ――――!!」

「よし」

「何がよしだ! ふざけんな、アホ唯愛!」

「たっくん……ごめんね。でも仕方ないんだよ。これも全部、たっくんを正気に戻すために必要なことなの……だから――」

「いい話風にするな」


 くそ……。もちろんバックアップだってとってあるし、まだゴミ箱に移動しただけだから戻せばいいだけだし、最悪電気屋にでもなんでも行って復元するが。それでも、唯愛に消されるとは……。これからも、また同じように消される可能性があるってことだな。フォルダにロックをかけておかないと。

 いや、今はそれよりも――


「強行だ。返せ」


 俺は強引に唯愛の持っている俺の服を奪い取る。唯愛も、突然のことで、簡単に奪われ、「ああ――!」と叫びをあげる。


「たっくん! それ返して!」

「これはもとから俺のだ」

「そんな~……」


 唯愛は元気をなくして、その場に膝から崩れ落ちる。すごい落ち込みようだな。だが、自業自得だ。


「お前は俺を怒らせた。それだけだ」


 唯愛は小さく「うう……」と唸りを上げながら、俺を見上げて、すがるように声を出す。


「お姉ちゃんのワイシャツあげるから~~」

「一番いらないな。交渉材料にはならない」


 それと、上目づかい。やめてくれ。キモい。


「ほら、とっとと出てけ」


 俺は唯愛を追い出そうする。


「うう~~……でもやっぱり、今日だけは引き下がれない!」


 だが、唯愛は食い下がる。


「だって、今日はたっくんの初めての高校生ワイシャツなんだよ? こんな貴重なものを手に入れられないなんて……そんなのってないよ!」


 っち、面倒だな。このままだと、俺が肌身離さず睡眠も惜しんで持ってでもいない限り、そのうち取られるだろうし。だったら、こっちから条件を提示するか。そのほうが、俺にメリットが働くし。


「……わかった、なら条件だ。それを飲めたら渡してやる」

「うん! 大抵のことなら大丈夫だよ! あ、私の体操着あげる?」


 だから、いらない。


「そうだな……一週間。その間、俺や、俺の私物に触れるな。もちろんこの服以外の服も」

「一週間!? そ、そんな、長すぎるよ! 私、死んじゃうよ!」

「じゃあ三日でいい」

「う~……まぁ、一週間と比べたらまだいいかな……」


 お分かりいただけただろうか? これこそ、心理操作の一種。最初に提示された条件を一度大幅に緩和すると、その条件でいいと思う心を利用したものだ。巧みに使用できると、詐欺にさえ繋がる。でも、真人間はそんなことはしちゃいけないぞ。やっても、友人に対して、


『これ五千円で買って』

『たけーよ』

『じゃあ、三千円でいいや』

『え? あー……まぁそれなら』


 という具合に使おう。……え、これも詐欺だって? いいんだよ。騙されるほうが悪いんだ。因みに、小出しで少しずつ条件を下げていくと相手も食い下がって条件を下げてくるから注意だ。


 まぁとにかく、俺としては別に、最初から三日くらいでいいと思っていたわけだ。最初から一週間という条件を飲んでくれるなら、それでもよかったし。

 さて、それじゃ交渉は成立したんだ。俺もこの洗濯物を渡さないとな。

 俺はそう思って、唯愛の目の前に洗濯物を投げる。唯愛はそれにまるで獲物を狩る野獣のごとく形相で、飛びついた。


「はぁはぁ……たっくんのTシャツ……たっくんのワイシャツ……はぁはぁ」


 そして、とても幸せそうな顔をする。


「はぁはぁ……でもやっぱりこの靴下最高だよ!」


 キモい。いや、そんなことはどうでもいいからさ。


「とっとと出てけよな」


 俺は唯愛を部屋から引きずり出した。放心状態だったため、反抗されることもなく、とても楽だった。

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