4-6 続いていく日々
帰り道。白瀬……利莉花と並んで、歩いていた。教室では、友達宣言とかして、さらに距離は縮まったけど、今は何だかお互いに気恥ずかしくなって、言葉を交わすこともなく、微妙な空気が流れていた。
(く……この空気耐えられない。何か話題を……)
考えを張り巡らせていると、ふとあることに気づいた。
(ここって……利莉花が猫を拾っていた)
俺が、初めて利莉花と会った場所。そして、利莉花に恋をした場所。俺の頭の中にあの日のことが、フラッシュバックするように思い出された。
「どうしたの?」
俺がその場に立ち止まっていると、利莉花は不思議そうに俺に聞いてくる。
声をかけられ現実に引き戻される。と、同時に俺は思った。
(は! これは話のタネになるぞ!)
今が流れを変えるチャンス! この好機……逃しはしない!
「利莉花。二週間前の今日、ここで猫を拾わなかったか?」
「え? 巧人君、見てたの?」
「偶然だけどな」
あの時は、家に持ち帰って虐待してんじゃね? とか考えもしたな。必死に、自分の気持ちを否定していたから。
「まぁ、まさかその人とこうして、一緒に帰るような仲になるとは、思わなかったがな」
「私もびっくりしたよ。見られていたなんて」
「その猫。調子はどうなんだ?」
「さぁね。私ももう、一週間会ってないから」
会ってない?
「誰かに引き取ってもらったってことか」
「うん。そういうこと。数日は自分で面倒を見たけど、私じゃ、猫さんにあんまり構ってあげられないから。引き取って貰える人、探してたんだ」
「へぇー。よく考えてるな」
「他人に押しつけたみたいで少し気が引けるけどね」
「そうでもないと思うぞ? 数日は自分で世話しているし。それこそ、利莉花はその猫を無視したりせずに、引き取り手を探すところまでしたんだ。十分に胸を張れる。えらいことだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「そうか……へへ」
利莉花は笑う。それは気を許しているというか、自然な笑みだと思った。
「今度、会いに行ってみようか?」
「ああ。そうしたらいい」
「何、他人事みたいに言ってるの? 巧人君も行くんだよ?」
「え? いや、俺は関係ないだろ」
「巧人君だって、猫さんのことは知ってるし、気になるでしょ? 一緒に行こうよ」
なんていうか利莉花のやつ、ずいぶんと積極的だな。
「じゃ、じゃあ利莉花がそう言うなら」
確かに、気にはなるし。行っていいなら行きたい。
「やった! 決まりね! う~んじゃあいつにしようかなぁ~」
利莉花は頭を悩ませ始める。その姿を見ていると俺も自然と笑みが出た。俺が見つめていると、利莉花は気づいて、笑い返してくる。
「こうやって約束するのって、友達みたいだよね」
「みたいじゃなくて、実際にそうだろ」
「あ、そっか」
そうだ。俺たちは、『友達』になったんだ。だから、こうしている。
歩いていくと、分かれ道になる。
「私、こっち」
「俺はこっち。ここでさよならだな」
「うん。また明日ね」
利莉花はすぐに別れて帰ろうとする。それを引き止める。
「その前に、連絡先交換しておかないか?」
ケータイを出して、見せる。
「あ、そういえばまだ、私誰ともしてなかった」
「じゃあ、俺が一番最初ってことだな」
まだ、あいつらの知らないこと。友達としての更なる一歩。それが自分であることが、光栄で誇らしく思えた。
「うん。そうだね」
利莉花も、少し嬉しそうに答える。
俺達はメアドと電話番号を交換しあう。そして、終わると
「巧人君。バイバイ」
今度こそ、利莉花と別れた。俺は、利莉花が歩いて去っていくのを後ろから見送る。
そして、利莉花が見えなくなったところで、俺は思った。
(さて……これどうしようか?)
俺は自らの下を見て、心の中で呟く。それは既に、ビクンビクンとその存在を主張し、臨戦態勢に入っていた。
……俺、利莉花と『友達』になったんだよな? なのに、この反応は……。
いや、確かに、俺が『友達』以上を求めている節はある。恋をするってそういうことだと思うし。でもさ、ここまでフルスロットルで、状況も顧みないってのはどうなんだ? 正直、最低だと思うんだけど。
でさ、言いたいことがあるんだ。
(これじゃダメだろ――――!!)
実際に叫ぶと、周りから変な目で見られるアンド迷惑なるから心の中だけで留める。そして、その勢いに任せて、俺は走って帰った。でも……走りづらかった。
*****
「え!? 帰る!?」
俺は大輝の家に帰ると、唐突に家に戻ると言い出した。すると案の定というか、大輝はびっくりした顔を見せる。
「で、でもまだ作戦も何も決まってないのに」
「実際に生活してみないとわからないこともあるだろ?」
まぁ、本当は利莉花で相当慣れたし、もう大丈夫じゃね? っていう適当な理由だが。これは実際に会ってみないと分からないし。
「でも、それだと俺の家に来た意味がなかったんじゃ……」
「そんなことない。こっちに来て、色々と考えれる時間ができた。自分のことを客観的に見れたし、無駄じゃなかったよ」
「そうかよかった――っていうのもおかしいかな?」
「かもな」
大輝とは、利莉花の時とは違い、別れを惜しむようにダラダラと、どうでもいい話を続けた後、家を出ていった。
*****
で、帰ってきて――
「ふにゃあ~たっくん~」
と玄関で唯愛に抱きつかれたわけだが……。うん。
無理だったね!
普通にビックになってるぜ。いや、これは欲求不満。二週間の欲望が……。
(! そうだ。この状態でロリ画像を見て抜けばいいんじゃ……)
いや、それだと根本的解決になってないし、その画像の女の子に失礼だろ。
「はにゃあ~」
スゲー満ち足りた顔してんな。こっちはこんなにも悩んでいるというのに……。イラッとくるぜ。
しかし、帰った途端に抱きつかれるとは……唯愛を甘く見ていたな。
そして思い出される、扉を開けた瞬間に見えた惨劇の光景。その中で目をぎらつかせ、俺に視線を向けてきた。あれはまさに獲物を狙うハンターの目だった。
「はぁ……」
俺はため息を吐く。とにかく、この家片づけないとな。ったく、俺と数日離れて暮らしただけで、なんでこんな口に出すのもはばかれるほどに……。
「おい、離れろ馬鹿唯愛。家の中、掃除するぞ」
「ふへへ……たっきゅんにょ、におひ~」
おいおい。呂律が回ってないぞ。しかも、涎が出てるし。だらしないな。服につけるなよ。ってかもう、俺の首筋あたりを舐めてきそう。
「くんくん……はぁ、ぺろ」
「本当に舐めてきた! きもいから早く離れろ!」
そんなこんなで、俺はまたいつもの生活に戻っていった。
けれど、友達になった利莉花に対する俺の態度がまたおかしくなったり。唯愛に反応したり。まだまだ、俺が元のロリコンに戻るには時間がかかりそうだ。
でも、俺は諦めないぜ。絶対に戻ってみせる。
たとえ、こ○亀並の長編になったとしたって!
俺という人間の本質はそこにあるのだから――。