4-3 判明するストライク・ゾーン
時間は過ぎ、既に約一週間、水曜日にまでなっていた。そして、水曜日は再び集まって話をしようと決めていた。さらに、ついに今日、分かったことがあった。
「ふむ……なるほど」
俺は、透が集めてくれていた画像を眺めながら呟いた。
透の集めていた画像は、先週に出てきた、唯愛と白瀬の身体的特徴の共通点。背が高く、胸が大きいというもの。その二つの特徴が被った画像だ。
画像は五十枚近くあった。そして俺は一通り、すべての画像を見て、一人頷いていたのだ。ズボンの上にテントを張りながら。
俺の様子を見て、関羽は話しかけてくる。
「何が、なるほどなんだよ」
「俺のナニが何に反応しているのか分かったのなるほどだ」
「ヌッキー! ナニとか言わないでよ! 卑猥だよ!」
「事実は事実としてしか伝えることはできない」
「それって今の状況を認めてることになんねー? 否定したいんじゃねーのかよ、お前」
「ふん。認める認めないじゃないのさ。これは原理、ルールと同じだ」
関羽は「?」を浮かべる。頭の悪いやつだな。
「つまりだ。今俺に起こってる現象には法則があるんだ。だから、その法則に則って俺の体は反応する。それだけ。意志は関係ないの」
「まだよく分かんねー……」
「巧人が言いたいのは結局、おかしくなった自分が何に反応してるのかってこと」
「ああー。普通じゃないからどうでもいいってことね。何となく分かった」
何となくかよ。まぁそんなことはどうでもいいんだ。関羽のことなんかどうでもいい。
「で、ヌッキー。その法則って言うのは?」
「ああ。簡単に言ってしまえば、ストライク・ゾーンが変わったってことだな」
「ストライク・ゾーンって……いつもは小学生だから、六歳から十二歳ってこと?」
「大体な」
「けど、巧人。変わったとして、どう変わったんだ?」
「俺も、この画像を見ての憶測だが、年の差二歳ってところだと思う」
「なんで、んなこと分かんだよ」
「関羽……俺は残念に思うぞ。お前とは、仲間になれたと思っていたのに」
俺は頭に手を当てて、わざとらしく首を振る。
「え!? ちょっと、どういうことだよ!」
「どうもこうもない。……はぁ、白瀬とはあんなに絆を深めあうことができたのに、お前というやつは……」
「ちょ……!? なんで、落ち込んでんだよ! てか、また俺のこと仲間はずれにしようとしてんの!?」
「しようじゃなくて、現になってるんだよ」
「そんな! お前ら理解できてんのかよ!」
関羽は、透と絵夢に話を求める。
「その前に関羽は、今の話が何故起きているのか理解しているのか?」
「いや、実際なんで呆れられたのか分かってない」
馬鹿だからな。
「巧人は、年の差が二歳だと言って、お前が『なんで?』と返したから、がっかりしたんだ」
「だって分かるわけね―じゃんか」
「……流石に、弁護のしようもないな」
「私もだよ」
「ええ!?」
「ほらな。お前は、仲間じゃないんだ」
「嘘だろ……。リリーに、『これからお前も、俺たちの仲間だぜ』って、上から目線の態度をとったのに……いや、それならリリーだけが俺の仲間!?」
「でも白瀬は俺らの仲間でもあるがな」
「リリーもそっち側!?」
うざいな。このリアクション。関羽を白い目で見ていると、透たちが話しかけてきた。
「巧人、関羽のために話してやってくれ」
「えー」
「私からもお願い。完熟かわいそうだし」
「えー」
「お願いしやすで巧の旦那! どうか、この私めにご慈悲を!」
「えー」
つーか、関羽のはきもいって。
「まぁ、いいだろう。お人好しなあいつらのために、今回だけは特別に言ってやる」
「おお! ありがとうございます! エロ大魔人様!」
……急激に、言う気が失せたんだが。
「俺は二十歳までの女性なら見ただけで年齢が分かるんだよ」
「知ってるけど?」
「写真からでも分かるんだよ」
「それは忘れてたぜ!」
胸張って言うことか。
「あー、画像見て年齢を判別、そして差が二歳までの女性を見て、ナニが反応したっつーことね。なーる」
「またナニって言った! そういう表現は慎むべきだよ」
「じゃあ、佐土原。逆に聞くが、なんていやーいんだよ」
「え? それは……下半身に走る衝撃とか?」
「同じようなもんだろ、それ」
「そうだね……。でも、年の差二歳ってことは、ヌッキーって私にも反応……」
「しないな。それは今までが、そうだったのもあるし、何より背が高くて胸が大きいの両方の条件が当てはまり、かつこの条件が当てはまったときだ。心配するな」
「それは女として喜んででいいのか……」
「だから、透の推測は惜しかったんだよな。あと一歩及ばずってところで」
あの日に見た画像は一枚きりだったし、その画像からは年齢の判別はできなかった。つまり、画像の女性は二十歳以上だったってこと。だから、ストライク・ゾーンでもないし、反応はしなかった。
「ひとまず、今日は区切りいいし、ここまででいんじゃね?」
関羽はそう持ち掛ける。
「お前のせいで、話が進まなかったんだがな」
「そうだね。完熟の理解が遅いせいで、時間を食ったよね」
「やっぱり、関羽がいないほうが話し合いは進むよな」
「酷いって!」
大体この話し合いは、『俺が何に反応するのか』じゃなくて、『どうやったら元にもどれるのか』を話すためのものなんだが。たぶん、関羽はその辺も理解してない。
いや、それ以前に……。
「お前、早々と話を切り上げて、また何か企んでるだろ」
「え!? た、企むってなんだよ」
リアクションがあからさますぎるぞ。俺は透に視線を向ける。
「そういえば、『今日は酒池肉林、血沸き肉躍るパーティーだ! 早く家に帰って夜に備えないとな。ふふふ……明日の朝までフィーバーだ!』とか言ってたもんな」
「あ、おい!」
「なんだ。夜通しパーティーか。じゃあ明日はお前学校休みだな? ワーサビシイナ―」
「んだよ、その棒読みな片言は! 大体、休まねーよ! 普通に学校行くよ!」
「なんだよ。来るのかよ。寂しがって損した。百円よこせ」
「やらねーよ!? つーか、寂しがってねーだろ! 絶対喜んでただろ!」
「大丈夫だって。お前に会いたくないって気持ちは、透の次くらいだから」
「待ってくれ、巧人。その言葉はどういう……」
「収集つかなくなるから、そろそろやめてよね」
絵夢に突っ込まれたので、俺はやめることにした。透も俺の言葉の真意(そのままの意味だけど)を気にしていたようだが、ぐっと堪えて、その話はしなかった。代わりに、違う話をしてきた。
「でも、話し合いは着実に進んでいるし、元に戻るためのきっかけは掴めたんじゃないか?」
「ああ。そうだな。この調子で、早く元に戻りて―よ」
そうすればきっと、こんなことで悩むことはないんだし。
そうしてその後は解散となり、一日は終わった。ちなみに、このときちゃんと伊久留もいた。