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SS 島抜唯愛のぼやき

巧人が大輝の家に泊まった水曜日、朝


「くぅ……くぅ……はぁ~~たっくん~~……ほへ?」


 私は目を覚ました。けれどまだ、頭がよく働かない。ボーっとする。こんな時はこれだ。


「すぅ――……はぁ――」


 深呼吸をする。すると、どうだろう。私の頭はどんどんと覚醒を始める。


「流石たっくん成分! 私の脳内を刺激して一日の頑張りを助長してくれるよ!」


 やっぱり、たっくんの部屋は最高だよ。ここにいるだけで、私の中のあらゆる感情を満たしてくれる。

 けど、最近(五日間)は、この部屋にこれなかった。おかげで、欲求不満になってしまったよ。だから、私はこの湧き起こる衝動を止めることができない。

 私は徐々に自らの右手を、下着の上に滑らせ――


「は!? そういえばたっくんは!?」


 ……どこにもいない。


「た……たっくんがいなくなった――――!!」


 私は思わず叫んでしまう。これは一大事だよ!

 たっくんがいない。ということはつまり……誘拐!? そんなこと考えたくもない。でも、たっくんほどかっこいい人だし、その美貌に惚れてそのようなことが起こってもおかしくはない。

 うぅ……お姉ちゃんが……お姉ちゃんがしっかりしてないから、こんなことに。


「いや、落ち込んでいる場合じゃないよね! それよりもまずは警察に電話をしないと!」


 私は部屋を出て、一階に降りる。私の家には玄関付近に電話が設置してある。だから私はそこを目指した。

 そして、電話をする前に気づく。たっくんの靴がない? たっくんの靴がないということは、たっくん自身で家を出ていったということだ。もちろん、たっくんのことが好きすぎるのであれば、靴は余裕で持っていくと思うけど。それならほかにもっと持っていくべきものはあるはずだ。

 だから、私は電話をするよりも前に、『それ』を確認した。すると、『それ』は家にあった。

 私は、たっくんは誘拐されたわけでないと理解し、ほっとする。同時に、たっくんは『友達の家に泊まりに行く』と言っていたことを思い出した。


「うぅ……たっくんが不良さんになっちゃった……」


 私は、たっくんをそんな子に育てた覚えはないのに……。


「まぁ、たっくんが無事ならそれでいいけど……って待ってよ!」


 あんな時間に外に行ったら、誰に何をされるのかわからないよ! カツアゲとか、暴力を振るわれるとか……それこそナニをされるかもしれないよ! ああ……やっぱり警察に電話を……そうこうしているうちに時間は過ぎていく。そして気づいたときには……


「ええ!? もうこんな時間!?」


 やばいよ! 今日は生徒会の仕事があったんだよ!! 早くいかないと!

 そうして急いで準備をした。朝ごはんも食べず、お昼のお弁当もたっくんの分のみ用意して直ぐに家を出た。




同日、夜


「ふぅ~生徒会長っていうのもたいへんだなぁ」


 空も暗くなってきたころ、私はそう独り言を呟きながら、家に向かって歩いていた。まぁ、学校のため、みんなのためだし、私も別に嫌ではないんだけどね。ただ、それは『生徒会長』としての私であって、実際にはたっくんに会える時間が少なくなるからそれが……。


「う~ん……やっぱり今からでも、たっくんを私の高校に入れさせるべきだと思うんだよね」


 たっくんのいない学校生活……それはそう、ゲームソフトのないとゲーム機と一緒だよ!


「生徒会長をしていなかったら、私はあの学校に何も見いだせてなかったね」


 一年生のころから生徒会には入ってたから、今まで大丈夫だったけど。でも、どうしてたっくんは私と同じ学校にしなかったんだろう? 私が前に聞いたときは


『あの学校はない』


 って言われた。いい学校だと思うんだけどなぁ~。まさか学力! たっくんにはレベルが高すぎた!?

 いや、そんなはずはないよね。私はたっくんの学力を見て、この学校にはなら入れると思って、選んだんだから。それに、そういえばだけど、あの時はオープンキャンパスにもいって、学校の雰囲気とか校風とかも確認したし。たっくんが来なかった理由がまるで見つからないよ! うむぅ……謎だ。


*****


 そんなこんなで家に到着する。私は朝、たっくんが誘拐されたかもしれないと考えた。けど、もう少し様子を見るべきだと私は冷静になってから思った。もしまだ、たっくんが家に帰ってきてなかったら、その時こそは警察に……


「家の明かりは……ついてないね」


 たっくんがまだ帰ってきていない。有り得ない。こんなに遅くまで帰ってきてないはずがない。今までだってそんなことはなかったんだから。

 私はドアノブに手をかける。ガチャ、ガチャと音がするだけで扉は開かなかった。鍵がかかっていた。鞄から鍵を取り出し、差し込む。そうして私は扉を開けた。


「たっくん……ただいま」


 真っ暗な家の中に向かって帰宅の挨拶をする。けれど、返事はない。とはいえ、返事があるとも思っていない。逆にあったほうが驚くことだろう。

 私はケータイのライトを使って、玄関の電気のスイッチを探しつけた。

 靴を脱ぎ中に入る。私は家の中を探すことにした。まず、リビングに向かった。そこには私がたっくんのために用意したお弁当があったはずだ。


 リビングを覗くと、用意していたお弁当はなくなり、台所の脇のあたりに移動していた。それで私はたっくんが家には戻ってきていたこと。戻ってきたため、昨日たっくんの身に大事はなかったこと。たっくんが私のお弁当を食べてくれたことが分かった。

 お弁当はなくなっていたが、代わりにリビングのテーブルの上には一枚のメモ用紙が置かれてあった。


『暫く家には帰らない

PS これから弁当はいらない。それと、俺のことを探したりはするな』


 と書いてあった。名前は書いてなかったが、この字はたっくんのものであると私には分かった。

 私は警察に電話するほどのことはないと安心しつつも、その内容に悲しみを覚えていた。


「ひどいよ……。あんなに我慢したのに、またたっくんに会えないなんて」


 私は自分のケータイを握りしめる。

 このケータイにたっくんの番号は登録されていない。それはたっくんも同じだ。だからたっくんは書置きという方法をとった。

 家族で、連絡先を知らないのは、どうなのかと思うが、たっくんが「お前に教えたら、しょっちゅう電話やらメールやらが来て大変だ」と教えてくれない。実際に一回、やってしまったのが原因だろう。そこからはケータイを新規登録で買い、電話番号もメールアドレスも一新されて、分からなくなった。


 おかけで、今の私には、たっくんと会話することも、文字でやり取りすることさえできない。それが寂しい。

 私はケータイの画面に目を向ける。電話帳の登録欄に「たっくん」と表示された、連絡先も何も書かれていない、その画面が妙に虚しく思えた。


「はぁ……とりあえず着替えて、何か食べよう……」


 一人の家。一人の食事。それを考えてまた少しだけ憂鬱になり、ため息をついた。

 そして私はこの日、一人『たっくんの部屋』でたっくんのことを想い、『たっくんの服』を着て、『たっくんのベッド』で、『たっくんの使ってる枕』に頭を預け、『たっくんの使ってる布団』を頭まで被り、大きく息を吸って一日を終えるのであった。

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