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3-6 好きになるきっかけ

 俺からの情報もなく、話し合いが難航している時だった。ガラガラと部室の扉が開かれる。


「おー。戻ったぞー」

「あ、完熟。おかえりー」


 帰ってきたか。っち、この話し合いもここで終わりだな。

 関羽は一人一人に飲み物を手渡す。


「部長は話さなかったから、お茶買ってきたけど、これでよかったか?」

「…………」


 いつものように、視線は本から逸らさず、頷いて返す。

 関羽はその後、自分の席に戻りずかっと座り込み、「さてと」と切り出す。


「話を始めようぜ」

「いや、もうお前が来るまでに十分したからいいわ」

「え?」

「だよね。私疲れたよ~」

「え? え?」

「俺は巧人のことを考えられて幸せだったよ」

「え? じゃ……じゃあ俺の出番は……」

「ねえよ」

「うわ――――!!」


 俺がそう答えると、関羽は叫び声を上げる。


「うるせぇな。いきなりなんだよ」

「だって俺がパシられてる間に終わってるとか……ひでーよ!」

「いや、お前の出番はその前にあったから。あれで十分だろ」

「あれはあれだろ!? 今回の目的って、お前に起きた不可思議な出来事の調査のはずじゃん! そっちに絡めなきゃ意味ねーぜ!」

「お前結構ノリノリだな。俺のこと、邪魔したかったんじゃないのかよ」

「それはそれだ! 実際、巧がロリコンじゃなくなったとか、ありえねーこと起きてんだし。解明したいじゃん!」


 遊び感覚じゃねーかよ。こっちは真剣だっていうのによ。でもまぁ、協力したいって言うその気持ちは嬉しく思うぜ。

 その後も、なんだかんだと言っては関羽は一人盛り上がっている。ギャーギャー五月蠅い。仕方ないな。


「えー……関羽が駄々こねるので、もう少し続けたいと思います」

「しゃー!」


 俺の言葉にガッツポーズを作る。お前そこまでかよ。


「でも、これ以上話し合うことなんてあるの?」

「大丈夫だ。本当は全員いるときに聞こうと思ってたことがあるから」

「んだよ。あったのかよ。なら、さっさと言えよな」


 黙れ。


「みんなに言ったように俺は白瀬に恋をしている。それでさ、思ったんだよ。お前たちは人に恋をしたり……好きになったりした。そのきっかけってどんなものなんだろうってさ」


『…………』


「? 何だよ。黙り込んで」

「……黙りたくもなるぜ。いきなり、そんなに深くて、しかも真面目な話を振られたらよ」

「それに私は、人に恋したり好きになったりとかまだ分かんないよ」


 それぞれ、俺の言葉に悩みの顔を見せる。


「あーいや、少し言い方悪かったかもな。ごめん。もっと気楽でいい。絵夢ならなんでSM趣味になったのか……とかさ」


 補足すると、また一様に考え始める。しばらくした後、絵夢は答えた。


「……別に、きっかけなんてなかったよ。ただ気づいたらこうなってた」

「俺も同じかな。熟女好きになった理由って聞かれても、あの熟れに熟れった妖しく光る唇が~とか、お前が期待するような回答にはならない」

「……そうか」


 下を向いて、ため息を吐く。そんな俺を見て、透は言った。


「それこそ、好きになるのに理由なんてないと思うがな」

「……透」

「例えあったとしても、それは一瞬だ。好きになったというその一瞬。大事なのはそこじゃない。その先、好きになった人をよく知り、またどれだけ好きになるか。そうじゃないか?」


 透は俺に優しい笑みを浮かべる。ふ……まさか俺が慰められるとはな。


「そうだな……その通りだ」


 俺も透に笑い返した。しかし……。


(しかし、あそこまで変な性癖だ。原因が無いなんて絶対あり得ない)


 俺はそれを純粋に暴きたくなった。

 理由はない……つまり、自分に問題はない。環境に問題があったんじゃないか?


「なぁ、お前ら。小学生くらいの時のこと話してくれよ」

「なんだよ、藪から棒に」


 関羽は怪訝な目をする。逆に俺は驚いた顔をしていた。……関羽って藪から棒とか知ってるんだな。


「その質問も何か関係あるの?」

「まあな」

「でも、小学生の時とかアバウトすぎんぜ」

「じゃあどんな本を読んでいたかでいい」

「う~ん……私は小学生くらいの時だったら、家にあったSMの官能小説を見てたことくらいだよ」

「その時は、お前にSM趣味は?」

「いや、そこからはまっていったよ」


 バリバリ原因それじゃん。


「俺も小学生の時なら、家にあったエロ本読んでたな」


 たぶんそれが、熟女系だったんだな。いや、つーか


「お前ら、原因自覚してんじゃん」

「え? 何が?」

「明らかに、それが原因でお前らは今の自分になっただろ。絵夢なんて自分からはまってって言ってるし」

「え? あ~確かに。言われ見るとこれが原因かもね」


 おいおい。


「ここまではっきりしていて、原因が自分で分からないとか……」

「んだよ。じゃあお前は言えんのかよ。自分がどうやってロリコンになってったのか」

「姉の影響」


『あ~』


 絵夢と透は俺の言葉に納得したような声を上げた。しかし、俺の姉について知らない関羽は「え? どういうこと?」とついてこれてなかった。

 「でもさ」と絵夢は答える。


「ヌッキーはもし、お姉さんがいなければ、自分はロリコンにならなかったと思う?」


 唯愛がいなければ……。確かに、俺は唯愛が原因で年下を好きになったんだろう。でも……。


「いや……思わない」


 あの笑顔を見ていたくて、一緒にいると彼女たちのことを知りたくなって。そうしていくうちに俺は彼女達をどんどん好きになっていた。惹かれていった。ロリコンじゃなかった自分とか、考えられない。

 答えを聞いた絵夢は俺に笑いかける。


「つまりそういうこと。ね? 原因なんて実際どうでもいいんだよ。だから、たとえあっても私は覚えてない」


 ……そうか。こいつらも同じで、自分が今の自分にならなかったことなんて、考えてないんだ。それこそ透が言ったように


『好きになってそれをその先どれだけ好きになれるか』


重要なことはそこだ。いや、分かってる。ただ、俺はあいつらの原因を知りたかっただけだ。けどそんなの、どうでもいいことだって今、気づかされた。


「ああ……俺も、このえちゃん(8)を好きになった時のことなんて覚えて……いや、覚えている? まてよ。というより忘れちゃダメだろそれは!」

「え!? なんでいきなり怒るの!?」


 危うく流されてしまうところだった。俺が彼女たちにどういう経緯で出会ったのか。それは、俺の脳内に鮮明に刻み込まれている。

 ほら、今も思い出せば、公園で一人ボールを使って遊んでいたわほちゃん(11)との出会いが……。

 俺が頭の中で思い出していると関羽が「ところでさ」と話しかけてくる。


「巧って、どうして人の名前を言うたびに年齢も言うんだ? つーか、どうやって知ってんの? 本人に聞いてもないのに」


 関羽の疑問に、絵夢は頭に「?」を浮かべる。それは俺も同じことだった。


「あれ? お前、知らなかったっけ?」

「ほら、あれはまだ関羽が入る前だったから」

「あ~なるほど」


 俺たちのやり取りを見て関羽は不思議な顔をする。

 こいつのためだけに喋るのは嫌だが。


「俺は満二十歳までの女性なら月単位で年齢が分かるんだよ」

「スゲーな、おい! んだよ、その能力!」

「なんだ。俺はお前もよく()で年齢を言ってたから同じような能力を持ってるんだと思ってたぞ」

「持ってねーよ! あれは直接本人に聞いてだ!」


 そうだったんだ。


「つーか、なんでお前らは驚いてねーの? 知ってたの?」

「あ~……うん。完熟が部に入る前にヌッキー、話してくれてるから」

「お前、この部活に入ったの最後だからな。その前に築いた俺らの絆ってわけだ」

「え? じゃあ、今まで俺だけ仲間はずれだったことかよ!」

「よかったな。パシリ君。これでやっと俺達は仲間になれたぞ」

「パシリ言うな! ちくしょー……今まで騙されててたのかよ俺……」


 関羽は項垂れる。さて関羽が落ち込んだところで……。


「帰るか」

「そうだね」

「そうだな」

「ひどっ!」


 関羽は扱いに不満を漏らすが、誰も聞かないので受け入れたようだ。まぁそれに、今日はお前のした行いが悪かったからな。仕方ないだろう。

 けれど、そんなこいつからも、教えてもらったことがある。こいつだけじゃない。ここにいるみんなにだ。

 今日得られたものは、とても大切なことだ。それこそ、俺がこれからどうしたいのか、どうすべきなのかその指針にもなった。おかげ気が少し楽になれた。今改めて思う。みんなに会えてよかったと。

 どうして最初、俺がみんなを見たのか。その答えも分かった。それは


 俺がみんなを変わらずに、好きでいたのかって確認だったんだ。


「ちなみに写真からも判別できる」

『それは知らなかったよ!』


*****


「さてと……これでいいか」


 俺は一度自分の家に帰り、荷物の整理をしていた。当分、大輝に家に泊まるのだ。服とか、学校で使う荷物とか、日用品の類なんかも持ってかないといけない。

 特に、このマイPCは絶対に持って行かないといけない。まさか大輝の家で、言葉を濁さなければならないことをするわけではないが。

 もしも、家に置いていって、唯愛に秘蔵の画像フォルダを消されたら、たまったものじゃない。もちろん、パスワードロックは掛けてあるし、隠しフォルダ設定にもして、Dドライブの階層の奥深くにしまってはいるが、あいつのことだ。どれだけ時間をかけても、見つけだすに違いない。そして無惨にも消去することだろう。俺が必死になって集めた努力の結晶を……!

 そういう、色々な理由のため、今こうやって準備をしていたのだ。と言っても、もう終わったが。


「しばらく、この部屋ともおさらばか……」


 一日泊まるだけじゃなくて、何日もなんて、いつ振りだろうな。高一の時、父さんと母さんが出張でどこかに行ってしまい、唯愛が発情していた時か。あの時も、大輝に泊めてもらったな。二、三日だったと思うが、今回はどうなるか。あの時とは違って、父さんたちが帰ってくるまで一年あるからな。流石に、そんなには待てないし。


「考えるのはやめるか……」


 考えるなら、できるだけ早く戻ってこれるように……それだけにしよう。

 俺は荷物を持ってリビングに行く。まだ唯愛は帰ってきていない。生徒会の仕事で夜は大抵、遅くなる。それが分かっていたからこそ、こうやって、家に帰ってきたんだがな。

 俺はペンを取り、書置きをする。内容は『しばらく、家に帰らない』と、短いものだ。その後、思い出した……というより不安に感じたので『PS これから弁当はいらない。それと、俺のことを探したりはするな』と続けた。


 これですべての用事が済む。すると、この家や唯愛と会えないことを寂しく思った。

 俺は戸締り等を確認する。そして最後に家の鍵を閉めて、大輝の家へと向かった。

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