3-5 ナニに反応?
「げ……げほっ、げほ! た、助かった……」
『アイアン・メイデン』の中から解放された関羽が、生き絶え絶えに、空気を吸い込む。
「お前ら……マジで死ぬところだったぞ」
「でも、意識があるうちだったし。まだまだ、いけたと思うよ」
「意識なくなったら、ガチでやべーから!」
「大丈夫だ。俺らだって、お前みたいなやつを殺して捕まりたくはない」
「罵倒してないかそれ!?」
「とにかく、助かったんだからいいだろ。それと、ちゃんと反省したか、おい」
「う……あ、ああ。悪かったな」
そう言って、本当に申し訳なさそうに俯く。
「ダメだな。土下座だ。いや、俺の靴を舐めろ」
「どこまで、謝罪を求めてんだよ!」
「あ、待ってよヌッキー! 私もやらせたい!」
「佐土原まで混ざるな!」
「分かったよ。じゃあ、これだこれ。これを寄こせ」
俺は、右手の人差し指と親指で丸を作り、関羽に見せる。
「ま、まぁ少しならいいが」
「いや、こっちだ」
俺は両手の人差し指と親指同士を合わせ、そのまま指を離すように動かし、適度な位置でその動きを止め、人差し指を下げて親指にくっつけた。
「それは札を寄こせということか!」
長ったらしく、地の文でジェスチャーの説明をしたが、そういうことだ。
「嫌だ! そこまではやらん!」
「っち、どうせ持ってないんだろ甲斐性なしめ」
「いや、巧人。デートする予定だったのだから、それなりには持ってると思うぞ」
「なるほど」
「だからってやらねーよ!?」
「まったく……靴も舐めない、金も渡さない。お前、本当に反省してんの? してるなら、もっと誠意を見せてほしいんだよねぇ」
「何その、悪徳業者とか、借金取りみたいな喋り方! こえ―よ!」
大体さっきから「!」を多用していてうざいんだよ、お前。
俺が心の中で呟いてると、絵夢が「じゃあさ」と案を出してくる。
「ジュース買ってきてよ。みんなの分。もちろん、完熟のおごりで」
「ええ~。パシリかよ。それに全員って……四人分? 今じゃ、増税で自販機じゃワンコインで買えねーんだぞ」
「文句言う暇あるなら、さっさと行って来い」
「へいへい、行きますよ。いきゃーいいんでしょー」
「あ、待ってよ。まだ何買って来てもらうか言ってないよ」
「そうだぞ。それも聞かないで行こうとするとか、馬鹿かお前」
「流石に切れるぜ? おい」
そうは言いつつも、全員分の希望を聞き、関羽は部室を出て行った。
「さて、関羽がいなくなったところで話を戻そうか」
あいつのせいで話が脱線してしまったからな。あいつの居るところでしたら、また邪魔されそうだし。今のうちにやるのがいいだろう。
「それも、そうだね……で? 何について話すの」
「結局、そこに戻るんだよな」
本当、さっきからそればっかりで、全然進んでる気がしねぇ。
「もうこういう時は、承全寺に聞くのが一番じゃないか?」
「確かに。なんだかんだで部長って、的を射た発言するからね」
俺達は伊久留に視線を向ける。
「…………」
「微動だにしないな」
「私たちで考えるしかないってことだね」
「なら、今思いついたんだが、こういうのはどうだ?」
「なんだよ」
「さっきは白瀬に恋していると自覚しているといったよな。だからそれと同じように、昨日気づいたことについて話してくれないか」
「昨日気づいたこと?」
なんかあったけ? えっと、昨日は朝起きたらへれんちゃん(7)のところに行って、学校に行って、白瀬と会って、家に帰って画像を探して……あ。
「唯愛に抱きつかれたんだ」
「唯愛? 誰だ、その人は」
「あ、とおるんは知らないのか。唯愛さんはヌッキーのお姉さんだよ」
「何!? 俺が知らない巧人の情報がこんなところに……ふ。だが、これでまたお前の新しい姿を知ることができたな」
くそ。今のところ透の変態成分が出ないから安心しきっていたのに……! ここで出てきたか!
「でもヌッキー。抱きつく……って正直あの人なら普通だと思うんだけど」
「そうだ。あいつはいつも通りだったさ。だが、俺は違ったんだ。なんと……俺の休火山が活動を開始したんだ!」
「いきなり下ネタぶち込むのやめてよ!」
「でも事実だし、直接的表現は避けたつもりだ」
「そう言われると返しようがないんだけど」
「それで、マグマがぐつぐつと煮えたぎったお前の火山は噴火したのか?」
「とおるん! そこまで聞かなくていいよ!」
「いや、噴火させないように俺が抑制した」
「だから、答えなくていいよ!」
絵夢は顔を赤くして怒鳴る。どうやら絵夢には刺激が強すぎるようだ。仕方ないから、結論だけ言おう。
「ともかく、俺があの姉に反応したってことだ」
「う……その言い方もどうか思うけど、わかったよ」
「つまり、普段姉には反応しないということだな?」
「その通りだ」
「けれど、反応した」
「……なんか、ありえない話だね」
「俺だって信じ難いさ。だが、真実だ」
「威張ることじゃないと思うよ」
「それで、これで何か分かるのか?」
俺が聞くと、透は考える素振りを見せる。おお、なんか様になってる。関羽とは大違いで、かっこいいぞ。黙ってるからかな?
まぁ、今のを透に言ったら完全に終わるが(人生的な意味で)
「その唯愛お義姉さんの特徴を教えてくれないか?」
待て。何故、お義姉さんだ。だがここで突っ込んだら、また進展しないのでぐっと飲み込む。
「特徴と言われてもな……精神的なほうか? 身体的なほうか?」
「まずは身体的なほうを教えてくれ」
「あいつは、背は俺よりはないけど高いほうで、髪は長くてポニーテールで、胸はでかいな。お前の知ってるやつで例えるなら……そう、白瀬と同じような体形だ」
「なるほど……」
そうして、透は再び黙り込む。
うむ。こうして考えると、唯愛と白瀬って似てるな。気づかなかった。
「もしかしたら……巨乳に反応するんじゃないか?」
「それはまた、私がツルペタだとでもいいたいの?」
絵夢の後ろから変なオーラが出てくる。顔は笑っているが、笑ってない。まだ昨日のこと根に持ってるのか。
「だが、考えてみてくれ。さっき話してくれた特徴と白瀬とで、共通しているのは、『胸が大きい』ことだ。つまりこう考えるのが自然だ」
「待ってくれ、透。俺はネットサーフィンでロリ巨乳の画像も見たが、タたなかったぞ」
「ちょっと、ヌッキー! タつって……それは直接的過ぎるよ!」
そうしてまた絵夢は顔をぼっと赤くさせる。
「いや、二人の共通点には『背が高い』こともある。その二つの要素が絡み合って初めて、巧人のモノは反応するんだ」
「モノ……それもダメな気がする! ああ……私、感覚が麻痺しているきてるよ」
「だが、そうだな。何に反応するのか。ちゃんと確かめたほうがいいだろう。もしかしたら無差別かもしれない。まず、俺に反応するかを……」
「絶対にしないから安心しろ」
透が席を立ち、俺に近づこうとしたので制止する。
「そう言って、今まで反応してるんだ! 確かめる価値はある」
「さっきから反応、反応言うから私、少し慣れちゃったよ」
「さぁ……早く確かめよう! 巧人が俺に反応するかどうかを……」
んなもん。お前が俺に抱きつきたいだけだろ。
はぁはぁって言い寄ってくるのが、滅茶苦茶気持ち悪いんだよ。
「抱きつきでナったわけじゃないんだよ。胸をみてナったんだ。だから試すまでもないと言ってるんだ」
「だが!」
「はいはい。とおるんやめようね。時間の無駄だから」
「そうだ。んなことする暇あるなら、見たくもねーが、胸のでけー女の画像でも見せろ」
「言ってることは最低だけどのヌッキーのいうとおりだよ」
「く……分かった。なら少し探してみよう」
透は納得した……とはいい難いが頷き、スマホを取り出し検索をかける。
「……でた。これでどうだ?」
そうして、透は画面を俺に向ける。
その画像は全身画像だった。一人の女性が立ってこっちを見ている。ただ、それだけのものだ。けれど、背は高く胸も大きい。特徴はすべて捉えている画像だった。
「…………」
「どうなの? ヌッキー?」
真剣な表情で黙ったまま画像を見続ける俺に、絵夢は話しかけてくる。
「いや……何も起きないんだ」
どれだけ見ても、俺のナニに変化はなかった。その様子を眺め、透は口にする。
「一体どういうことだ?」
「さあな。俺には分からん」
大体、どうして俺は今のような体質になったのか、それも分からないしな。
「本物じゃないといけないとか?」
「だとしたら、それを今用意することはできないか」
「絵夢も伊久留もないからな」
「だからそれは言っちゃいけないと何度も……」
「今度は精神的なほうを見ていこうか」
「そうだな。えっとな、あいつは、弟ラブな変態ブラコンだ。また透にも分かるように説明するならば、白瀬の伊久留に対するあの態度を、俺に変換したようなものだな」
あれ? 言って気づいたけど、また被ってんじゃん。意外に共通点は多いのな。
「共通はしているが……白瀬は承全寺、唯愛お義姉さんは巧人に向いていることに変わりない。それを結びつけることはできないな」
「だよな」
性癖も全然違うし。仕方ないので、俺は他の唯愛の特徴を考える。
(なんかあったっけ? というか、こうやって人のことを考える機会なんてないからな。特徴とか……出てこないぞ)
俺からの情報もなく、話し合いが難航している時だった。ガラガラと部室の扉が開かれた。