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3-1 LSP離脱

 早朝。まだ、大輝が目を覚まさないほどの時間。俺は窓から外の景色を眺め、鳥の囀りに耳を澄ませていた。


「えっと……俺が大輝の家に来たのがあれくらいだったから、睡眠時間は大体三時間ってところか」


 頭の中で計算してその短さに驚く。高校生とはまだまだ伸び盛りな時期だ。同じ部類に属する俺も、もっとよく寝て規則正しい生活をすべきだ。

 たとえば、そう。男子高校生の朝の日課と言えばあれしかないだろう。


「……いや、それは自重しよう」


 寝ているとはいえ、大輝の目の前だし。それに友達の家でとか……そこまで迷惑はかけられない。でも、溜まってるんだよな。いろいろと。


「溜まってるといえば大輝は……」


 そう思って、寝ている大輝に視線を向ける。……うん。あの男の自信を粉々に打ち砕く、意味不明の大きさはいつも通りだ。

 それでだ。大輝は昨日……正確に言えば今日、俺がここに泊まることを了承してくれたわけだが、大輝は大丈夫なのか? 俺がいたら、こいつもすっきりできないだろう? たぶん。

 というか、実はあの大きさ。溜まっていて、なってるわけじゃないよな。だとしたら……いろいろ怖いな。


「いや、前に風呂上がりのを、タオルを巻いた状態から見ているし、大輝の反応も普通だったから違うよな」


 それを考えると、ますます自分の息子は背が小さいと実感させられた。へこむわ。

 話を戻して、大輝がこれから溜まっているものを、どうやって吐き出すのかについて……は考えるのはやめておこう。色々きもいし、何より俺がこんなに早く起きたのはそんなことを考えるためじゃない。


「……さてそろそろ行くか」


 俺はあらかじめ持ってきておいた、服に着替え直し、大輝の家を出た。


*****


「あ、巧人さん! 久しぶりっす!」


 そう俺に声をかけてきたのは俺の仲間の一人。『ロリータ・スマイル・プロテクターズ』略して『LSP』に所属するメンバーだ。そしてあの日……俺のバベルの塔が崩壊した日に立ち会っていた人物でもある。


「よしてくれ……お前も知っているだろ? 俺はもうお前にさんづけで呼ばれるほど、誇れる人間じゃないんだよ」

「そんなことないっすよ! 巧人さんは俺に……いや俺たちに希望を与えてくれた人じゃないっすか!」


 その場にいる全員……約五十人の視線が俺に集まった。皆が一様に、俺に声をかけてくる。


「そうですぜ、巧人の旦那。ここにいる全員があんたに救われてんだ」

「少女を愛するが故に、犯してきた数々の愚行。許されざる行為。問題児だらけのこの集団をあなたは、まとめ直した」

「そうして、教えてくれたんじゃないですか。俺たちに、ロリコンとはどうあるべきなのか」

「『自分の価値観を……愛を一方的に押しつけるな。お前たちが、彼女たちに求めるのはなんだ? なぜお前たちは彼女たちのことが好きになった? 理由は様々であれど、その根源には彼女たちの笑顔があったんじゃないのか! それなのに、今のお前たちとくれば……反吐が出る。いいか? もう一度言う。自分の愛を押しつけるな。一方通行の愛なんてそんなものただの暴力と変わりないんだよ』……あの言葉に俺はしびれた」

「そうです! 俺たちがこうして真っ当な道を歩めているのも、全部、巧人さんのおかげなんです!」

「みんな……」


 こいつら……こんなにも俺のことを慕ってくれていたのか。けど、あそこまで俺に言った言葉覚えているってのはこえ―な。


「……ありがとな。でも今日、ここに来たのはお前らに言うことがあったからなんだ」

「言うことって……なんすか?」

「俺は……このチームを抜ける」


『ええ!?』


 予想通り、全員が驚愕の声を上げる。


「抜けるって……どうしてっすか! 『島抜』だから集団から抜けるとかいうギャグじゃないっすよね!?」


 どんだけつまらんギャグだ。


「違うさ。ここにいる何人が知っているか分からんが俺の口から伝えよう。俺は既にロリコンではなくなってしまったんだ」


『!?』


「そんな俺がお前たちと一緒に居ることなんてできない」

「で、でも!」

「俺の塔は崩壊した。そして再び『建つ』ことはない。それは歴然とした事実だ」

「…………」


 俺の言葉に黙り込む。俺自身、その現実に悲しみを覚えている。それが表情に出ていたんだろう。


「俺は……恋しちまったんだ。それも、ロゼッタちゃん(6)みたいに幼さ残る、女性にじゃない。俺と同い年のやつだ。

 こんな、中途半端な気持ちのままじゃ、お前たちと居ることも、このチームでみんなを見守っていくこともできない。だから後は……全部、お前らに任せる」

「……巧人さん」

「それだけだ。じゃあな」


 そう言って、背を向け部屋から出て行こうとする。


「待ってください」


 そこで、呼び止める声があった。俺は振り向きはせず、ただその場に立ち止まる。


「私は……信じていますよ。あなたがまた私たちと同じ道を歩めることを」


 さすが……チーム『LSP』のリーダーだな。その重々しく、ずっしりとくる低い声。それでありながら、優しさが含まれた声。心に響いてくる。


「……ああ。そうだな。その時は一緒に見ようぜ。あの……輝かしい天使達の笑顔を」


 そう言って俺は、再び歩き出した。


*****


 学校に着く。『陽尚珠』(ようしょうしゅ、元は『幼笑守』でLSPとは別の略)の元から一度家に戻ったが、唯愛は既に家を出ていた。まぁ、あいつって弟狂いの変態だけど、学校では生徒会長とかやってるらしいからな。忙しいんだろう。俺にとっては好都合だが。


「おはよう」


 俺は教室に入って、大輝に声をかける。


「あ、巧人。びっくりしたよ。まさか、起きたらいないなんてさ」

「心配させたか? すまん」

「いや、いいよ。巧人に何もないならさ」


 大輝は軽く笑う。深く詮索はしないのか……ふ、俺はいい友達を持ったな。

 しかし、この言葉が透から発せられたと考えたら、とてつもなく気持ち悪く感じる。これが行いの差か。

 俺は自分の席に着く。大輝も他のやつと話を始めた。俺のほうは考え事を始めた。


(そうだ。みんなに今日、部室に集まってもらうように頼まないと)


 昨日は、白瀬が来たせいで俺の相談は途中で止まったからな。……今からじゃ、時間があまりないな。これは昼休みでいいか。

 それだけ考えて後は、ただ時間を浪費していた。

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