2-6 家出した元ロリコン
「で? ここに来たと?」
「ああ」
「……さすがに今回は呆れるぞ……」
俺は大輝に、もろもろの事情を説明して部屋に入れてもらった。どうやらもう寝ていたようだが、ケータイを鳴らして、起きてもらった。
「お前なら分かってくれるだろう? あんなやつ相手に欲情してしまっている、俺のこの気持ちを」
「いや、つっても俺お前のねーさん見たことないし」
そこで、大輝は「ふわぁ……」っと欠伸をする。
「……悪いな。でも俺には重要なことだからさ……」
「いや、そっちは理解しているつもりだよ」
「え? じゃあなんで呆れたりなんてしたんだよ」
「ただ単に、俺のケータイを三十分もコールし続けたお前の神経だよ!」
「ああ。そこなんだ」
「長すぎるんだよ。普通そこまでしないだろ。泊まる家なんて俺以外にもあるだろ? ほら同じ部活の四人……ああ、今日一人増えて五人だっけ? その中の誰かの家にいけばいいじゃねーかよ」
「透は俺のこと好きなホモだし、関羽とは性格が合わないから嫌だし。佐土原は実家暮らしだから男の俺がいくのは、変に思われる。伊久留は家を知らないし。白瀬は論外だろ。まぁ、家も知らないが」
「そりゃ絶望的だな」
俺がどうしてそこまで粘ったのか理解してくれたようだ。
「話は戻るが、お前がロリコンじゃなくなったっていうのは相当衝撃的だったぞ? 眠気が吹き飛んでもおかしくはなかった」
つまり吹き飛んではないってことだな。
「そうか……で、どうやったら戻れると思う?」
「何とも言いづらいな。結局お前、その白瀬ってやつに一目ぼれしたんだろ?」
「あ……ああ」
あんまり言いたくないんだけど。言葉に出していると、心の直感的部分じゃなくて、奥の深い部分まで、実は~って思ってしまうから。
「もう告っちまえば? 振られれば、気持ちも整理できるんじゃないか」
「嫌だな。振られるのが嫌ってものあるが、小学生以外に告白とか絶対にしたくない」
「その意志は絶体に曲げないのか?」
「ああ。それに言葉には思いのほかに魔力ってものがあるからな。好きだって告白したら本当に好きになることもあり得る」
「え? でもそれはいいんじゃないか? 巧人の心も認めているってことだし」
「いいわけあるか! ロリっ子に反応しないで、それ以外に反応する俺なんてただの変態だ!」
「そこまで強い意志があるなら、告白作戦はできると思うが……もう夜も遅いし。その話はまた今度にして寝ないか」
「ああ。あ、それと……」
「しばらく泊めてくれっていうんだろ? いいよ。元に戻る……のがベストだろうけど、せめて家で寝ることができる程度の対策が立つくらいまではね」
「……ありがとう」
やっぱり大輝がいいやつだと、改めて思った。
大輝は部屋の明かりを消す。そして真っ暗になった部屋で、仰向けになり天井を眺めていた。
数分後、目が慣れて微妙な明暗がわかるようになったころには、大輝の寝息が聞こえてきた。
今日はずいぶんと長い一日だった気がする。特に一番のイベントは白瀬に会ったこと。今日、再び出会って分かった。胸がドキドキして顔が熱くなって……この感覚は昔、俺が小学校のみんなと出会ったとき以上だ。
そうだな。俺は認めよう。
――俺は白瀬に恋をしている――
だけど、だからこそ白瀬が好きとは認めるわけにはいかない。だってそれは、あの日々を……みんなのことを愛していた日々を忘れるということだから。あってはいけないんだ。愛とは何か。それを忘れることは……。そのためにも俺はロリコンに戻る。
けどもし、ロリコンとしての自分を取り戻してなお、この気持ちが残っているならその時は――
ってちゃうねん!
思わず似非関西弁で突っ込んじまったけど、それは違うだろ! 戻ったら、ロリを愛するだけだろ! 本格的におかしくなり始めたな俺。
ああ……疲れてんのかな。早く寝よう。
俺は、そこまで考えてふっ、と眠りに落ちた。