16-7 巧人の超強力コンボ!
「でも、そんなモンスターたちでどうできるっていうんだ? 確かに上級サモンで使ったモンスターを呼び戻すって効果は強かったが……そいつらの一体一体のステータスは貧弱な奴らばっかりじゃねーかよ」
確かに、関羽の言うとおりだ。他の同レベルのモンスターと比べても明らかにパワーが低い。
ブレイクの合計も6体も居るのに、10しかない。けれど……
「馬鹿にするなよ。こいつら騎士たちは仕える王の娘である王女を守る精鋭たちだ。そして王女を起点に、全員は集結していく……。まさにこいつらの効果通りだろ?」
「それがなんだよ。たとえ王女の元に集まろうが、そんな弱さじゃ守りたいもんも守れねーだろ」
「そう。だから彼らは自分の命さえも投げ出し、王女を守ろうとする。必死に彼女を……。だからこそ、王女も彼らの身を案じ、奇跡を起こし、その加護を与える!」
……一気にいくぞ。
「麗しき王女リトルプリンセスの効果! 俺のフィールドに聖騎士モンスターの全シリーズが存在するとき、そのモンスターたち全員のブレイクを5にし、パワーを460の固定にする!」
「はぁ!?」
麗しき王女リトルプリンセス レベル1 属性光 パワー50 ブレイク1
能力
永続
自分のフィールドに、『見習い騎士アルトリウス』、『聖騎士ガウェイン』、『聖騎士ランスロッド』、『聖騎士ガラハッド』、『聖騎士団団長アーサー』がいるとき、そのモンスターたちのブレイクを5にし、パワーを460にする。
「ふん。今のお前は、ブロックできるモンスターがいないな。が、その前にお前の戦力を削るとするか。俺はさっきのお前の試合でも使われていた、ワンモアブレイクをシールドゾーンから発動! アルトリウスで、メテオワイバーンとスカイドラグーンの二体を粉砕だ!」
「ぐわっ!」
関羽ライフ 30→28
「さらに、ガウェインの攻撃! シールドすべてを砕け! 残りのランスロッド、ガラハッド、アーサーの三体はダイレクトアタックだ!」
「がっ……!」
関羽ライフ28→10
関羽のシールドのカード
攻撃完全回避 サポート コスト6
相手のバトルフェイズを終了させる。
マイナスパワー サポート コスト2
相手フィールドのモンスター1体を選択。このターンの終わりまで、パワーを100下げる。
プラスパワー サポート コスト2
デモンドラグーン レベル3 属性火 パワー210 ブレイク1
ドラグーンテイマー レベル3 属性火 パワー230 ブレイク1
「ふん……一気に形成逆転だな」
「く、1ターンでシールド全部に、ライフを20も奪うなんて……やるじゃねーか。これがお前の本気か」
関羽は強がるように言う。
だが、この状況は圧倒的だ。今の俺にはブロックできるモンスターはいないが、ライフは25。次のターンで負けることはまずない。
さらに、モンスターを破壊して削ろうにも、パワー460を超えるなんて並大抵のモンスターでは不可能。
シールドゾーンのカードが増えたが、その中にあるのはあまりいいカードとはいいがたい。
特にこんな終盤でレベルの低いモンスターでは俺の今のモンスターには太刀打ちもできないだろう。
けれど、これをどうにかしないと、ライフ10しかない関羽は、次の俺のターンにでも早々に負けてしまう。
さぁ、いつまで、そんな態度のままでいられるかな?
「いくぜ、俺のターンだ!」
関羽はカードを引き、手札を一瞥して「っち」と、舌打ちをする。
どうやら、あまりいい手札ではないようだな。関羽は上級サモンはせずに、メインフェイズへと移行する。
「へ、わかったぜ。結局はその王女様がいるからみんな強くなってるんだろ? だったら、そいつを倒してやる!」
その通り。関羽の判断は間違っていない。リトルプリンセスを破壊……そうでなくても、この場にいる俺のモンスターのいずれかを破壊できれば、超強化の効果は消え失せる。
そのために取る手段は……フレイムアスクドラゴンのような効果による破壊。
「俺はリバースをオープン! 大砲! フィールドのモンスター一体を選んで破壊だ!」
大砲 サポート コスト3
自分の場のモンスター1体を選択。そのモンスターのレベル以下の相手モンスター1体を破壊する。その後、相手にダメージ1を与える。
そして、関羽のデッキの特徴から考えても……戦闘以外の破壊も多分に含まれているのも既に織り込み済みだ。
「させない。俺もリバースをオープン。魔法の鏡」
魔法の鏡 サポート コスト3
相手がサポートを発動した時、それを無効にする。その後、そのカードと同じコストを払い、同じ効果を使用する。
「な! そんなコストの重いカードを使うなんて……!」
元コスト3で、さらに相手と同じコストを使うからな。
とはいえ俺のデッキは王女を徹底的に守り抜く構成だ。これくらいは当然だろう。
「さて、お前のマグマドラゴンは大砲の効果で破壊されてもらおうか」
関羽ライフ10→9
「くそ! なら、俺は手札から不意打ちを発動!」
不意打ち サポート コスト2
自分モンスター1体を選択。このターン、そのモンスターは縦向きのモンスターに攻撃できる。
「これで、攻撃していなかったお前の大事な大事な王女様に攻撃ができるぜ……いけ! ネオドライブドラゴン!」
そうして関羽は攻撃してくる。お前の俺のか弱きお姫様に徹底的に攻撃をしてくる気か。でも……甘い。
「言っただろ? 騎士たちはその身を投げ打ってでも、王女の身を守る……と。騎士たちの共通効果! 麗しき王女リトルプリンセスが破壊されるとき、代わりにこのカードを墓地へ送ることができる」
「んな!? マジかよ!」
驚く関羽をよそに俺はアルトリウスを墓地へと送る。
ありがとう、アルトリウス。お前のおかげで、王女は守り通せた。お前は俺たちの誇りだ。
「くそ! でも、戦闘では俺が勝った! ダメージを受けろ!」
巧人ライフ 25→24
「ふん……この程度、リトルプリンセスの命に比べれば、安いものだ」
それに、俺の痛みより、今回活躍したのはアルトリウスお前だぜ。お前のためにも俺は、この勝負に絶対に勝ってやる。
「さらにこれでお前のモンスターの強化効果は無効化された! これでまだまだ勝負はわからなくなって……」
関羽がなにやらうるさいが無視してターンを進める。
「俺はアルトリウスをサモン」
「持ってるのかよ!」
「そりゃな」
じゃなきゃ、攻撃を通してない。
さて……と気を取り直して。
「総攻撃だ! 俺のモンスターたち!」
「くそ、まだだ! シールドゾーンから発動! 攻撃完全回避! 相手のバトルフェイズを終了させる!」
焦った様子で発動を宣言する。ふん。シールドにあったカードだ。使ってくることはわかっていた。むしろ、防御手段を使わせただけでこのターンは十分だ。
「命びろいしたな。だがそのおかげで、俺のモンスターは次のターンブロック可能。逃げ場はないぜ」
所詮は、さっきのカードもその場しのぎに過ぎない。俺の優位は変わらないのだ。
この絶望的な状況を覆せるカードを……お前は引けるか?
そう、お前のエースモンスターを……。
「こい……こい! 俺のターン! ドローだ!」
そして関羽はデッキから勢いよくカードを引く。そしてそのカードを見て表情が変わった。
「きたぜ、切り札が! 上級サモン! フレイムアスクドラゴン! そして効果! 相手モンスターすべてを破壊だ!」
そう、お前のそのモンスターなら、俺の苦労して作り上げたこの強固な布陣を崩すことができる。
だがな、俺はお前のデッキの対策は万全だったんだよ。この状況も既に……予想済みだ!
「来るのはわかっていた。俺はリバースオープン! 魔法の壁を発動だ。俺はリトルプリンセスを選択!」
魔法の壁 サポート コスト4
このターン1度だけ自分モンスター一体は、相手の効果を受けない。
「それで守ったところで所詮は一体だけだぜ! 残りのモンスターたちは全員消えな!」
その声とともに、無残にもリトルプリンセスとリーダーを残して、4体のモンスターは消える。
巧人ライフ 24→19
「だが、それでも俺のライフを削りきるのは……」
「難しいな。でもこれでお前もまた同じようにモンスターを揃えるのは難しいだろ? 状況はわからなくなった」
そう思っていてくれるなら、こっちとしては好都合だ。
俺には伏せカードに、再集結がある。このカードは、自分フィールドにリトルプリンセスと、リーダーにアーサーがいるときに、コストとしてマナ5を払い、さらに手札5枚を捨てることで、発動できる。
これを使用すれば、墓地に眠る、アルトリウスたち4体を再び召喚できる。これでまた強化効果は適用され、確実に次のターンで俺の勝利となる。
既に関羽はフレイムアスクドラゴンの効果を使用し、通常サモンフェイズは終了している。
さらに、マナもフレイムアスクの効果ですべて使いきって、今の関羽にはもう何もできない。
俺はそう考えて、関羽のダイレクト攻撃とターンの終了宣言を聞くために待つ。
けれど、その予想とは裏腹に関羽は、伏せカードを発動させた。
「俺は……即席動力を発動!」
「なに?」
驚く俺をよそに関羽はさらに、手札からカード1体を抜き取り発動する。
「発動だ、ドラゴングレード!」
即席動力 サポート コスト0
このターン、自分はシールドゾーンのカード一枚を墓地へ送る毎に、そのカードを1マナとして使用できる。
ドラゴングレード サポート コスト3
自分フィールドのドラゴンと名のつくモンスターの数×2のレベル以下の相手モンスター1体を選択。破壊し、ダメージ1を与える。
ドラゴングレードだと……!? まさかこんなタイミングで……防御をいや、ダメだ! 今のままじゃマナが足りない!
「俺はシールドゾーンのカード3枚を墓地へ送り、マナとして使用。俺のフィールドにはドラゴンが一体だけ。つまりレベル2までの破壊しかできないが……それで十分!」
「っく!」
このままじゃ……!
「俺は麗しき王女リトルプリンセスをはか――」
俺は――
「俺の負けだ」
そう言って、俺はデッキの上に手を置いた。
その行為の意味はカードゲームをやっている者なら、誰もが知っているものだろう。サレンダー……。降参の意味だ。
けれど、関羽はその結末に納得がいかないというように声を張り上げる。
「な……巧! どうしてだ! そのモンスターが破壊されたところで、俺が不利ってことには変わりはなかっただろ! それなのに……」
「俺は……彼女が傷つくのはみたくなかっただけだ」
それはそう、視線を下げて答える。そして感じる自分の不甲斐なさ。
「俺はどんなときでもロリコンであることに変わりはねーんだよ。それが例え、カードゲームのキャラクターであろうともな」
そして俺はロリコンだから、あのデッキを使った。
あの騎士たちの王女を守り抜くという強い意思に親近感が湧いたんだ。
それなのに……すまなかったな。アルトリウス、ガウェイン、ランスロッド、ガラハッド、そしてアーサー。お前たちは頑張ってくれたのに。
俺は守れなかった。
お前たちとともに、最後まで姫を守り通すことができなかった。
自分自身の無力さを痛感したよ。
「彼女を守り切れなかったのは俺の責任だ。だからリトルプリンセスを倒されてしまうそんな状況を創り出してしまった時点で俺の負けなんだよ」
「巧……」
「そんな顔をするな。お前はあの俺の鉄壁の布陣を完璧に崩したんだ。間違いなく、お前の勝利だ。胸を張れよ」
そこには最初の関羽に負けたくない、絶対に勝つという気持ちはない。
純粋に関羽へ称賛を送りたいという思いからだった。
「次は決勝だな。頑張れよ」
「……ああ!」
関羽は手を差し出してくる。
俺はそれに驚きつつも、すぐに柔らかく笑って握り返す。俺たちはそうして熱い握手を交わしたのだった。
ちなみに、俺の勝負の間、外野の声がなかったが、それは「先輩がすごく真剣に戦っていたので、あまり邪魔してはいけないと思って」ということだった。