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16-1 カードゲームをしよう! の巻

「はぁ……はぁ……っく!」

「ゆけ……我が写し身のモンスター……絶望神獣フェンリルよ! やつのすべてを喰らい尽くせ!」

「うっ……ぐわあああああっ!」


「……どうした? さぁ、立て。希望の使徒よ。これこそが最後の戦い。長きに渡り続いた、2世界の結末の勝負。お前こそが最後の希望。ここで負ければ、お前の大切なものは何も守れず、消えていくのだ。そう、今私に対抗できるのはお前だけ。お前だけが、世界を救うことができるのだ」

「うっ……ぐあぁ……っつぁ……はぁはぁ。わかっているさ……それくらい」


「ならば、立ち上がれ。そして私と戦え。これまでの因縁に決着をつけようぞ。……だが、この状況……。貴様はボロボロになり、仲間もただ一人だけ。お前は、絶望しているのではないか?」

「絶望だと? そんなもの……俺はしない!」

「ふ……やっと立ち上がったか」


「俺はずっと……前を向き続ける! どんなに失敗しようが、どんなに最悪な状況になろうが、俺はどんなときでも諦めはしない! この戦いだって世界の命運なんて関係ない。俺はただ、全力でいつも通り戦うだけだ!」

「ならばこい! この圧倒的な状況。勝つ見込みがない場で、どうするのか……。貴様のその全力とやらで、私を倒してみろ!」


「勝負ってのは……最後の最後までわかんねーもんだぜ! 希望を持ち続ければ勝利はある! さぁいこうぜ。相棒。そして、俺の仲間たち! 俺に力を貸してくれ!」

「!? な、なんだ! 奴から溢れてくる力は……!?」


「来てくれたか……俺の相棒……。俺とずっと今まで戦ってくれた……もう一人の俺自身。苦しい時も楽しい時も。俺はずっとお前とともにいた。これで最後になんてしない。ここで勝って、また一緒に何度だって戦おうぜ! そのためにお前の真の力……みせてくれ!」

「ありえない……。あの力を……人間が使うだと? 心弱き、醜い生物が……。奇跡を起こしたとでもいうのか!?」


「我が写し身のモンスター……フレイムアスクドラゴンよ! その地獄で鍛え上げた究極なる業火で、すべての悪を焼き尽くせ! エターナル・インフェルノ!」

「ぐぅ! 馬鹿な! この熱量は……この私が……この私がぁあああああ!!」

「うおおおぉぉぉ! 消え去れ! そしてつき進め! 俺たちの……未来のために!」

「ぐあああああああ!!」

「……俺たちの……勝ちだ」


 最後の敵を倒し、たたずむ主人公。そして、エンディングテーマが流れ始める。

 最終回ということもあり、通常とは違い、守られたその後の日常が一枚絵で流れていく。そんなテレビアニメをみていた人物が一人……。


「うぉおおお……すっげー……すっげー! 燃えたぜ!」



*****



「と、いうわけでやろうぜ! カードゲーム!」


 いつものように部活の日。部室に集まると関羽が突然としてそう言った。


「何がというわけで、だ。意味わからん」

「なんでも、日曜の夕方ごろにやっている『モンスターバトルズV』というカードゲームアニメを見て、それが面白そうだったからやってみたいそうだ」


 透がフォローを入れて説明してくれる。なるほどな。関羽らしいな。


「ふ~ん。にしても、適当なタイトルだな」

「んだよ! 別にいいだろうがタイトルの話はよ! それに分かりやすくていいだろ? 大体、作品の質ってのは問題は内容だぜ!」


 まぁ、その通りだが。


「それで? そのカードゲームをやればいいのか? 一人でやってろよ」

「一人でやってもなんも面白くねーだろ!」

「でも、少なくとも俺たちを巻き込むなよ。そうだな……透とでもやってろ」

「俺もそんなに興味がないんだが……それ以前に、俺は巻き込まれてもいいという意味か?」

「いや、お前なら関羽と仲いいから……いいかなって」

「それなら、俺よりも佐土原のほうが仲はいいんじゃないのか?」

「おう、そうだぜ! 佐土原、どうだ!」

「んー……私、あんまりそういうのは得意じゃないっていうか……」

「んだよ、お前ら! ノリわりーな!」


 そうして関羽は頭を抱える。

 つーか、うっせーよ。もう少し、落ち着きを持て。


「くっそー……あのときの世界の命運をかけてトランプをした時のお前は……どこにいっちまったんだよ!」

「ああ……あったね~そんなことも。……ふ、忘れてしまったよ。そんな昔の記憶なんて」

「うおー! なんか哀愁の漂った強敵感が……!!」


 すごく仲いいな、お前ら。やっぱり、同じレベルってあるよな。お互い楽しそうだし、もうそうやって遊んでろよ。


「だが……例えお前が忘れようが、俺は忘れることはない! あの戦いはすごく苦しかったが……熱い勝負だった。俺は今のお前のふぬけきった闘志を奮い立たせてやる!」

「戦い……か。何度やっても虚しいものだ。結局その先に得られるものなど、何もないというのに。私たちはそれをとめることができないでいる。本当に……虚しいものだな」


 ……何やってんだ、関羽。世界の命運をかけた戦いをまたしようっていうのか。状況的に絵夢がラスボスなんだろ? 平和的に解決できるってのに……アホか。

 絵夢のほうも絵夢のほうで、なんか悟ってるキャラになってるし。マジで強敵感あるな。


「戦いは虚しくなんてない。そこには戦うものの想いが乗せられているんだ! みんなそこに、自分なりの理由を……正義をもって戦うんだ。だからこそ、それは真剣勝負で……楽しいんじゃねーかよ!」

「それが虚しいというのだ。誰もが自分のために戦う。自らの信じるもののために。そこには、いいも悪いもない。なのに、必ずどちらかは淘汰される。そして勝ったものこそが正義としてあがめられる。この世に悪などないのに。何故、戦わねばならんのだ」

「……それがお前の信念なんだろ? だったら、その正義の元に戦ってみろよ。そうやってただ語ってるだけじゃ、絶対に見えない景色ってものがあるんだぜ?」

「ふん……結局はそうなるのか。私もまだまだ甘いな……。だがその通りだ。今のこの世……戦いを止めるためには、戦うしかないのだろうな」

「……いくぜ!」

「……こい。……だが」


 そうして互いに向かい合い、これからというときに……絵夢は素の声に戻って答えた。


「カードゲームはやらないよ」

「何故だ!」


 テンション高すぎ。急に大声を出すな。耳キーンなる。

 いや、関羽のそれも分からなくもない。あそこまで乗ってくれていたのに、この結果だもんな。絵夢も相当だな。いや当然というべきか。


 関羽は最後の助けを求めるように利莉花を見る。そんな関羽に苦笑しながら、申し訳なさそうにして返した。


「私も……そういうのは触れたことないですから」

「うっく……だよな~……。リリーってそういうイメージあるし。そりゃやらないよなぁ……」


 うお、あの関羽が落ち込んでやがる。いっつも結構おざなりな扱いばっかりしてるけど、こんな姿は見たことない。珍しい光景だぜ。

 落ち込んでいる関羽をよそに、望は俺のほうに目を向けて答える。


「ボクはとりあえず、先輩がやるというのならやります」

「ああ、そう言う意味なら俺も、巧人がやるならやってもいいな」

「なに!? よし、だそうだ。やろうぜ、巧!」


 だから、俺を巻き込むな。つーかもう復活したのか。はえーな、おい。


「いやだ」

「そう言わずにやりましょうぜ~エロ大魔人様~」


 その名前で呼ぶな。しかも、利莉花と望の前では初めてだから、ちょっと変な目で見てるだろ。しかし、立ち直った上に望と透の言葉のせいで何度も纏わりついてきそうだな。

 ……これは一度引き受けて、やってやった方が楽か。まぁなに、適当に1回やってやれば満足だろう。


 俺はそう思って、一度ため息をつくと、答えた。


「わかったよ。やってやるよ」

「うっしゃー! これでやっとバトれるぜ!」


 関羽は子供みたいに喜ぶ。それを俺は微笑ましく……なんて思いはしない。むしろ呆れた。感情の赴くままって……もう少しは抑えろよ。高校生だろ。


「んじゃ、巧の了承を受けたってことでお前らもやってくれよな!」

「はい! いいですよ! ボクは先輩とだったらなんだってやります! どこででもやります!」

「俺も……巧人と熱い戦いを交わせるかと思うと……興奮してきたな」


 おい、お前ら。何か変な意味に聞こえるからやめろよ。

 関羽はさらにたずねる。


「佐土原とリリーは?」

「皆さんがやるというなら。これも遊びですし、私はやってみてもいいですよ?」

「おー! そうか! サンキューだぜリリー!」

「ん~……じゃあ私もいいよ? ここでやらないと私だけ仲間はずれみたいになるし」

「よっし! さっきは嫌がっていたのに引き受けてくれるなんて! これこそ、巧の力……引いては、巧をやる気にさせた俺の力だぜ!」


 そんな馬鹿なことを言いながら、ガッツポーズを作る。

 俺はそんなアホな関羽は無視して、二人に話しかける。


「本当にいいのか? お前ら?」

「うん。さっきも言ったけど、仲間はずれは嫌だし。今までにやったことないこと、楽しんでみたいからね。それに……」


 そこで絵夢は一度、間を溜める。そして悪戯な笑みを浮かべて答えた。


「ヌッキーがやるからっていうのは間違ってないしね!」

 

……絵夢もか。変なこと言ってからかいやがって。なんだよ、俺の力って。意味わからん。


「利莉花もいいのか?」

「はい。私には馴染みの薄いことではありますが、それは皆さんも同じようですし。戦略を練るゲームなら結構得意ですよ?」


 ああ……分かる。関羽じゃないけど、そのイメージならある。物覚えはいいだろうし。ルールや一枚一枚のカード効果もすぐ覚えちゃうだろうな。案外、利莉花はカードゲームとかやってみたら強いかも。


「それじゃあ最後に……部長! やってくれますか!?」


 関羽が少し改まった口調で向き直りたずねる。すると、伊久留はこくんと頷いた。関羽は「よっしゃー! これで全員!」とか、またうるさく叫んでいた。

 そんな様子を眺めて、利莉花は優し気な表情で言った。


「……伊久留ちゃんもやるようですし。みんなで遊ぶのってやっぱり楽しいじゃないですか」


 なんという慈愛。その微笑みとか全部合わせて破壊力が抜群すぎる。古臭いがほれてまうやろーって叫びたくなってくるぜ。


 けど、今までにやったことない……か。確かにそうだな。俺たちは所詮、この部室に集まって、部員で遊んでいるに過ぎない。

 そうしていると当然、やることも限られ、次第に飽きて退屈していく。それを打破するように、前に利莉花の提案で尾行なんてことをしたが……それと同じだな。


 いきなりカードゲームをやろうだなんて突飛なことは、関羽くらいじゃなきゃ思いつかなかった。これもまた、俺たちらしい新しい遊びだな。


 それに、望というメンバーも増えたし。これからはもっと、新しい何かがみつかるのかもしれないな。


 こう考えると、今のままでいいと、そう満足していたのに、変わっていく日常を楽しんでいる俺がいる。……いや、それでいいんだよな。俺はただあれ以上に楽しいことを思いつかなくていただけなんだから。俺も……もっとみんなと楽しく遊びたいだけなんだな。


「さ~ってと! これで人数も揃ったし……いよいよ大会らしくなってきたぜ!」

「……は? 大会?」


 俺は関羽のした呟きに、我に返ったように反応する。何だか嫌な予感がするんだが……。


「そう! 勝ち抜き戦のトーナメントでな。ここには……7人か。んじゃ、俺が適当に一人連れてくるから、8人でトーナメントだ!」

「ちょ、ちょっと待てよ。今やるんじゃないのか?」

「何言ってんだよ。だってお前らまだカードを持ってねーだろ? それなのにできるわけねーだろ」


 さも当然と言ったように、関羽は答える。普通に貸してくれるものだと思っていたんだが違ったのかよ。てか……


「俺は降りるぞ」


「はぁ!? んでだよ! さっきはやるっつってただろうが!」


 関羽は突然意見を変更した俺に怒ってくる。けれど、まぁ、そこだけを抜き出せばわからなくはない。

 が、問題はこいつの考え方だ。俺は関羽に冷めた目で返した。


「なんでだと? 当たり前だろうが、むしろ何故、そこまでしてお前に付き合ってカードゲームをしないといけない? カードを貸してくれるならまだしも、自分の金掛けるなんて。もったいないだろ」


 しかも、その一回の大会のためだけにだし。

 やるとなればそれなりのデッキをくまないといけないが、強いカードになると1枚で1000円とかするらしいし。せめて、縛りをつけないと、財力=デッキの強さという理不尽なゲームになるぞ。


 それなのに、あんなものに金をかけてどうなるってんだ。趣味にしたって、特別役に立つものでもないし。

 後、ルールも覚えないといけないよな。……面倒極まりない。


 とにかく、タダで遊べないのなら、カードゲームをするなんてありえないことだ。それは俺だけじゃなくて、他のみんなだって同じことのはずだろう。

 俺はその辺の事情を考慮しての当然の発言であったのだが、関羽は反論してきた。


「あ、どうせあれだろ! 俺に負けんのが怖いんだろ! それで急にそんなこと言い出したんだろ!」


 カチン。


「この俺が、負けるのが怖いから……だと? ……上等だ。そんなに言うんならやってやるぜ!」


 俺は勢いに任せて関羽からの誘いに乗る。あんな言い方をされたら、俺の負けず嫌いの精神が黙っていない。ましてや、あの関羽相手に……。絶対に勝ってやる。


「おお! やる気になったか! うっしゃー! んじゃ、大会は次の部活の日ってことでいいな!」

「ああ。その日にてめーをぶちのめしてやるから、覚悟しておけよ」

「はっ! やれるものならやってみろよ! 俺のスーパーデッキで返り討ちにしてやるぜ!」


 そんなやり取りをしてにらみ合う。それが済んだ後、関羽は立ち上がる。


「じゃあな! 俺は大会に備えて、早速デッキの強化をしてくるぜ!」


 そうして、急ぎ足で部室を出て行った。

 ふん、デッキの強化か。ということは少なくともあいつは既にデッキを完成させて、調整に入っているという事か。

 それに対して俺はまだ、カードも買っていない。ルールも覚えていない。完全な初心者で、デッキ構築のノウハウもわからない。状況的には俺の圧倒的に不利だ。

 それでも、やるからには全力をつくす。それが俺のやり方だ。


 大会までそんなに時間はない。今は少しでも時間が惜しい。まずはさっさとカードを手に入れるところからだな。そうしないと、何も始まらない。そうと決まれば……。


「よし、俺もカードを買いに行く」


 そうして俺は鞄を持って立ち上がる。すると、


「だったら俺も」

「ボクも!」


 と、望と透も俺について来ようと立ち上がった。それに対し俺は、


「いや、俺は一人で行く」


 と、手で制する。


「なんせお前らは大会に出れば、敵になるんだからな。ここで、俺の使うカードをお前たちに知られるわけにはいかない。既に勝負は始まっているんだ。情報戦で負けるわけにはいかない」


 使用カードがばれれば、それを対策したカードとか入れられるかもしれないし。

 デッキが判明された時点で、それに対抗した戦い方と言うものもある。全デッキに対して、そんなことする時間は今の俺たちには残されてなどいない。


 ということはここでの情報のアドバンテージは相当なものとなる。


 本当、こう考えると、自分のデッキをくみ上げて。相手のデッキの対策もして……マジで時間が足りないぜ。

 だが……


「待ってろよ関羽! 俺の考えうる最強デッキでお前をぶちのめしてやるからな!」

「巧人君も大概ですよね……」

「まぁヌッキーも単純な人間だからねぇ~」


 何か絵夢たちが言っていたような気がしたが、そのときの俺には聞こえてはいなかった。

遅くなりました。すみません。

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