15-4 キャラ被り追加メンバー同士で話をさせてみよう! 編
というわけで再度やり直し、最終的には――
伊久留
利莉花、透、関羽
望、絵夢、巧人
という具合になった。
今回は最初のくじ引きの後に出た関羽の意見を採用し、利莉花と絵夢が同じサイドにならないように、先にどっちかに引いてもらい、その後は逆側になるくじだけで引いてもらうというやり方を取った。
これだと伊久留が省かれるのだが、あいつは自分の席がいいとも言っていたし、利莉花も「伊久留ちゃんの声を聞けたのでもう満足です!」と、ハナ歌混じりに言っていたので、まぁいいのだろう。
それに、「前より伊久留ちゃんとの距離が近くなりました!」と、嬉しそうにもしていたしな。
一番うるさかった関羽もついに文句を言わなかったし、俺もこれなら何も言う事はない。まぁ正直、望が移動したくらいでほとんど変わりがないが……二度目のことを考えると、これでいいのだろう。
そうして席替えも一息ついたところで、望が、不思議そうに伊久留をみて話し出した。
「それにしても部長先輩って喋れたんですね。ボク初めて聞きました」
そういや、望って俺たちのこと観察していたんだっけ? それがどのくらいか知らないが、その間も喋ってないんだろうし、そりゃ驚くか。
「ふ……望くんは早い方だよ。私なんて部長の声を聞くの、半年かかったからね」
威張って言う事じゃないだろ、絵夢。
「えー、そうなんですか? ……部長先輩ってよくわかんない人ですね」
まぁ、あの伊久留は俺たちじゃ推し量れないような存在だしな。
というか、なんだその部長先輩って変な呼び方。せめて部長か、伊久留先輩とかにしろよ。それじゃ、あだ名じゃねーかよ。
その言葉を聞いていて思い出したのか、「あ、そうだ」と絵夢は声を上げた。
「そう言えば、まだ望くんのあだ名を考えていなかったよ!」
「あ~……やるんだ。それ」
「当然だよ、ヌッキー! これも私の恒例行事だからね! え~っと、何がいいかな~……」
絵夢は頭を捻って考え込む。そんなに考えるものか? 少なくとも、俺たちに対して呼んでいるのは3秒くらいで思いつきそうな安直なものばっかなのに。
と、そこで一つ思いつき、俺は気になって望にたずねてみる。
「そう言えば、望は俺たちのこと絵夢先輩と透先輩とか先輩をつけて呼ぶけど、なんで俺は『先輩』だけなんだ?」
「そんなの決まっているじゃないですか! ボクにとって先輩は先輩しかいないんですよ!」
「……いや、まったく意味が分からん」
俺のこと先輩って呼んでるせいで、どっちがどの『先輩』なのか、理解できない。
「つまりは他の人につけている『先輩』は愛称みたいなものです。『さん』とか『ちゃん』とかみたいな」
なるほど。絵夢先輩って呼んではいるけど、あくまで『絵夢さん』とかなのか。
……案外そんなものじゃね? 『先輩』って。
「対して、先輩にはちゃんと尊敬の念が込められているんですよ! つまりボクが言いたいのは、ボクにとって先輩という目上の人を敬うように思っている気持ちは先輩だけってことです!」
……ようは、他のやつは先輩だと思ってないってわけか。
……今明かされる衝撃の真実だな。絵夢よ、これだと本当に後輩はできたが一生頼られるとかなさそうだな。あっても、友達感覚だ。
しかしこれも、こいつ自身のプライドの問題なのか? こいつ、自分のことが世界一。自分が中心に世界は回っているみたいなこと考えるやつだし。
まぁその割には、気の小さい奴でもあるけどな。周りを下に見ているというのは、間違いないだろう。
その中でなぜか俺だけ敬われているがな。……ホント、なんでだろう。結局こいつが俺を好きになった理由とかわかんないままだったし。う~ん。
(……今は考えても仕方ないか)
それに知ったところで何ができるというわけではない。それよりも今は望との接し方とか付き合いかたを考えていくとしよう。
と、俺が考えをまとめ終えたところで、絵夢はようやくあだ名を思いついたようで、それを口にする。
「う~ん……のぞむん!」
「透のときと被ってんな。あと、むんって……個人的な語感ではあるが、あまりいい響きじゃないな」
「じゃあ、のぞみん!」
「また『ん』かよ。てか、そのなにも思いつかなかったときに、名前に『ん』を入れるって適当すぎて可哀想になるよな」
「別にいいでしょ! 可愛いよ!」
可愛い……のか? というかまず、お前は可愛いかどうかとかであだ名にしていたのか?
だとしたら……ヌッキーはありえねーよ。センス疑うぜ。今頃だがな。
まぁ、絵夢の言う通り俺には別にどうでもいい問題だ。俺のヌッキー以上に酷いものでなければ、止める理由は特にない。所詮、呼ぶのは絵夢だけだしな。
「というわけで、改めてよろしくね、のぞみん!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。絵夢先輩!」
「はぁ……それにしてもいつ聞いてもいい響きだねぇ~先輩って」
絵夢はうっとりとした様子でその言葉に酔いしれる。
こいつ……さっきまでの俺との会話を聞いてなかったのか。……まぁ知らないやつには知らないままでいたほうが幸せだろう。こんな風に、笑顔になれるんだからな。
「さて、というところで一つ私は言いたいことがあるんだよ」
絵夢は改まった調子でそう切り出す。何がと言うところでなのかは知らないが、俺は続きの言葉を待った。
「それはリリー……あなたについてだよ!」
「え? 私……ですか?」
いきなり指名されて利莉花は戸惑う。というか、絵夢の真意が分からなくて俺もまだクエスチョンマークが頭を離れない。
そんな俺たちの緊張感のなさとは裏腹に、絵夢は興奮した様子で続けた。
「そうだよリリー! 今、リリーは自分のキャラ存続の危機に瀕しているんだよ!」
「はぁ……」
利莉花はまだ飲み込めていない様子だ。うんいや、俺もまだだけど。
「唯一、敬語で喋っているキャラだったのが、のぞみんの登場で、消えてしまった。リリーのアイデンティティの一つがなくなってしまったんだよ!」
あ~そういう意味か。まぁ確かに、二人とも敬語だし……字面だけで見たりすれば、ごっちゃになったりするかもな。別に、姿が見えるから関係ないけど。
「というわけで新キャラ同士で会話! 私たちは黙っているからね!」
「えぇ!?」
驚く利莉花をよそに、絵夢は黙り込む。そしてじっと利莉花と望の様子を見続ける。
俺もこの場は絵夢に乗って、黙って様子を眺める。他のやつらもみんな同じようで、部室がしーんっと静まり返る。
「うぅ……本当にだんまりですね」
そんな俺たちの様子に利莉花は小さくそう呟くと、意を決したように望に向かい合う。
「えっとその……望くん……元気ですか?」
「…………」
「うぅ……巧人くぅ~ん……」
おい、早いぞ。さっきの決意したような目は何だったんだ。
こんなに早くに泣きついてくるんじゃない。しかも、後輩に負けてるなよ。
いや、それよりも元気ですかってなんだ。もう少し何かあるだろ。望も何か反応してやれ。可哀想だろ。
情けない姿をさらした利莉花に俺は少し呆れていると(そんなところもなんかいいんだけど)、望がようやく口を開いた。
「というより、利莉花先輩。ボクにも敬語なんですね」
「あ、これは癖みたいなもので……誰にでもそうなんです」
そうだ。利莉花という人間はそういうやつなんだ。その中で敬語で喋らないのは……俺くらいなのだ。
……なんだろうか。この無駄に感じる優越は。
「そうなんですか。育ちの良さですかね?」
望は適当な感じで相槌を打って返す。
望のやつ……言い方にトゲがあるな。透の時ほどではないけど……何かをうかがっているというか。
利莉花は百合だし……それは望もわかっているよな? しかも、伊久留が大好きな。
透と違って望には関係のない相手に思えるが……一体、利莉花に何があるんだ?
「えっと、そうだ! 望くんは今まで何の部に入っていたんですか?」
そんな望の態度にまったく気づかない様子で、利莉花は思いついた質問をする。
「ボクは元から現代文化研究部に入部していましたよ。ただ、他の人と同じ帰宅部としてだっただけです」
「そうなんですか。じゃあそれだけ放課後は時間があったってことですよね? その時間は何をしていたんですか?」
「別に普通ですよ。その辺をぶらぶらしたり、家に帰ってゲームしたり……というか、どうしてボクがそんなプライベートなことを喋らなきゃいけないんですか」
そしてまた望は突き放すように答える。
それに利莉花も慌てた様子で、言葉を続ける。
「あ、嫌なら答えなくていいんです! ただ純粋に気になっただけですから」
「…………」
「…………」
利莉花のその言葉を最後に二人は黙ってしまい、また部室は静かになる。
……居心地の悪い空気だな。周りで見ていてそうなんだから、利莉花はどれだけそうなんだ。
俺は耐えきれずに絵夢に小声で話しかけた。
(おい、いいのか? このまま二人っきりで会話なんてさせて。なんか、ドンドンと気まずい雰囲気になっていくんだけど)
(えーそうは言うけど、こんなところで終わらせたら今後もっと悪くなっちゃうよ?)
(そうかもしれないが……。このままじゃ、それこそ溝が深まるばかりじゃないか? せめて、話題を一つ与えてやった方が……)
そう言いながら俺は再び、利莉花たちのほうへ視線を向ける。
利莉花はきまずそうな顔で俯き加減に望を見ている。対する望は少しむすっとした顔でじーっと利莉花の顔を見ているな。もうホント、見てていたたまれないよ。
(う~ん……そうだね。わかったよ)
絵夢もその様子を見て少し考えたようにした後そう呟くと、(なぜか)立ち上がって二人に向かって話しかけた。
「は~い! 二人とも聞いて!」
絵夢の声に反応して二人は目を向ける。利莉花のほうは助かったとでも言ったように、顔を輝かせている。
……でも、悪いな。今からは抜け出せるが、まだ助かってはないんだ。
「リリーとのぞみんってば、中々会話が弾まないから、私から話題を一つあげよう! それについてお互いに話し合ってね!」
「えぇ!? ま、まだこれ続けるんですか!?」
「当然っ! じゃあその話題の発表だけど……『自分の好きなことについて』っだよ!」
その絵夢の言葉を聞いて、利莉花は聞き返すように、繰り返す。
「好きなこと……ですか?」
「うん。題材についてのことなら、どんなものでもいいよ! じゃあ、私はまた黙るからね!」
絵夢は座り直すと、口にチャックをするように、両手で口を抑えた。