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15-1 憂鬱な1日の始まり

「はぁ……」


 学校につき、席に座って早々にため息をつく。

 と言っても、これが初めてじゃない。もうすでに、今日は何度も学校に来るまでにため息はついた。


「お~い。どうした、巧人? 元気ないじゃん」


 そんな俺に心配そうに声をかけてくる人物がいた。そんな稀有な奴はこのクラスには一人しかない。


「おぉ大輝……なんか久しぶり」

「ああ、うん。久しぶり……ってそうじゃなくて、どうしたんだよ巧人」


 戸惑いつつも俺に返事をして、さらに本当に心配そうにまた聞いてくる。

 あ~それにしてもマジで久しぶりな気がする。この1ヶ月ちょいくらい全然会話をした記憶がないしな。どうせだし、大輝に話をしてみるか。そうすれば、気が紛れたりするかもだし。


「実はな、現代文化研究部に部員が一人増えたんだ」

「へぇ~そうなんだ。それでそれがどうかしたのか? また、ロリコンじゃなくなるほどに重大な事件でも起こったとか?」

「さすがにそこまでじゃないが……俺にはすごく重大なことだな」


 そう……重要だ。死活問題だ。


「その増えた部員は後輩なんだが……そいつホモなんだ」

「あ~そうなんだ……。また大変な人が入ってきたね」

「ああ。しかもそいつ俺のことを好きだと言ってきやがって……」

「え? 確か巧人って既に一人……峰内くんに……」

「そうだよ、二人目なんだよ」


 大輝に言われて、その事実を突き付けられたようになって俺はため息をつく。ったく、なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。何の罰だ。俺がそんなに悪いことをしたのか。


「ま、まぁいいんじゃない? モテモテだし……」

「いいわけあるか。どこに世界に、男に好かれて喜ぶやつがいるんだよ」

「一応、そういう世界になら……喜ぶ人もいるんじゃない?」

「俺はそんな世界の住人じゃない。ここの、ノーマルの世界の住人だ」


 そしていいと思っているなら、視線を泳がすな。ちゃんと俺をみてはっきりと言え。


「と、とにかく、今日は木曜で部活があるから、会うのが憂鬱だと。そう言う意味だね?」

「その通りだ」


 俺は話を反らして逃げた大輝のことは見逃して頷く。

 このままホモワールドについて談議なんてしていたくはないしな。

 それよりも今は望のことだ。


 あいつとはこの前の部活の帰りに会ったのが最後だが……あのとき、ちょっとかっこつけてしまった。あれでさらに好きになられてしまうってことも考えられるんだよな。

 いや、あれは仕方のないことだとは思っているが。それでもそうなってしまったのだと考えると……やっぱり嫌だ。


「まぁ……俺にはこれ以上は何も言えないけど……その、頑張ってな?」

「ああ今はその言葉だけでも、ありがたいぜ」


 そうしてチャイムが鳴りHRが始まるまで、とりとめもないくだらない話をしたのだった。



*****



「はぁ……」


 部室で自分の席についたところで、俺はため息をついた。

 今日は本当にため息が多いな。でもしかたないのことだ。


「どうしたんですか、先輩? ため息なんてついて?」

「いや……そういや、そうだったなって思ってな」

「?」


 望は俺の言葉に不思議そうに見上げてくる。

 ……そう、俺の右腕に抱き付いた状態で。


 そうだったんだ。結局、席の問題は何も解決していなかったな。完全に忘れていた。

 あの日はもう、それどころじゃなくなっていたからな。

 と、そんなことより今は――


「離れろ」


 俺は冷たい視線で望を睨みつける。ここまですれば、こいつも自分が迷惑かけていると気付いて、さっさと腕を離すだろう。


「ああ……その蔑んだような視線……最高にぞくぞくときます! もっと……もっとボクのことを見てください!」


 そしてさらに強く抱きつかれる。しかもこいつ……キラキラと何かを期待した目をしているし、頬がほんのり赤い。さらに、よだれが少しでている……。今ので興奮しやがったな。


(あーもう、変態の扱いって難しい!)


「てか、涎つくからマジで離れろ! 汚い!」

「うへへ……。先輩に……ボクをマーキング……」


 うわああ!! こいつ……目がいってやがる! 今の言葉で変態に餌を与えてしまったか! 状況がさらに悪化するとは……俺としたことが一生の不覚!


「おい、誰か助けてくれ!」


 もう俺の手には負えないということで周りに助けを求める。

 こういうときは……そうだ。透だ。あいつは望と同じホモだし。この前もアイツのことを叱っていた。

 あいつならこの状況を打破してくれるに違いない――


「ふむ……。なるほど、そう言う考え方もあるか……。俺もいずれ巧人にマーキングを……。」


 冷静に見てんじゃねーよ! つーか、普通に不安になること考えるな!


 やはりダメだ。俺に対して邪な感情を持つやつに頼ったこと自体が間違いだった。やっぱこういう時は――


「絵夢、助けてくれ!」


 こいつが一番だ! アイコンタクトできるほどの仲。昨日は機嫌が悪くてあれだったけど……今日なら!


「う~ん……いいけど、実はさっきの望くんへの言葉攻めをみていたら……なんだか……ねぇ?」


 っく、ここで条件だと! いやらしい笑みを浮かべやがって。俺が断れないとわかっての行為だな。


「へへ……へへえ……先輩の匂いとボクの匂いを……交換」


 だ、だが今の望は人語が通用する相手ではない。このままだと俺が全身望色に染め上げられてしまう。背に腹は代えられないか。


「……今度またSMに付き合ってやるから……今は頼む!」


 俺がそう答えると絵夢は満足そうに微笑む。そして椅子を引いて席を立つと、俺の右側へと周り、軽く望の体を後ろから抑える。


「じゃあ……はい。これで逃げれる?」


 よし……絵夢がいなくなって左側にスペースが開いたし、俺に寄りかかっていた望もこれなら、引き離しても倒れ込むことなんて事態は起こらないだろう。


「ああ、十分だ」


 俺はそう返して望から逃げるように左側へ体を逸らし、腕を思いっきり引き抜く。

 これでようやく、望という脅威から逃れられたな……。その望はと言うと――


「先輩……せんぱ~い……」


 ご覧の様子で、未だに我を忘れていた。

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