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14-2 初めての出会い……by望

 俺は校庭に出ると、その木の下へと向かいながら人影を探す。


(さーってと……どこにいる?)


 近くに寄っていくと、誰か人が見えてきた。あいつか?

 そう思いながら、さらに歩み寄っていく。そして俺は重大なことに気付く。


(……あれはどういうことだろうか?)


 俺がそう思うのは当然だ。何故なら、そこにいたのはどう見ても男だったから。

 いや、どうみてもは少し語弊があるかもしれない。男にしては少し小柄な身長。それに中性的な顔立ち。あれで男ものの制服を着ていなければ見る人が見れば、女性にもみえるかもしれない。

 まぁ、俺からすれば男女の判別なんてものは見た瞬間でわかる。だから少なくとも俺にとってはどう見ても男なのだ。


 さて、とするとここで問題が生じる。まず何よりも俺がこの後どうするかだ。

 大まかに分けると二つ。そっと帰るか、このまま会うか。幸いにもまだ相手には気づかれてない様子だし、知らないふりして帰ることはできる。


 そして俺は相手が男だと分かり無性にそうしたく思っている。だって、普通に考えてもみろ。相手は男だぞ? どう考えても人違いだろ。透のような異端はともかく、男が男に告白なんぞするはずがない。きっと下駄箱を間違えたとかそういうベタなやつだ。あの手紙には宛名は書いてなかったし、十分あり得る話だ。

 だったら俺は帰ってもいいはずだ。間違いを伝えてもいいが、それはむしろ恥ずかしいだろうし。


『男なら自分で開け希望道』


って誰かが言っていた。

 この程度で終わる恋なんてものはやめておくべきだ。

 それに間違ったのは自業自得だしな。自分で気づけ。それにお前も男ならあんな手段ではなく、直で呼び出せ。


 けれど、まだもう一つの可能性がある。

 ここまであいつが手紙の相手だとして話を進めてきたが、実はあいつは関係がないパターンだ。


 でも、ほぼこっちはないと思っている。だって、今は木の下にはあいつ以外には誰もいないし。この後やってくるにしても、俺はそれなりの時間、放課後になってから考え事をしていたため間を取っている。

 それなのに来ていないのは、真面目じゃなかったか、何かしらの事情があるからだろう。事情があったならあっちに非がある。例え俺が帰っても、あっちも仕方ないと思うだろう。そして、真剣ならもう一度呼び出すくらいはするはずだ。

 さて、色々と頭で考えつつ総合したが。これは……


(よし。帰ろう)


 俺はそう結論付けて踵を返す。全く、無駄な時間を過ごしたな。それに無駄に緊張とかもしたし。

 まぁ、振る必要もなくなってよかったか。ただ断る気満々でやってきていただけに、少し恥ずかしい気持ちでいっぱいだが。


「…………」


 俺は少し歩いた後、振り返る。男を見てみると、そこから読み取れる、ちょっと不安な表情。やはり、誰かを待っているのだろう。あの表情を見ていると、何か胸に引っかかる。


(……まぁ、なんだ。帰ってもいいけど、会ったところで別に何も変わらないし。一言伝えるくらいなら会ってもいいんじゃないか?)


 大体少し関わってしまったから、中途半端に知っている状態だとこう、気になってすっきりとしないし。ちょっとくらいは手伝ってやろう。


 それに……暇だ。帰ったところでやることも何もない。それこそ、少しくらいは時間を無駄にしても、むしろ暇つぶしとなるはずだ。


 俺はそう思うと再び、木の下へと近寄っていく。そんな俺に相手は気づくと、顔をぱっと明るくし、声をかけてきた。


「先輩! きてくれたんですね!」

「え?」


 俺は思わず驚きの声を上げる。

 俺を見て話しかけてきたってことは……間違ってない? 相手は俺であっているのか? いや、ってことは何だ? こいつも透と同じ人種とか言うことか? いやいや、待て待て。それは絶対あり得ないだろ。


 ということはあれか。告白じゃないんだな。もっと別に何か……頼み事があるんだな。俺とこいつは特に面識もないし、頼まれるようなことなんて一切想像できないけど。

 それよりも、まずは確認を取ろう。


「えっと……この手紙はお前が俺にだしたもの……でいいんだな?」

「はい! そうです! はぁ……でもよかったです。いきなり待ち合わせ場所だけをかいた手紙を渡したので。来てくれないかもって思ってました」


 相手……蔵良はほっとした様子でため息をつく。……やっぱり俺であっているらしい。しかし、何故俺なんだ。別に学校じゃそんなに目立つ人間じゃないと思うんだが。

 知り合いも少ないし、仲介役なんてありえないだろうし。一体どんな理由で俺に頼み事なんてしようっていうんだ。


「……で? 蔵良望……だよな? 俺に一体どんな用があるんだ?」

「あ、はい。先輩をここに呼びだした理由はですね……」


 俺がそうたずねると、蔵良はそこまで言って一度口を止める。そんな頼み辛い内容なのか? 俺はそんなことを考えつつ、相手の言葉を待つ。

 そしてしばらくすると、俺を見上げるように見て決心した様子で答えた。


「……ボクと付き合ってほしいんです!」

「は?」


 ……付き合う? 付き合うって……なんだ? 男女交際?

 いや、違う。そんなはずはない。まず男女じゃなく男男だし。恋人とかそう言う意味じゃないだろう。きっと別の意味だ。

 付き合うじゃなくて……突き合うだな。……何を突き合うっていうんだよ。うん、待て。一旦落ち着こう。もっとひどくなってるぞ、俺。


 俺はひとまず蔵良に目を向けてみる。……少し頬が赤い。恥ずかしい気持ちがあったということか。


(ってことはなんだ……? こいつマジで俺に対してホの字のホなのか!?)


 いや待て。待つんだ俺。早急だ。まだ勘違いのパターンがあるはずだ。

 そう付き合うってのが『買い物に』って意味だとか。そう言うあれだろ。ここはその辺のことをたずねてみるべきだ。


「付き合うって……何をするんだ?」


 俺が直球にたずねると、蔵良はさらにぼんっと顔を赤くする。おいおい、やめてくれよ。その反応は不吉すぎる。

 俺は自分の顔が青くなっていくのを感じながら蔵良の言葉を再び待つ。


 蔵良は恥ずかしそうでしおらしい口調で答えた。


「ボクとデート……してほしいんです」

「で、デー……ト?」


 デート……その言葉の先にある答え。そこから導き出されるものはどう考えてもただ一つの結論のみ。


(ダメだ! もう勘違いなんてありえない! こいつは俺を――)


 いや待つんだ……待つんだ俺! さっきから同じ流れだが、まだ希望は捨てちゃいけない! ラスボス戦に入ってから10巻以上戦い続けてる漫画くらい粘るんだ!


 そうだ。俺にはまだ相手が男か女かとか、年齢を判別とかだけじゃなくて、特技があるじゃないか。変態どもと過ごしてきて磨いた……この力が!


(変態センサーオン!)


 説明しよう! 変態センサーとは……その名の通り、対象者が変態であるかどうか、判別することができるのだ!

 これを使えば蔵良が変態かどうか分かる。そして、これにかからなければ、こいつはホではなく、「アッー!」な展開にはならない。つまりは白ってことに……


ピーピーピー!


 ……おかしい。なにか頭の中で鳴っている気がする。これは……そうだな。サイレンだ。変態センサーに引っかかっているときの。…………。


(うわああああ!? 嫌だ! 俺はこんなところで……死にたくない!)


 その避け難い現実に頭がぐちゃぐちゃになる。もう、逃げ場はない。

 こいつは……蔵良が変態のホモであることは確定した事実となったのだ。俺はそうであるとわかってしまったのだ。


 なんてこった……。俺は知りたくなかった。関わり合いたくなかった。

 あの時……俺は一度、帰ることができたのに。そうしなかった。


 あの時の俺が憎い。勘違いしたままだったけど、そのほうが幸せだった。

 人間知らない方がいいことがある。それがこれだったんだ。


 もう……ダメだ。俺にはもう、何もない。このままこいつに蹂躙されるしか……未来はないんだ。


(…………いや、おかしいだろ)


to be continued

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