1-6 島抜巧人のロリコン伝説終了のお知らせ
「来て早々疲れた」
俺は溜息を吐く。
「まったくだ。おまえたち巧人に迷惑かけるんじゃない」
「なにさも、自分は違うみたいなこといってるんだ」
こいつは峰内透。さっきもいった通りホモだ。顔はよく、モテもするのだが、なにせ性癖がこれだから彼女とかはいない。さらに俺のことがお気に入りらしい。前に
『俺のところじゃなくて他の男のところにいけよ。俺は興味ないんだから』
と言ってやったときのことだ。
『お前だからいいんだ。お前以外の男なんて考えられない。それくらいにな。これが一目惚れってやつなのかな』
とか、顔を軽く赤く染めながら言ってきた。きもすぎてやばい。でももう諦めた。
「というかお前が一番迷惑かけてると思うけどな」
あれは孝関羽。名前は三国志にも出てくる、なんか有名な中国の武将だ。でも、それ以上はよく知らん。
そんなことは別に関係はない。だが、その名前を文字ってあだ名は「完熟」。これで「かんう」と読む。まさに熟女好きのこいつにとっては完璧な名前だろう。まぁ、こんな呼びかたしているの、絵夢くらいしかし知らないがな。
そして、俺とは真逆のストライクゾーンを持つため、よく衝突している。そしてさらに、そのせいで今回のように絵夢に迷惑をかけるたりもする。
それと俺のことを「エロ大魔人」と読んだ理由は、巧人→エろ人→えろいひと、という小学生並の思考回路の結果だ。もちろん、そんな呼び方するのはこいつしかいない。まったく、俺が昔どこかで見た、小五とロリ合わせてると悟りというものとは段違いだな。あれを見たとき、あまりの凄さにに雷に打たれたような衝撃を受けたのを覚えている。
「ああ、なんだろうこれ……焦らされてもどかしいこの感覚……そうこれはまさしく快感!」
きめーよ。
あっちのは佐土原絵夢。SでありM。基本は少しS寄りで――それでも、普通なのだが――怒らせると完全なSになる。直接的な刺激を受けると、Mになる。
またそれに関してもいろいろあって、Sには通常の生活している中で、怒らせなくても時々なる時があるし、S状態のよりもM状態のほうが優先してなる。だから、SのときにMになることをすると、Mになる。
わけわからんだろうが、そんなやつと一年間も付き合っているせいか、俺は嫌でも理解した。
そして……
「…………」
あそこの部屋の隅にいる、今まで一度も言葉を発しておらず、存在さえ分かられていないようなあの人。あれがこの部の部長、承全寺伊久留だ。
伊久留は隅で本を読んでいる。内容はエロいこと全般。官能小説に漫画、純愛、痴漢、強姦etc……なんでも御座れ。さらに、BLや百合までいける。とりあえずエロければOKというやつだ。正直、純愛を楽しんでいる俺からすると理解できない。
でもまぁ、言葉を発することさえ珍しくて会話なんてしないから、別にいいんだけど。
「なあもう帰っていいか?」
関羽が突然にそう言いだす。
「どうせ駄弁ってるだけだろ? 別いいじゃん」
「でもだな……」
「いいっしょ? 部長」
「…………」
伊久留は本からは視線を外さずに、コクりと頷く。
「よっしゃ! んじゃあな! 俺は帰って隣の奥さん口説いてくるぜ!」
関羽が帰っていくのを見て、俺は少しだけ難しい顔をする。そんな俺を見て不思議そうに、絵夢が話しかけてくる。
「どうしたの? ヌッキー」
「ああ、絵夢……戻ったんだ」
「うん……まぁ。で? 何を落ち込んでるの?」
「いや、俺はなんでこの部活に入ったのかな……ってさ」
「そんなの楽だからでしょ? 実質帰宅部だし」
「そうだけど、俺はやると決めたらとことんやるタイプだからさ。活動日はちゃんと何かしたいんだよな~」
「おぉ~。流石、副部長。言うことが違うねぇ~」
「というか、活動記録つけないと生徒会に怒られる」
誰もつけないから俺がやらないといけない。
「えらいねぇ~。でも、いいの? こうやってここにいる間は、ヌッキーの大切な人達は守れないんじゃないの?」
「なぁに、そこは心配に及ばないさ。今日は俺の仲間が見張っているはずだからな」
「さすが、この街で伝説とまで言われたカリスマロリコン」
「ふ、褒めるなよ」
「褒めてはないけど」
俺は絵夢の言った通り一年前にこの街で伝説になった。
昔、俺がいつものように、さゆりちゃん(8)を眺めていると目の前で誘拐が起こった。俺は腸が煮えくりかえるほどの怒りを覚えた。
彼女らはとても可愛い。近くで見たい気持ちも分かる。
だが!
しかし!
直接触れて言い訳がない!
ましてや怖がらせ、涙させることなど言語道断!
しかも、まさかそれが俺の目の前で起きるなど……。自分が情けない。
そうしたいろいろな気持ちを抱きながら、俺は誘拐犯を追いかけ、そいつらをぶん殴り、さゆりちゃんを助け、さらにそいつらが所属していた一つの暴力団をぶっ潰した。
誘拐した理由は、なんでもボスがロリコンだったようだ。まったく、ロリコンの風上にも置けない。そこで俺がロリコンとはなんたるかという、ルールやモラルを教えてやった。俺の言葉で更生し、今では俺とともにこの街の平和を守っている。
ふ、そういえばこの日からだな。彼女達に変な奴が近づかないように監視を始めたのは。そういう意味では、大切なことを教えてくれたやつでもあるわけだな。まぁ、絶対に許せないことではあるが。
俺はそんなことを考えながら活動記録帳を開く。それを覗き込み、絵夢が聞いてくる。
「適当に偽って書くの?」
「いや。事実をそのまま書く」
「え? でもやってることなんて何もないけど?」
「だから何かやってくれ。それっぽいこと」
俺はさっきまでの記録、『現代人の娯楽と、そのときの精神状態について』と記入していく。
「て、言ってもねぇ……」
絵夢は透と伊久留に視線を向ける。
「『友情とホモって紙一重だよね』か……なかなか俺好みのタイトルだな」
「…………」
二人は読書に励んでいた。しかも、透からはめちゃくちゃ寒気のする言葉が聞こえた気がした。
……うん。
「今度はなんて書いてるの?」
「『現代の本のジャンルの多様性と、その思想について』」
「うわぁ……まとめたね」
「とりあえず、これでいいだろう。じゃあ、これで解散な」
俺が立ち上がると、絵夢が声を声を掛けてきた。
「あ、じゃあ私も帰るから途中まで一緒に帰ろ」
「嫌だ。お前と一緒に居たら、ひいらぎちゃん(6)に誤解されるかもしれないだろ」
「えっと……ちょっと言ってる意味が」
「考えてもみろ。俺とお前が放課後一緒に帰っている。男子と女子だ。傍から見たら、恋人どうしたとか見られてもおかしくないだろ? そんなことは事実無根であるにもかかわらずだ。それだと、お互いに面倒だろ」
「そうかな? 別に迷惑ってほどでもないけど……それに、そうそう勘違いはしないと思うし」
そんなことはない。俺とひいらぎちゃん達に迷惑だ。
それでふと、ある考えが浮かんだ。
「……待てよ。やっぱり一緒に帰ろう。そうすれば俺一人だと不審に見えて出来なかったみんなに話し掛けることができる」
「え? あっちゃうの?見守る立場なんじゃなかったの」
「何言ってるんだ! 実際に出会ってみなければ、分からないことだってあるだろ! これもみんなを守るためにだな……」
俺が熱く語り始めようとする。そうすると、絵夢は気まずそうに言った。
「あー……やっぱり私、先に帰るね。ばいばい」
絵夢は部屋を出ていった。しかし俺はそれに気づかず、数分間、誰に言うでも無くに会うことの重要性を語っていた。
*****
「絵夢のやつ勝手に帰りやがって」
俺は帰り道文句を漏らしていた。
まったく人が話している途中に帰るだなんて、失礼なやつだ。おかげで気づいたとき無性に恥ずかしかったじゃないか。まぁ、読書に夢中で二人は気にしてなかったけど。
「仕方ない。実際の交流は出来なくなったが、あいつらの応援にでも行くか」
時間が出来たんだ。それでいいだろう。
あいつらを信用していないわけではないが、人数が多くて困ることは尾行がしづらいという、些細なことしかないしな。
そう思って早速ひよりちゃん(7)の元に向かおうとする。そこで俺は、一人の人物に目が止まった。
ドクン!!
「!? な……なんだ? これは……」
俺は驚いた。なんと、俺はその人物……女性を見て……胸が跳ねたのだ。しかも今は鼓動が速くなっている。
どういう……ことだ? 誰かに聞かれるんじゃないかってくらいに大きい。俺はこの感覚を知っている。昔、俺が小学校のみんなと出会ったあのときと同じ感覚だ。つまり……好きだっていう……。
ははは……。この俺が……あんな女を好きになっただって? 冗談じゃない。有り得るか。
「つーか、なにしてんだあの女は」
俺は物陰に隠れてひっそりと覗き込む。この場所……ていうかただの道。こんな場所に座り込んで一体何を……って、あれは猫?
段ボール中に捨てられた猫が見えた。まったく、いつの世も酷いやつがいるもんだな。……は! まさかあの猫を……なんていいひ……いやいやいやいや、そんな同情なんて優しさ、つらくさせるだけだ。自分はいい人だって、自己満足でしかない。所詮はその程度。どうせ、引き取る気なんてないんだろう? だったら、そんな屑みたいな真似は……
「!?」
俺がその人物を心の中で非難していると、そいつはその猫を手に抱え何処かへと言ってしまった。
な……何だと。あいつ……まさか普通に心優しい? いやいやいやいやいや、まだだ。まだ断定するには早い。家に帰ったら猫を虐待する可能性も。
(って、なんで俺はあいつのことをこんなにも考えているんだよ!!)
そして、なんでこんなにも否定しているんだ!
きっとあれだ。一時の迷い。もしくは、吊橋効果的なあれ。恐怖による胸の高なりを恋だと思うあれだ。つまりこいつは、俺との相性最悪で、俺がこいつのことが嫌いすぎて起きているんだ。うん。きっとそうだ。そうに違いない。だったら、小学校のみんなを見れば元に戻るはずだ。
俺はそう思って、ひよりちゃんの元に向かった。
*****
「あ、巧人さん!! こんちわっす!!」
『こんちわっす!!』
ひよりちゃんの所に行くと、三人ほどの人間がいた。俺の仲間だ。
「ああ」
俺はそうとだけ返し、ひよりちゃんを見る。
普段の俺なら、この時「あんまり大きな声を出すな。ひよりちゃんが驚いたらどうするんだ」と叱っていただろう。しかし俺は急いでいた。さっき起こったことの真偽を早く確かめたいと、それで頭がいっぱいだった。
見てみると、彼女はランドセルを背負い、無邪気な笑顔を浮かべ、スキップをしながら鼻歌を歌っていた。とても可愛く、彼女はいつも通りだった。だが、そんな彼女とは違い、俺はいつも通りではなかった。
(この気持ちは……)
俺はその有り得ない……有り得てはいけない出来事に驚愕し、その場に膝から崩れ落ちた。
「ど、どうしたんすか」
俺の様子がおかしいことに気づいて、一人が話し掛けてくる。俺は手を後ろについて、顔を上に向けて、言った。
「俺のバベルの塔が……崩壊した」
一瞬、全員が理解できないでいたが、俺の姿勢によって、目立ったあの場所に、自然に目がいき、全員が気づいたのだ。
『た、たくとさ――ん!!』
そこには何人もの悲痛な男の叫び声が響いていた。