13-7 衝撃の事実!!by絵夢
映画はヌッキーの言った通り、二人が結婚をして出会いからちょうど3000日という形で終わった。
中身も、二人で愛の元に障害を乗り越えていくというものだった。だからヌッキーにはすべて予想通り、どこにも感動する要素はなかった……はずだった。
『どうでしたか先輩! 結構よかったでしょ!』
『うっ……っく。ああ、感動しすぎて今も涙が止まらないぜ』
と、ヌッキーも相当楽しんだようだった。
私も結構楽しめた。内容はよくあるものではあったけど、こういう恋物語っていうのは、いつになっても好きだ。
ただこの感動を共有できる人間が、リリーしかいないのはちょっと心苦しい。完熟は映画が始まってさっさと寝てたし。部長ととおるんは、映画よりもヌッキーたちのほうを見ていたし。折角お金を払って見ているんだから勿体ないよ。
そんなことを思いながら映画館を出て、ヌッキーたちは最初の待ち合わせ場所まで戻ってきた。時間も5時を回ったところだし、デートも終わりと言う事だろう。
『先輩! 今日はボクのためにありがとうございました』
『ああ。まぁ、なんだかんだで俺も楽しんだし、そんな気を遣うなよ』
「うわー……いい雰囲気だよ~」
「本当ですね……なんだか今日一日のデートを振り返って懐かしみつつ、終わることを惜しんでいるって感じがします」
私とリリーはそんな風に言葉を交わしながら、少し離れた位置から二人の様子を眺める。
「おい! 俺にも見せろ! 見えないだろ!」
けれど、場所のせいなのか、完熟は私たちの後ろ側にいるせいで、前がよく見えていないようで、隙間からどうにかみようと頑張っていた。
が、それもできないとわかったようで、私たちの上に乗りかかるように割って入ってこようとした。
「あ、ちょ完熟!? なにして……!」
「うるさい! 俺にもみせろー!」
もちろん、そんなことをしていると、私たちの体はどんどん前へと押し出されるわけで。
『ひぃあああー!』
そのまま私は体制を崩して、さらに連鎖的にリリーやとおるんたちも巻き込んで、そう声を上げながら倒れてしまった。
そんなことになると、当然注目も浴びるわけで。ヌッキーたちからそんなに距離もないということもあって、私たちの上げた声も当然届いていて。
「いたた……。あっ……」
私が起き上がって、視線を上げると、ヌッキーと目が合い思わず声を上げた。……ばれた。
「……絵夢? 透や利莉花、伊久留まで……」
私たちを見て驚きつつも、しっかりと省かれる完熟。
「お前ら、なにやってんだよ。こんなところで」
「あ、えっと……その」
怪しむような目つきで聞いてくるヌッキーに、私はどう言い訳しようか考えていたら、先に完熟が答えた。
「っち、ばれちまったもんは仕方ねー。俺たちはずっと巧をつけていたのさ!」
「つまりは尾行か……暇な奴らだな」
そう言ってため息をつく。いつもやっていたヌッキーに言われたくない。
「つーかなんのために、そんなこと……って蔵良か」
理由をたずねようとしてヌッキーは一度視線を望ちゃんに変えると、そう一人納得する。そしてため息をつくと言った。
「どこでこいつのことを知ったのかは知らないが、用があるなら最初から声くらいかければいいだろ。別に隠すことでもなかったしな」
隠すことでもない? それってつまり……
私はその言葉の意味を考えつつ、ようやく立ち上がるとヌッキーに問い詰めるように聞いた。
「というか、ヌッキー! その女の子は誰なの!」
そうして望ちゃんに向かって指をさす。
実際、未だにヌッキーとの関係はよくわかっていない。付き合っているだろうというくらいで。
だから私は聞いたのだが、対してヌッキーは眉をひそめ、不思議そうに答えた。
「女? 何言ってんだ? こいつは男だぞ?」
「は?」
その突然の言葉に私は間抜けな声を出す。
え? 男? この子が? ……いやいや、どうみたってこの容姿は完全に女の子じゃん。
そうして、望ちゃんを見ていると、自己紹介をしてくれた。
「えっと初めまして皆さん! ボクは一年の蔵良望って言います。先輩の言っている通り、ボクは男ですよ?」
のぞむ……のぞみじゃなかったんだ。
いや、どっちでもそんなに変わらないけど。それに、名前男でも女でも通用するようなものであったし……。
ラブレターをかいてきたくらいだから女だとも思っていたし。なにより、この見た目だったし……。
完全に勘違いしていたよ。これが俗に言う、男の娘ってやつだね……。
でも、どうしてこんな女性のかっこうをして……は! もしかして……
「ヌッキーって、そう言う趣味が……」
「ねーよ、蔵良の趣味だ」
私の呟きにヌッキーは間髪入れずに突っ込んできた。それに望ちゃ……くんも「はい」と頷く。
「じゃ、じゃあヌッキーはそう言うの全部わかっていたうえで付き合っていたの!? OKしたの!?」
「……お前なんか勘違いしてないか?」
「え?」
「俺はただ、蔵良から女装した姿で恋人のようにデートがしたい、と言われて付き合ってやってただけだ」
「じゃ、じゃあ恋人じゃないの? そういうので付き合っていたわけじゃないの?」
「誰が男と付き合うか。しかもロリでもショタでもないじゃねーか」
有り得ないと答えるヌッキー。それに私は――
「OHジーザス!」
思わず頭を抱えてそう叫んだ。
「いきなり、外人さんみたいに……絵夢さん大丈夫ですか?」
リリーが私に心配そうにたずねてくる。さっきまで状況についていけてなかったようだけど、ようやく理解したみたいだ。他の面々もそれぞれ立ち上がり始める。
それを区切りに、ヌッキーは呆れたように言った。
「つーかマジで何やってんだよ。利莉花、透、伊久留お前らがいてよ」
「あはは……ごめんなさい。巧人君」
「俺はただ、巧人のことが心配だっただけだ。佐土原から聞いた限りの話だと、相手がどんなやつかわからなかったからな」
「絵夢……元凶、お前かよ」
そうして睨むように目を向けられて、私は視線を泳がせる。
そんな私にヌッキーはため息をつき、思い出したように言った。
「あー……そういや言ったな。お前には。そのうち会わせるとか……あと手紙も見られたし……。それで勘違いしたのか」
「そ、そうだよ! 意味深なこと言って! 大体、会わせるどういう意味だったの!」
「こいつは見てのとおり……まぁ変態だ。つまりはこっち側の人間だってことだ。それで、利莉花の時と同じように部の噂聞いて、入ろうかどうか迷っていて、まずは俺と話をしていたってわけ」
「……なるほど」
これ以上にないくらいに納得したよ。もう反論するところなんてないや。それは他のみんなも同じなのか、黙り込んでいた。
「それで? これで誤解は解けたか?」
「う、うん」
私はもうそれに頷くしかない。そしてヌッキーはその返事を聞くと「というわけで」、と話をまとめるように口を開いた。
「次の部活からはこいつも一緒だ」
「はい! そういうわけです!」
そう言うと、望くんはヌッキーに嬉しそうに抱きつく。
それに苦笑いしつつも、思い出したようにリリーが言った。
「そういえば、巧人君。どこにかはわからないですけど、体に盗聴器が仕掛けられているみたいですよ」
「盗聴器って……うわぁ……あったよ。いつの間にこんなもの。ったく……こんなことするのって伊久留だろ」
そうヌッキーは部長に呼びかけるが何も答えない。その反応に何度目かになるため息をつくと、観念したように追及しようとせず引き下がった。
代わりに億劫な様子で望くんへと話しかけた。
「おい、蔵良。もういいだろ? 離れろよ」
「は~い!」
けれど、望くんはにやにやと楽しそうに笑うだけで、離れようとしない。ヌッキーは怪訝そうに見ていると、望くんは答えた。
「ボク、今日の一件を通して本当に先輩のこと好きになっちゃいました」
「は? ……はぁあああ!?」
ヌッキーは叫ぶ。でも私たちのほうは、驚きに次ぐ驚きで、もうどう反応すればいいのかわからない。
なんか、「あ。そうなんだ」くらいにしか思えなかった。けれど、男から『好き』だと言われば、とおるんという前例があるにしても驚くわけで。
それが自分に向かってきているものだとすれば特にだ。それくらいのヌッキーの心中は私も察してあげられた。
そんなヌッキーとは裏腹に、望くんは笑顔でさらにぎゅっと抱きついた腕に力をこめる。
「というわけで、これからもよろしくお願いしますね! 先輩?」