13-1 あつさで壊滅! 現代文化研究部!
朝。学校に行き、下駄箱についたところでそれは起こった。
俺はいつものように、上履きに履き替えようとして、あるものを見つけた。いや、中に入っていた。
「……ん?」
なんだこれ? 手紙?
俺はとりあえず、誰も人がいないのを確認して、内容を読む。
『放課後、校庭の大きな木の下で待っています。蔵良望』
……ラブレター?
*****
木曜日。部活と言う事で部室に集まった。まではいいが――
「あーつーいー……」
だらんっと体を机につけて絵夢が呟く。ものすごくだらしない格好だが、それは人のことは言えない。というか、この場にいる全員が似たような状態だ。
そう、暑いのだ。月日はもう7月。気温がガンガン上がってきて、毎日のやる気がそがれていく。そのせいか、俺は絵夢の呟きに何か言う気も起きなかった。
その代わりにというわけでもないが、利莉花が返事をする。
「そりゃ、暑いですよね。この部室の中に、6人ですし。私たちはこんなに至近距離にいるんですから」
確かに。小学生の給食か、というような状況だしな。教室一つ分あってこのスペースの有効活用のできてなさ。一人だけ離れている伊久留がずるいぜ。
「つーか、暑い暑い言うなよな。もっと暑くなんだろ」
そう言うお前が一番言ってることに気づけアホ関羽。
「……ふ、閉ざされた空間の中で巧人とともに汗を流す。さらにこもった熱と汗による独特のにおいが、俺の理性を破壊しにきているな。……グッドスメル」
透はいつも以上に変態が暴走しているな。最後なんて、意味わからないこと言ったし。頭が完全にやられているぜ。
と、こんな感じで全員覇気のない状態だった。いつも元気なはずの絵夢と関羽でさえも暑さには勝てなかったらしい。
むしろ、この中でまだまともなのが伊久留と利莉花だけなんだが。伊久留とか、普段と変わってないし。この中にいるのに、一人だけ涼しげな顔をしている。汗もかいてない。伊久留……どうなってんだお前は。
利莉花のほうは汗はかいているけど、雰囲気が変わってない。少し暑さにやられてはいるけど、普段通りといったところか。
ああ、にしてもみんながこんなせいで何もやることがない。もとから話をしているだけだが、それさえもできない。そのせいかどうかは知らないが、自然と目が利莉花に向く。
(うーむ。今までも夏服を見てきてはいたが、今日はまた全然違って見えるな……)
汗ばんだ肌に、ぴったりと張り付くワイシャツ。
そして、強調される胸元。さらに、上気した頬。乱れた息づかい。とても艶やかだ。
なんだか見ていたら、全身がさらに熱くなってきた。特に下腹部に熱が集まるのが伝わって――
(は!)
何やってんだ、俺は! く、俺も暑さで頭が正常に働いてないようだ。ひとまず、このドキドキとした心を落ち着けないと……。
「あー……リリー~……」
「なんですか? 絵夢さん?」
「どーして、ここにはクーラーがないのー……?」
「部室だからですよ」
「う~……買ってきて~」
「そんなお金はありません」
「えー……。こんなに部員数の多い部活なのに、部費あるでしょ部費」
「その辺は私は知りませんけど……、元々文化系の部活ですし、お金のかかることもないと思いますから、そんなにないんじゃないでしょうか?」
「うー……だったらもう脱ぐしかないか……」
何やら不毛なことを言いあっていた絵夢だったが、ついに体を起こし、その言葉とともに服に手をかけた。けれど、それを聞いた利莉花は慌てて止めに入る。
「ダメですよ、絶対!」
「なんでー……? もう私は限界だよ……。死んじゃうよ」
「死なねるのは困りますが、この程度では死にません! とにかく、周りに男性がいるのに服を脱いだりしてはいけません。はしたないですよ」
わー……まともなこと言ってる。でも、考えると絵夢はMなわけで。そういうのはプレイには必要なことだったりするんだよな。だから今脱いだところで、そのときとそこまで変わらない。
それに男性の前で=女子の前ならOKということだが。これが普通のやつが言ったものなら特に問題はないが……利莉花だ。危険な香りがする。
そして、一番思ったのは――
(絵夢の体なんて、この中の誰も興味ねーな)
事実、俺含め利莉花以外は誰も無反応。ここは利莉花的にはゲットポイントでした、残念!
(またおかしなテンションに……)
いや、さっきのよりもマシだ。ドキドキも消えてきたし。回復はしたな。
「まぁ、気持ちはわかりますけどね。こうも暑いんですから」
そう言ってため息をつくと、利莉花はワイシャツの上をつかみ胸元を広げ、もう片方の手でパタパタと風を送った。
そうすると、当然胸の大きな利莉花だ。手の向こうに谷間が見えた。さらに、少し開きすぎな胸元から下着が見えそうでみえないというこのチラリズムが俺の心をわしづかみし、少しずつ鼓動が速くなる。
そして心臓から送られた血液は、下半身へと集まっていき、それはさながら海面に浮上してきた山のごとく天にそびえたっていき、今にも火山活動が開始されようと――
(って、うぉい!?)
何やってんだ俺は! 折角収まったのに、またたぎってんじゃねーかよ!
いや、今回は利莉花のせいだった。いきなりあんな行動したんだからな。
だが、それにしたって目をそらすことができたはずなのに、何ガン見してんだよ。こうなるのはわかっていただろうに。目を逸らせなかった。もう、利莉花のほうをみているなよな俺。
俺はそうして、別のところをみようとする。
「リリーがそうするなら、私もやる~……というか面倒だからボタンは外す~」
「う~ん……まぁ、全部じゃないなら。私もそうします」
(なに!?)
と、結局視線は利莉花に戻った。いや、そんなことよりも――
(うおおおお!? 露出がさっきよりも増えている……!?)
谷間がさっきよりも大きい……これは当社比2倍!
さらに邪魔だった手が一つ消え、視界は良好。手の仰ぎで、服がめくれて、さっき以上のチラリズムが……!
(おお……ここはなんだ。南国パラダイスか)
いや、天国か? 今にも昇天しそうなほどに心地いいし。
(ああ……最高な気分だ)
……って、なっちゃいけないんだよ、俺。
まずい、本格的に頭がやられてきているぞ。南国パラダイスとかのあたりでは、海が見えてたし。視線もさっきみたいに何か起こると、思わず向いてしまう。どうにか俺自身興味を逸らさないと……よし。ここは――
俺はおもむろに立ち上がると、2、3歩ほど後ろに行った辺りでスクワットを始めた。
「え、ちょ……ちょっと巧人君!? どうしたのいきなり!?」
俺のいきなりの奇行に利莉花は驚いた声をあげる。それに対して俺はいたって平然とした様子で返す。
「いや~なんでもないぞ。急に体を動かしたくなってな」
「急にって……それは普通じゃないです! とにかく、一度やめてください!」
「いやいや、やめるだなんて、とんでもない! もっともっと動かないと」
そう言うと今度はスクワットをやめて、腕立て伏せを開始する。
「1、2、3、4……」
「あはははは……ヌッキーが壊れたー」
「全然おかしそうじゃなく笑うのな、佐土原。どうでもいいけどよ」
「滴り落ちる巧人の汗……最高だ。俺も動く」
透は立ち上がると俺の近くまでやってくる。
「おう! 透、一緒に青春の汗を流そうぜ! 次はバーピーだ!」
「それはなかなか激しい運動だな。俺の心も高ぶってきた、さぁ始めようじゃないか!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 落ち着いてください二人とも!」
そうして腕立ての体勢からバーピーに切り替えようとしていたところで、ついに利莉花まで立ち上がって、止めに入ってきた。
利莉花は俺の正面にしゃがむと、肩をつかんで体を起き上がらせる。
「もう、巧人君やめてください。心配してしまいます」
「ははは……何を心配する必要が――」
って近い! そして、でかい(再認識)!
それに、何故こんなにいいにおいがする!? 汗かいてるはずなのに! 全く嫌じゃないぞ!
(ぐふぁ……まずい。色々とまずい)
この状態だと、暴発してしまう要素が多すぎる。はだけた胸元とか。深い谷間とか。あせも匂いも全部。目のやり場に困る。
でも、見てしまう。だってしょうがないじゃない。俺は利莉花に恋してるんだし。
あー……なんかくらくらしてきた。
これはどうしてだ? 運動のせい? それとも、利莉花に興奮しすぎたせい?
どちらにしても、今は……もう無理。
「え? た、巧人君? 巧人くーん!」
そうして俺の意識は利莉花の腕の中で遠のいて行った。