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第8話 癒される膝枕

 仰向けに横たわる俺の後頭部の方から水が流れる音が聞こえる。


 近くに小さい川でもあるのかなと思ったけど、水音は俺の後頭部の下から聞こえていた。

 そういえば後頭部が流れる水に浸かっている。

 その水は冷たくて心地良い。


 そんなに深さもなく水の流れも速くないので耳や髪を優しく撫でている。

 後頭部を乗せている場所も柔らかく弾力もあり気持ちいい。

 冷たい水の中に仄かな温かさのある物体に頭を乗せているようだ。


 寝起きの微睡むような感じのまま目を閉じた状態。

 ぼぉーと今までの状況を思い返してみる。

 異世界に来てコブリンに襲われて精霊少女に助けて貰って、しばらく一緒だと言われたので安心した俺は力が抜けて倒れこんだはず。


 今更ながら気づいたが、流れている冷たい水に触れているのは後頭部だけ。

 首から下は草土の感触がする地面に横たわっている。

 左右の手には、土や雑草の感触がするし、川原にある砂利のようなゴツゴツとした感触を背中には感じない。


 これは、変だと思い目蓋上げようとした時に唇にあの柔い感触がきた。

 驚いて目蓋を上げると、横たわっている俺の上から夏疾風なつはやてがおい被さるように屈み込み俺の唇にキスをしていた。


 夏疾風の体勢を見てわかったけど、これって膝枕だ。


 夏疾風は、目を瞑ってキスをしているから俺が目を開けている事にまだ気づいていないみたいだ。

 驚きのあまり起き上がろうとした身体を止めた自分を誉めたい。


 後頭部の冷たい水は夏疾風の纏う流水のワンピースの部分で、後頭部に感じた柔らかい感触は太ももか。


 さっき吹花擘柳とキスをしたのにもう夏疾風とキスをした。

 ついでに膝枕とかどこのリア充だ。

 でも、夏疾風の唇も柔らかくて気持ちいい。


 唇を離して顔を上げる夏疾風の蒼色の瞳と目が合った。


「あら、直登様。目を覚ましていたのですか」


 小さな子供がいたずらを親に見つかったような、少し罰の悪い表情で謝ってくる。


「ごめんなさい。吹花擘柳すいかはくりゅうさんが直登様とキスをしているのを見て、私もしてみたかったんです。寝ている直登様の顔が近くに合ったのでいけないとわかっていたのですが、我慢できなくて」


 もし、夏疾風と恋人同士なら思わず抱き締めたくなるよう事を言ってくれる。


 ただ、改めて夏疾風が心配になってくる。会ってすぐの男にキスをしてくるなんて。

 自分がモテるとか身分不相応な事は思ってないけどチョロい。

 男以前に人間と接した事がないとしても無防備過ぎる。


 そんな事を内心考えていたが、取り敢えず現状の確認だ。

 俺は、正座している夏疾風の太ももの上に頭を乗せて膝枕をしてもらっていた。


 夏疾風の顔越しに木々の葉と青空が見える。


 首を少しだけ横に動かして右側を見てみると木々や草花がたくさん生えており、俺はまだ森の中にいるようだ。

 その先は下り坂になっていって数メートル先に小川が流れていた。


 ほかの三人の気配はしない。

 今、ここにいるのは俺と夏疾風の二人だけだ。

 森の木々に遮られていて太陽の位置が見えないけど、朝特有のひんやりとした空気を感じる。

 倒れたのが夜と考えると、今は次の日の朝かな。


 起き上がろうと手を付いて首を上げたら、夏疾風に額を手のひらで優しく撫でるように押さえ込まれて首の位置を太ももの上に戻された。


「直登様は、空腹なんですから動かないで横になって休んでいてください」


 微笑みながら優しく諭されるように柔らかい声で言われた。


「……え? ……空腹? ……俺が?」


 空腹で倒れるって、いつのまに腹ペコキャラが俺に付いたんだ?


「はい、人間は物をを食べないと生きていけないと生成された時に学びました。昨夜倒れこんだ原因が空腹ではと思い直登様が寝ている間に皆で相談して、私が直登様を看病している間に他の三人が食べ物を集めることになりました」


 本当は、いろんな事があったんで精神疲労で倒れてしまったんだけど。

 夏疾風は、話ながら右手で俺の額を手のひらで優しく撫でている。左手は、俺の左手を優しく包み込むように握っていた。


 俺の顔を見ながら話しているが膝枕されているので顔の距離が近い。

 油断するとキスをしてしまった唇に視線が向かってしまう。


 それと凛々しくて美少女な夏疾風と至近距離で目を合わせてしゃべるは気恥ずかしい。

 左側を見ると、夏疾風のお腹があるの俺は右側を向いて小川の方を見ながら話しを続けた。


「なんで膝枕しているの?」


「私の操るこの水に疲れが無くなる癒しの効果を付与しているんです。この姿勢なら太もも部分の水に直登様の頭を浸す事ができます。本当は、直登様に抱きついて全身で癒した方が直りも早いのですが、ここは森の中。周囲を警戒しないといけないですから、少しでも動きやすように膝枕で我慢しています」


 無防備だ。膝枕でも接触しすぎなのに添い寝以上の抱き付きとか。俺を抱き枕にするつもりだったのか。


 心配して回復してくれるのは嬉しいけど、スキンシップが激しい。男女の距離感が分かってない。

 改めて夏疾風が心配になってきた。


「そういえば夏疾風達、精霊は何を食べるの?」


 俺の食べる物探しと聞いてふと思ったけど、彼女達も人間の姿をしているから俺と同じ物を食べるのかな、それとも仙人みたく霞とかかな。


「いいえ、私達は何も食べませんよ」

「え、食べないと身体を維持できないし、成長しないよ?」

「ふふ、直登様。私達は精霊が人間の少女の姿を模しているだけです。人間のように食事をして栄養を補給する必要はありません。もちろん成長もしません。姿は、永遠にこのままです」


 永遠の十何歳というわけか。


「……あら」

「ん、どうしたの」


 夏疾風が後ろを振り返る動作が太ももの上にある俺の頭にも伝わってくる。


 俺からは夏疾風のお腹越しなので、その方角はまったく見えなかった。


 しばらくすると夏疾風の背中の方から草木を揺らし踏みしめながら、誰が近づいてくる足音が聞こえてきた。


「吹花擘柳さん達が帰って来たみたいですね」


 俺には足音が聞こえるまで気づかなかったのに、夏疾風は気配で近づいているのがわかったみたいだ。


「ただいまー、食べ物を集めてきたよー」


という声とともに空中を飛んできた風花かざはなが夏疾風の右側から突き抜けて左百八十度ターンを決めた。


「って、なおとさん、起きてたの」

「お、おう。起きたよ」


 膝枕された状態で右手だけ上げ挨拶をする。


 風花は、正座している夏疾風の頭位の高さで浮かんで俺を見下ろしているが、場所が悪い。


 丁度、夏疾風の真正面に浮かんでいるので、俺からは見上げるような視界になっている。


 スカートを履いていたら中の下着が見えそうな位置だ。


 ただ、風花は白い霧をロングコート状に身に纏っているので中身が見える心配はない。


 ロングコート状にといってもコートの中が丸見えというオチはなく、コート内も霧で覆われている。


 ただ、女の子を下から見上げるというシチュエーションが居心地悪い。


「……直登さん。……調子はどう?」

「直登。急に倒れるから驚いたぞ」


 少し遅れて金風きんぷう吹花擘柳すいかはくりゅうが浮かんでいる風花の両脇に立ってこちらを覗き込んでくる。

 当然、この二人も至近距離で立っておりアングルが心臓に悪い。


 吹花擘柳はまだ燃えている炎を身に纏っているのでましだが、金風はライダースーツ風の姿なので身体のラインがわかりやす過ぎてまずい。


 顔付近に視線を合わせたいと思うが、つい他の身体の部分に視線が動いてしまう。

 どの部分かは企業秘密。


「……」

「……」

「……」


 膝枕されている俺を見詰めている吹花擘柳、風花、金風の様子がおかしい。


 まさか、下から変な場所を見上げられているとか気配を感じたのかな。

 ちょっと、ドキドキしながら聞いてみた。


「どうした?」


 三人で顔を見合わせて次に夏疾風の方を見ながら。


「夏疾風だけ膝枕は不公平」

「ボクも膝枕したいなぁ」

「……膝枕」


 下から見上げている事ではなく膝枕の方か。


 すっかり忘れていたけど三人が帰ってきても膝枕されたままって何処のリア充だ。


 誰も非難するような視線を向けてこないから自然と当たり前のようにそのままの格好でいた。

 どうやら夏疾風の膝枕を羨ましく思い彼女達もやりたくなったのだろう。


「では、誰の膝枕が気持ち良いのか直登様に決めてもらいましょう」

「はい?」


 夏疾風の突然の話題のフリに俺は目が点になった。

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