第4話 精霊少女の自己紹介
隣に座ったらいきなり唇にキスをされた。
頬でも額でもなく唇に。
相手は名前も知らない人間でいう小学校高学年くらいの女の子に。
俺は、驚きのあまり目を見開いたまま硬直していた。
赤の子は目を閉じて俺の唇に自分の唇を押し当てている。
唇の感触はぷるるんとして瑞々しく柔らかい。
閉じている目の睫毛も長く可愛らしい顔が文字通り目の前にある。
俺の左腕を両手で挟み込むように掴んでいるので赤の子の胸が接触している。
胸を隠している燃え盛る炎が俺の着ている半袖Tシャツに触れているが、不思議な事に熱くなく焦げる事も燃え上がる事もなかった。
ついでに胸の部分にはブラジャーというか下着類は無い事が感触からすぐに
わかった。
半袖越しではあるが接触している左腕部分に胸のぽっちな感触がする。
異世界では、俺はモテる顔なのだろうか。
まさか、助けてくれたのは一目惚れした俺を救う為? いや、それは無い。
自分の顔を鏡で見た方がいい。
と、ひとりツッコミをしていたら名残惜し感触を残しつつ赤の子の唇が離れていき、ゆっくりと目蓋が開いて紅色の瞳が俺を見つめる。
俺の左腕を挟み込んでいた両手を離して、赤の子は立ち上がり、両手を腰に当てると俺の顔を真剣な表情で見下ろしながら口を開いた。
「おい! わたしの言葉が理解できるか、わたしは火の精霊、吹花擘柳だ」
おおっっ、言葉の内容がわかる。
いきなり言葉が通じるようになった驚きの勢いで立ち上がったが、いきなりキスされた衝撃が大きすぎて上手く言葉が出なかったが、何とか名前だけは言えた。
「……や、や、……なな、……なおと」
「はぁ~、やっと話ができるようになったか」
真剣な表情を和らげて息を吐き、やれやれという感じで首を左右に振っている……スイカ、ハクリュウ?
ファンタジーぽい片仮名の名前を想像していたのに思いっきり漢字的な名前を名乗ったな。
火とも関連がなさそうな名前だ。
火の精霊と名乗ったけど、この子らはやっぱり人間の女の子じゃないのかな。
吹花擘柳って名字が吹花で名前が擘柳か? とりあえず名字で呼べば平気か。
「スイカさんですか?」
吹花擘柳は、頬を膨らませプンプンすると俺を見上げながら右手の人差し指で俺を指し。
「誰が果物の名前を言った。誰が。……すい、か、はく、りゅう。すいかはくりゅう。吹花擘柳だ。名前を呼ぶ時は全部言うのだぞ。変な所で略するな」
この世界にもスイカという果物があるらしいな。
俺の知っている緑の地肌に黒の縦縞がある西瓜と同じかは知らないけど。
「俺の事は山中と呼んでください」
俺は、自分の後頭部をポリポリ掻きながら言ってみたがなぜか拒絶された。
「ん? お前の名前は直登だろ。山の中の直登ってここは森林地帯だぞ。山の中じゃないぞ。精霊だからって馬鹿にしているのか」
俺をからかう冗談かと思ったけど吹花擘柳は、何を言ってるんだという表情で俺を見ている。
名前を言うときに噛んだから、山中直登って聞き取れなかったかな。
まあ、下手な事を言って機嫌を損ねるのもなんだしとりあえず名前は伝えたからよしとしよう。
そして、さりげなく重要な情報。やっぱりこの子は人間じゃなくて精霊なんだ。
それにしても最初にスイカさんと呼んだのが不味かったのか、吹花擘柳の頬が薄赤い。
怒らして興奮でもさせてしまったかな。
それまで俺達を遠巻きに見ていた残り三人も近寄ってきた。
「始めまして直登様。私は水の精霊、夏疾風と申します。吹花擘柳さんは、始めて男性に出会ったので緊張しているだけです。それほど気にする必要はありません」
そういうと夏疾風は、両手を前で揃えるとぺこりとお辞儀をしてきた。
「あ、これはご丁寧に」
俺も釣られて頭を下げて挨拶を返した。
青色の髪を腰まで伸ばしている凛々しい雰囲気を醸し出す流水を纏う女の子が名乗ってきた。
こっちの子は、俺を様付けで呼んできた。言葉使いも丁寧だ。
水の精霊らしいが夏疾風って風の精霊ぽい名前だ。
吹花擘柳と同じで名前に水との関連性がないな。
夏疾風は、水の精霊と名乗ったとおり洋服代わりにワンピース型の流水を身に纏っている。
吹花擘柳と同じく下着を着ていない可能性は高いけど、流水は気泡を大量に含むでいるので素肌は透けて見えないな。
ここでも俺は、夏疾風の身体を見てしまう。悲しい男の性だが、気泡の少い部分から素肌か見えないかなと思ってしまったが、残念だが見えなかった。
この子も胸も年相当の大きさ。
「な、夏疾風、わ、わたしは、別に男性ごときと話すぐらいで緊張したり、照れたり、恥ずかしいがったりしてないぞ」
まだ、頬を薄赤くしたまま、俺の方をチラッと見ながら夏疾風に抗議する。
話す以前にさっき初対面なのにいきなりキスしたのは、これ以上に恥ずかしがることなんだけどそれはいいのかな。
吹花擘柳と夏疾風が隣同士になったのに身に纏う炎のビキニと水のワンピースがお互いなんの変化もない。普通なら炎が消えたり、水が沸騰して蒸発するのに変化無し。
そういえば吹花擘柳は、俺の正面に立っているけど炎から熱さが伝わってこない。
本当にどういう原理なんだろう。
緑の色の髪を後頭部で紐で縛ってポニーテールにした爽やかそうな雰囲気の少女が地上から少し浮かんだ状態で立った姿のままスゥーと滑る様に近づいて来て声を掛けてきた。
「よろしくね、なおとさん。ボクは風の精霊、風花」
手を挙げながらと気軽に言ってくる。なかなかフレンドリーな感じ。
「こちらこそ、よろしく」
身長は、浮かんでいるのもあるけどこの四人の中じゃ少しだけど一番背がでかいかもしれないな。
洋服の変わりに白い霧を身に纏っているけど、風花の動きに合わせてしっかりと纏わりついていた。
夜風も吹いているけど拡散する気配は無い。
この子も胸は年相当の大きさ。
この子だけ浮かんでいるのは風の精霊だから空気を操ったり、魔法を使ったりしているのかな。
霧が纏わり付いているのを不思議に思いながら風花の身体を見回しているけど、不信感とか嫌がる素振りは無い。
男の視線をあまり意識してないのかな?
最後に泥人形も近づいてきたけど……喋れるのかな?
「……解除」
ボソッと小さな声が聞こえ泥人形が崩れた! と思いきや泥山の上に小柄な女の子が立っていた。
「中から女の子?」
ショートカット風の栗毛の髪型で首から下が泥を身体に塗ってコーティングしている様な感じで身体の線がはっきりとわかる。
例えるなら泥で塗られたライダースーツを着ているようだ。
四人の中では一番背が低い。
この子も胸は年相当の大きさってなんでいちいち四人の胸の大きさを確認しているんだ俺は。男の性なのか。
「……直登さん、自分は土の精霊、金風。……よろしく」
栗色の瞳がこちらを見ているが、無表情というかぼっーとしたような感じの子だ。
「こちらこそ、よろしく」
うーん、この子の姿が一番過激かも。
他の三人は、炎・水・霧を洋服みたいな感じで身を覆っているけど、金風のライダースーツ風の泥の格好は身体のラインが丸わかりだ。