第2話 開花したチート能力で虐殺?
と、思っていたら足元の周りから突風が空に向かって吹き荒れた。
俺の周りでは突風の唸るような風の音が聞こえるけど、俺自体への影響は服の裾や髪の毛が上に靡いていく程度だった。
「ギギヤヤヤギャァャ!」
「ギャギャギャァァ!」
突然の突風に思わず目を開けて周囲を見回すと俺を囲んでいてたコブリン達が悲鳴をあげながら高校の校舎の三階以上の高さの空中に吹き飛ばされたところだった。
コブリン達の悲鳴は、最初は空高い所から聞こえてきたけど段々地上に近づいてきて、ここからは見えない森の中に落下しながら木の枝を折っていく音と地面に激突する衝撃音と断末魔が聞こえてきた。
これで、俺を囲んでいたコブリンはいなくなったが巨大な焚き火の周りには、まだまだたくさんのコブリンが生き残っていた。
いきなりの突風に仲間のコブリンが空中に吹き飛ばされたので、彼らは混乱しているようだ。
空を見上げたり、森の方をキョロキョロ見回したりして辺りを警戒している。
俺の事は、今なら誰も気にしていない。
これは、逃げるチャンス到来かもしれないと思ったけど世間は甘くなかった。
ひとりのコブリンと目が合ってしまって、こっちに向かって指を刺しながらギャアギァアと叫ばれてしまった。
その叫び声に誘われたのか、生き残っているコブリンの三分の一くらいがこっちに走りながら迫ってきた。
棍棒や槍で武装したままで表情は全員怒りの形相。さっきの突風は俺が起こした魔法とか思われているのだろうか。仲間の仇を殺してやるという気迫を感じる。
が……。彼らが俺の所に来る事はなかった。
「ギャ?」
向かって来ている途中のコブリンの全身が突然発火したと思ったら勢い良く燃え上がった。
それは、ひとりだけではなくこっちに向かってきていたコブリンが全員、一斉に発火して燃え上がっている。
「ギャギャギャ!」
「グッギギャャャ!」
あたり一面にコブリンの声にならない絶叫が響き渡る。
あんなに燃えたら火傷が酷くて痛そうだ。
その燃え方は、激しく。
全身火達磨になり地面に転がり火を消そうとするが、力尽きて燃えたままコブリンは息絶えていった。
目の前には、たくさんの黒こげどころか炭状態な元コブリンの死体。
あたりには火事の現場のようなススの臭いが立ち込める。
まるでガソリンを被った状態で火を点けられた様な燃え上がりだったけど、コブリンからはガソリンの臭いはしていなかった。
火の気の巨大な焚き火もある程度離れていたから火が燃え移ったとは考えづらい。
なぜ、コブリンは突然発火したんだろう。
生き残っているコブリンは、俺に迫ってくる事はせず、距離を空けて槍や棍棒を俺に向けて威嚇だけしてくる。
どうやら突風や発火などは俺の魔法による攻撃と誤解して攻めあぐねているようだ。
この勘違いを利用すれば逃げられるかなと思い始めていると、先にコブリン達が左右に別れて逃げ始めた。
仲間が空中に吹き飛ばされたり、火達磨になった状況で恐慌に駈られて戦意消失で逃亡を始めたのかもしれない。
俺はとりあえず助かったと思って逃げたコブリンの方を眺めていたが、攻撃はまだ続いていた。
左に逃げたグループは、空中に突如として現れた巨大な水滴のような物に取り込まれていた。
水滴の中は当然水らしくコブリン達は泳いで外に脱出しようとしているが、水滴の内側から手で押しても水滴の膜は風船のゴムのように伸びるだけで水面から手を出せないようだ。
脱出しようとするコブリン達は、口から空気の泡を出しながら外に出ようと努力しているが、息が続かず力尽きてどんどん溺死していった。
全員溺死して生きているコブリンがいなくなったころで巨大な水滴が破裂して辺りの地面に水とコブリンの死体が流れていく。
右に逃げたコブリンにも容赦ない攻撃が続いた。逃げるコブリンの足元の土が突如、ぬかるんだ泥に変化した。
森の腐葉土に覆われた地面がグチャグチャの水分を多分に含んだ泥に変わったみたいだ。
当然、その上を走って逃げていたコブリン達は次から次へと沼に嵌って沈んでいく。
まるで底なし沼だ。
最初は、腰まで沈んだ位だったけど暴れるうちに腹、胸、首、頭とどんどん沈んでいった。
そして、右に逃げたコブリンは全員沼に飲み込まれた。こちらも全員死んだのか地面が沼から普通の土の地面に戻った。
コブリンの死体は浮かび上がってこない。
地面に埋まったままのようだ。
巨大な焚き火周辺を見回して見ると、ここにいて生き残っているのは俺ひとり。
十数分前までは数十人のコブリンが宴会をしていたというのに、今は焚き火の燃えて弾ける薪の音しか聞こえない。
助かった。殺される寸前からの大逆転劇……と喜びたいけど、ちょっと待て。
このコブリン達を殺した魔法みたいのは誰の仕業だ?
ファンタジー小説にありがちな通り縋りの勇者や冒険者が見ず知らずの俺を助けるため?
コブリン達は、魔法のようなものだけで殺された。人間が斬り込んでくることもなかった。
しかも、この世界の魔法使いはあんなに大規模に広範囲に使えるくらいの実力者がいて当然なのだろうか。
それによくよく思い出してみると、コブリンの殺し方も容赦がなかった。
空中に吹き飛ばされて地面に激突死。
突如燃え上がって焼死。
巨大な水滴に取り込まれて溺死。
沼地に嵌められて窒息死。
こうして死に方を並べてみるとエグイ殺し方をしている。
こんなコブリン虐殺するようなのが味方の可能性があるだろうか?
それともモンスターは、このくらいの殺し方で当たり前の世界なのだろうか。
とりあえず俺を助けるためにコブリンを殺してくれたと思いたい。
悪魔や上位モンスターが餌=俺をコブリンから横取りするために皆殺しにしたとは思いたくもない。
……はっ、もしかして生命の危険だったから俺の隠れた才能が開花して知らずにチート能
力を行使していたとか?
そんな事を考えていたら、何かの気配を背中に感じたので後ろを振り向いてみる。
そこにいたのは……。