第1話 異世界と全裸ぽい姿の精霊少女達
暗闇に包まれた森を満月の光が照らしていた。
森の中にいる俺の目の前に半裸以上全裸未満としか表現できないような格好をした人間風の少女が三人と変な物体が佇んでいた。
人間風の少女達は、小学校高学年くらいの背格好だ。
なぜ人間風と表現したかというと彼女達は服を着ていないように見えた。
だからといって着物や下着は着ているというオチでもなく本当に何も着ていないように見えた。
でも、彼女達は全裸ではない。
着衣とは表現できないかもしれないけど、左側の女の子から順番に説明していくなら、燃え盛る炎のビキニ風な姿、清流のように水が流れているワンピース風な姿、白い霧が身体の周囲を覆っているロングコート風な姿。
それぞれ彼女達は、炎、水、霧をそれぞれ身体に纏っていて見えちゃいけない場所を隠しているというか、凝視しても見えない。
これには、少しざんN……ゴ、ゴホン。
いや、見えなくて安心した。
これは、全裸ではなく半裸と表現すればいいのかな。
ただ、普通の人間の女の子がこんな時間の森の中であんな格好をするだろうか。
そもそも炎、水、霧をあんな風に身に纏えるだろうか。
あと、もうひとり……いや、一体といえばいいのか、この子だけは他の女の子のように人間
のような姿をしていない。性別は不明だけど全身泥で覆われた泥人形のようだ。
この三人と一体を見ていて気づいたけど、この子らの格好は俺のゲーム知識からすると、精霊の四大属性を表しているのでないだろうか。
火、水、霧を表す格好をしているということから、火属性、水属性、霧は……風属性を表しているのかな。泥人形の子は見た目通りの土属性でいいだろう。
夜と言える時間帯にどこか解らない森の中でこの不思議な格好をした少女達と遭遇したのは数十分前だ。
◆◇◆
「始めまして、山中直登といいます。十六歳です」
「…………」
「ハロー、マイネームイズ、ナオトヤマナカ……シックステェーン。
十六歳って、これであってましたっけ?」
「…………」
「あの……」
「…………」
……完全に無視ですか。
俺の目の前には数十人くらいの人がいる筈なのに、物音ひとつしない静寂に包まれている。
こちらを凝視しているかのような視線と息遣いは感じるけど誰も声を発さない。
ここは暗闇に包まれている鬱蒼とした森の中にある広場らしき場所。
中央には巨大な焚き火の炎が燃えがっていて、それらの人々はその炎を囲むように座っていた。
この状況で俺の頭の中に思い浮かんだのはキャンプファイヤーというものだろう。
理由は、知らないけど気づいたらキャンプファイヤーをしている集団の中で立っていた。
彼らの周囲を見てみると、巨大な焚き火を囲み地面には食べ物らしき物が置いてある。
森の中でキャンプファイヤーをしながら宴会でもしているのだろうか?
暗闇の中、明かりは中央の巨大な焚き火と夜空に浮かぶ月だけ。
目もまだ暗闇には慣れていないうえに、彼らの顔は影になっていて良く見えなかったのでとりあえず挨拶してみたら無視された。
それに彼らの近くにいると、なぜか臭い。
森の中でキャンプしてて十数日間も風呂に入ってないのではと思ってしまうくらい臭い。
でも、貴方、少し匂いますねとは始めて会う人に言えない。
そんな事を言ったら喧嘩を売っていると誤解されてしまう。
そのうち段々目が暗闇に慣れてきたのか、周囲の状況も徐々に見えてきたけど……。
彼らはキャンプファイヤーをやりつつ、仮装パーティもやっているようだ。
だって焚き火を囲んでいる連中の中に人間の顔をした人物は、ひとりもいない。
そこにいるのは、薄汚れた茶色の地肌で背格好は小柄。
ハゲ頭で鼻と耳が尖がっていて、開いた口からは牙が見えていていた。
身体にはなんかの動物の毛皮を着込んでいて、手元には棍棒や棒の先に尖がった石が付いている槍のような物が置いてある。
そんなのが俺を囲むかのように数十人も座り込んでいて、無言で驚いたような表情で俺を金色の目で凝視している。
俺のゲーム知識だと……コブリンというモンスターに似ているような気がする。
リアルな仮装パーティと思おうとしたけど顔は特殊メイクで変えられても背格好も全員同じくらいな小柄で統一するというのは無理があるんじゃないだろうか。
「ここで何しているんですか?」
「ギ?」
「ギギ!」
「ギャギャ、ギギ!」
「ギャギャ、ギィギィギョ!」
話しかけてみると、彼らは我に返ったのか金切り声をあげだし急激に騒がしくなった。
こちらには理解できない言葉で叫んでいるようだけど、彼らは立ち上がると棍棒や槍らしき物を構えて俺が逃げられないように囲むと少しづつ近づいて来た。
彼らを怒らす事はしてないはずだけど、俺を見る彼らの視線は睨むような感じで友好的な雰囲気は無い。
睨んでくる威圧感を素人の俺でも感じる。
友好的に接しようとしても言葉が意味不明なんで意思疎通もできそうにない。
ここはとりあえず逃げようと周囲を見てみると……脱出は不可能に近い。
なんせ、最初に彼ら……もうコブリンと呼ぼう。コブリンの宴会の現場のど真ん中に俺は登場したらしい。
数十人のコブリンに何重にも囲まれている状態でスタート。相手は武器あり。
俺は、戦いの経験や知識は皆無、相手と戦うにしても武器が無い素手だ。
ゲーム的に表現すると。
武器 無し
防具 半袖のTシャツ ジーパン 下着 スニーカー
山中直登は、コブリン数十人と遭遇した。しかも囲まれている! という感じかな。
……うん、詰んでる。
脱出できるチャンスがあったとすれば一番最初の彼らが状況を認識できてない間に一目散に逃亡する事だったな。
異世界転移物の小説は好きでたくさん読んだけど、こんな展開はない。
いきなり、モンスターに殺されるとか。
棍棒で殴られたり、石の槍で刺されたら痛そう。
まさか、宴会の料理の材料にされるのか。焼き人間なんて洒落にもならないぞ。
絶体絶命な状況でどう逃げるか考えていたけど、タイムアウトみたい。
「ギギギギギィィ!」
「ギギャ!」
俺を囲むコブリンどもが唸ったり叫びながら一斉に襲い掛かってきた。
ある者は、棍棒を俺の頭に向けて振り下ろそうと近づいてきて、ある者は槍で俺のお腹を刺そうと踏み込んできている。
コブリンどもの攻撃を避けようにも恐怖で身体が石のように固まってしまったのか上手く動けない。
俺に出来たことは、殴られたり刺される瞬間を見ないために自分の目を瞑ることくらいだった。
目を瞑ったので当然ながら目の前は真っ暗だ。
見えはしないけど、耳からはコブリン共の唸り声が聞こえて怖い。
耳を塞ぎたいけど、身体が全然言うことを聞かない。こんなに身体が固まって動かないなんて。
家族のみんな、さようなら。異世界で死ぬ。親不幸者を許してください。
山中直登、十六歳。異世界でコブリンに殺されて死亡。
全裸ぽい精霊少女を襲ったら俺の負け~性欲を抑え込んでイチャラブ生活
完結。
……ってもう終わり?