八話
ピンポーン…ピンポーン
俺は侑果の家につきインターホンを押した。
侑果はいるだろうか……
もしいなかったらどうしよう……
この待っている時間すらもどかしい。
『はい……』
スピーカーから弱々しい声が聞こえてきた。
侑果がいてよかった……でもなんか調子が悪そうだ。
俺はできるだけ明るく振る舞って言った。
「ゆーやん、俺だ。見えてるか〜」
インターホンに付いているカメラに向かって、手を振った。
『ちょっと待ってね。今開けるから』
少し待つと、ドアが開いた。
「よっ」
「シゲキ……まあ、家に上がって」
「おう、お邪魔しまーす」
玄関で靴を脱いで揃える。
学校指定の革靴が、少し離れて大小二つ。
祐作おじさんの靴がない……
俺は少し不安になった。
「とりあえず、リビングに……」
侑果がリビングに俺を案内した。
「お茶いれるから、適当に座って」
「へーい」
侑果は電気ケトルに水を入れ、装置にセットした。
そしてティーポットを取り出しながら言った。
「紅茶でいいよね」
「任せる」
俺は侑果がティーポットに茶葉を入れるのをボーっと見てた。
侑果はさっきの時より調子が戻ってきたようだ。
「シゲキ、どうしたの?」
「いや、ゆーやんが入れるお茶がうまいから、どうやってるのかなと思ってさ」
「自己流だからなんとも言えないけど、茶葉の量とお湯の温度には気をつけてるかな」
「ほう」
「茶葉の量は、ポットのための一杯と言って人数分より一杯多めにするの」
「へー」
「水に溶けてる空気が逃げないように、沸騰寸前のお湯を使うのもポイントかな」
「ふーん」
「ってシゲキ、聞いてないでしょ」
「まあな、でもお湯が沸騰しているが、いいのか?」
俺がそう言った時、ブクブクと音を立てていた電気ケトルがカチッと音により静まった。
「はっ、忘れてた」
「やると思ったよ……」
「ま……まあ、自己流だしね」
侑果はそう言いながらお湯をティーポットに注いだ。
「いいのかよ……」
「もういいのよ、2分ほど待ってね」
ティーポットの蓋を閉めタイマーをかけたようだ。
そしてこちらに背を向けて棚を開けた。
「え〜と、カップはこれでお皿は……」
何か探し物をしているみたいで、長く黒い髪が何度も揺れた。
あの髪、サラサラしてそうだなぁ……って俺は何を考えてるんだ。
「あった、あった」
侑果はトレーにティーポットやカップ、クッキーをよそったお皿を乗っけてこちらに来た。
「お待たせ」
「おう」
そこでちょうどタイマーがなる。
慣れた手つきでお皿やカップを並べ、俺の前に置いたカップに紅茶を注いでくれた。
「ありがとな、いただきます」
俺は紅茶を少し飲んだ。
「……どう?」
「まあ、うまいかな」
「なら良かった」
侑果はにこやかに微笑んだ後、俺の向かいに座り、カップに口をつけた。
さてと……。
「ゆーやん」
「うん? どうしたの」
「まず、はいこれ」
俺は水木先生から頼まれたプリントを渡した。
「ありがとう」
「後これも、俺が持って帰ったら母ちゃんに叱られる」
そう言いながら、侑果の弁当を渡した。
「わかった。私から智美おばさんに言って渡しておくよ」
「すまん」
俺はそう答え、お茶を飲もうとした。
「いいよ、シゲキはおばさんに弱いもんね」
「ぶっ…………そうだけど飲んでる時に言うなよ」
危なかった……口に含んだ紅茶を吹き出すとこだった。
「ところでさ、ゆーやん」
「ん?」
「どうして連絡もせずに休んだ……ゆーやんらしくない、なにがあった?」
俺がそう聞くと侑果の顔に影が差した。
「うん……シゲキ、父さんが家に帰ってきてることは知ってるよね」
「ああ」
「それでね…………