一話
「撃て、撃てー!」
やばいここまで奴らが迫ってきた。
「こっちだ!早くにげこめ!」
俺は奴らに銃を撃ちながら部屋の中に入った。
「閉めるぞ!!」
そう言うと仲間とともに扉を閉めて、机や椅子でバリケードを作った。
「ともりん、ゆーやん、無事か!」
「私は大丈夫。ともりんはどう?」
「僕もなんとか。シゲキックスは?」
「ああ、大丈夫だ。それにしてもこの三人しかいないのか……」
俺は部屋を見渡しながらそういった。
ここにいるのは、俺、中辻成樹、親友のともりん、三原朋輝と幼馴染、ゆーやんこと宮沢侑果だ。
「さーちゃん、まいちゃん、無事かな……」
「大丈夫だよ。大丈夫、きっと五井さんたちのことだから身を隠しているはずだよ」
侑果の心配そうなつぶやきに、朋輝が自分に言い聞かせるように言った。
同級生であり侑果の親友である、さーちゃん、まいちゃんこと、三ツ井沙耶香と五井舞子を思い浮かべた。
そして、朋輝と同じ結論に達した。
五井のことだ、沙耶香を連れてなんとかやっているだろう。
「それにしても静かだね」
侑果のいう通り、確かに静かだ。
いや……静かすぎる。
奴らのことだバリケードに体当たりしていてもおかしくないはずだ。
「ともりん」
俺が言うと朋輝も気づいたのか、頷くと銃を手に取った。
「どうしたの二人とも」
侑果は心配そうに俺らを見た。
「静かに……ちょっとバリケードの向こう側を確かめるから、警戒よろしくな」
俺はそう言って、朋輝と共にバリケードの前まで来た。
「シゲキックス、じゃんけんだ、負けた奴が向こう側を覗く、いいか」
大きくうなずき腕をまくった。
「行くぞ。最初はグー、ジャンケン、ほい」
朋輝はチョキを出した。
俺の手はパーの形になっていた。
朋輝は俺の肩を掴んできた。
「シゲキックス、頼んだ。死ぬなよ」
「ともりんは心配性だな~、ただ単に様子を確認するだけじゃないか」
俺はそう言いって朋輝の方を軽く叩いた。
チョンチョン
ふと横を見ると侑果が服の裾を引張ていた。
「ゆーやん、どうしたんだ」
「シゲキ……やっぱり今はいいや。戻ってきた時に話すね」
「わかった、すぐに戻るよ」
そう言って俺はバリケードの隙間に潜り込んだ。
そして扉の前に着く。
俺は深呼吸をした。
よし!
腕を伸ばし、ドアノブに手をかけた。
ドンドンドン
うわっ、なんだ!
誰かいるのだろうか。
「誰かいますかー。いたら三回ノックしてください」
ドンドンドン
よかった人みたいだ。
ドンドンドン
「わかったから、もう叩かないでくれ。奴らがやってくるから」
ドンドンドン、ドンドンドン
何かがおかしい。
ドンドドンドドドンドンドン
扉を叩く音が強くそして複数になった。
やばい、奴らだ。
「ともりん、ゆうやん、奴らだ!」
俺は慌ててバリケードの向こう側に逃げようとしたが……
「あっ」
ガラガラガラ……
つまずいてバリケードを崩してしまった。
「痛っ」
まずい、崩れた机に挟まれたみたいだ。
身動きができない。
ドンドンドドンドンドン
ミシミシ
扉が嫌な音を立て始めた。
ああ、扉が開いてしまう。
俺はどうにか首を動かして扉を見た。
バキッ バタン
扉が壊れて倒れた。
その先の暗い廊下から鬼の形相で奴は現れた。
「シゲキ! 早く起きなさい!」
「うわーーー!!」
俺は飛び起きた。
「……あれっ?」
俺の部屋だ……。
ベットの上から部屋を見渡した。
ドンドンドン
「シゲキ! 起きたの! もう7時よ! 早く支度しなさい!」
部屋の扉が強く叩かれて、母さんの怒鳴り声が聞こえた。
やっべ、急がないと。
「わかった! すぐ着替えて降りる!」
寝巻きから急いで制服に着替えた。
バックを持ち、階段を駆け下た。
リビングから母さんの声が聞こえた。
「シゲキ! ご飯は!」
俺は革靴を履きながら答えた。
「時間ないから! 行ってきます!」
「弁当は!」
おっと、弁当を忘れるとこだった。
リビングから母さんが二つ弁当を持ってきてくれた。
「はい、急ぐのはいいけど、しっかりご飯は食べなさいよ」
「わかってるって、行ってきます!」
母さんから弁当を受け取ると玄関を開けた。
扉の向こうから熱波に乗せてセミの大合唱が聞こえてきた。
俺は自転車に飛び乗った。
「事故と熱中症に気をつけなさいよ!」
玄関の前で母さんがそう言った。
「はーーい!」
俺は全力で自転車を漕いだ。