ゲエム
アナログの時代が過ぎ、デジタルが世の中を支配しはや30年以上の月日が経った。見渡すかぎり、どの商品をみても精密機器が内蔵されており、それぞれの部品が幾多の複雑な作業を規則的に実行し、0.1コンマ狂うことなく24時間動き続けている。まるで、ひとつ生命体とも言える科学の結晶。いや芸術作品と言ったほうが良いだろう。そんな緻密な機器達は様々なモノに化け、世に浸透していった。中でも最も身近な存在で、老若男女問わず愛されているモノがある。ひとつは携帯電話。そして『ゲーム機器』だ。
ゲーム機器はだいたい大きく分けて2つに分類されるだろう。家庭のテレビやモニターなどにプラグを繋いで楽しむタイプの大型ゲーム機。もうひとつが携帯電話などと同じように掌に乗る程で、外出の際も持運びが便利な『小型ゲーム機』の2つだ。特に小型ゲーム機の方の普及率は目まぐるしいほどの早さだ。そしてその頂点に君臨するのが、恐らくニンテンドーダブルスクリーン。通称、N-DSだ。
それだけ人気があるのには、それなりの理由がある。一つは、ソフト数の多さだ。言うまでもないが様々なジャンルのものが存在する。しかも、そのゲームの殆どが有名なタイトルばかりだ。最近ではSDカードやカメラなども搭載され、それによりさらに幅広い活用方法が生まれた。もう一つがニュースなどにより浮き彫りとなったマジコンの存在だ。そもそもマジコンとは何なのだろうか。
マジコンとはマジックコンピューターの略で、ソフトの形状をしており、マイクロSDカードを搭載できるものが大体を占めている。しかし、それ自体にはゲームが入っているわけではない。ここから先の内容は、正直なところを言うと犯罪に関わることなので今はあえて伏せさせて頂く。
話が脱線してしまったが、そのような理由などが背景にあるのだ。
そんな中、ある噂が飛び込んできた。それは『呪われたゲーム』の存在だった。この手の普及しやすいゲーム系統にはよくある都市伝説のようなものだ。その大体がデバック(バグ)つまり、ゲーム製作中の処理残しだ。
例を上げるなら入ったら二度と抜け出せない部屋や、文字化けなどだ。それらに徐々に尾ビレ背ビレなど付き世に広まったとき呪いのゲームなどと言われるのだ。
しかし今回は違った。『そのゲームをやった人がゲームに操られる』というものだった。なんとも馬鹿馬鹿しい内容だと思ってしまうが、笑えるような内容では無かった。
本来なら、この程度なら、あまりにも阿呆過ぎるため噂にもならないものだが、この噂が広まると共に妙な怪死事件が相次いだ。それが今回の馬鹿げた都市伝説が広まった理由と言っても過言ではない。そして事件内容の共通点はこういうものだった。
年令、及び性別は無差別、被害を受けた殆どの者が無傷であった。危害を加えた側はその後、皆自殺をしているという。そして自殺した誰もがその呪われたゲームをやっており、その後、死亡した者が使用していたゲーム機から勝手に被害者のゲーム機へと配信されるという。そしてこの事件は秋葉原を中心に多発しており、発生時刻はおよそ4時から6時前後の夕方頃とのこと。
これらの内容で分かる重要な点は、被害者と死亡者は必ずN-DSを所持していること。そしてこれは補足なのだが、使用ソフトは皆マジコンであった。しかしなぜ、マジコンを使用している者だけが被害を受けているのだろうか。
その答えに辿り着くのは簡単だった。先程伏せていたマジコンだけではゲームが遊べないと説明したのを憶えているだろうか。ここでまた改めて、マジコンの説明をしたいと思う。
マイクロSDカードが搭載可能だと説明したが、搭載するためには理由がる。
SDカードにゲームソフトのデータ通称ROMを入れるためだ。他にも理由はいくつか存在するが、ほぼそのためといっても可笑しくない。
しかし、未だに分からない点が一つ存在する。N-DSのソフトはもちろん、ゲーム機本体にも制御プログラム。
つまりプロテクトが掛けられているはず。ましてや見ず知らずの赤の他人からの勝手な配信を何も承諾無しで受信出来るなどもっての他だ。私はそれを探るため、さすがにSDカードまではいかなかったものの、遺留品の中からゲーム機とマジコンを拝借させてもらった。
一先ず、SDカードが手元に無いことには意味がない。私は事件が最も発生する秋葉原に向かうことにした。ついでに、呪われたゲームに関する情報が入手出来れば一石二鳥なのだが、そううまく行くものだろうか。
目的地に着いた瞬間、秋葉原の変貌ぶりには唖然とした。
秋葉原といえば電気街のイメージが強かった。しかし見渡すかぎり、コスプレをしている者達と、アニメやマンガなどで登場していると思われる人物の巨大な看板の数々で埋め尽くされていた。
過去にも多少このような傾向は確かにあった。それに、最近になってメディアにもコスプレなどをしている者達が集う中心地だと取り上げられた。
それにしても、まさかここまでとは思ってもいなかった。そんな光景に呆れかえっていた時、ふとあることに気付いた。
街を行き交う殆どの人々がゲームを片手に歩いていた。そして、なぜ秋葉原が最も事件発生率が高いのか。今までそれが想像の範囲内でしかなかったが、それが確信に一歩近付いた瞬間だった。
こんなにも沢山の人数がゲーム機を街中で使用していれば、今回のような事件が起こっても可笑しくないというわけだ。しかし、これだけではプロテクトの問題が抜けてしまう。真相を探るべく、その後SDカードを購入し、一先ず秋葉原を後にした。
自宅に戻ったあとマジコンにSDカードを挿し起動させた。すると今まで真っ白だった画面がブラックアウトし、その刹那に大量の文字列が出現した。はじめその現象には戸惑ったが、それ以降起動させても起こることはなかった。どうやら初めて起動させたため、SDカード内の初期化と書き換えを行っていたことがROMを入れる際に判明した。
カード内には幾つかのフォルダが作成されており、どのフォルダの中にもプログラムファイルが入っていた。ROMをカード内に入れ、再度起動させた。すると先程のゲームデータらしきアイコンが画面上に表示されていた。本来プロテクトが掛けられているはずのゲームなのだが、果たして動くのだろうか。
表示されているアイコンにカーソルをあわせ決定をする。すると暫くその画面の状態で固まった。沈黙が辺りを支配し、なんとも不気味だった。そして一瞬画面が白くなったと思うとゲーム画面に変わったのだ。プロテクトが元々無いゲームを選んだわけではなかった。
恐らく、先程の画面がフリーズしていた間にプロテクトを解除していたのだろう。一先ず、ゲームの起動とプロテクトの解除が確認できた。
翌日、私はN-DS手に再び秋葉原に向かった。事件が発生した付近でゲーム機に電源を入れた。前回と変わらぬ選択画面になった。
しかし、そこには見知らぬゲームタイトルが数個存在していた。
街中だったのだが、これには驚きを隠せず、声を上げてしまい、辺りから冷たい視線を浴びているのを感じ、慌てて人気のない裏路地へ向かった。辺りに人がいないことを確認し、改めてゲーム機に目をやった。
明らかにそこには自分は入れていないゲームの表示アイコンが存在した。しかし目的の呪われたゲームはその中には無かった。それにしても、いつのまにゲームが送られてきたのだろうか。いや、送られてきたのは恐らく起動した瞬間だ。
しかし、どのような仕組みで届いたのだろうか。
口がさびしくなってきた。しばらくタバコをくわえ、煙混じりに街中を歩いた。ふと、ジャンク通りに差し掛かるとき、ある店の貼り紙に目がいった。そこには『すれ違い通信やってます』と書いており、そこには人集りがあった。
すれ違い通信とは特定のソフトを使用して、通信待機状態にしたゲーム機を電源に入れた状態にしたまま持ち歩くことで、他の通信機状態のゲーム機と自動的に無線通信が行われる機能のことだ。ここ最近で、この機能が使用可能の有名なソフトは、『ドラゴンクエストⅨ星空の守り人』あたりだろう。
その時、先程起こった奇妙な現象を思い出した。そこで私はゲーム機を起動させた状態で、そこをゆっくり通り過ぎることにした。見事に予想は的中。画面にゲームアイコンが大量に増加したのだ。つまりマジコンにはすれ違い通信機能が搭載されているということになる。これなら呪われたゲームが他人から配信されるのも頷ける。それにしても、こんなに簡単に、それもすれ違うだけでゲームを大量に入手できるというのに、目的の呪われたゲームが一向に現われないのはどういうことなんだ。今日はこのくらいにして帰るとするか。何はともあれ、それなりな収穫もあったわけだ。
そして私が駅に向かって歩き始めた時だった。
“ドンッ…”
駅付近の店の曲がり角に差し掛かっかとき、誰かとぶつかってしまい、相手はその拍子に尻餅をついてしまった。こちらの不注意というのもあるが、向こうは目の前が見えないくらい目深に帽子をかぶっていた。
私は相手に声を掛け、手を差し伸べたその瞬間、相手は物凄い奇声を発し襲い掛かってきた。私はすかさず横に避け、身をかわすことができた。一方相手は勢い余って転んでしまった。私が駆け寄ったとき、彼はこちらを見るなり恐怖に顔を歪め、何やらブツブツと呟きながら後退りし、立ち上がるなり走って逃げ出していった。
その時、私がもっと早く気付けばよかったのだが彼は車道のど真ん中で立ち止まり、その場に倒れ込んでしまった。私が慌てて止めようとしたときには、すでに肉塊に変わり果ててしまった後だった。
その後、彼は『自殺』という形で処理された。何せはたから見たら青信号の車道に自ら身を投げたのだから。
野次馬やら何処から湧いてきたのか、マスコミなどで一時ごった返しになっていた秋葉原の大通りもようやくいつもの騒がしい街に戻りつつあった。いまだに野次馬はちらほら見られる。
記念のつもりなのか、自殺現場を携帯電話で写真撮影して者もいる。その中に混じってマスコミ気取りの連中が馬鹿らしく騒いでいた。そんな光景を私は事情聴取を受けながら眺めていた。喫煙しようとタバコをくわえたが、禁煙区域だと指摘されてしまった挙げ句、タバコを没収される始末。まったく、喫煙者は肩身の狭い世の中になったものだ。そんなふうに物思いにふけっている私を尻目に、彼の残された遺留品が通り過ぎていった。
その時だった。背広の内ポケットから鈍い光と奇妙な音が聞こえてきた。携帯電話の着信音が鳴っているのか。いや、こんな妙な電子音に設定したはずがない。そもそも携帯をしまった覚えなんかない。なぜなら私が今握り締めているものがソレなのだから。
私はおそるおそる自分の背広の中に手を入れて取り出した。やはり正体はN-DSだった。画面を覗くと大量のバグが発生していた。
そして何やら文字が表示されている。ひどく文字化けを起こしていたが、読めなくはなかった。そこには『配信完了』と記されていた。その下には先程、遺体となった人物の名前。そしてその横には右を指す矢印が置かれ、その矢印の指し示す先には私の名前が表示されていた。今までのすれ違い通信によりゲームが配信されてきたケースとはまったく別ものだ。
それに今回起こっている奇妙な事件と私が置かれた状況が一致する。もしかしたらこれが噂の呪われたゲームなのかもしれない。私は何とも言い難い胸の高鳴りを誰にも気付かれまいと、押し殺しながら一目散に自宅まで帰った。
私は転がり込むように部屋に戻り、電気もつけずにゲームを起動させた。暗闇に現われた光は赤くチカチカ点滅を繰り返していた。どうやらこれからイベントが発生するようだ。
画面の中には見覚えのある街の風景が登場し、その中央には大の字に寝転がっている男がいた。私はそれを見てはっとした。それは先程私が目の当たりにした光景だった。現実に起きた出来事とゲーム内容の一部が似ていることはよくあるのだが、こんなにも現実とそっくりな現象がゲーム内で登場するなんて不可能に近い。
そして私はその瞬間、このゲームが呪われたゲームだと確信した。 つまり先程、私を襲ってきた男はこのゲームに操られていたとことになる。そんなことを考えている最中にもゲームは進行していった。
見ると中央にあったはずの男の死体が無い。私はその後の出来事を思い出そうとした。するとBGMと何やら足音のような効果音を残し、画面が真っ暗になった。そしてまた画面が明るくなった。
今度は見覚えのある部屋の中にいた。私はすぐに察しがついた。私の部屋だ。それも置いてある物の配置全てが寸分狂うことなく。私はゲームの中にもう一つの世界があるような錯覚に陥った。
そして瞬間、目の前がグラついて見え、慌てて目を擦った。もう一度周辺を見渡した。特に変化もなく、身体の異常もない。気のせいかと始めは思った。
しかしこの胸騒ぎは一体何なのだろうか。
ゲームの方に目を向けると、部屋に私以外に見知らぬ男がいた。いや、知らないワケでは無いがありえなかった。それは先程、街のど真ん中で息絶えていた彼だったのだから。そして彼は突然私に話かけてきた。彼の話いわく、やはり私と同じように突然人が襲い掛かってきたかと思うと、自ら自殺をはかり死んでいったそうだ。
その後、気が付いたらこのゲームが配信されていた。そして彼もまた、死んでしまった。しかし、命が尽きると判明した瞬間、彼は承知の上で、ゲーム内で多くの試みを計ったらしい。その知識を全て私に託してくれるようだ。簡単にいうと攻略方法だ。
彼の説明は数時間に渡って続いた。パソコンに向き合うことはよくあるのだが、さすがに画面が小さいだけあり目が疲れた。しかし、このゲームを進めるための必要事項だったため、必死に文字を追いメモにペンを走らせた。
男も必死だった。彼いわくこのゲームにはどうやらタイムリミットがあるようだ。期限は13日間。その間に村、街に存在する特定のバグに触れるとダンジョンに飛ばされ、そこの最下層にいる親玉を倒しバグを浄化させないといけないらしい。村や街の数は合計4つと案外少なく、その内バグは各場所に2つずつ存在するらしい。そして全てのバグを浄化させ、最終的にある場所に現れる魔王を倒さないといけないらしい。これだけこのゲーム内容を把握していればなんとかなりそうだと思った。しかし、言うまでもないが彼はこの世を去った存在だ。つまり最後まで辿り着いたわけではない。それに、一度はゲームに侵された者だ。何はともあれ最終的には自力で何とかしなければならないようだ。
ゲームをやり始めて一週間がたったころだった。あれ以来男は時々私のゲーム中に現れては助言をくれるようになった。私も彼のアドバイスのお陰でようやく6つのバグを見つけ浄化することに成功した。今のところ順調に進んでいる。このまま何事もなければ良いのだが。しかし、そう簡単にはいかなかった。
それから2日が経った朝のことだった。今日も呪われたゲームの解明、そしてクリアを目指すため、ゲームを開始したときのことだった。私は新たなバグを取り除き、ちょうど次のダンジョンに差し掛かる手前でセーブをしていた。普段なら、こんなとき彼が現れアドバイスをくれるのだが、その日、彼は姿を見せることはなかったのだ。そして、その日をさかいにずっと。
彼を待っていても仕方がない。何せ自分の命が掛っていることなのだから。
私は次のバグの中に飛び込んだ。その時だった。ダンジョンに入るなり私を中心に大量のバグが発生したのだ。今までにもバグは大量にあったのだがそこまで気にするものでもなかった。しかし今回は違う。今までの比じゃない。しかも触れてしまうとフリーズしてしまうというのはどういうことなんだ。結局その日は一歩も進むことが出来ず、そこで立ち往生してしまった。
翌日の朝、私はダンジョン前から始め直すことにした。私もさすがに残り三日間しかないとなり焦り始めていた。
今思うと彼の偉大さ、存在の大きさが身にしみてくる。ようやく攻略方法がわかったときは、すでに窓の向こうは真っ暗になっていた。時計に目を向けると、時刻は翌日の午前三時を差していた。
先に進まないのも当然だった。このゲームの一番初めに訪れたダンジョンで入手したアイテムを使用していなかったのが原因だったようだ。
アイテム名とその説明も読めないくらい酷く文字化けを起こしていて用途が不明だったのだ。まさか後半で必要だったとは思わなかった。ゲームが再開できるとホッとした途端、睡魔が襲ってきた。確かにもうこんな時間だ。私はゲームデータを保存し床に就いた。
その日の朝、起き上がってから妙な感覚に襲われている。目覚めているにも関わらず眠っているようだ。意識はあるのだが、体を動かす行為が全て無意識のような感覚だ。まるで誰かに操られているようだ。いや兎にも角にもゲームを再開させなければ。
しかしいったい何処に置いたのだろうか。確か机の上に置いておいたはずなのだが、私は部屋中のありとあらゆる物をひっくり返し探した。
しかしN-DSは見つかることがなかった。このまま見つからなければ私はゲームに殺されてしまう。何としてでも見つけ出さなければ。ふと私は探し物をしている最中カレンダーに目が向いた。何やら所どころぼやけているようだ。
今日の日にちを確認したときだった。文字化けを起こしている。いったいどういうことだ。ふと私は人の視線を感じた。
しかし、姿が見えない。何処から見ているのだろうか。不意に上から威圧されているような気がし、私は仰ぎ見た。すると、天井には幾つもの人の顔が敷き詰められていた。そして全ての顔が私に憎悪を向け、この世のものとは思えないような声で唸り、叫び始めたのだ。
私は堪られず耳を塞いだ。こんなの夢に違いない。悪い夢なら覚めてくれ。そう願いながら目を強くつぶった。
耳元で携帯電話のアラームが鳴っていた。服が汗で纏わりついている。どうやらひどくうなされていたようだ。時刻は午前十一時を差していた。
その後、ゲームの続きをやり始めた。バグの問題も解決され、あんなにも悪戦苦闘していたダンジョンも容易く最下層に向かうことができた。そしてボスを倒し、残るはラスボスのみとなった。ある場所に現れると彼は言っていたが、いったい何処に現れるのだろうか。最も厄介な問題が最後に残ったものだ。私は一時ゲームを止め、彼から託された知識、そして私なりに調べた情報を整理することにした。もしかしたら魔王が出現する場所のヒントがあるかもしれないからだ。私は無我夢中でペンを走らせた。
一通りまとめ上げたので、再びゲームをやりはじめた時には時刻は午後五時半を差していた。ゲームの世界も日時共に連動しているようで、ゲーム内の私の部屋中もまた茜色に染まっていた。
いったん整理したかいがあったのか、見事魔王が出現すると思われる場所にたどり着くことが出来た。しかし、条件を満たしておらず、ラスボスは姿を現さなかった。どうやらここに日時が絡んでくるとこが判明したのだ。条件内容は『魔が差す時刻』と言われる夕方時だ。始めたてからすでに数時間経ってしまったため、時刻はもう十時をまわっていた。
こればかりはどうあがいてもどうにかなるものではなかった。私は明日に備えるため少々早かったが眠りに就いた。
そして最終日。とても清々しい目覚めと共に私はN-DSを片手に外に出かけた。なんせ夕方まで何もすることが無いのだから。特に宛てもなく歩いていたら秋葉原に私はいた。そろそろ午後6時に差し掛かるころだ。私はゲームを起動させた。
しかし予想を裏切るような光景が眼前に広がっていた。セーブデータ欄すべてに『GAME OVER』の文字が流れているのだ。そんな馬鹿なはずがない。今日は13日目、まだ1日余裕があるはずだ。私は昨夜ゲームをセーブした欄にカーソルを合わせ開始した。すると、何事もなったように動作した。
しかし、場所が違う。ゲーム内の私が立たされているところは秋葉原だった。それも見渡す限り真紅に染まり、死体が折り重なっている。その中にはあの男の姿も見受けられた。私は思わず声を上げてしまった。辺りから冷たい眼差しが飛んでくるのを感じ慌てて裏路地に向かおうとした。
しかし動くことができない。いや、実際体は動かせるが、私の意志で動くことが出来ない。一瞬、目の前がグラついて見えた。
男は彷徨い続けていた。まるで何かを探し求めているかのように。
そして、ふと立ち止まったかと思うと人とは思えないような奇声を発し、魔が差したのか一人に物凄い勢いで襲い掛かった。
しかし相手は反射的にそれを振りほどき押し返した。
男は転倒し、顔は恐怖で歪んだ。
そして腰に忍ばせていた拳銃に手を掛け自分のこめかみに突き付けた。
街中に銃声が響き渡った。