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オープンユニバース  作者: ペタ
第3章 襲撃
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3-1

第三章 襲撃


 アルミナからカディスまでは三十三時間の行程だった。ファブリスは主に操縦を、メルルは会計について熱心に勉強していた。一つの目のワープゲートを抜け、その次のワープゲートまでの航行中であった。

ファブリスはケネスから一通り操縦を教わると、次にラウンジにある通信モニターを使ってカディスの生産物などを調べていた。隣ではメルルがミニコンで会計の記録を行っている。

カディスは巨大な人工惑星である。人類の宇宙開拓は増加した人口をまかなうだけの水と食料の確保を目的に急速に発展した。水はそれがある惑星や衛星から調達したが、食料については、食料生産を行う人工衛星を宇宙に浮かべ、無尽蔵に得られる恒星からの光と熱のエネルギーを活用し生産が行われた。

カディスは基本的には食料生産を目的と作られた人工惑星であるが、直接的に食料生産に関わらない人口も多く、消費もそれなりに多い星である。また、当然、鉱物資源はまったくないため、天然資源などは売っておらず、食品か工業製品を購入するのが一般的のようだった。

ファブリスがそうした情報を得ながら、何を購入すべきかと悩んでいたその時だった。

「二人ともすぐにこっちに来てくれ」

ケネスが操縦席から呼び掛けた。

ファブリスとメルルが慌てて操縦席に近づくと、操縦席にあるレーダーが点滅していることに気がついた。

「これは?」ファブリスが聞いた。

「大きさからみてこちらと同じ小型輸送艦のようだ。だが、少し動きがおかしい」

 ファブリスがモニターで数分前からの軌跡を確認した。相手の動きは意図的にこちらに近づいてきているように見える。

「こちらが少し進路を変えてみたらどうかな」

ファブリスの意見に従い、ケネスは左に少し進路を変えた。レーダーに映る相手は右に逸れる形となった。しかし、相手は左に進路を変えて、再びこちらに近づいてくる進路を取った。

「間違いなくこちらに近づいているようだけど、意図が読めない。相手に通信してみたらどうかな」ファブリスは言った。

ケネスは先程から通信を試みていたが、再度、相手の艦に呼び掛けてみた。しかし、反応がない。

 ケネスが今度は反対側に進路を変えてみる。しかし、相手はまたそれに合わせて進路を変えてきた。

「あまり関わりたくない相手のようだな」ケネスがつぶやいた。

「進路を変えて、それからスピードを出して振りきれないかな」

「分かった。燃料を余分に食うが、まあ、そんなこと言ってもいられないか」

 ケネスは進路を変え、急加速した。すると相手も合わせてまた進路を変えたが、その距離は広がった。

「よし。普通の艦ではこのファルメルには追いつけないはずだ」三人は小さく歓声を上げた。

しかし、それは長くは続かなかった。メルルが声を上げた。

「前に別のがいるよ」

 レーダーは新たな機影が前方にあることを示していた。モニターの画面に表示された情報によると、小型輸送艦よりもかなり小さい。

「戦闘艇だな」ケネスは言った。その声に少し緊張が走る。

戦闘艇は輸送能力はないが、運動能力が高く、機銃やレーザー砲を搭載した戦闘に特化した小型機である。これが出てきたということは相手の意図は一つしかない。

「逃げよう」ファブリスの言葉にケネスはうなずいた。

 ケネスは新たに現れた戦闘艇を右によけるように進路を変えた。戦闘艇もそれに合わせて進路を変えた。輸送艦よりも小回りが利く分、旋回も早い。

その時だった。戦闘艇から熱源が複数放たれたのがレーダーに表示された。

「機銃か」ケネスが言った。三人にさらに緊張が走る。

 しかし、距離があるため、ファルメルは余裕で熱源を回避する。

「おそらく警告だな」ケネスがつぶやく。そしてケネスはさらに旋回し、また加速して戦闘艇を振り切ろうとする。スピードはファルメルの方が上のようだ。戦闘艇を交わし、少しずつ距離を放す。

「また、前!」

メルルの声が響く。レーダーには、進路上に三機目が表示された。

「ちっ、何機いるんだ。こいつら」

新たに現れたのは小型輸送艦であったが、その動きから前の二機と同じ目的を持っているのは明らかだった。その時、通信が入った。画像はなく音声だけだった。

「そこの輸送艦、直ちに機関を停止せよ。抵抗すれば撃墜する」起伏に乏しい男の声だった。相手の正体は確定した。海賊だ。ファブリスは、昨日のホセのことを思い出したが、ホセのものと思われる艦は、ファブリスが出発するときにはまだ宇宙港にあった。わざわざ追いかけて来るとも思えないので、別の海賊だろう。

「どうする? なんて聞くまでもないな。こいつも振り切る。いいな」ケネスがファブリスに同意を求める。ファブリスもうなずいた。

 ケネスはさらに旋回する。後ろの戦闘艇の動きも気にしながら、目の前の輸送艦も回避しようとする。レーダーに新たな反応があった。前の輸送艦から熱源が発射された。

「あれも機銃を積んでいるのか」

ケネスはさらに進路を変え、機銃をやり過ごす。目の前の艦を左にかわす形となった。後ろからは、まだ距離はあるが戦闘艇が追ってきている。ケネスは左に進路を取ろうとした。

「右へ進路をとって」ファブリスが言った。

「それだと敵にだいぶ接近するぞ」ケネスが答える。

「敵の動きからすると、こっちを左へと誘導しようとしているように見えるんだ。機銃もこちらが避ける方向を計算して撃ってきたように思う。左に行くとたぶんそっちに別の機か、最初の艦が回り込んでいると思う。だから逆を行く」

 ファブリスの声を聞くと、ケネスは状況にそぐわぬ笑みを浮かべた。

「分かったぜ。船長」

 ファルメルは右に旋回し加速した。一時的に敵の輸送艦に接近したが、予想外の動きだったのであろう、敵の動きが遅れた。このため、輸送艦の横を通過することができた。レーダーが、ファルメルの後ろに別の機影を捉えた。それは最初の輸送艦のようだが、だいぶ距離があいているので問題はなさそうだ。逆の方向に進んでいたら、敵に囲まれていたかもしれない。

 とりあえず相手の艦と戦闘艇とはだいぶ距離を離した。しかし相手は追跡を止めない。他にも仲間がいるかもしれないので油断はできない。

「カディスへの進路からだいぶ逸れてしまった。どこかで旋回しないとまずいな」ケネスが言った。

レーダーには相手の艦が一隻だけ映っているが、残りの二機の姿が見えない。諦めたとも思えないので、こちらが旋回するタイミングを見計らっているのかもしれない。レーダーの範囲外にいて、こちらが旋回する位置を予想して潜んでいるように思える。

どのタイミングで動くか、思案が必要だった。

「前を見て!!」

メルルの叫ぶような声に、ファブリスとケネスはレーダーから視線を外し、前方を見た。目の前の宇宙空間に、明らかに星とは違う光が複数見えた。

 少し遅れてレーダーも前方の機影を映し出した。二つ、三つ。さらに数が増える。モニターに、前の機影の情報が表示される。それによると、新たに現れた艦は、輸送艦よりもかなり大きいことを示していた。

 三人にまた、緊張が走る。その時、通信が入った。

「こちらは第四十七宙域艦隊である。前方のすべての艦に告げる。すぐに停止せよ。指示に従わない場合は攻撃する」

 ファブリスたちは胸をなでおろした。それはこの宙域を防衛する軍隊であった。

「機関を停止しよう」ファブリスが言った。ケネスはそれに従った。

 ファルメルを追っていた艦は、停止指示に従わず、進路を変え、離脱を図ろうとした。しかし、宇宙艦隊の一隻から放たれたレーザー砲の直撃を受け、レーダーから姿を消した。

 その後、宇宙艦隊から戦闘艇が複数放たれた。機関を停止したファルメルの横を抜けて行った。それは黒い色で三角の形をした機体であった。

 しばらくの後、また、通信が入った。今度はモニターに画像が映った。そこには三十歳前後かと思われる、軍服に身を包んだ軍人が映っていた。

「宇宙艦隊第四十七宙域第三分艦隊隊長シュナイダーだ。そちらの艦籍、船長、積み荷の中身、目的地を告げよ」

 ファブリスは少し緊張しながらも聞かれたことを正直に答えた。

 シュナイダーはファブリスとその横のメルルを見て、その若さに少し驚いたような表情を浮かべた。

「分かった。不審な点はないようなので、このまま進んでもよい。なお、先程沈めた艦だが、動きに不審な点があったのでしばらくマークしていた。明らかに海賊行為とみられる動きがあったので沈めた」

「助かりました。ありがとうございました」

「いや、こちらは職務を遂行しただけだ。礼には及ばない。しかし、この宙域も物騒になってきている。輸送艦といえども武装するなり、戦闘艇を伴うなりした方がいい」

「分かりました。ご忠告感謝いたします」

「ここからカディスまでは不審な艦はなかったので安全だと思うが、警戒は怠らないことだ。では諸君らの航行の無事を祈っている」そう言うと通信が消えた。

 ファルメルはふたたび動力を稼働させた。そして旋回して、カディスへの進路を取った。

その際、シュナイダーの艦隊の横を通ることになったため、窓からその艦を見ることができた。大型輸送艦ほどではないが、かなり大きい。

「あれは巡洋艦だな。戦闘に特化した軍艦だ。ミサイルやらレーザーキャノンやらいろいろ積んでいる」ケネスが言った。

ファブリスも本や情報通信で見たことはあったが、実物を見るのは初めてだった。明らかに輸送艦とは様相を呈する、動く要塞とも言われている黒く輝く巨大な艦が何隻も連なっている光景は、ファブリスに強い印象を与えた。


「少佐。逃げた戦闘艇はいかがいたしましょうか?」

通信を切ったあと、シュナイダーは副官の中尉に聞かれた。

「戦闘艇だけなら何もできやしないだろう。深追いする必要はない。それよりも機関停止したもう一隻の輸送艦はどうなった」

「投降するとの通信が入りました。商艦から奪ったと思われる物資も積んでいるようです」

「分かった。では艦は拿捕し、乗組員は拘束しろ」

「了解しました」副官は敬礼すると、具体的な指示を行うため、その場を離れた。

 巡洋艦の指令室には、十人を超えるクルーが働いていた。輸送艦と異なり、様々なレーダー設備や攻撃装置を運用するために多くの人員が必要となる。一つの巡洋艦には全部で五十人を超える兵士が乗り込んでいる。

 首都星消失後、宇宙の混乱は特に軍事部門を直撃した。それまで首都星にある軍事本部を中心に、人員、資金、物資などが動いていたが、いきなりその機能が失われたために、多くの部隊が混乱に陥った。幸い四十七宙域は首都星から遠いこともあり影響は比較的少なく、混乱は最小限に留めることはできたが、それでも資金の調達はままならず、物資の供給も滞ることが珍しくなかった。このため、海賊を捕えて、その艦や物資を奪うことは、組織を維持していくために重要な活動となっていた。首都星消失前には考えられなかったことである。

今回の海賊も、輸送艦を一隻撃沈してしまったことは多少悔やまれるが、拿捕したもう一隻については、艦と積荷は売却され、その収入が艦隊の維持に使われることになる。

「これではどっちが海賊だかわからないな」シュナイダーは自嘲気味につぶやいた。

「報告いたします」副官がまたシュナイダーの所に来て言った。

「アルミナからの緊急連絡です。かねてより警戒していたホセの艦が宇宙港を出発するとのことです。その数は巡洋艦一隻と輸送艦約十隻」

「動き出したか。周辺の艦を結集しろ。先程の輸送艦を拿捕し次第、すぐに発進する」

 宙域警備のために周辺に散らばっている艦を集めれば、シュナイダーが率いる艦隊は巡洋艦が約四十隻になる。海賊風情がどこで手に入れたか知らないが一隻の巡洋艦を持っているとはいえ、輸送艦を中心とする海賊などに負けるはずのない戦いであった。予想される戦闘宙域の周りにも艦を配置し、包囲網をひいて敵を逃がさないようにする。その編成についても検討済みであった。

(それにしても、あんな子供たちが商人とは)

シュナイダーは、先程モニターに映った輸送艦の乗組員を思い出した。一人大人もいたようだが、二人は年端もいかない子供のようだった。

(これも宇宙の混乱のせいか……)

レーダーには、輸送艦を示す点が、カディスの方へ遠ざかって行くのが映っていた。


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