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「ニナ~っ!!」
パイロット用の控室から姿を現したニナの姿を認めると、メルルは駆け寄った。
「無事でよかったよ」
ニナに抱き着いたメルルは感極まってそのまま涙が止まらなかった。そんなメルルをニナは戸惑い半分、親しみ半分という視線で見ていた。
「おめでとうニナ。本選出場だね」
ファブリスは笑顔を浮かべながら比較的冷静だった。
「ありがとう。メルル、ファブリス」
ニナは表情を変えずに言った。
「本当に大したもんだな。レース経験ないんだろうニナは」
「まあ、今回は運が良かった」
ケネスの言葉にニナはそっけなく答えた。ガイナスはケネスの後ろで黙って立っていた。
「ねえ、ニナ。今度の本選にも出場するの?」
ようやく泣き止んだメルルは、顔を上げて少し涙声で言った。
「ああ。もちろん」
当然だろうという表情のニナにメルルは言葉を詰まらせた。そんなメルルの表情を見てニナは小さくほほ笑んだ。
「大丈夫だ。危険な飛行はしないから」
ニナはそういうとメルルの肩に手を置いた。それでもメルルは不安な表情を隠せなかった。
「まあ、とにかくだ。無事帰還したんだし、パーッと食事でもしようぜ」
少し重くなった空気を変えようとケネスが声をかけた。
「賛成。ニナは大丈夫? 疲れていない?」
同調するようにファブリスが言った。
「私なら大丈夫だ。これからまだ十回くらいレースに出られるくらいの体力はある」
「やめてよ。十回もレースに出るなんて。見ているこっちがはらはらしてもたないよ」
メルルの言葉にファブリスとケネスは声を上げて笑った。
そんな様子を見て、ニナは自分も笑顔を浮かべていることに気が付いた。
かつてパイロットだったときは、戦闘艇に乗って模擬戦で勝ったときも宇宙空間で海賊と対峙しこれを撃破したときも、共に喜んでくれる人も心配してくれる人もいなかった。だから自然に表情が失われていった。それが今では自分のことのように喜んでくれる心配してくれる人がいる。
「じゃあ、今度はトルファーの料理を食べたいな」
ニナは冗談半分で言った。
「トルファーって、あの激辛料理?」
ファブリスの顔が少し引きつるのを見てニナは思わず噴き出した。
「冗談だ。何でもいいよ。みんなと一緒なら」
「トルファーでももちろんかまわないよ。ニナが行きたいのならそこにしようよ」
引き気味のファブリスをよそに発せられたメルルの言葉に反対する人はいなかった。
ニナは戦闘艇を動かす必要があるので、ファブリスたちといったん別れることになった。
歩きながらファブリスとメルルが話していて、それに横からケネスが何か言葉をはさんでいた。そんな四人の後ろ姿をニナはぼーっと見ていた。
「大丈夫だ。今の私にはまた会いたい人たちがいるのだから、必ず帰ってくる」
ニナは心の中でそっとつぶやいた。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
投稿が遅くなって申し訳ありません。
この章を書いていて、臨場感を文章で表すのってとても難しいと改めて思いました。
次の章は短めで、ファブリスたちとは直接関係のない話をちょっと入れて、
その次の章からレース再開です。




