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オープンユニバース  作者: ペタ
第2章 黒い翼(前)
41/43

2-7

 7

 

 日の光を受けて輝く機体群は、一斉にスタートした。猛スピードでスタジアムから離れ、空へと吸い込まれていく。


 全機ほぼ同時にスタートしたように見えたが、わずかなコンマ一秒の差によって、早くも数メートルから数十メートルの差がついた。その中でも、黒い機体だけが更に遅れて一機、集団から離れて飛行していた。

 それはニナの機体だった。他の機体は白や銀色が多いのに対して、黒い機体は今回のグループでは一機だけであり、しかも数少ない戦闘艇であり、目立っていた。


 荒野の上を飛ぶ間に、さらに各機は縦にばらけていった。ニナの戦闘艇は最後尾から、前方を飛ぶ飛行艇を追いかけていた。


「さあ、縦長の展開になってきた。各機、これから竜の傷跡に突入する」


 スタジアムでは実況の声が流れていた。ファブリスとケネスは幾分、不安そうな表情でスタジアムの巨大モニターを見上げていた。ガイナスは表情を変えず、黙ってレースの行方を見守っていた。メルルは青ざめた表情で、それでもモニターから目を放さなかった。

「結果なんてどうでもいいから、無事に帰ってきて」

 言葉にこそしなかったが、メルルはそう祈っていた。



 ニナは飛行しながら、部品を代えたことにより少しだけ変わった操縦の感覚を確かめていた。特に他機に接近すると、わずかな操縦ミスにより重大な事故を招くため、距離をおいて様子を見ながらの飛行だった。しかもほかの参加者は何回もレースに出た経験があるのに対して、ニナはレースに出るのは今回が初めてだということもあり、レース感覚がないということも自覚していた。焦ってはいけない。自分にそう言い聞かせながらも、前を飛ぶ飛空艇の集団を見て、その距離をすぐにでも詰めたいという欲求をぐっと抑えた。


 やがてニナのすぐ前を飛んでいた飛行艇が降下し、竜の傷跡に突っ込んでいった。ニナは出力を落とすと、それを追うように同じ軌道を描いた。


 入口付近は幅およそ百メートルほどの断層。両側から壁が迫ってくるような圧迫感を感じる。先頭集団がかなり前方を飛行しているのが見えた。


 ニナは戦闘艇の出力を最大に上げた。幅が狭いとはいえ、ほぼ直線が続く。先頭集団はお互いにけん制しながら飛行しているため、距離を詰めるとすればここしかなかった。

 ニナの前方には一機の飛行艇が飛んでいて、そこから少し距離を置いて六機が団子状態で飛行していた。集団の後ろの方を飛んでいる飛空艇は上下左右に動いて前に出ようとしているが、前を飛んでいる機もその動きに合わせて動いて、抜かれるのを妨げていた。


「危ないな」

 ニナはつぶやいた。小型機のレースでも同じような場面があったが、今飛んでいるのは中型機であり機体が大きい。それが狭い断層で抜き合いをしたら、そのリスクは小型機よりも大きい。

 ニナは断層のなるべく上の方を飛んだ。断層から出てしまうと失格になるので、上方ぎりぎりを飛行した。そして集団に遮られて速度が落ちていた前方を飛ぶ飛行艇に追いついた。二機は上下に並んだ。


 ニナは下を飛ぶ飛空艇を意識の片隅に捉えながら前方の集団に集中した。断層の幅は一定ではなく、広くなったり狭くなったりしている。前方を飛ぶ集団は横に並んで併行している機もあり、断層の幅ぎりぎりである。


 そのとき、ニナの視界に爆炎が入った。前の集団よりもさらに前方、トップ集団の中で衝突が起こったようだ。四散した機体の一部が回転しながら後ろに飛んできた。

 ニナの前方の集団もそれを交わそうとするが、密集していたために思うように動きが取らない。それでも横に避けようとした一機が隣の機に衝突した。すると二機はバランスを失うと、斜めに機体が回転を始めた。さらにもう一機、回転した機に巻き込まれ、失速していく。

 衝突を免れた飛行艇は、巻き込まれないように進路を変える。断層の上部にまでは影響がなく、ニナの戦闘艇は混乱する飛空艇の集団を上から追い抜いた。戦闘艇の中にあるモニターの一つには、複数の飛行艇が後方で爆発する様子が映し出されていた。



「おーっと、これは大きな衝突だ」


 観客のどよめきが起こると同時に、スタジアムに実況が響いた。

 全部で四機の飛行艇が巻き込まれる大きな事故だった。


 ファブリスはニナの機体には影響がなかったのを見てほっと息をつくとともに、その後、真ん中くらいまで順位を上げる様子を見ていた。

「おっかねえな。これは」

 ケネスがつぶやくように言った。ファブリスは黙ってうなづくと、メルルを見た。メルルは小さく震えていた。ファブリスはそんなメルルの肩に手を置いて、さらにレースの行方を見守った。


 

 ニナは断層の右側を飛行していた。周囲の風景が猛スピードで過ぎ去っていく中、時折、片側の壁が突き出ている場所があり、それが急に目の前に現れたりすると、その度に主翼を傾けて回避する。一瞬でも操作を誤ると命取りになる。


 全体的にレース展開が遅くなったように感じていた。先ほどの衝突事故を目の当たりにして、パイロットたちも萎縮しているようで、無理に横並びで飛行することも少なくなった。


 逆にニナの戦闘艇はスピードを落とさずに、一機また一機と飛空艇を抜いていき、今は先頭集団の後ろを飛行していた。先頭集団を構成するのは五機の飛空艇だった。六番機を先頭に、七番機、十五番機と続いている。


 断層は緩やかな右カーブに差し掛かった。先頭集団は縦にばらけて一直線に並んでいた。ニナは全速力で飛行するが、先頭集団もここでは減速することはなく、追い抜くことはできなかった。


 やがて断層が途切れて、各機は巨大なクレーターに至った。


 各機クレーターに突入すると左右上下にばらけた。先頭で突入した六番機がそのままリードを保ち、後続機もそのままの順位でクレーターを突き進んでいた。


 そして各機、順位は変えることはなく、そのまま反対側のトンネルが近づいてきた。そこで三番目を飛行していた十五番機が強引に前に出ようとするが、先頭を行く六番機はその進路を塞いで防ごうとする。その隙に二番手に付けていた七番機が加速して、先頭の六番機に並んだ。そして先頭の二機が並んでトンネルに突入しようとしていた。しかし、トンネルの幅は二機が並んで突入できるほど広くはない。あわやどちらかが衝突かと思われたが、七番機はトンネルの手前で急旋回し、衝突を回避した。そのすぐ後を飛んでいた別の飛行艇もその後を追うように大きく急旋回をした。


 六番機はそのまままっすぐトンネルに突入し、その後ろについていた十五番機が続く。そしてそのあとをニナが乗る戦闘艇が続いた。


 トンネルの中は狭いためにトップを飛んでいる飛空艇はスピードを落とし、後続の機もそれに合わせて減速する。二番手の十五番機はトップの六番機のすぐ後ろを飛行した。


 ニナの戦闘艇はその後ろに続くが、十五番機との間隔を大きく取っていた。そして、トンネルの終わりが近づいたところで加速した。このため、前を行く十五番機との間隔が急速に縮まった。そのまま進めば衝突というところで、各機トンネルの外に出た。六番機、十五番機ともにトンネルから飛び出した後に加速したが、ニナの戦闘艇はそれよりも早く加速していたために、トンネルを抜けると十五番機に並び、そしてこれを追い抜いた。



「お~っと、ここで九番機、黒い戦闘艇が二位に躍り出た。パイロットは、え~、ニナ・マイヤーズ。初出場の選手だ」

 実況放送とともに会場の歓声が大きくなる。はるか遠くに会場に向かってくる複数の機影が見えた。


 ファブリスはモニターと遠くの機影を交互に見た。メルルも両手を重ねて祈るようにモニターを見ていた。

 遠くの飛空艇の姿は次第に大きくなってきた。横に並んでいるので見ただけでは順位までは分からないが、ニナの乗る黒い機体は簡単に識別できた。

 モニターの映像では、依然として六番機がトップでその後がニナ、その後が十五番機で、その差はほとんど変わらなかった。

「よし。ニナ。そのまま行け」

 ファブリスの握った手に力がこもる。


 

 各機は猛スピードのままスタジアムに接近し、その上を通過した。

 スタジアムの上空を通過する一瞬、大きな影が覆った。

「おおっと、一位は六番機、タウル・カミル。二位は九番機、ニナ・マイヤーズ。決勝進出が決まった」

 スタジアムはまた大きな歓声に包まれた。


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