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オープンユニバース  作者: ペタ
第2章 黒い翼(前)
37/43

2-3

 3


 その日は商人ギルドが提携しているホテルに泊まった。商人ギルドは商人による組合であり、構成員の商人は商売と言う点では互いに競争するが、共通の利益については団結して守ろうとする組織である。宿泊するホテルは豪華とは言えなかったが、ギルドに加入している者は安く利用することが可能であり、また、通信設備も十分の機能を持っていた。


 部屋に荷物を置いて、しばらくくつろいでいると、ファブリスの携帯端末に整備会社からの見積もりが送られてきた。金額は九十七万リールと結構な値段だった。

 

 ファブリスとケネスは積算の内訳を精査した。

「まあ、これくらいの値段になるだろうな。妥当な水準だと思う。もちろん交渉の余地はあるだろうが」

 ケネスは見積書から目を離すとそう言った。

「でもこの出費は痛いな」

「そうだな。まあ、この部品とこの部品についてはまだしばらくは使えるから、今回は取り換えないというのもあるかもしれないが」


 ケネスは見積もりに記載されている項目のうち二つを指差した。

「でもそれを除いたとしても八十九万リールか。あまり変わらないなら一緒にやってしまった方がいいと思う。宇宙で故障でもしたら目も当てられないし」

「まあ、それもそうだな」

「これでまた、利益が飛んじゃったね。これじゃあ、いつまでたっても新しい輸送船は買えないな」

 ファブリスはつぶやいた。

「新しい輸送船って、もう一隻買うつもりなのか」


 初めて聞く話にケネスは驚いた様子だった。

「うん。このテクスターでの取引もそうだったけど、小型船一隻だけだとどうしても積める量が限られて、儲けが制限されてしまう。もう一隻あればもっと稼ぐことができると思うんだ。それにパイロットをできる人が増えたことだし」

「まあ、それもそうだが……」


 ファブリスの言っていることはもっともだと思った。

「でも、小型船は中古でも七百万くらいするんだよね。さすがにそれじゃあ、今の資金を半分くらい使うことになるから、厳しいかな」

「そうだな。二隻になると、燃料代や宇宙港の使用料も二倍になるわけだから、いいことばかりじゃない。もう少し資金ができてからだな」

 ファブリスは小さくため息をついた。




 その日の夜は、皆でテクスターの繁華街に向かった。


 テクスターの中心街には高級なレストランなども多くあったが、中心街から少し歩いたところに様々な星の特徴を備えた飲食店が連なる一帯があり、ファブリスたちはそこに向かった。


「すごいな。これ全部、飲食店なんだ」

 メルルは大きな目をさらに大きく広げて、通りに並ぶ中小の飲食店に歓声を上げた。そこには大よそ他では見ないようなローカル色の強い店がいくつも並んでいた。


「見て、惑星トルファーの激辛麺だって」

 メルルが指差したその店からは、少し離れていてもスパイスの強烈な香りが店内から漂ってきた。

「おいしそうな匂いがするな」

 ニナの視線が注がれていた。


「あれもすごいな。惑星ウーの風船ガエルのステーキだそうだ」

 ケネスが見つめていた店には、白い色のカエルが店先にいくつもつるされていて、カウンターから地面すれすれまで皮が長く伸びていた。

 それ以外にも様々な動植物を使った料理や、中には鉱物を使った料理の店も並んでいた。


「とりあえず普通の店がいいよね」

 巨大なアルマジロの頭部が並んでいる料理店の前を通りながら、ファブリスは言った。

「そうだね。割と普通っぽい店もあるし。あそこなんかどうかな」

 メルルが指差したのは周りの店に比べると比較的大きくて、普通っぽく見えるレストランだった。店頭にメニューが張られていて、牛、豚、羊といった一般的な動物を使った普通っぽい料理の名前が並んでいた。あまり聞いたことのない動物の料理もあったが。


「よし。俺もここがいいと思う」

 ケネスが力強く宣言した。ファブリスも賛成だった。ニナは先ほど通り過ぎたトルファーの店の方を名残惜しそうに見ていたが、特に何も言うことはなかった。



「おいしかった」

 限界まで食べたファブリスは椅子にもたれかかって唸るように言った。ディダやイリスでもレストランは充実していたが、値段が高くて多少注文を遠慮した。しかし、このテクスターのレストランは庶民的な店で、値段も控えめ、それでいて一つ一つの料理がおいしい上にボリュームも満点で、ファブリスたちは様々な種類の料理を堪能した。


「本当にこの星はいい星だな」

ニナもしみじみと言った。スリムな体にも関わらず、次々に出された料理を平らげていった。


「本当に勉強になるよ」

 メルルは初めて見る料理を食べる度に、素材や調味料が何だろうと首をひねっていた。

 店内は客が途切れることなくずっとにぎやかな様子だった。ファブリスは食後のお茶をすすっていた。


「おっ、お姫様だ」

 ケネスの声に一同は、店内に設置された大型のモニターに目を向けた。そこには薄緑のドレスを着た若い女性の姿が映っていた。


 豊かな金色の髪と白い繊細な肌。それでいて挑むような強い視線が印象的だった。何かの式典の映像らしく、ドレスに長い金髪が映えていた。それは、今や宇宙一の有名人と言っても過言のない王位継承者のカタリーナだった。


 五年前の首都星消失により、王と王妃に加えて、王子、王女など多くの王位継承者が同時に行方不明になった。カタリーナは王の妹の娘なのだが、首都星消失時には第二宙域の惑星オルテアにいたために消失から逃れた。もともとの王位継承順位は九位であったのだが、上位の八人が消えてしまったため、繰り上がりで継承順位が一位になっている。それまであまり注目されることもなかったが、十七歳という若さと、アイドルと見間違えるような美貌により、衆目を集めている。


「本当にきれいなお姫様だよね。いつになったら王位を継ぐのかな」

 メルルが目を輝かせて言った。

「そうだな。もう三年くらい前から新たな王になると言われているのに、一向にその様子がないんだよね」

 ファブリスは聞きかじったことを言った。


 ちょうど、モニターの報道でも王位継承のことが論じられていて、解説者という人がもっともらしく状況を説明していた。首都星が消失したとはいえ、王が亡くなったことが正式に確認されたわけではない。現状の宇宙憲章では王が生死不明の場合の取扱について定めがないので、対応を何年も検討していることだった。また、一部の元老院議員がカタリーナが王位継承することに強硬に反対していて、なかなか進まないということで、事実上、王位が空位の状態が五年も続いている、そんなことを説明した。


 モニターの中のカタリーナがアップで映った。白く繊細な肌、整った目鼻立ち。まるで人形のようだと形容される。ただ、その形容は必ずしもその美貌だけによるものではなく、無表情であるということも一因だった。映像の中のカタリーナはカメラに映っているのにもかかわらず、ほとんどほほ笑むこともなかった。

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