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オープンユニバース  作者: ペタ
第1章 煌きの残滓
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1-4-2

 その日の夜。

 惑星イリスの大都市であるカベラ。その中心街は計画的に配置された高層ビルが柱のように連なり、街は昼よりも賑わいを見せていた。


 メルルとニナは昨日に引き続き、テルビナで買った余所行きの服を着ていた。二人ともかなり見た目がいいので、きれいな服を着ていると、より引き立つ。メルルは大通りを歩いていると、すれ違う男たちの視線が自分に向けられることに気が付き、少しうつむいていた。


「私、やっぱりこういう恰好変かな」

「変なわけないだろう」

 ファブリスはそう言ったが、向けられる視線の量がいつもにも増して多いのは、大男のガイナスが一緒にいてやたらと目立つのも理由の一つだろうと思った。


 待ち合わせをしていたレストランは、高層ビルの最上階にある場所だった。眺めがよく、街を広く見渡すことができる。それでいてカジュアルレストランのため、そんなに値段が高くないことがありがたかった。


 ガイナスは相変わらずのコート姿で、周りから違和感を放っていた。

 レストランに入ると、客の視線がファブリスたちに向けられた。周囲のあちこちでささやきが聞こえた。

「どこかのアイドルかな。あの二人かわいいよね」

「あの大きいのってボディーガードだよな。やっぱり有名人じゃないのか」

 そんな周囲の声が聞こえてきたが、ガイナスは意に介さない様子だった。ニナもあまり気にしていない感じであったが、メルルについては、大分緊張しているようだ。

「お兄ちゃん。何か、周りの視線が痛いよ~」

 

それでもしばらくすると、周りの人も飽きたのか、あまり視線を向けることも少なくなった。その理由の一つは、こちらに奇異の視線を向けた人に、ガイナスが鋭い視線を返したこともあったが。


 メニューに表示されている料理はとても種類が多く、それでいてそんなに高くはなかった。

「すごい数だね。とても選びきれないよ」

 メルルがメニューを見て目を丸くした。

「確かにすごいな。肉料理も魚料理もすごい豊富だな」

 ファブリスも同様だった。

「まあ、ここイリスは交通の要所だからな。あちこちの星や宙域から物資が集まる。もちろん食べ物もだ。この街は特に食の町としても有名だからな」

 ケネスは飲み物のメニューを見ていた。

「さすがに全宇宙の名酒が揃っているな。これは楽しみだ」

 そう言いながら、ケネスはガイナスのことが気になった。ガイナスは相変わらずコートを身にまとっていた。

「そのコート脱いだ方がいいんじゃないか」

 ドレスコードが厳しい店ではないが、それでも暑くないこの星で、しかも室内でコートは実に目立つ。

「すまないが、こういう性分なんだ。気にしないでくれ」

 どういう性分だと思ったが、あまり無理強いはしない方がいいとファブリスは思った。

「ところで、あんた酒は行ける口か」

「ああ。何でも飲める」

「よし。じゃあ、この辺りから攻めるか」

 ケネスはワインを指で示した。

「任せよう。特に好き嫌いはない」




 結局、ファブリスは今日のおすすめの肉料理のコース、メルルは魚料理のコースを選んだ。ニナもメルルと同じものを頼み、ケネスとガイナスはつまみになりそうな料理をいくつか選んだ。


 注文してほどなく、飲み物がやってきた。ケネスとガイナスは酒、後の三人はジュースである。

「それじゃあ、とりあえず乾杯」

 ファブリスの発声により、グラスが音を立てた。


 前菜もほどなくやってきた。前菜と言ってもそれなりの量があり、しかも手が込んでいて実においしかった。

「これ本当においしい。どういう調理法なんだろう」

 メルルは舌包みをうちながら、使われている香辛料は何なのか真剣に考えていた。

 ガイナスは黙々と出された料理を平らげ、酒を飲み干して行った。

「おっ、やっぱあんた見た目どおり飲める人だな。ほらどんどん飲もうぜ」

 そういうとケネスがワインを注いだ。

「すまない」

 そういってガイナスはワインを一息で飲み干した。

 タイミングを見計らって、ファブリスが聞いた。

「ガイナスさんってどこ出身ですか」

「オルテアだ」

「オルテアですか。すごいな。宇宙の中心地ですね」

 オルテアは、首都星のある第一宙域の隣にある第二宙域の主星で、文化の中心地として有名な星である。

「ガイナスさんって、すごく強かったですね。格闘技とかやっているんですか」

「本格的にやっているわけではないが、一通りの護身術は学んでいる」

「へえ、今度教えてもらいたいな」

「別にかまわんが」

 そういうとガイナスは肉料理の塊をほおばった。


 しばらくの沈黙が続いた。

「ところで……」


 初めてガイナスから口を開いた。

「お前たちは商人だと思うが、どこか行き先はあるのか」

「はい。第二宙域を目指しています。ガイナスさんの出身地ですよね」

「第二宙域か。ずいぶん先だな。単に金を稼ぐだけなら、ここら辺の宙域でも十分だと思うが」

「そうなんですが……」

 そういうとファブリスは少し迷ったが、言葉を続けた。

「実は僕たち父さんを探していて、そのために第二宙域を目指しているんです。そこにいるかどうかも分からないんですけど」

「そうか。それは難儀だな」

 そういうと、ガイナスは酒を一気にあおった。さっきから一定のペースで飲んでいるが、全然酔った様子がない。

「お前たちを追っている連中もその関係か」

「はい」

 ファブリスは短く答えた。

 そのとき、ガイナスの表情が少しだけ動いた。

「ギル=ノマーク……」

「えっ」

 ガイナスがつぶやいた言葉にファブリスとメルルは反応した。

「いや、さっきお前たちの名前を聞いたときに気になった。お前たちの父親はもしかしてギル=ノマークではないかと」

「父さんを知っているんですか」

 ファブリスはもう隠しても仕方ないだろうと思って言った。

「一応確認だが、アカデミーの科学者と言うことで間違いないな」

 ファブリスとメルルはうなずいた。

「だったら知っている。だが、遠くから見たことがある程度で実際に話しをしたことはない。だが、ギル・ノマークは私たちの恩人だ」

「父さんが恩人」

 メルルはつぶやいた。

「そうだ。詳しくは言えないが、彼は我々の恩人だ。だが、それにしても……」

 そういうとガイナスは笑みを浮かべた。それは小さな笑みだったが、初めてみるガイナスの笑顔だった。

「まさかギル=ノマークの子供たちにこんなところで会うとはな」


 そのあと、ファブリスとメルルはガイナスに父のことを聞いた。しかし、ガイナスが知っていることは二十年も前のことであり、今現在のことは知らないということだった。父との関係についても言葉を濁した。




 話が思わぬ方向に進んでいったが。食事を終えた一行はレストランを後にした。

「ガイナスさんはこれからどうするんですか」

 メルルの質問にガイナスは表情を変えずに答えた。

「特に予定はない。とりあえず第二宙域に戻るつもりだ」

「第二宙域ですか。じゃあ、私たちとご一緒しませんか」

 メルルは無邪気に言った。


 その言葉は特にケネスは驚いた。

「メルル。お前、何を言っているんだ」

「私、変なこと言ったかな? 私たちも第二宙域に向かっているんだし。ガイナスさんなら一緒に来てくれるのならとっても頼もしいボディーガードさんだと思うんだけど」

「うん。それはいい考えだと思う」

 ファブリスは同調した。

「もちろん。ガイナスさん次第だけど……」


 ガイナスは相変わらず顔色一つ変えなかったが、少し思案の後に言った。

「私は別にかまわない。さっき言った通り、ギル=ノマークは恩人だ。その子供たちを守るというのなら、異存があるわけない」

 その言葉にメルルは笑顔を浮かべた。

「ニナとそれにケネスさんはどうかな」

「私は別にかまわない」ニナは即答だった。

 ケネスは渋い表情であったが、

「まあ、お前たちがいいというのなら、俺も反対はしない」

「うん。じゃあ決まりだね。ガイナスさん。これからしばらくよろしくお願いします」

「ああ。こちらこそよろしく頼む」

 ガイナスは相変わらず表情は動かさずにそう言った。




 ファルメルに乗り込むと、ガイナスは周囲を見回した。少し窮屈そうに見える。

「ちょっとガイナスさんには天井が低いかもしれないけど」

「問題ない」


 ケネスはガイナスとともに、寝室に向かった。二人きりになると、ケネスの表情は厳しくなった。

「いい加減。その暑苦しいコートは取ったらどうだ」

「そうだな」

 ガイナスはそう言うと、コートを脱いだ。すると、その下には全身を覆った金属製の装甲、そして、小銃、小型のロケットランチャー、そして、背中には、金属製のドリルスピアーを背負っていた。

「何だ、その装備は?」

「別に大したものじゃない。昔から用心深い性格なんでな」


 そう言いながら、ガイナスは身にまとっていた武器を床に置くと、その身をまとっていた白く輝く分厚い装甲を取った。すると、その下は体にフィットした服を着ており、そのシルエットから、がっしりとした体が伺えた。

 ケネスはガイナスが取った装甲を手に取ってみた。ずっしりと重い。

「これは重装甲じゃねえか」


 重装甲とは、兵士たちが地上で白兵戦を行う時に身にまとう装甲である。小銃やレーザーライフルも弾けるので安全性は高いが、かなり重量があり、鍛えられた前線の兵士ですら、身にまとって活動できる時間は四、五時間と言われている。そんな重装甲を普段からまとっている者など聞いたことがなかった。

「お前、一体何者なんだ」

 するとガイナスは普段通り表情を動かさず言った。

「ただの元警備員の無職の男だ」

 ガイナスの答えにケネスは表情を歪ませた。

「いいか。俺はお前のことを信用しているわけじゃないからな」

「ああ、それでいい」

 ガイナスはそう言うと、身に着けていた武器をひとつひとつ、外していった。

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